なぜ日本人は年齢でヒトを判断するのか?
心理学者がひもとく、"思考のクセ"のメカニズム

分け隔てする心のしくみ #1/2

人間は物事を認識する際、無意識の内にカテゴリー分けを行い、それが結果的に偏見や対立を生むと言います。唐沢穣氏は、最近の研究の結果、この偏見を減らす方法を発見し、それによって人と人との心のギャップを解消するための道筋を示しました。(TEDxNagoyaUより)

私たちは世界を「こちら側」と「あちら側」に分類する

唐沢穣氏:みなさん、こんにちは。私のプレゼンテーションは、ちょっと物騒な写真からはじまります。

この事件を発端に起こった、いわゆる対テロ戦争。これに私たちの国も深く関わる事になりました。

この例に限らず、この世界というのは、恐らく昔の時代も、そして今の時代も至る所で私たちが世界を「こちら側」と「あちら側」、あるいは「連中」と「我々」、と分け隔てをすることになります。

そこには必ずと言っていいほど、摩擦や紛争、対立あるいは偏見といったことが生まれます。一体これはどういったことが原因で起こるのか。例えば経済学者であれば、この問いに対して資源や利益の取り合いから考えるかもしれないし、政治学者であれば、支配しようとする力、権力のぶつかり合い、歴史学者であればひとつひとつの出来事の持つ意味、そして更に積み重ねの重要さ、こういったことに注意を払うかもしれません。

心理学者も、同様にこういった問いの答えを見つけようとしています。言うまでもなく、人の心と呼ばれる機能に注目する事によってこの問いに答えようとするわけですが、例えば人間が持っている感情、その性質を調べる事によって明らかにすると。

あるいはもっと違った観点から、人間なら誰もが持っているような可知的な存在、ものを知ろうとしたり理解しようとした時、人間が考える、そこに一定的に見られる傾向、いわゆる考え方のクセのようなものが、結果的にこういった対立であるとか、偏見であるとかに繋がるのではないでしょうか。

人間には一括りに物事を見やすい傾向がある

こういう考え方もあります。今日は、その中でも特に我々がものを「まとめて見る」という考え方をした時にどういうことが起きるか、こういった観点から一緒に考えていきたいと思います。

まず具体的な例として、私が皆さんに社会心理学という本があるから見てください、と推薦したとしましょう。それで皆さんが実際に手に取って、書店でこれを見てみたくなったとしましょう。

ご心配なく、「唐沢」とかいう怪しいやつが書いた本とか言いませんから、信頼できる誰かが書いた社会心理学の本、これを本屋で見つけるとき、皆さんどうしますか? もしも書店の本がすべて50音順に並んでいたら、「しゃかい」ですから、「さしすせそ」の「し・や・か・い・し・ん・り・が・く」一字一句全部正確に覚えていかなくちゃなりません。

しかし、実際にはそんなことはしませんよね。まず、心理学のセクションを探し、その中から社会心理学という棚を見つけて、大抵1段かせいぜい2段ですから、その項から見渡せば大抵見つかるという、こういう探し方をする。

どこの書店に行ってもやり方は同じですね。なぜかっていうと本屋さんが本をまとめてくれているからです。ただこれには落とし穴があります。「入門社会心理学」という本を見つけたら、そこに思わず手が伸びるかもしれない。

あぁ、これだと。つまり、「まとめて見る」ということは、私たちが情報を処理して覚えたり知ったりする労力を節約させてくれるというメリットがある一方で、似たもの同士を同じグループに入れることで、似たところを強調してみようとする。

あるいは、逆に言うと違うグループに入れることで違いを強調する、そういったメリットとデメリットの両方があるわけです。このような、一括りでものを見やすい傾向、これが最初述べた偏見や対立のことなんじゃないか、これが心理学の基本的な考え方です。

アメリカで行われた社会心理学の実験

こういうアプローチをするときに、よく社会心理学は実験という方法を使うんですが、アメリカで行われた有名な実験の例をひとつ紹介しましょう。大学生が実験室にやってきますと、6人の人たちがディスカッションをやっている様子を録画したんですよ。地元の同年代の大学生たちがちょうどディベートカンファレンスみたいなところで、何か良いアイディアを出し合う、そんなところです。

