「中国も北朝鮮を律するのは不可能」
金正日政権と相対した元外交官が語った極東の深刻な事情

外国人特派員協会会見『日本外交の裏舞台』 #5/5

2017年9月5日、外国人特派員協会にて日本総合研究所 国際戦略研究所・理事長の田中均氏の会見が行われました。田中氏は2002年、小泉純一郎元首相が電撃訪朝を果たした際に、北朝鮮側と交渉にあたった影の立役者とされています。混迷する国際情勢に外交のプロが独自の見解を語りました。

(注:全編英語の会見を翻訳書き起こししています)

北朝鮮との交渉には包括的な対策が必要

記者8:客員のコーチです。会見をありがとうございました。小泉首相就任時期についての質問です。あなたは日本が北朝鮮との経済協力を約束したと言われました。

また、その時に小泉首相は5人の拉致被害者を北朝鮮から連れ帰られました。5人の拉致被害者が帰国してからどんな経済協力を日本は北朝鮮に申し出たのでしょうか。

田中均氏(以下、田中):北朝鮮側が金銭を要求しているのが明らかでしたので、何も援助してはおりません。金銭要求や経済協力には一切応じておりません。

しかし、将来的な経済協力への見通しは約束しました。私たちと北朝鮮との関係性が正常化し、国家がそれを承認した暁での経済協力です。北朝鮮側にすべてを説明したように、国家の承認が必要なのです。拉致被害者の問題をさて置いて、問題解決ができると思いますか?

北朝鮮との関係を正常化し、日本国会より経済協力への承認を得るためには、拉致問題と核兵器の問題、北朝鮮との合意文書にも記されている、ミサイル問題を解決しないといけないのです。

北朝鮮のような国はあなた方にとってはとても奇妙に映るでしょう。なぜ見返りも無いのに5人の拉致被害者をしぶしぶ返したのかと。私が述べたように、それはとても包括的な話なのです。私たちは将来的な、より大きな見通しの話をしているのです。

この核兵器問題についてもですが、ほんの小さな合意ではないのです。必要としているのは包括的な合意なのです。日本と北朝鮮との正常化には拉致問題解決も不可欠なのです。ですから私たちや小泉前首相もその話をしてきたのです。

包括的な解決は北朝鮮にとってのただひとつの道なのです。万が一、私たちが他の外交的解決策を模索したとしたなら、外交的解決策はものすごく広範囲に渡るものになるでしょう。

中国に信頼はおけるのか

記者9:フリーランスのフレッド・バーカーです。すでにお話いただきましたが、中国が6カ国協議を非難したということですが、中国に信頼はおけるのでしょうか。

田中:それは前進となるでしょう。過去における中国、未来における中国、現在における中国、中国という国は進化しています。AIIB(アジアインフラ投資銀行)を見てみろ、という人もいるでしょう。

中国は独自の国営銀行を設立しようとしたのですが、ヨーロッパの国々やオーストラリア、韓国が国際的になってきているのを見て、従来の中国の銀行の考え方というものを改めたのです。

中国が大国になればなるほど、国際的な立場も確固たるものとなってゆくでしょう。ですので、中国が将来的に北朝鮮に対してどのような決定を下すのかは、私たち同様、アメリカをも左右するでしょう。

私は中国を信頼しているとは言い切れません。アメリカが中国に言っていることを中国が行うとは思えないのです。そういったことから、私は少し時間が欲しい、率直に話がしたいと言っているのです。

私たちはそのつもりでも、中国は現在の体制を維持しようとは考えていないでしょうし、北朝鮮を律するのは不可能の産物なのです。お互いの信頼を築き上げたとしても、それはとても困難なのです。しかし、努力する価値はあるでしょう。そしていつの日にかは、中国が行くべき道を見付けてくれるのではないでしょうか。

北朝鮮の核保有について

記者10:この問いには答えにくいかと思いますが、レーダーで見つけられない核兵器をどれくらい北朝鮮は保有していると思われますか。原始的な攻撃であれば、察知できるでしょうが、察知できない兵器はどれくらいのものなのでしょうか。

田中:ご存知の通り、私は科学者ではありませんし、北朝鮮がどれくらいの核兵器を保有しているのか、弾道ミサイルがサンフランシスコまで届くのか、など、憶測でものを申し上げることのできる立場ではないのですが。

北朝鮮という国家はまだまだ知られていない所がたくさんあるのです。しかし、ひとつだけ私自身の中ではっきりしていることがあります。国が公に出している声明、ミサイルを発射させる、核弾頭を見せる、などの事柄を私たちは信じています。

しかし、北朝鮮はいつでも大風呂敷を広げますので、真実もあるでしょうが、そうでない場合もあるのです。ですので、私たちは根拠もなく北朝鮮の核兵器の発達に関する問題を鵜呑みにしてはならないのです。

しかしながら、もうあまり時間はないということは申し上げておきましょう。この問題を解決する時間は、たった1年、2年しか残された時間はありません。北朝鮮における核開発は進行中です。

だからこそ、解決策を、核計画が完成するまでに外交的解決策を見つけ出さないといけないのです。核計画が完成されてしまうと、中国を説得するために必要な核保有に関する合意は難しいでしょう。この1年、2年は日本にとっても、とても重要な年となるでしょう。

拉致問題は解決しているのでは

記者11:質問がたくさんあるのですが、ここに日本と北朝鮮の国家正常化について書かれた2002年の平壌宣言の記事があるのですが、拉致問題解決については何も述べられていません。拉致問題については、すでに解決しているかのように見えるのですが。何よりも、この宣言はあなたがされたのでしょうか。

田中:そうです。

記者11:この時点で、あなたはまだ解決策を模索中だったのですか? それとも今の首相である安倍首相に国家正常化問題を先延ばしにしないといけない別の思いがあったのでしょうか?

