クリエイターやファンに対するジャッジは怖くない?

佐藤詳悟氏(以下、佐藤):過去に作品を届けた人数は数えればかなりの数になっているわけじゃないですか。その辺って、ふだんはあまり意識していないのですか? 自分のジヤッジが……宍戸くんも、ライブをやると何十万人の人たちが来るわけですし。

その人たちを「裏切らない」というか……自分の、今ここにいる2人のジャッジが、かなりの人数の人たちに影響を与えるというか。大げさにいうと、なんならその決断によってはちょっと人生がおかしくなっちゃう、みたいなこともありうるじゃないですか。その辺のジャッジは怖くないのかな? と。

宍戸亮太氏(以下、宍戸):大変よ(笑)。

佐藤:(笑)。

宍戸:マネジメントは人の人生を預かっているものだと思うから、それは大変なことだと思っています。

師匠の村田(積治)さんがよく言うのは、僕がやったから今の彼らがいるのが1つ。その一方で、違う人がやっていたらもっと有名になって成功していたかもしれない。それは常に忘れないようにと。僕もそう思っているし、先ほどの川窪くんの話ではありませんが、対等でいるために自分になにができるのかということが、そこにつながってくることだと思います。

たまたま僕が彼らと出会って、今はマネージャーをやっている。でもいつか、僕ではない人の方が彼らにとってベストとなれば、それはそれでいいと思っていますし。それは、僕が彼らのマネージャーとしてベストだと思って今一緒にやっている。

いつか僕のマネージメントが彼らにとってベストじゃないと彼らが思い、違う形を求めたとしたら、もしそういうタイミングがきたら、それが一番いいと思うし……話の的、質問ずれちゃった?

佐藤:(笑)。

読者はお客さんではなく「対等な仲間」

佐藤:川窪くんはそのジャッジに対して、どうですか? あまり、そう意識はしていませんか?

川窪慎太郎氏(以下、川窪):かなり聞かれる機会があるのですが。僕は自分がジャッジすることを「怖い」と思ったことは、一度もないですね。諫山さんを除いてはという意味ですが、僕以上に『進撃の巨人』のことを考えている人がいるとは思っていないので。そういった意味では、なに1つ「怖いこと」はありませんね。

あとは、さっきのセカオワでいえば、ライブで何万人の人が来るとか、『進撃の巨人』でいう読者が定期的にいるということで言うと……。諫山さんともよくたまに言うのですが、僕らは読者のことを全員お客さんだとは思っていなくて。諫山さんはどう思っているのかちょっとわからないですが、僕は基本的にはお客さんだと思ったことはないのです。「うそだろ!?」と思うかもしれませんが、「仲間」だと思っています。

『進撃の巨人』の連載を始めたときや単行本がでたときに、けっこう叩かれました。例えば、「絵が下手過ぎる」「エヴァのパクリでしょ」「寄生獣のパクリでしょ」「出落ち漫画でしょ」「1巻が一番おもしろかった」「引き伸ばしが始まった」など。なんか、もう3巻くらいから「引き伸ばしが始まった」などと言われて(笑)。

佐藤:(笑)。

(会場笑)

川窪:「待て待て。申しわけないけど、もうちょっと続けさせてよ(笑)」と思っていたのですが。けっこう叩かれた記憶がいっぱいあります。

でも、その作品を育ててくれたのは書店員さんだったり。当時はまだ、Twitterもほとんどなくて。9〜8年前かな? まだブログの方が発信力がある時代でした。いろんなブログで、「面白い漫画が始まった」と言ってくれました。

渋谷の埼京線と山手線の間にあるすごく小さな書店が「今『進撃の巨人』15冊売りました!」といった、「イチメーター」のような、イチローのヒット数をデータで数えているようなことを始めて。それが「800冊売りました!」「500冊売りました!」というところまで発展していって。そのように、一人ひとりの人が育ててくれたという意識が強くあるのです。

だから、今はおかげさまで、かなり売れる作品になりましたが、読者の方のことは、お客さんだというよりは、対等な仲間だと思っているのです。そうした意味では、あまり過度に恐れる必要はないというか……。お金をもらっているけれど、それと同等の対価を払っているつもりなので。そうした意味では、「怖い」という思いはありませんね。

「テレビに出れば知れ渡る」ではない

佐藤:今の書店員さんの話などもいろいろあると思うのですが。「お客さんへの届け方」というところで、いいモノをもちろん作った上で、先ほどの佐渡島(庸平)さんの話じゃありませんが、「どう届けていくのか」というのも、たぶん今はすごく大事な時代です。まぁ、いつの時代もそうなのかもしれませんが。

この辺については、なにか工夫していること、作る以上に心掛けていることがあれば、お2人に聞いてみたいなと思うのですが。

宍戸:「届けること」ねぇ。

最近思うのは……知っている人より、知らない人の方がまだ多いんだなということ。もちろん、デビューした頃より名前を覚えてもらえてたり、ピエロがいるグループだと認識してくれたりする方、そんな人たちも増えてはいるのですが、まだまだ届けきれていない人たちがたくさんいます。その人たちに、どうやったら届けられるのかということを、最近すごく真剣に悩んでいます。

最初は「1億3,000万人の人々に届けたい」と思って始めました。もちろん、今もその途中なのですが、なんて言えばいいかな……いかに人の生活に入り込めるかというのは1つの考え方として思っていることではありますね。