たまたまですけれど、この6人のうちの3人が黒人で、もう3人が白人であるような構成だったんです。アメリカの大学では、そんな珍しいことではないですね。で、ひと通りこの発言を聞き終わった後でこう尋ねるわけです。

先ほど聞いた30、あるいは40近くある発言のひとつひとつについて、それぞれ誰の発言だったでしょう、と思い出して当てるっていう課題をあてられます。そうすると、当然これは2番の人の発言だったとか、3番の人の発言だったとか正しく思い出せるのもありますけど、取り違いをしちゃう。

これはこの人の発言だったと取り違いをしちゃうということがある。そのパターンを調べますと、独特のパターンというのが出てくるんです。1人の黒人の人の発言を、他の黒人の人と取り違えたり、誰か白人の人の発言を白人同士と間違えたりする割合の方が、黒人の発言を白人の誰かが、あるいは白人の誰かを黒人の誰かと取り違える数より多い。

つまり先ほどの取り違いと同じで、まとめるっていうことのために、似た者同士どれかわからなくなるっていう混同が記憶の中で起こる。それが人種間の、いわゆる人種なるものが多いということです。

似たものを一般化するところから偏見や差別が生まれる

同じようなことは人数構成、男性差女性差をみてもやはり起こります。こういったことっていうのは、記憶の間違いのことだったら大したことがないと思われるかもしれませんが、例えばこういった場合、恐らく関係している。同じプロセスが働いているんだろうって考えるわけです。

「この間、ウチの若い女の子に仕事を任せてみたら失敗した。ヒロミさんが失敗した場合でも、それがユミさんの失敗だったかもしれない」とはっきりと思い出せない、でも男性の誰かでないことはハッキリしている。だから、ユミさんに任せれば良いのかもしれないけど、それは辞めておいて男性に任せよう。

こういうような取り違いからくるものが偏見であるとか差別的な対応に繋がるんではないかと、こういうですね。一般化をしすぎるということが、同じグループで起こる。

黒人の人というと、何か皆リズムが良くて音感が良いような気がする。音痴な黒人の人もいっぱいいるはずなんですけれども。銀行員はまじめ、正義感が強くて「百倍返し」とか言い出すかもしれない。

(会場笑)

まぁ、フィクションですけどね。あるいは関西人。「おもしろいに決まっている」「馬鹿にしてる」「ふざけている」、まじめに喋っているんですけど(笑)。連れてきてプレゼンテーションさせたらきっと面白い話をするから。なので、今日笑われたのかしれませんけど。

(会場笑)

このような事柄が偏見の元になっているんじゃないかというのが、ひとつの心理学の考え方です。おまけに偏見の元というのは、その人が住んでいる文化だとか、あるいは慣習だとかに埋め込まれていることが多い。

日本人は年齢で人を区別しようとする

日本ではどうですか? 性別を手がかりに自分でも知らないうちに、人のことを理解しようとしているんだけれども性別でまとめてみちゃったりしている。他にどんな基準があるでしょうか。年齢ですね、日本の場合は。

「彼はまだ若いから時期尚早、仕事を任せられない」。これは年上の方もそう。同じ年だと思ってタメ口で喋っていたら、ひとつ年上だと分かった途端に敬語使わないと居心地が悪い気がする。

このように年齢ということが手がかりになりやすいので、日本では先ほどと同じような実験をやってみました。

19歳から22歳の年齢層にいる大学生から、年下にあたる16歳、17歳、18歳の3人と、年上の25歳、26歳、27歳の人たちについて後で思い出してちょうだいとやると、やはり日本人は気がつかないうちに年齢で人のことを理解するということをやっていますから、左端にありますようにさっきと同じように16歳を18歳と間違えたり、25歳を27歳と間違えたりする割合は、別グループで間違えるより遥かに多い。

ところが、イタリアの人たちは人のことを見るときに年齢をもとに考えるなんてしてませんから、16と17を間違えるように、16と25のへんでも間違えるので青二つの違いがなくなっちゃうんです。

人間は無意識の内に人を分類している

文化がこういうものの見方に影響する。いや、心理学という立場では、人によっては人の家に行ったら靴であがるのが日本文化であるように、こういうものの考え方をするっていうこと自体が日本文化というものを形成しているのかもしれない、そういう考え方をする立場さえあります。

