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『一流マネジャーの仕事の哲学』発売記念イベント(全8記事)

「我々が考えないと会社は変わらない」元インテル社長が説く、ビジネスパーソンとしての心構え

『一流マネジャーの仕事の哲学』を上梓した西岡郁夫氏。インテル社長などを務め、日本のパソコン市場開拓の立役者としても知られる西岡氏が、西岡塾で若者に伝えていることとは? ビジネスパーソンが持っておきたい心構えについて説きました。

大企業にいることがリスクの時代

西岡郁夫氏(以下、西岡):こないだのことだけどね、こういう経験したんですよ。塾では、塾生たちにいろんな経験をさせたいもんだから、企業訪問合宿っていうのをやるんですね。企業に連れていくわけ。こないだは、宇宙ベンチャーに連れていきました。

一番最初は月面着陸の1号を狙ってるHAKUTO。アイスペースという会社で社長は袴田さん。なんとあいつらは、一番乗りで月面着陸のロボットをつくるっていうのが目標。まあ一番だったら3~4億円もらえるから、がんばってはる。

本当に彼らがやっているのは、月の衛星上に……月の周りに衛星を置く。ここからHAKUTOを送り込んで、それで月の月面にどうも60億トンの氷があるんだそうです。氷は水やろ。水を電気分解したらどうなる?

(会場無言)

こういうことをもう忘れてるってのは楽でいいな。酸素と水素や。なんかで習ったやろこれは。中学校くらいで。

水素は水素電池。酸素は人間が吸うやろ。そのエネルギーの供給基地をつくるのが彼らの目的なんですよ。どう思う? これ真面目にやってるんですよ。博士もいっぱいおる。海外から来ている人が4割だから、従業員の4割が外国人なんです。これ真面目にやってんのやで。

そこにこのあいだ行ったら、社長以外にアメリカ人と日本人の2人が、スピーチをしてくれたんですよ。見るもんがないから。工場があるわけじゃないからね。

その1人の自己紹介で、大商事会社、あの大手の商事会社におりました、と。それで、アイスペースに転職した。という経歴を聞いたときに僕は「ちょっと質問」と、「あの大商事会社から明日潰れるかもしれないアイスペースに。勇気があるなあ。そのことをご家族は賛成したか?」って聞いたら、「はい。大会社にいるってリスクじゃないですか」と。「奥さんいるの?」と聞いたら、「はい。女房も、大会社にいるのはリスクだから、大賛成で」と。

変わってきたね。僕の若いときはね、いい学校に入って大会社に入るっていうのが幸せになる方程式だった。今の私たちって、本当はなにに頼っているんだろうね。何かを頼りたいわけ? 「寄らば大樹の陰」って言葉があるように、大会社は頼りがいがあるやん。毎月なんだかんだ言っても給料は出てくるし。

だけど実はそこの部長、(スライドを指して)みんなこんな顔してない? 私たちはいったいなにに頼ってんの? 今の資本金の大きさですか? 従業員の数の多さですか? もっともっと発展してくれると思ってんのやろ。誰が発展させるの? それを若いあんた方はひとりでできるか? 

これで、なんで寄らば大樹の陰に入っていけるのかということを彼は問題提起したんだよ。彼が言ったことは正しいと僕は全面肯定したわけじゃないよ。でも、そういう考え方はあるな。

考え方が違う人と議論すること

こないだね、大学でお世話になった教授に会ったら、「西村、この頃の若いやつ無茶苦茶や」と。やっとあんないい会社に就職決まったヤツが、俺のとこ挨拶しにくるとき、「先生、就職決まりました。まあとりあえず3年くらい行ってきます」って。「どう思う? お前」と聞かれました。

それを訊いてる先生も、訊かれてる僕もやっぱり、永年勤続、定年まで一所懸命がんばるという文化がまだ染み付いてるんやな。僕はまあ途中でインテルに移りましたけどね。あのとき、すごく騒がれたんや。君ら知らんやろ。日経の一面に「シャープのエース、インテルに移籍」と記事が載ったくらいや。そのくらい稀だった。でもこれって古い考え方ですよ。

教授は、嘆いていたけどそちらのほうが本当は楽しめるかもしれないね。別に今日僕はみなさんに、「会社を変われ」って言いにきたんちゃうで。

(会場笑)

