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地球環境と宇宙太陽発電 ~宇宙から地上へエネルギーを送ろう~(全7記事)

電気の無線送電、あいだを飛ぶ鳥は「焼き鳥」になってしまわないのか? JAXA研究員が、最先端のエネルギー技術を解説

2017年8月3日、東京ウィメンズプラザにて、公益財団法人 日本環境教育機構が主催するセミナー「地球環境と宇宙太陽発電〜宇宙から地球へエネルギーを送ろう」が開催されました。講師を務めるのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)にて宇宙太陽発電の研究を行なっている田中孝治氏。未来の発電システムとして注目を集める宇宙太陽発電の仕組みと、その可能性について解説します。宇宙太陽発電とは、宇宙空間に太陽光パネルを打ち上げ軌道上で発電をし、その電力を地球に送るという壮大なスケールの発電システムです。はたして、実現することは可能なのか? ロマンあふれる宇宙工学の世界を紐解きます。

テザー型太陽発電衛星

質問者6:ちょっと、それに関して。

田中孝治氏(以下、田中):はい。

質問者6:そのテザーの支点のカウンターウェイトっていうのは、パネルとほぼ同じ重さのものを付けようという考えのことですか?

田中:重さは、これが重量比になってまして。パネル部分は25,000トンで、バス部ががカウンターウェイトなんですけど、1,500トンぐらいです。これを10キロメートルよりももうちょっと長いひもが必要じゃないかと思ってるんですけど、10キロメートルぐらいの紐で吊ってあげるというようなシステムを考えてます。

質問者6:それで釣り合うということなんですか?

田中:はい、釣り合うと言いますか、安定します。なおかつ、ここのサイズを微妙に変えてあるんですが、真四角じゃなくて2.5キロメートル×約2.4キロメートルにしてあるんです。これをちょっと変えることによって、回転方向も安定させます。そのためにちょっとサイズを変えている。だから地心方向を向いて、回転も起きない、というような形状になっています。

質問者6:それで、太陽光と正対するんですか?

田中:正対はしません。ある条件の時しかしません。このシステムの場合は、時間によって発電量が変わります。ただしどれだけ発電して、どれだけ地上でエネルギーを得られるかというのは予測できますので、初期の段階としてはこれでも十分使えるんではないかと考えてます。

例えば、昼間に電力ピークがあるわけですよね。そして夜は少ないわけですから、昼間の電力ピークに合わせて初期のシステムを作ってあげれば、使えるんではないかと考えます。

(会場挙手)

質問者7:すいません。太陽電池というのは、地上にある場合と宇宙にある場合で、劣化というのはかなり変わってくるものですか? それとも、あまり劣化というのは気にせずに効率自体は変わらないという……?

田中:放射線環境がぜんぜん違いますので、それに強い太陽電池を選んであげる必要があります。あと、宇宙で使う場合はとにかく軽量化する必要があります。地上の太陽電池は、あまり重量を気にする必要がないんですね。ですから太陽電池の表面に厚いガラスがあってもあまり問題になりませんし、厚いプラスチック層で挟んであってもあまり問題にはなりません。

太陽電池は劣化するのか

ですけど宇宙で使うには、なるべくそういう、ガラスですとか表面の保護フィルムなんかは使わないものにしたいと考えていますので、耐宇宙環境性の高い太陽電池を選んで使っていくという必要があります。

幸いにして、薄膜系の太陽電池で最近使われるようになっているCIS系太陽電池、これは非常に高い対宇宙環境性が確認されてます。あと、アモルファスシリコン等も対宇宙環境性が高いんですけど、これはもともとの性能があまり良くないんですね。数パーセントしか変換効率がありません。

ただカルコパイライト系にしても、今地上用のガラス基板の上で作ったもので変換効率は15~16パーセントぐらいなんですけど、それをフィルム化すると10パーセントくらいですので、SPSで使うにはもうちょっと変換効率が高いものが必要です。ただし、この太陽電池に関してはSPSのコミュニティで開発するというよりも、NEDO等で太陽電池の開発に大きな予算がついて、いろいろなところで研究されてますので、そういう成果をできれば使っていきたいと考えています。

(会場挙手)

質問者2:すいません、もう1ついいですか。ちょっとこれを言ってしまうとあまり身も蓋もない話になってしまうかもしれないんですが、時間とお金はかかる。地上に太陽光のエネルギーって降り注いできて……ちょっとごめんなさい、素人なので考え方が違うかもしれない……ここにある程度滞留してるわけですよね? それは違いますか?