そのように文化の中に埋め込まれているっていうことは、あまり認識していない。自分でも気づかないうちに、無意識の内にこういうカテゴリー分けっていうのを使って人を理解するということをしている可能性がある。

意識しない内に、つまり無意識のうちの分け隔てですね。例によってこれを実験で調べる方法があります。またアメリカの実験ですけれども。白人の参加者が来て、コンピューターの画面上に顔がチラっと移ります、200/1000秒。

これは、今何が見えたのか自分でも分かっているんだけれども言葉に出して言おうとした時には、もう言えなくなる。忘れちゃうぐらいの長さの記憶しか生まない、そういう長さなんですね。白人または黒人の顔で。

その直後にまた違ったものが出てくるんです。で、その後の残像を消すためにはパターンをパッと見せて、それでさっき何を見えましたかと言うと、黒人の顔がフラッシュされて見た後だと何か銃のように見えるし、同じものでも白人の顔がフラッシュでチラッと見えた後だと道具で見える。

つまり、無意識のうちに起こしている人に関する分類が、ものの見方に文字通り色眼鏡として関わってくるということです。

無意識に働きかけ、偏見をなくす

このように無意識の間の分け隔てとか、偏見とかという話をしますと皆さん「あー、だから無意識っていうのは自分でコントロールできない、怖いものだ。サブリミナル怖い」って話にまたなるかもしれませんが、実は自分でも気づかないうちに使っている分類っていうものに働きかけることによって、分け隔てを減らすことができるかもしれない、というアイディアがあります。

私の研究室で、ポスドク(ポストドクター)の研究員が行った研究です。

17/1000秒という本当に見えたか見えなかったかがわからないくらいの速さで「平等」っていうのが出た後で、「すばらしい」っていうのがハッキリ見える。平等っていうのが出たら明るい、平等が出たら良いもの、と意味する言葉を何回も何回も繰り返し出して、いわば条件付けのようなもの、刷り込みというのを行います。

その後でポスドクの場合は、障害者に対する偏見を研究しているんですが、こういうプロセスを経た後で計ってみると、障害者に対する偏見がやや減っているらしい。統計的には今までのところ、ハッキリ減っていると出ています。

しかも、心理学の独特なやり方を使って計ったんですが、無意識のうちに使っている障害者に対する偏見ほど、こういう手続きの後で減っていく。

意識する形で「あなたは偏見がありますか」と聞いたら、「ありません」って皆答えますから。そんなのには影響は受けないんだけれども、自分でも知らないうちに持っている偏見を上手く計るやり方をしますと、こういう別の無意識のプロセスに働きかけた、いわば条件付けでもって減らすことができるかもしれない。

人と人の間に生まれる心のギャップを解消したい

このような可能性が今出てきて、これからどんどんこういった研究が積み重ねられていくと思います。今日お話してきた分け隔て、人間なら誰もが持っている考え方のクセのようなものです。

それは何か異常な心理・感情状態だとか、異常な状況が生む対立・偏見、そういったものではない。それも条件次第では当たり前のプロセスが分け隔て、そして対立へ繋がるかもしれないということを紹介してきました。

最初は白か赤かといった「色」だったものが、性別を意味したり、場合によってはこちら側、あちら側を意味したりすることがある。地元のチーム、他所の地域のチームっていう区別が、好き嫌い、応援する野次を飛ばす、そういうような行動の違いになって現れるかもしれない。

状況によっては、隣の国が好きだと言ってみたり嫌いだと言ってみたり、そういったことに影響するかもしれない。こういうような観点から、心理学的な研究というのが積み重ね行われています。

こういうやり方を取り入れてみようかなという、経済学者や政治学者の方達もどんどん我々のところに来ていて、今では共同研究っていうのがどんどん進められています。私もその一端になって一緒に研究している1人ですけれども。

それから現在の心理学では、脳神経科学的な知識を抜きに語ることはほとんど不可能に近くなってきていますから、脳科学神経的な研究との共同というのも盛んに行われるようになってきています。

こういった研究っていうのは、いずれも集団と集団の間に生まれる心のギャップです。これに架け橋を渡すような働きをしたい。そのような願いを込めて研究を行っています。ありがとうございました。

<続きは近日公開>

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