だらっとした会社で、(スライドを指して)こういうヤツがいるんですよ。こういうのはやはり外国人じゃないかな、今ダイバーシティとか言われてるやろ。やっぱり、宗教も違う、ものの考え方も違う、価値観も違う、そういう人が議論しないと。横の人の顔を見てごらんよ。みな一緒やろ。君と僕の顔なんて一緒やで。君のほうがいいってことはないで(笑)。

(会場笑)

似たような顔やん。そんな人ばっかりが相談して議論して……違うと思うんだよね。

日本でダイバーシティって言ったら女性問題になるやろ。あれは違いますよ。あんなこと言っている恥ずかしいのは日本だけ。私たちはどうするか? これは塾の1つのテーマですね。我々が考えないと会社は変わりませんよ。

どうするのか? 黙ってるか? なにもせんで、そのまま行くか? なんならそれはそれで1つの考え方かもしれんけどね。みなさんはそんなことないと思うけど、パソコンの前に座ってたら仕事していると思ってる奴がいる。

それは違うよ。メールを見てごらんよ。部長にメールでレポートするやろ? そしたらどういう返事が返ってくる? 「西岡さん、いつも遅くまでご苦労さまです」って。こんなこと言われてなにが戦略的やねん。

(会場笑)

開発部長だったら言うことあるやろ。インテルでは、例えばアンドリュー・グローブが来るときにイベントをするんですが、イベント案がA案、B案、C案がありますと。「A案、B案、C案がありますんで見てください」というメールが来たとするでしょ。そんなん、もうペケ。「こいつはあかん」と。必ず「(A案、B案、C案が)ありますが、これこれの理由でA案で行きたいと思います」って言わなダメ。

それを読んだ上司から、返信なしだったらオッケー。これはきついで。「返信ないから了承した」ということ。了承しないのなら返信しなさい。ギリギリにそういうふうにやっとるわけ。大きく差がでると思うで。こういうやり方って。

会議続きで戦略を考える時間がない部長

もう会社の人とばっかり付き合ってさ、昼飯もそやろ。やっとの土曜日にもゴルフ。また会社の奴や。ほんまなんとかならんのかね。

会議システム、グループウェア、便利やろ。(立場が)下の人が部長に対して会議要請できる出席依頼とかある。スケジュールは全部みられてるから、空いてることはわかる。そこへ部長に会議の出席依頼を出してくる。もう(会議)せなしゃーないがな。だからもう会議会議ですよ。

言っときますけど会議っていうのは、部長はね、部下が主催する会議であれば懸命に考えて、「よし、みんな集まれ」「メールですまん、出席者はこういう方向に向かって、こういう議論をします」ということを決めて招集するのが会議ですよ。部下がつくった会議に、呼ばれたから行ってる部長? 

それでまた次(の会議)やで。どこで戦略考えてんの。それで夜7時まで会議に引きずり回されるんで、仕事なんかしてない。それで7時から自分の仕事すんの。アホか。

夜遅くなって、夜遅くなった自分に対して自己嫌悪になるやろ。自己嫌悪になってから家に帰ってきてもぶすーっとしてる。これは、家が気に入らんのちゃうで。やっと帰れた家だよ。でも自分が仕事してないもん。引きずり回されただけでしょ。それで自己嫌悪になる。

ご主人がぶすーっとしてたら奥さんはニコニコできるか?

戦略? これまたね、上におるやつがバカだからわかってないからさ。アニメーションでこういったパワポが出てくると、「おお、ようやってくれた」って思ってまう。最悪や。

(会場笑)

いるやろ? そういう人にあなたがたが頼って、どうするんですか。(時間を見て)もうすぐ終わるよな。どれくらいオーバー?

司会者:今10分です。

西岡:10分オーバー?

(会場笑)

例えば、今は部長も自信をなくしてしまってるんですよ。部長が自信あったらさっさと帰るよ。部長が業績にも自信がないから部長がウズウズしてるねん。しゃあないから、課長がウズウズしてんねん。みんなあんなの放っておいて帰っていいんだよ。やっぱりあなた方若い人が仕組みを変えなきゃ。相手は変えられないんですよ。自分は変えられるんだから変わりましょ。

口角を上げること

これまたあとで新野さんに質問して。口角を上げるってのはね、これは効果があるよ。僕の本でも「口角上げよう」って一番最初に持ってきたんですよね。

これね、一番パッと思い当たったのが、パリのメトロでオルセー美術館に行こうと思ったけど、道がわからんので女性の店員さんに訊きにいった。そしたらみなさんね、ルールがあるんです。エチケット。必ず、「ボンジュール マドモアゼル」って言うんですよ。