人によって生活の仕方も違うし、ライフスタイルも違うし、情報の入れ方も違う。だから、自分の常識だったり、自分の生活している範囲の近いところだけで、いろんな物事を考えたり。そこで宣伝を考えたりすると、すごく届いているような錯覚に陥りやすい。でも実際は届いていないということが起きやすい。それは、ずっと悩んでいます。

去年、いろいろリセットしようと思って、九州に1人でプラッと行きました。レンタカーを借りて、鹿児島から福岡までの下道を走りながら、赤信号で止まった隣の人を見て「この人はどのように情報を得て、どのように音楽を聴いて、どのように好きな漫画に出会うのだろう?」といった想像をしながら、いろいろ考えました。

そこの想像を膨らませているのは、人の生活に、一人ひとりの生活の中に、どうすればもっと入っていけるのだろう? SEKAI NO OWARIの音楽が、彼らの存在が、人々にとってどうやれば大事な存在になるのだろう? みんなのモノに、どうすればできるのだろう? ということについてずっと考えています。

佐藤:具体的に「テレビに流せば」などという時代じゃもうなくて。

宍戸:そうですね。テレビで流せば、テレビを見ている人やテレビで情報を得る人には届くでしょう。しかし、それこそこの間行った山奥の方とかでは、テレビで流れていないチャンネルもあるだろうし携帯電話を持っていない人もいるだろうとも思います。

人によって、受け取り方が違う。「その人たちに対して、どうやって届けられるのか?」という想像力は、常に持っていなければいけない。そこを忘れちゃいけないなというのは……知っている人より、知らない人の方が、まだ多いのだろうなということは、そこからきている話でもあるので。

読者が「我がこと化」しないと作品への愛着は生まれない

佐藤:川窪くんは、どうですか?

川窪:そうですね……。まだね……たかだか、いっても漫画『進撃の巨人』は200万部ぐらいなので。200万人くらいしか買っていないし。アニメもやってくれたので、それを見た人はもっといっぱいいるとは思いますが。まだまだ、それこそお菓子や車に比べればぜんぜん知名度が低いので、なんとも言えませんが。

目指しているというか心掛けているのは、自分のお客さんにとってというか、消費者にとって「自分のモノなんだ」「我がこと」「自分に関係することなんだ」と思ってもらうような宣伝をする、届け方をするというのは、できるだけそうしたいなと思っています。

エンターテイメントも、スマホの普及で競合がいっぱいありますから。数多選択肢がある中で「“これは自分に関係することだ”と思ってもらえるには、どうしたらいいんだろう?」と。わかりやすい言葉でいうと「愛着」ということなのかもしれませんが。それは心掛けています。

例えば『進撃の巨人』でいうと、今「みん撃」というファンサイトを作っているのですが。それはどのようなサイトかというと、『進撃の巨人』の漫画やアニメのイラストを、ある程度自由に解放して、好きに使っていいというものです。

あとはこちらから、僕らは「作戦」と勝手に呼んでいて、「大喜利をやってみよう」「最新刊のキャッチコピーをみんなで考えよう」「第1巻の表紙イラストを自分でふさわしいと思うものを描いてみよう」といったお題をあげたりなどをやっているのです。

販売元のPRより、すぐ隣りの誰かの「いいね!」

川窪:どうしてそうしたことをやっているかというと、楽しんで宣伝をしてくれるだろうと思いまして。自分たちは、好きな作品の、好きなイラストを描いているだけ。あるいは、自分の好きな作品のキャッチコピーをつけているだけなのですが。それを、例えばTwitter、Facebook、Instagramなどで発信していくと、自然にそれが宣伝になっていく。

すでに『進撃の巨人』が好きな人や読んでいる人にとっては、愛を深める行為にもなります。

『進撃の巨人』を読んだことがない、見たこともない、読んだことはあるけど買ってはない、といった人にとっては、友だちが好きな作品だとか、友だちがこうしたキャッチコピーをつけているとか、家族がこんなキャッチコピーをつけているというと、一段階近い存在になるというか……さっき言った「我がこと」になるということがあるので。

僕らがどれだけ「おもしろい作品ですよ」「素晴らしい作品ですよ」と言っても、隣りにいる友だちが「ちょっと読んでみてよ」と言ってくれる方が、よっぽど消費者には届くというか。ですから、そうした届き方ができるようにということは、心掛けているというか、心掛けたいというか、目指したいと思っていますね。

佐藤:そうしたものを思いついて、先ほどの15人ぐらいのチーム中の、宣伝担当の人などと一緒にやっていく感じになるのですか?

川窪:そうですね。『進撃の巨人』も、さっき自分が全部決めている「独裁」だとは言いましたが、それは別に、全部自分が発想したものをやっているわけではありません。宍戸くんも言っていましたが、『進撃の巨人』を同じぐらい真剣に考えてくれている人たちのアイデアの中から、取捨選択などを僕がさせてもらっているというだけで。

『進撃の巨人』にも、そうしたアイデアだったり、一緒に汗かいて働いてくれる人がたくさんいて。その人たちが考えてくれたアイデアを採用したり、僕がやりたいと思ったことを実現してくれる人と一緒にやっていくということですね。