コンピューター事業部長に出世

西岡郁夫氏(以下、西岡):ものすごい出世です。これはずっと赤字の事業だったんです。「やってくれるか?」って言われたんです。「え、断れるんですか?」と言うたらね、「もう決まった」と。

ここにはすごい功績者がいるんですよ。事業部が3つあって、バンバン(売り)飛ばしてる電子手帳のパーソナル事業部とワープロ書院の事業部。そして真っ赤っ赤のコンピューター事業部。社長はよくあんなことできたと思いますよ。

また(事業部には)歴史があるんですよ。よそ者は受け付けないという。(社長は)そこへ所長を落下傘で落とした。そらもう、むちゃくちゃいじめられましたよ。どのくらいいじめられたか?

もう本部会議では僕にばっかり厳しい質問をするんです。「おい西岡、PAの6809という製品があったろ」と。もともといる人やから詳しいんですよ。「あれの材料費いくつや?」とか。え? そんな商品、そら在庫はあるかも知れないけど僕は聞いたことない。

「今そんな数が必要ですか? もし必要でしたら調べますけど」「おのれの商品の在庫ぐらい覚えとけ!」。そんな感じでした。

それで、あるときその本部長と一緒に外国人を接待して飲んだあと、その常務の車で駅まで送ってもらいました。「駅で落としたるわ」と。そのときに、「西岡君、きみはなんで病気しないの?」って(笑)。

(会場笑)

「こんなやつ初めてだ、というぐらいいじめたんだから、胃くらい悪くなるだろ」って。僕は、「なってたまるかよ」と(笑)。とまあ、ここで実績を挙げました。

日本のミドル世代を鍛える

みなさんね、世界でいちばん薄い最小化のノートパソコンちゅうのは、東芝のミゾグチ君という方が作ったことになっているんですよ。歴史上では。これはほんまに残念だわ。

ミゾグチ君が作ったノートパソコンはフロッピーディスクが付いているんですよ。こんな分厚さやで。奥行きは短かったけどね。あれのなにがノートパソコンや。ちゃんとフロッピーディスクを外して、ハードディスクで作ったのは、全世界で僕が最初だったんですよ。

大ヒットでね。全世界がそれに倣いました。残念なことに、特許が無いんだよね。これは技術部長の粗だと思うんだけど。僕が書いていたら(特許は)取れていたと思うんですけどね。あれは文学的に書かないとダメなんですよ。真面目に書いたらバツになる。

でも、まあ一世を風靡しましたんで、インテルの目に止まって、インテルに移りました。この話はちょっとまたあとで、質問が出たらやろうと思います。

それから、モバイル・インターネットキャピタルに移りました。そして、今は塾をやっています。なんでこの塾をやっているのか。なんかね、日本の大企業のミドル達っていうんかな、その人たちが元気ないなと思ったんですよ。

(スライドを指しながら)こんなんちゃうかな。みなさんの会社はどんなものかは知りませんけど、部長でこんなんいません?

(会場笑)

まあさすがにいないと思うけど、これ、パソコンの前に座ってたら仕事してると思っとんのね。今は電車の中でみんなスマホやね。(スライドを見て)ひとりだけ真面目に寝てるがヤツおる。

(会場笑)

やっぱり、考えてないんちゃうかな。自分が今やっている仕事にふつふつとした思いを持って、「こういうふうに変えるんだ!」という気持ちを持っていたら、こんなことにならないと思うんですよ。それが心配で、塾をつくったんです。毎年18人のミドルたちが学んでいますけど、それはそれは、けっこう変わりますよ。(西岡氏が)怖いからね。

ボケっとして講師の講義を聴いてたら、「出てけ!」と。「聴講費用は年間150万ですけど、返しときます」「あんた、来週から来なくてよろしい」と言われるからね。ぎゅっと目を見開いてみんな聞いている。

だって、社長とか本部長が「来期はこうするで!」っていうときに、ボケッとしてる奴と仕事したいと思う? メモばかり取っているだけの奴と。「やりましょう!」っていう目つきをしてないと一緒に仕事なんかできないよ。こういうことを、電車にいるあいだだけでも考えてほしいんですよ。なんか自分のやっている仕事と関係ないかということを。

Amazonが実店舗をオープン、その狙いは?

