CLOSE

The Quantum Internet of the Future(全1記事)

けっして盗聴されない「量子インターネット」は実現できるか?

先日、長距離量子インターネットの実現に一歩近づいたという発表が科学誌に掲載されました。量子ネットワークは、小さな粒子を使って情報を記録する手法で、安全に情報を伝達するためにはおそらく完璧な方法です。この量子インターネットが実現すると、未来はどう変わるのでしょうか? 今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、量子インターネットの実現に向けた科学の進展について解説します。

量子コンピュータの不思議

ステファン・チン氏:インテルを捕まえた? それなら今すぐにCIAにコンタクトをとってください。あなたはすでに、最新の暗号化システムを持っているはずです。ですが、そこにはまだまだ穴はあって、それを知る手段はありません。危険だと感じますか?

これらの話は、スパイ小説やビデオゲームのように思えるかもしれません。でも全くの作り話というわけではないのです。実際、世界中の科学者たちはこの深刻な問題に真剣に取り組んでいます。そして先日、プリンストンの物理学者とオーストラリア国立大学によって、ある進展が発表されました。

ネイチャーフィジクス誌にて発表された論文によれば、彼らは長距離量子インターネットの実現に一歩近づいたと発表しました。量子……なんだって?

わかりました、もう少し詳しく説明しましょう。

量子ネットワークは、小さな粒子を使って情報を記録する手法で、これは、安全に情報を伝達するためにはおそらく完璧な方法です。

量子コンピュータのことは、たぶん耳にしたことがあると思います。「0か1」の方法を使う通常のコンピュータとは違い、量子コンピュータではその代わりに量子ビットやキュービットを利用しています。

量子ビットは、電子スピンという物理的な動きによって成り立っている特別な量子です。この電子スピンは速くなったり遅くなったりして、それこそが量子メカニズムがより複雑たる所以でもあります。少し不思議に思えるかもしれないですが、このスピードの強弱は同時に起こっているのです。

これは、重ね合わせと呼ばれる原理で、粒子や光子のような電子が同時に異なる状態で存在しているということを表します。私たちが通常過ごす世界では、まったく筋が通っていない内容かもしれません。ですが、これは量子のメカニズムを理解するために非常に重要な知識で、しかもそのメカニズムのほんの氷山の一角なのです。

小さな粒子を計測するために、昔ながらの科学者は粒子をさらに分解することから始めましたが、それは、はた目にも不可能に見えました。しかし、たくさんの実験や数学によりそれを成し遂げることができました。

それを頭で理解することは難しくても、「全く違う状態の粒子が同じ場所に存在する」という事実を、受け入れなければいけないのです。

量子コンピュータの2つのメリット

量子コンピュータではこの不思議な現象を、2つの利点として利用しています。

最初に、従来の量子ビットよりもたくさんの情報を書き込むことができます。例えば、従来の量子ビットだと、00、01、10または11の4つのうち1つしか計算することができません。

それぞれの量子は両方とも同時に「0と1」を存在させることができるので、2つの量子は4つの数字をすべて網羅できることになります。より多くの量子を追加すれば、記録できる情報量は飛躍的に増え、処理能力もアップします。

300の量子コンピュータでは、世界中にある原子よりももっと早い計算が一度に可能になるでしょう。

基本的に、十分な量子コンピュータの処理能力は、従来の方法でつくられたスーパーコンピュータと比べるとそれこそ無限大で、だからこそ物理学者たちはこれが理論上では可能であると認められた瞬間から今に至るまでずっと、実現のために躍起に取り組んでいるのです。

2つ目の量子コンピュータの利点は、量子ビットを使っての情報伝達が本質的により安全になるということだです。情報を暗号化して送るとき、メッセージを聞いても誰もそれが解読できないよう、送る時に内容が分からないよう細工するでしょう。

ですが、あなたが実際にそれを読んでほしい受け取り手には、メッセージを解読する手段が必要です。ですから、暗号解読のための鍵を送らなければいけなくなります。

問題は、もしそれを誰かが盗聴していたら、その「誰か」も暗号を解読できてしまうということです。暗号解読者がそれを手に入れる方法はたくさんあります。その方法のなかにはいくつかの欠点もありますが、理論上では結局すべての情報はハックされる可能性があります。