いや、フランス語なんか喋れないよ。でも「ボンジュール マドモアゼル」って言う。それから、「エクスキューズミー」と。「How can I get to the Orsay museum?」とか言うと答えてくれる。

それを僕は知らんからね、いきなり「エクスキューズミー」って訊きにいったんです。そしたら、「ふんっ」。

小さなホテルだったんで、フロントのおばちゃんにこれを言ったら、そのときに(「ボンジュール マドモアゼル」を)教えてもらった。これをやるとものすごい効果。コンビニでも効果がある。

昨日、区役所行ってきたけど、区役所の係の人って、まあ憎たらしいヤツ多いやろ(笑)。

(会場笑)

口角上げていったらね、すごくスムーズに行きました。僕ね、「微笑もう」とは(本に)書いてないんだよ。「口角上げよう」 って書いたことはある。微笑むのは心の問題があるからね、一応。でも口角上げるのは物理的やろ。上げたらいいんだ。上げたら向こうはニッコリするように見えるから、向こうもニッコリする。

ちょっとズルいけど。口角を上げましょう。西岡塾では大変やで。部屋に塾生入ってくるやろ。部屋に鏡が置いてある。そやけど全員塾生が、金曜日の7時から始まるんだけど、入ってきて鏡の前で(微笑んで)「こんにちは」とやる。こうやっとくとね、座席についたときにもうニッコリしてるんだよ。それで、講義はものすごい活性化するんですよ。ぜひやってください。

塾生はね、ものすごい変わってくれます。もうガンガン変わります。勉強したってなんぼ論文読んだって変わらんから。それよりも授業で変わるんですよ。だから塾に来たら部下との接し方がガラッと変わるんですよ。デスクにこんな大きな鏡があるんだけど、部下と会議をするときはその鏡を見てから行けと。朝会社に来たらまず鏡を見ること。もうみんな自信溢れるから。

家でもガラッと変わるんですよね。はつらつとしましょう。外見から変える。もっさり、ぶすっとするのを辞めて。今日の僕の講義も、みんなが「元インテル社長?」「歳やでー」と思ってるときに、僕がボソボソと「こんばんは、西岡です」って言ったら、半分帰んのちゃう(笑)。

(会場笑)

社外のネットワークがあなたを助ける

“かたち”やな。ちょっとくらいお洒落せえよ。お洒落くらいちょっとお金かかっていいですよ。相手とはアイコンタクト。僕はいつも顔を見てるやろ。見てられたら寝てられへんもん。アイコンタクトってものすごい大事。会社でぜひやってください。明日会社へ行ったらみんなに、口角を上げて「おはよう!」って言ってください。グループの雰囲気がガラッと変わりますよ。それを恥ずかしがったらダメなんです。

塾生にはもう指示してありまして、西岡からのサインで「今日から変わります」っていうことを所属先のみんなに宣言せよと。宣言してやれ。そしたら恥ずかしくない。社会のネットワークというものですよ。だから今日はみなさん来てくれてよかったんだよね。

こういうとこ(講演会など)に来ないヤツがいるんだよね。会社のネットワーク、そんなん違うよ。外(社外)だよ。僕は外でのネットワークがありがたいことにいっぱいあったから、今助かっているんです。外とのネットワークがあなたを助けます。これはあとで質問用にしよう。

(スライドを指して)「ファーストペンギン」で、ネットで調べてください。この写真が出てきます。(このペンギンたちは)もう(餌の)魚がないんですよ。もう死ぬだけ。でも、(海では)いっぱい魚が泳いでるんですよ。

しかし海には魚だけじゃなくてシャチとかオットセイとかいっぱい危ないヤツが泳いでる。この状況で海に飛びこんだ最初の人はファーストペンギン。組織がダメだと、「あ、部長行った」「あ、喰われてる」でおしまいなんです。

(スライドを指して)これ見てくださいよ。もう次に行ってるし、もう用意してるんだよ。よくこんな写真を撮ったよな。

(会場笑)

これはセカンドペンギン。こういう人があなたがたの後ろにおるか? って話なんや。魚が30匹いるとするやろ。申し訳ないけど、まあ20匹はシャチに喰われるわ。みんなで相談するんですよ。

あと(残っている)魚10匹残せと。それ以外は(シャチを誘導するために)こっちに魚を投げ込むんです。シャチがそっちに行ってるあいだに「行くでー!」と飛び込むわけや。そんな戦術は考えるんだろうけどね。

問題は、こういう精神構造にその職場はなっていますかという話だね。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

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