(スライドを指して)これ、Amazonが15年の11月やったかな、シアトルにオープンした本屋さんですね、Amazon Books。

Amazonって、本屋を潰して回ったんやで。世界中の本屋はものすごい減っとるじゃないですか。(Amazon Booksは)シアトルに6店舗くらいあったんちゃうかな。アメリカ全米で、(これから)200店舗くらいやるって言ってるんですよ。こういうのって、なんですか?

参加者5:シナジー。

西岡:シナジー。本屋と本屋のシナジーか。あるやろうな。みなさんはこういうことを考えたことある? 友達と議論したことありますか? 

これなんやろ。(スライドを指して)これなんですか? Amazonはホールフーズ(ホールフーズ・マーケット)を買収したんですよ。おかしいと思わない?

これ、ホールフーズですよね。あそこはちょっと高級でいい肉を置いてますよね。生鮮野菜もたくさん置いています。というかAmazonがなんでこんなもん買収するんですかね。さっきのシアトルの本屋は、実験かもしれないです。なんの実験かというと、Amazon がECショップで本を売るとき、彼らはレコメンデーションするんですよ。そうでしょ?

普通の本屋に行ったら、本の並び方はぜんぶ店が固定するじゃないですか。ところがAmazonに買いに行くと僕用に本が並んでいる。(参加者を指して)あなた用に本が並んでいる。しかも僕には「この本がいいんじゃないですか?」ってレコメンデーションしてくれる。

でも、Amazonのレコメンデーション、いいと思う? 言っているわりには大したことないで。傾向も同じようなのばっかりやん。あれは本来のAmazonの狙ってるレコメンデーションじゃないとジェフ(・ベゾス)は思っているかもしれない。「いったい人々はどういうものを欲しがっているか」ということを、リアルにチェックするために本屋をつくったのかもしれない。僕はそう思ってるわけやな。

まあ実験かもしれない。アマゾンからしたら安いもんやん。あんなん。こんなちっちゃい店を全米で6店舗。ちっぽけなもんだよ。ホールフーズをいくらで買収したか、知ってる人いますか?

(手が挙がらず)あれ? それはまずいね。これは、完全に蛙になってるわ。1兆5千億やで。Amazonの売上は13兆。保有する現金と有価証券はちっぽけやん。それで137億ドルを現金で払ったんだよ。

ジェフ・ベゾスの戦略

これを決めた前日のホールフーズの時価総額に、3割のプレミアムを乗せました。それを現金で払ったんやで。これは実験か?  本気やで。なんやと思う? これをちょっと議論しよう。みなさんは(Amazonが)なにを狙っていると思う?

参加者6:小売。

西岡:うん。でもAmazonってもともと小売だよな。ネットで小売やっているわけやろ。それでもお店で売りたいってこと?

参加者7:流通量を増やして、自前で流通網を構築して、流通コストを下げる。

西岡:そう。流通網をガンガンやるのがとにかくジェフの戦略なんですよね。Amazonが立ち上がったとき、いっぱい素晴らしいベンチャーキャピタルが他にできたやろ。ECがものすごい売れたわけですよ 。言っとくけど、AmazonはアメリカでECショップとしては200番目やで。本屋で200番目。そのぐらい後発企業だったんですよ。

企業が「ECショップやりましょ」ってなったら、社員は社長に言うわけです。「リスクはゼロです。在庫が足らなくていいんですから」と。ECは在庫要らないからね。 

そのAmazonが在庫を持ち出したんや。あの倉庫、あのセンターを見てごらんよ。神奈川県に22万平米やで。世界最大。いっぱいモノあんねんで。でないと明日届いたりしないよ。発注が来てから用意してたら来るわけないやん。(倉庫に)いっぱい貯めとるから来るんや。

普通だったら在庫なくて良いのに、あんだけ在庫を持ち出したんやで。ものすごい倉庫をつくったからベンチャーキャピタルから叩き倒されたんやで。これだけの売上あげてるんだから当然黒字やん。「上場しよう!」ってなりますよね。

でも、一切利益は出さないで、儲けたお金を全部つぎ込んで、物流センターをつくる。そういう会社なんや。「もっとやろう」と。なに狙ってんねんやろなあ。

というようなことを、電車の中でスマホやらずに考えなければいけない。寝ずに考えろと。僕の塾にはインド人が塾生で来てくれるんですけど、僕に言うんです。「西岡さん、日本人ってなんでこんなに疲れてるんですか? 朝、電車のなかでみんな寝てます。異様です。8時からあんなに電車のなかで眠たかったら、仕事できないよ?」って。そりゃインド人も奇妙に思うよね。