田中:滞留?

質問者2:滞留っていうか、エネルギーが落ちてきて、それを吸収するものがないにしても、ある程度エネルギー自体は残ってるわけですよね。実際の太陽光自体は何パーセントかしかパネルは吸収しないですけれども、エネルギー自体はここに残ってるわけですよね。

田中:ええ、まあ熱としてあったり。

地上での太陽光の有効活用はなかなかむずかしい

質問者2:それを、例えば吸収する……たぶんNEDOあたりがやらなきゃいけないことなんでしょうから、そこへいくとJAXAさんとしてはやる立場じゃないっていうのはすごくわかるんですけど……現状あるやつをとりあえず、何十年かけてやる、っていう意義はすごくあると僕は思ってるので。今日お話を興味深く聞いてるんですけど、ただ、現状としてあるやつを使うっていうのが、1番効率的かなって個人的には思うんです。それはいかがですか?

田中:ええと、地上で太陽発電をした場合、やっぱり変動してしまうので、なかなかそういうグリッドに入れられないというのが現状なんですね。それをやるには巨大な蓄電設備とあわせて運用する、ということになるんですけど、そうするとコスト面で合わなかったり、巨大な蓄電設備っていうのはこれから開発しなければいけないので、同じような研究・開発課題があります。

あと、ヨーロッパ等ではですね……。

(田中氏、地球の模型を取り出す)

ヨーロッパはここですね。そしてサハラ砂漠。ここはふんだんに太陽光が降り注いでますので、ここで太陽発電を行い、その電気をヨーロッパに送ってあげる、というような検討もされたんですけど、やはり長距離送電になりますので、ものすごくロスが大きいです。これを成立させるには、超電導ケーブル等で電気を運ばなければいけないということになりました。そうすると、そういう超伝導で運ぶ技術っていうのはけっこうな開発課題ですので、地上で太陽光をうまく有効活用することは、なかなかむずかしいというのが現状です。

当然、地上での太陽光発電の効率的な利用も進めていくべきだと思いますけど、それと合わせてこういう宇宙環境を利用したシステムもやっぱり考えていくべきでないか、と考えてます。

(会場挙手)

「ガミラスの反射衛星砲」も考えられていた!?

質問者8:すいません、そこをマイクロ波に変えて飛ばすっていうアイデアはないんですか。

田中:無線送電の地上応用っていうのも考えてるんですが……けっこうむずかしいんですね。むずかしいと言いますのは……。

質問者2:害はないわけですよね、先ほどおっしゃっていたように。

田中:害がないと言いますか……エネルギー密度によるのと、あと非常に地表に近いところを電波で飛ばしますので、地表の影響を受けてしまうんですね。例えば何年か前に、ハワイ島で神戸大学とアメリカの先生が、400キロぐらい離れたところで電波を送る実験をしたんですけど、海面の影響を受けたりしてうまく電波の形成ができなかったり、けっこうむずかしい技術が必要です。ただ、地上で、定点間でマイクロ波を送るという研究は実際行われています。

質問者8:そうしたら、(宇宙戦艦ヤマトの)「ガミラスの反射衛星砲」みたいな感じでやれば……(笑)。

(会場笑)

田中:はい、そういうのも昔考えられてまして。例えば、カナダの水力発電って電力が豊富なんですね。そこで作った電気を宇宙に上げて、反射衛星でマイクロ波を反射して、こちらに使うとか。そういうのもかなり前に……1990年くらいですかね。

あともう本当に一時期は、マイクロ波を送るっていうのはむずかしいので、まずは光でやってみないかということで、シベリアに反射衛星で光を送るような研究をするとか、そういうのもけっこう前に検討したこともあります。

質問者8:それはコスト的に見合わないっていう感じなんですか?

