「完璧なスパゲッティソースなどといったものは存在しない」 マーケティングの常識はこうして覆された

パスタソースと幸せについて #1/2

『天才! 成功する人々の法則』<などで知られるベストセラー作家 兼ジャーナリストのマルコム・グラッドウェル氏が、かつてアメリカで起こった「マーケティング革命」を紹介。業界が見落としていた世間のニーズをたったひとりで掘り起こし、市場をひっくり返したある男の奮闘について語りました。(TED2004より)

過去20年間でアメリカ人をもっとも幸せにした男?

Malcolm Gladwell氏:おそらく私が話すべきことは、直感的な判断と第一印象について書いた『Blink』という私の新しい著書についてなのでしょう。1月に発売されるので、みなさんも全員3冊ずつ購入してくださいね。

(会場笑)

しかし考えてみると、この本は私や母を幸せにすることができると思うのですが、あまり幸せについては書かれていないのです。そこで私は代わりとして、過去20年でおそらくきっと最もアメリカ人を幸せにした男について話そうと思います。その男の名はHoward Moskowitzといい、スパゲッティソースを再発名したことで有名です。

Howardは低めの身長で、体型は丸く60代、とても大きなメガネに薄い白髪で、しかし、エネルギーに満ち溢れています。彼はオウムを飼っており、オペラを愛し、そして中世の歴史オタクです。また、精神物理学者としてもプロであります。

精神物理学について私にはまったく知識がないわけでありますが、精神物理学の博士号をとった女性と2年間お付き合いしたことがあります。どんな関係であったか、いくらかご想像がつくでしょう。

(会場笑)

マーケティングの落とし穴

私の知る限り、精神物理学とは何かを測るものです。Howardは測ることに非常に興味を持っていました。彼はハーバード大学で博士号を取得し、ニューヨークのホワイト・プレインズに小さいコンサルティング会社を開きました。これは何年も前、70年代前半に遡りますが、彼の最初の顧客の一つがペプシだったのです。

ペプシはHowardのところに来て言いました。「アスパルテームと呼ばれる新しい甘味料がある。私たちはこれでダイエットペプシを作りたい。最高のペプシにするためには、1缶当たりどれだけのアスパルテームを入れたらいいか、教えてほしい」。ね、信じられないくらい率直な質問ですよね。

Howardもそう考えました。というのも、ペプシは彼にこうも言ったのです。「私たちは今8%から12%の値で取り組んでいる。8%を下回ると十分に甘くなく、12%を上回ると甘すぎるのだ。私たちが知りたいのは、8%から12%の間で、どれがちょうどいい甘さのポイントなのか、だ」。

もし私があなた方にこの質問を投げかけてみたら、きっとみなさんも、とても簡単だと言うでしょう。ペプシについての一連の大実験をすればいいのです。

8%から順に、8.1%、8.2%、8.3%…の要領で12%まで、甘さの度数ごとに何千人もの人に試飲してもらいます。そして結果を曲線で表し、最も人気のあった数値を採用すればいいのです。ね、本当に簡単ですよね。

Howardは実験をしデータを得て、曲線に表しました。しかしふと、その曲線がきれいなベルカーブでないことに彼は気づいてしまったのです。実際、そのデータはおよそ筋の通るものではありませんでした。めちゃくちゃで、あちこちに散らばっていました。

その業界、試食などの世界における多くの人々だったら、出てきたデータがめちゃくちゃだった時もへこたれません。人々がコーラについてどう思っているかを知るのは、そんなに簡単なものではない、と彼らは考えているのです。

「ああ、きっとどこかで思い違いをしていたんだな。じゃあ、一つ根拠のある推測をしてみよう」と言って、彼らはちょうど真ん中の10%を採用するのです。

しかしHowardはそう簡単に片づけられませんでした。彼は知的水準の高い男です。この結果は彼にとって納得のいくものではなく、この疑問が彼を数年苦しめました。彼はこれについて考え抜き、何が悪かったのか? なぜダイエットペプシのこの実験を納得のいくものにできなかったのか? と考えました。

セイヨウワサビの中のミミズは、この世にセイヨウワサビより甘いものがあることを知らない

ある日彼は、ホワイト・プレインズで夕食をとりながら、ネスカフェのための仕事をあれこれ考えようとしていました。すると突然、雷のように、あの疑問の答えが彼の頭に浮かんできたのです。すなわち、ダイエットペプシのデータを分析した時、彼らは間違った質問を問うていた、というのです。

彼らは1つの"完璧なペプシ"を追求していましたが、本当は、"完璧なペプシたち"を追求するべきだったのです。信じてください、これは非常に大きな発見でした。食物の分野において、最も輝かしい新発見の一つでした。

Howardはすぐさま車を走らせ、全国の会議に出席し立ち上がって言いました。「あなたがたはこれまで、1つの完璧なペプシを追求してきました。しかしそれは間違っているのです。完璧なペプシ"たち"を追求するべきなのです」。

人々はきょとんとして彼を見た後、言いました。「いったい何を言っているんだ。狂ってる」。それから「次の議題!」と。

その後は、彼は仕事を得ようとしても誰も請け合ってくれませんでした。しかし彼は取りつかれたようにこれについて話し、話し、話し続けました。彼は「セイヨウワサビの中のミミズは、この世にセイヨウワサビより甘いものがあることを知らない」というユダヤのことわざが大好きでした。この問題が、彼にとってのセイヨウワサビでした。

(会場笑)

