メキシコ湾の底にある「絶望のジャグジー」の不思議

Weird Places—The Jacuzzi of Despair

海底にはさまざまなロマンが眠っています。例えばメキシコ湾の海底には「絶望のジャグジー」と呼ばれる海底湖が存在します。2013年に発見されたこの湖では、足を踏み入れたものはすべて塩漬けにされてしまうのです。今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、絶望のジャグジーが形成された過程や、その中に広がる生態系について解説します。

すべてが塩漬けになる「絶望のジャグジー」

オリビア・ゴードン氏:海底の奥深くには思いもかけないものが潜んでいます。怪しく光る発光魚や8,600万年前にできた粘土に住む微生物もいます。ひょっとして調査船から不用意に落とされた高価なブルーダイヤモンドのネックレスもあるかもしれません。

しかし、海の底に湖があるとは、なかなか予想できないことでしょう。メキシコ湾には、恐ろしい湖があり、そこで泳ごうものなら、どんな生物も塩漬けの漬物になってしまうのです。

しかし、そのギリギリの境界付近には、活発な生態系が存在しています。これは宇宙生物学者に、他の世界で生物がどのように生き残れるかについて、ヒントを与えてくれるかも知れません。その湖は、「絶望のジャグジー」と呼ばれています。

この海底湖は2013年、遠隔操作 ロボット艇「ヘラクレス」によって、ルイジアナ沿岸からそう遠くない水深1キロのところで発見されました。

「ジャグジー」と呼ばれるのは付近の4度の水温よりかなり暖かいからです。2015年の再調査では、7.8~19度と観測されました。

海底湖はこれ以外にも世界にはいくつかあり、正式には「塩水溜まり」と呼ばれます。「塩水溜まり」は何百万年もかかって形成されます。

絶望のジャグジーの場合は、まず、およそ1億6500年前のジュラ紀にメキシコ湾が周りの海から遮断されました。長い年月をかけて、水が蒸発し、塩と他の鉱物だけが後に残り岩塩層となります。その後、岩塩層の上に何層もの堆積物がたまりました。そして、再び海中に沈んだのです。

上にたまった堆積物と海水の重さのために、岩塩層は形を崩したり、移動したりします。科学的には岩塩構造の地質学的変化と言われます。そして堆積物の割れ目からしみ込んだ水が塩を溶かし、濃度が極めて高い塩水ができます。絶望のジャグジーでは塩分濃度が周囲と比べて約4倍高いのです。

岩塩層にできた濃度の高い塩水は、地質学的変化と、堆積層の下に閉じ込められていた気体によって、上へと押し上げられます。そして普通の海水より密度が高いために、海底にたまるわけです。

絶望のジャグジーからは炭化水素ガスも漏れ出ているので、冷水湧出域の1つとも考えられます。冷水と呼ばれるのは、400度以上になることもある熱水噴出孔から出る水と比べれば、ずっと冷たいからです。

絶望のジャグジーから出る炭化水素ガスはほとんどがメタンガスですが、炭化水素ガス以外にも、硫化水素のような有毒ガスも含まれています。しかし、酸素だけはそこに含まれていません。もともと存在していたわずかな酸素は、有機物の分解などの化学変化によって使われてしまったからです。その後も酸素が補充されないのは、塩水溜まりの表面は密度の差があまりにもあるため、海水に含まれる気体は塩水溜まりの中に入っていけないからです。

この無酸素状態と有毒ガスのために、絶望のジャグジーは生物が生存できない場所となっています。

ただし、極限環境微生物や古細菌は例外です。例えば、太陽光との反応ではなく、絶望のジャグジーに含まれる硫黄との化学反応によって生きるエネルギーを生み出す化学反応細菌が存在しています。

絶望のジャグジーにうかつにも入り込んだカニや魚は、単に死ぬだけでなく、高濃度の塩分のために、塩の漬物にされてしまいます。体内の塩分濃度を体外の塩分濃度に合わせようとするため、細胞内の水分が吸い取られてしまうためです。

絶望の中にも生態系が

それでも、そこをすみかとする生物の集合体があります。絶望のジャグジーは、周囲を3メートルほどの高さの壁で囲まれています。その壁は、バライト(重晶石)などの塩水溜まりに含まれる鉱物が堆積してできたものです。

この壁に沿って、ムール貝の一種が繁殖しています。それらのエラには化学反応細菌がいて、塩水溜まりから出るメタンガスからエネルギーや炭素を生み出しているのです。

それ以外にも、エビやカニやアンフィポッドと呼ばれるエビに類似した生物が生息しています。多様な生態系とは決して言えませんが、死と隣り合わせの環境なので、仕方がないでしょう。

塩水溜まりのような海底の極限環境を研究することは、地球について知るだけでなく、太陽系やさらにその向こうの宇宙で、水が存在する環境さえあれば生物がどのようにして生きられるかを知るのに役立つのです。

例えば、土星の衛星の1つであるエンケラドスがあげられます。この衛星は、今のところ、地球外生物が存在する可能性が最も高いと考えられています。

2017年4月に、土星探査機カッシーニの観測で、エンケラドスの南部で噴き上がる水柱の中に水素ガスが確認されました。科学者たちはおそらく、巨大な地下の湖から発生していると考えています。

この水素ガスは二酸化炭素とともに、化学反応生物の食糧源となり、その生物がメタンガスを副生成物として出すことが考えられます。そして、メタンガスは、絶望のジャグジーの周りのムール貝の中に住む細菌のように、いろいろな微生物の食糧源となりうるのです。

カッシーニの探査任務はまもなく終了するので、生物がいるかどうかのはっきりした答えはもう数十年待たなければならないでしょう。

それまでに塩水溜まりをもっと研究して、ほかにどんな変わった生物が地球に生存するか調べてみたいものです。それが、宇宙の極限環境の中で、何が生き残れるかを予想するヒントにつながるかもしれません。

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