田中:今日の首相が国家正常化に向けての交渉を先延ばしにしようとしているわけではないと思います。確かに拉致については述べられてはいません。

しかし、その記事を良く読めば、日本と北朝鮮との関係に向けての解決策を違う方向から模索しているということがわかるでしょう。私は北朝鮮問題を取り上げるなら、拉致問題については触れてはいけないとされているのだと判断しています。

というのも、この問題は日本と北朝鮮にとって、一筋縄ではいかない問題だからです。北朝鮮側は問題解決を約束していますし、金正日総書記は拉致問題に関する謝罪を小泉前首相に宣言し、拉致被害者の帰国を実現しました。

また、不明者に関する調査を行っています。私たちは金正日の宣言により、事態が好転すると判断しているのです。首相が北朝鮮より帰国後すぐに拉致被害者5人の帰国を要求し、実現しましたし、拉致問題早期解決に向けての取り組みを行っているのです。

そういったことから、北朝鮮にさまざまなものと要求と共に代表団を送っているのです。さまざまな検証、と亡くなったと人々の証拠と共に。

しかし、全ての問題に取り組めているわけではありません。問題解決は今日明日にできるものではないと北朝鮮側も言っていますし、北朝鮮側が解決しているとしている問題もあるからです。私たち民主主義国家に生きるものは、都合の良いことをを信じようとします。私は北朝鮮政府の机上の理論は信じません。

日本の対ミサイル防御システムの正確さ

記者12:フリーランスのタカシマです。サウジアラビアにおける湾岸戦争のデータを取り上げたのですが、8ヶ月サウジアラビアに滞在しました。その時の現地のジャーナリストは空軍基地の真横にあるホテルに滞在していました。崩壊した空軍基地です。

私たちは300人ほどだったのですが、夜な夜な、夜中の1時頃にサイレンが鳴って、アメリカ軍が私たちに、「イラク軍がスカッド・ミサイルを私たちに向けて撃った」と言うんですね。

私たちはミサイルから身を守るために、ガスマスクを着けて地下へと避難したんです。毎夜アメリカ軍はミサイルは破壊されたと言うんです。夜中の2時頃です。

それから、私たちは自分たちの部屋に戻ったのです。しかし、10年経って、私が東京に戻った時ほとんどのパトリオット・ミサイルは使い物にならなかった、というニュース記事を目にしたのです。アメリカ軍はスカッド・ミサイルを破壊してはいなかったのです。今回、東京は安全だと言い切れるのですか?

田中:日本の対ミサイル防御システムの正確さをご存知ない方の質問ですね。政府が心配ない、と言う。ご存知ですね、私が心配ありませんと言います。

対弾道ミサイルの知識があるならば、ですが、すべてを撃ち落とすことはできないでしょう。それは確かです。どれくらい撃ち落とせるのかというのは、その時々の状況によるでしょう。

あなたよりミサイルに関する知識がない者としては、他に言えることはありません。ミサイルすべてを撃ち落とすことは出来ませんが、政府に関わった者として言えるのは、国民の命を守るために最善を尽くすということだけです。わたしはそれを声を大にして言いたいです。

司会者:時間が近付いて参りましたので、あと1つ質問を受けましょう。

極東は今までにないほど深刻な事態

記者13:最後の質問は今までの質問よりも簡単な質問になるでしょう。今までの外交における長い道のりを振り返って振り返っておられますが、現在の問題と今までの問題と比べてみて、深刻さはどれほどのものでしょうか。

私たちはこれまで、北アジアと南アジア間での戦争というものをこれほど身近に感じたことがあるでしょうか。

田中:今までにない程の深刻な事態だとおもっております。1994年にも深刻な事態に陥りましたが、当時私は総合外交政策に関する取りまとめ役で、朝鮮半島で勃発する可能性の戦争に対する備えをしていました。

悪夢のような準備でした。アメリカ軍に援助を要請し、最大数の軍用機を国内に配備してもらい、とてつもない非難が国内に来ることを予見しました。日本国民を朝鮮半島から避難させる計画も立てなければなりませんでした。

94年の時点で、それらをすべて成し遂げることは不可能でした。それは94年のことです。北朝鮮の核開発においても早い段階でのことです。

私たちは北朝鮮の核開発を止められなかったことを深く悔いてます。申し訳なく思っています。外務省で北朝鮮との交渉に当たってくれたさまざまな人にも申し訳なく思っております。現在、北朝鮮はさらに危険な兵器を装備しています。私はその核兵器をどのように利用するのかなど、全てを把握しているわけではありません。

しかし、北朝鮮が1994よりもさらに危険な存在になっているとは言えます。北朝鮮の変わった指導者、そしてアメリカのリーダーが掲げる軍事対立はより現実的なものとなるかもしれません。

日本とアメリカ、アメリカの私の同僚が北朝鮮を止められなかったことをとても後悔しています。申し訳ありません。しかし今からでも彼らの核開発がさらに進むのを止めなければならないのです。

できる限りの軍事行為をとめなければならないのです。実現不可能に思えるかもしれませんが、行動を起こさないといけないのです。原油輸出の禁止措置を含む厳しい制裁と、中国を巻き込んだ解決手段を模索しながら、今までに成し得なかったことをしなければいけないのです。

司会者:1994年の危機がカーター前大統領を派遣したことで回避されたことにお礼を申し上げます。同じ位の重要人物を送らないといけないですね。ありがとうございました。

今日、どれだけ意味のある情報が提供されたのかは計り知れません。振り返るには少し時間がかかるでしょう。ありがとうございました。ここに招待して下さったことへの私たちの感謝の気持ちを贈ります。

(会場拍手)

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