彼はこれに取りつかれてしまったのです! そしてついに、彼は突破口を見出しました。Vlasic Picklesが彼のところにきて言ったのです。「Moskowitzさん、いや、Moskowitz博士、私たちは完璧なピクルスを作りたいのです」。彼は言いました。「完璧なピクルスなんてありません。完璧なピクルス"たち"しか存在しないのです」。

そして調査して言いました。「あなた方のピクルスを改良する必要はありません。新しいZesty(刺激的な快感)を作り出すことが必要なのです」。Zesty Picklesはここで生まれました。

パスタソース革命

次の顧客は、Campbell’s Soupでした。これははるかに大事な案件です。実は、彼の評判はこのCampbell’s Soupから始まったのです。Campbell’sはPregoを設立したのですが、80年代前半にPregoは、70・80年代のスパゲッティソース業界を独占していたRaguと競争していました。

現在、この業界では、……みなさんが気にするかどうか、また、どれくらい私がこれについて掘り下げるかわかりませんが、厳密に言って、……これは私事ですが、PregoはRaguよりおいしいトマトソースなのです。トマトペーストの質ははるかによく、スパイスはとっても優れている。素晴らしい味でパスタとマッチするのです。

現に、70年代にもRaguとPregoの有名なボウルテストが行われています。スパゲッティが盛られている皿に、ソースをかけるのです。Raguのソースはすべて下に流れてしまいますが、Pregoのソースは上にとどまります。これが「執着」と呼ばれるやつです。

(会場笑)

ともかく、スパゲッティの上にとどまることにおいてPregoがはるかに上回っていた上に、質の良いトマトペーストにも関わらず、Pregoは苦戦していました。そこで彼らはHowardのところへ来て改善をお願いしたのです。そして、Howardは製造ラインを見て、これではダメだ、と言いました。

そして、これが私のやりたいことだ、と彼は説明しました。彼はCampbell’s Soup Kitchenと協力し、45種類ものトマトソースを作りました。そして、考えられうるすべての方法でそのトマトソースにアレンジを加えていきました。甘さ、にんにくの強さ、すっぱさ、辛さ、トマトっぽさ、具材……スパゲッティビジネスにおける私のお気に入りの言葉です。

(会場笑)

その発想は6億ドルを生み出し、食生活を変えた

考えられうるすべての方法で、彼はスパゲッティソースを変えていきました。そしてこの45種類ものソースを準備して彼は乗り出しました。ニューヨークへ行き、シカゴへ行き、ジャクソンビルへ行き、ロサンゼルスに行きました。そこで彼は、大きなホールへ山ほどの人々を引き込みました。そして彼らを2時間の間座らせ、10個ものボウルを渡します。

10個のボウルにはパスタが入っており、それぞれに違ったスパゲッティソースがついています。彼らがそれぞれのボウルのスパゲッティを食べた後、スパゲッティソースがどのくらい良かったか、0から100点で点数をつけさせました。

それを何か月も行った後、彼はアメリカ人のスパゲッティソースの感じ方についての山のようなデータを手にしました。彼はデータを分析しました。さあ、彼がしようとしたことは、最も人気のある組み合わせのスパゲッティソースを見つけることでしょうか?

いいえ! Howardはそんなものがあるとは信じていませんでした。その代わり、彼はデータを見て言いました。これらすべての個々のデータを、いくつかのかたまりにグループ分けできそうかどうか見てみよう。彼らが特定のコンセプトに基づいて集まりそうか見てみよう。

そうです、スパゲッティソースに関するすべてのデータを分析していれば、すべてのアメリカ人を3つのグループに分類することができると気が付くのです。ノーマルなスパゲッティソースが好きなグループ、辛いスパゲッティソースが好きなグループ、トマトのかたまりが入ったソースが好きなグループ。

3つの中で、3番目のソースがもっとも重要でした。というのも、1980年代初頭の当時、スーパーマーケットにはかたまり入りソースは売られていなかったからです。PregoはHowardに言いました。「3分の1のアメリカ人はかたまり入りソースを欲しがっていて、まだ誰もそれを提供していない、と君は言うのかい?」彼は言いました。「そうです!」

(会場笑)

Pregoはその後、スパゲティソースをまったく作り変えました。かたまり入りソースを売り出し、あっという間にアメリカのスパゲッティソース業界を独占してしまったのです。その後の10年間、彼らはそのソースで6億ドルを生み出したのです。

その業界の他の人々もみな、Howardのしたことを見て言いました。「そんな! 私たちはこれまでまったく間違ったふうに考えていたのか!」。その時はじめて、7種類の生姜と14種類のマスタード、71種類のオリーブオイルが生まれたのです。

そしてついにRaguはHowardを雇い、HowardはPregoにしたこととまったく同じことをしました。今日大きなスーパーマーケットに行くと、いくつのRaguが置かれているかご存知ですか? 36です! そこには6種類のタイプがあって、チーズ、ライト、ロバスト、リッチ&ハーティー、トラディショナル、かたまり入りガーデン風です。

(会場笑)

これがHowardのしていることです。これはHowardからのアメリカ人への贈り物です。さて、なぜこれが大切なのでしょうか? 事実、これは非常に大切なことなんです。どうしてか説明しましょう。Howardがしたことは、人々をどう幸せにするかについての、食品業界の従来の考え方を根本的に変えたのです。

※続きはこちら! 「心は、舌が何を欲しいか知らない」 マーケティングに革命をもたらした”3つの原理”とは?

<続きは近日公開>

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