Amazonフレッシュって知っていますか? Amazonが生鮮食品を全部在庫で扱ってる。どこに新鮮なもん蓄えてんのかなと思ったよね。新鮮にするために、ものすごい冷蔵庫を今からつくるか? Amazonは「あるじゃん」と思ったんちゃうかな。20万平米の倉庫が。

ZARAの競争戦略

今後ホールフーズは潰れないと思いますよ。ホールフーズは今までのように着々と事業をやるんですよ。赤字でもないからね。Amazonから入った生鮮食品の注文に対して、Amazonの車がここ(倉庫)へ取りに行く。ここから運んでごらんよ。新鮮のままで運べる。アメリカの社会は自動車がないとスーパーマーケット行けないからね。

でも、どんどん老齢化は進んでいる。日本と同じで。こんな危険なことはないよ。アメリカ国民がこの先なにを食うのか? そのときに、ホールフーズから食品が届けられるんですよ。これはシナジーどころじゃないと思うな。

知らんで? 僕はジェフに聞いたわけじゃないけど、こんなことをもっとみなさんも考えましょうよ。スマホばっかりやらずに。ぜひみなさんに見てほしいのはね、生き生きと考えるクセを持つこと。

それでは次に行きましょう。これは、いま西岡塾の塾生が店頭に行って、いろいろな競争戦略を調べる1つの素材がZARA なんですよ。ZARA知ってる人いますか? 

(少しだけ手が挙がる)

えらい少ないな。そんな少ないんだ。みんな金持ちやなあ。(手を挙げた参加者を指して)なんでZARA知ってるの ?   参加者7:価格がけっこう安めで、商品の入れ替えがすごい早い店なんで、ちょくちょく見に行くんです。

西岡:見に行って、試着して、「これいいなあ」と思って買おうと思う? あなたがたは決断早いけど、おっさんになったら「これ妻に叱られないかな。もう1回来よう」と思って行ったら売り切れや。もう二度と同じ服をつくらないからね。これ(客を)脅迫してるんですよ。「今いいと思う? じゃあ買いなさい」って。買うなら今しかない。ZARAはそのぐらいでやっているんですよ。流行の最先端だと思う?

参加者7:どうですかね。

西岡:その答えは素晴らしい、正解なんです。最先端を狙ったら危ないわけ。

世界中の若者は同じ服を着ている

僕はね、社長はこう考えたと思うんだよ。知らんで、彼は絶対インタビューに応じないからね。

彼(ZARAの社長)は、スペインの義務教育しか受けてないんですよ。すぐ丁稚に入って叩き上げた人だからね。でも、こないだ思うてんけど、世界中の若者がみんな同じ服を着てる。ロンドンがパリと違うか? 東京の若者はロンドンと違うか? みな一緒やで。同じようなもんや。

ということは、全世界の若者を相手に商売ができるわけや。ものすごい(量の服を)つくれるやろ。(大量に)つくれるということは、ものすごい安くつくれるわけや。適当な値段を付けてもけっこう儲かるわけです。

「これはいけるぞ」となった。だけど徹底的な最前線ではないんです。ということは、デザインするやろ、失敗して、まちごうてごらんよ。在庫でどーんと余る。全世界でつくるから、在庫の量はハンパじゃないで。それで、どうしたか。どないした思う?

参加者8:たくさんつくって……。

西岡:なんでつくんの。それデザインどうすんの?

参加者8:デザインはパクる。

西岡:どっからパクるの?

参加者8:売れているやつを。

西岡:正しいです。(パクリで)一番激しいのは、パリコレとかミラノコレクションあるやろ。あそこにいったらね、ZARAのデザイン部員がいっぱいいるわ。モデルがでてきて「あ、これいける!」と思ったら、すぐに帰ってオフィスでダダダーって急いで制作するらしいわ。パクり方も激しいな。

パリコレの場合は、まず「それでOK」って企画が決定する。それで銀座に並ぶのは9ヶ月後。そのかわり40万から50万円もするんですよ。反対に、ZARA は「よし、これでやる」ってスタートするやろ。銀座に並ぶのはいつだと思う?