田中:コスト的に見合わないのと、意義・価値がどうかと。光を反射させる場合、その頃やっていた直後くらいに、ツンドラの氷が溶けてメタンガスが出るなど、環境問題も出てきましたので、光を反射するというのはあまり検討しなくなったんです。反射衛星を主張してる先生はいます。

無線送電のシステムって、けっこう大がかりな装置なんですね。それを宇宙空間に先ほどの重さで作ることはけっこう困難な、大変な技術なんです。だからまず最初は地上に送電機を作って、宇宙は反射膜だけ。そして地上からマイクロ波を上げて反射させて、ある特定のところにエネルギーを送ってあげるシステムの方が実現が容易なんじゃないか、という主張をしてる先生もいます。

(会場挙手)

焼き鳥効果はないようなエネルギーで送る

質問者9:すいません、環境に優しいっていうんですけど、そこの間を鳥が飛んだ場合にはどんな影響があるとかは。

田中:鳥が飛んだ場合の影響は、よく「焼き鳥効果」と言っているんですが……(笑)。

(会場笑)

田中:焼き鳥効果が起きるかどうかですが、日本のモデルの場合は太陽光と同じぐらいのエネルギー密度で送るので、太陽光プラス、マイクロ波の過熱になるわけですね。

質問者9:じゃあ、焼き鳥ができるってことですか?

(会場笑)

田中:焼き鳥にはならないと思いますし、「あったかい」と感じたら鳥はそれ以上入っていかないんじゃないかと(笑)。

質問者9:受信のほうに鳥の影響っていうのは……落ちてきちゃうわけですから。落ちてくるから、それの影響があるわけですよね。

田中:うーん……落ちないんじゃないかと思ってるんですが……(笑)。まあ、焼き鳥効果はないようなエネルギーで送る、と考えてます。

司会者:他にはなにか……。

(会場挙手)

質問者10:以前、レクテナの代わりみたいな装置として、海水に巨大な水槽みたいなのを作って受けるというようなアイデアがあったと思うんですが、その関連って今は?

田中:あ、はいはい。それは「海洋インバースダム」っていうんですけど、海の中に巨大な水がめを作って、そこの水を排出しておいて、その巨大な水がめのふたのところにレクテナを作って、太陽発電衛星から送られてきたエネルギーをそこで受けるシステムが検討されています。水がめの排出っていうのは、エネルギーの蓄電ですね。それを行って、供給電力が変動するぶんを補ってあげるとか、あと他の自然エネルギーとも合わせて、自然エネルギーの変動分をそこで補填するというようなことを考えた先生もいて、それは今も続いてます。

とくに、原子力発電所の沖合にそういう水がめを作ってあげれば、津波がきた時のバッファになるんじゃないかとか、いろんなことを考えてるんですけど……巨大なキロメーターぐらいの穴を作るっていうのは、けっこう大変ですね。

太陽電池の技術は転換できるか

質問者10:そうすると、これからもそういったアイデアと、結びつきみたいなものはやっぱり考えられるってことですか?

田中:ええ、一緒に。

質問者10:いろいろなアイデアがまた。

田中:そうですね。海洋インバースダムも、海洋インバースダム協会というものが立ち上がってまして、私もそこの会員になっています。ときどき打ち合わせにも出たりしてます。

司会者:まだ、ご質問されていない方はいらっしゃいますか?

(会場挙手)

質問者11:今日は興味深いお話をありがとうございました。1つおうかがいしたいことがあるんですけど、宇宙に太陽発電衛星を作るというのは、本当に最先端の研究を結集して作られるものだと思うんですけれども。数十年後にそれを作るために、今研究開発している技術であるとか、例えば無線送電の技術であるとか、太陽電池の技術といったものっていうのは、実際に宇宙に発電所を作る前に……例えば、私たちの暮らしの中に役立てられるような技術に転換するとか、そういったことっていうのは考えられているんですか?

田中:どちらかというと今、JAXAの筑波のほうでの太陽発電衛星の取り組みは、そういう関連技術のアプリケーションを重視した取り組みがメインになってます。

例えば、成層圏プラットフォームに対して無線でエネルギーを送ってあげて、上空に滞空させておいて、それを通信の中継に使ったり、災害時の観測に使ったりというようなシステムを考えたり。あとは、無線送電のいろんなアプリケーション。僕から言うとあまりにもアプリケーション重視なので、もうちょっと研究のほうに力を入れてもらえないかなと……(笑)

(会場笑)

田中:思ったりもしてますが、そういう取り組みが行われています。

司会者:他にはございませんでしょうか? 先生、しばらくいらっしゃいますでしょうか? このあとも、ご質問等受け付けていただければと思います。

田中:はい。

司会者:ではひとまずこれで、質問の時間を終了させていただきたいと思います。

以上を持ちまして、公益財団法人日本環境教育機構、環境セミナーを終了させていただきます。田中先生、ありがとうございました。

(会場拍手)

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