その一方、量子コンピュータのもう1つの不思議なメカニズムを使えば、完璧な解決策が見えてくるでしょう。もし、電子スピンのようなものを正確に測ろうとするなら、その測定に見合った最適の測定器を用意する必要があります。

もし、あなたが量子ビットを使って友人のボブに鍵を送ろうとして、仇敵のイブがそれをボブが受け取る前に傍受したとしたら、ボブとあなたは彼が量子ビットを受け取る前に、だれかが量子ビットをめちゃくちゃにしたと教えることができます。

言い換えれば、あなたが知らない間に情報を傍受することは、誰にもできないということです。

これは、暗号化の次のステップで利点にもなります。しかしこれは、1つ以上の量子コンピュータを保持し、長い距離でそれを接続することを意味しています。基本的に、僕らは量子インターネットを構築したいと思っています。そしてそれがまさに、この新しい研究の始まりでもあるのです。

未来の量子インターネット

私たちはすでに、既存の基盤の上に、未来のインターネットに秘術を上乗せするために巨大な世界的ネットワークを光ファイバーで繋いでいます。しかも、光ファイバー技術は光子を量子ビットの光として利用できるため、とても理にかなっています。

でも、それには2つの困難がありました。1つは、これらの光ケーブルを使用するにあたり粒子を特定の波長に変換させないといけないこと。そして、量子ビットは非常に脆いということ。

もし、あなたがメッセージを変換する前に何かが粒子を妨害したとしたら、データーを失ってしまうでしょう。なので、常に量子ビットを安定した状態で保たないといけません。

私たちはすでに、量子情報を相手に送信するまでにかかる時間までストックするために、どのような材料をどのように使うべきなのかを突き止めましたが、それが光ケーブルにあう正しい波長だとうまく機能しません。

加えて、これらのケーブルと統合性のいい材料は情報をほんの一瞬しか記憶できません。それはとても短すぎます。

問題解決のために、オーストラリアの研究チームは時間を長くする方法を試行錯誤しました。そこで、彼らはいくつかの元素を含む結晶で実験をはじめました。

元素は希土類元素で、元素イオンを含む結晶は光ケーブルに必要な波長と合うのではと考えられたのですが、それはただ単に量子情報を一気に記憶できるというだけでした。

この時間枠を増やすために、7テスラ磁石棒を採用することにしました。これは、MRI機器の中心となる仕組みです。

磁石は結晶内にある電子を一旦停止させることができ、データーを壊す干渉物から遠ざけてくれる機能もあったので、とても便利でした。そして、ついにできたのです!

磁石は、結晶の保存時間を1.3秒まで延長させることができました。そんなに長い時間には思えないかもしれませんが、これは科学者たちが行ってきた10,000倍もの進歩で、量子インターネットにとっては十分な時間なのです。

他の専門家たちによると、量子が繰り返し信号送信を促進すると、1秒に1000キロ先にまでメッセージを送ることができます。

では、私たちの量子インターネットはどうでしょう?

いくつかの広まっているネットワークは、的外れなものが多いです。1つだけ、オーストラリアはかなり低い温度、1.4ケルビン、または摂氏272度での設定を要求しています。これはかなり寒く、しかもこの温度を保つにはかなりのお金がかかります。

そして、もちろん強力な電磁波も必要です。研究者たちは、自身の材料が3テスラ磁石以下のものでまだ働くと思っていますが、それは間違いです。最先端のものではなく、従来のMRIについて考えてみてください。そんなにたいしたお金ではないはずです。

この問題を解決したとしても、量子インターネットは、ビデオを見たりいつも通りのGoogle検索を実行したりすることに使われるものではありません。

量子リピーターや原子クリスタルのことは知っているでしょう。量子ネットワークは、完全に安全な状態でコミュニケーションをとらなければいけない状況など、極秘の状況でしか使うことはできないでしょう。

例えば、銀行情報とか、いやそれよりももっと国際レベルで重要な時に。基本的には、スパイにまつわることでしょうか。

ですが、誰がこれを使うことになっても量子インターネットは暗号化についての最もメジャーなアップデートになるはずです。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 民間宇宙開発で高まる「飛行機とロケットの衝突」の危機...どうやって回避する?

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!