参加者9:3ヶ月後。

西岡:正解は2週間。しかも2週間後に並ぶときには円のプライスタグまでついて、ばーっと並べる。そのかわり、送るのはぜんぶ航空機。船でっちゅうたらそれだけ時間がかかる。

ZARA の全世界でチャーターしてる航空便は2,500フライトと言われています。そこでお金かけてるんだけども、それはそのほうがうまくいくからだよな。

ZARAの強さの源泉とは

今、(ZARA社長は)長者番付で2番か3番か4番。これは株価で変動するからね。ファッションの後出しジャンケン。後出しジャンケンはぜったい勝つ。だからZARAのデザイナーは、パリコレに行くだけじゃなくて、街を歩いているんですよ。新しい流行を確認している。「これいける!」と思ったら本社へ打電して、それで決めてしまう。

でも、ZARAの強さの源泉はもう1つある。ここを、ものすごい考えてほしい。あんまり書いてないんで。

品質や。品質はすごい良いと思いますか?

参加者10:いいと思います。

西岡:うん……4~5年もつ? 

参加者10:4~5年もちます。

西岡:あんまりちょっとノッてくれなかった(笑)。

(会場笑)

ちょっと彼(参加者)を例にしては言いにくいんだけど、普通、何回も着ないのよ。女性は彼とデートするときに、高校の同窓会行くときに、前に着た服を着るか。着ないでしょ?

それこそ間違わんように彼らはスマホでちゃんと写真を撮ってますよ。「瞬間日記」というアプリがあって。知らん? 「瞬間日記」というアプリ。彼とこの服で会ったというのを全部日記に記録してるんですよ。「同じ服、着ません」と。

ということはね、来シーズン着ないんですよ。来シーズン着ない服が洋服ダンスでパリッ(新しい)としててごらんよ。もう夏も終わって、夏服を片付けようっていうときに、パリッとしてたら、うれしいか? もう着ないんだから、ムカッとしない?

適当にヨレヨレでいいんです。僕たちは来シーズン着ますから、まだしっかりしててもらわな困るけども。つまり「しっかりしてる」というのは「品質が良い」ということにはならないんですよ。品質の良さというのは、ユーザーがどういう使い方をするかで決まるわけや。だからそういう意味では、ZARA の品質は最適。

バスで貨物を運ぶ時代?

これいいと思わない? こういう話を初めて聞いたような顔をして聞かないでほしいわけや。

こんなんもう知ってる人は知ってるで。こんなことを僕だけが知ってると思う? あり得ない。ネットで書いてあるから。こういうところで講演する僕たちは本当に困っているんだよ。

いっぱい(ネットに)書いてあるからね。(ZARAは)これで2.4兆円ですよ。営業利益率18パーセントくらいかな。すごいですよ。

そういえば、最近にこんなニュースがあった。バス・タクシーで貨物輸送をする。これ日経のトップやで。(スライドを指して)これ見たやろ? 7月13日やで。こういう記事見たときに、やっぱり一瞬ね、ドキっとしてほしいわけ。なにを考える? どこかに(心を)ピカピカさせて読んでる人はいると思うよ。

これは政府にね、「規制緩和しろ」って必死で圧力かけた(企業の)なかには、ヤマト運輸がいます。なんでかわかりにくいかな。長距離輸送のバスがあったとするやろ。今までは、移動だけだった。人しか乗せれません。でも実際はこれ(貨物)も載せれんねんで。

人も送り込めるけど、そこから帰ってくるお客さんが少ないっちゅうときには、そこ(バス)を使う。ヤマトのトラックじゃなくてバスを使おうというのは、当然考えられるよね。これはものすごいおもしろい技術モデルになるかもしれないな。

(スライドを指して)こういう顔してたらダメですよ。僕ね、こういう資料は全部自分でつくります、パワーポイントで。まあインテルにいましたからね。インテルちゅうのはね、全世界、同じプレゼンテーションなんですよ。

日本に許されるのは日本語化だけなんですよ。だけど僕がインテルに行った理由は、「ワープロ主体の資料をパソコンの資料に変えてくれ」とアンドリュー・グローブに言われて「それはおもしろい」というので社長になったんですよ。

そのためには、NEC になんぼ買ってもらっても、市場のパイは一緒やな、増えへん。だから、本当にインテルがもっと売ろうと思ったら、市場をぶっ壊しにかかって、それでパソコン市場に変えていったわけや。そのためにはそういうコンセプトちゅうかな、文化をつくろうというミッション。僕のパワーポイントはUSアップデートをすべて排除しました。

全部自分で作りました。だがUSのヤツは格好いいわけや。でもぜんぜん面白くない。僕のやつはまあ自分でつくるからね、格好良くないけどもおもしろい。いまだにこういうのをコピペでつくっています。

(会場笑)