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2017年5月12日 講義「脳科学と世界の中の日本」(全4記事)

性格を変えることは可能なのか? 脳科学者・中野信子氏が学生からの質問に回答

上智大学で行われた脳科学者・中野信子氏の講義「脳科学と世界の中の日本」。質疑応答では、「人間が生きる意味とは?」「性格は変えられるのか?」といった学生からの質問に回答しました。

人間が生きる意味

中野信子氏(以下、中野):あと10分ちょっと、質問を受け付けたいと思います。どうでしょうか?

質問者1:人間の脳を脳科学系の、外科だと思うんですけど、機械的に考えているという印象を受けたんですけど、その率直な先生の印象として、人間が生きているということに、DNAを複製して後世に残すということ以上の意義はあるのですか?

中野:非常にいい質問だと思います。どうしても科学というのは、人間を物質で、というか再現可能性のあるようなかたちで捉えるという方法で記述するものであるので、極めて即物的な印象を受けられるかと思います。その時に多くの人は、とてもさみしい気持ちになるみたいなんですね。さみしいというか、「ちょっとその見方は冷たいんじゃないか」と思われるようなのです。

確かに科学にはそういう側面があります。ただ、中野信子という一個人として考えたときには、必ずしも科学的な側面からだけの見方をするわけではありません。物質がこういう成り立ちでこういうふうな動きをするからその帰結としてなにかしらがあるというふうには考えますけれども、人間個人として人生を生きていく時には、それだけではないでしょう。

その意識の部分というのは、ないがしろにすることはできません。人が生きていくためには、人生には意味があるということを仮にでも設定するのでなければなかなか、満足して生をまっとうというすることはできないんじゃないか、と考えています。

その「意味」をどう設定するのかは個人の裁量に任されるところで自由だと思いますし、こういうふうに設定すべきだという硬直した考え方を私は持ってはいませんけれども、人間が生きる意味を見出そうとする、ということに価値がないとは思いません。

質問者1:ありがとうございます。

共同体の中にいることにもリスクがある

質問者2:非常に高尚かつ深淵な質問のあとで愚問で申し訳ないんですけれども、昨日『美女と野獣』を観まして。

ベルのお父様が、ガストンに檻の中へ置いて行かれ、帰ってきた後に、「ガストンが自分を檻の中に置いてきた」と主張するんですが、ガストンが村人たちに「こいつが本当のことを言っていると思うか?」と言って、ベルの父親は最終的に精神病院施設に送り込んでしまうというシーンがあったんですが、それは今日の授業で出てきた村人たちの「裏切者検出モジュール」をガストンが利用したと捉えていいものなのでしょうか?

すいません、ちょっと見てないと思いますが……。

中野:そうですね。ちょっと、難しいご質問なんですけれど、一般的なお答えでよろしければ、例えば、その先の物語の展開にもよると思うんですが、排除の仕組みを利用して自分の身を守るという方法をとる人もいますね。

今の社会や共同体の中にいることそのものが妬みを高めてしまうというリスクがあるので、そういう戦略を取る人が増えてきているように思います。 

質問者2:ありがとうございます、すいません。

中野:次の方?

性格は変えることができるか?

質問者3:不安に感じるとかは脳みそが関係してて、遺伝子が関係してるという話だったんですけど、僕の考え方だと性格が変わっているとか、例えばさっきのパイプでボーンとなって性格変わっちゃったっていう話も、脳みそが性格だっていうことを言っているようなもんじゃないですか。

だったら、性格を変えるのが可能なのかどうか、もしくはそれが外的要因で変えられるのか、ものの考え方で性格が変えられるのか、どうなのかなと思って。もし方法があればなと。

中野:生まれつき頭の悪いマウス、つまり、記憶学習能力が低いマウスを作って、その頭が良くなるのかどうかを調べたという実験があります。

その特別なマウスを2グループに分けて、育て方を変えます。1つは普通のケージで育てる。もう1つのグループは広くて遊び場がいっぱいある環境で育てる。そうすると、迷路を学習する速度が変わるということがわかりました。

DNAを調べてみると、DNAの配列そのものには変化がないけれども、化学的な修飾の状態が変わっていて、それで機能の発現の仕方が変わった、そのことによって能力が変わったんだということが示唆されました。

人間にも同じような変化が起こる可能性があります。環境要因によってDNAの修飾というかたちで、形質にもしかしたら変化を生じるかもしれない。すべてが遺伝的な要因で決定されているというわけではなく環境が遺伝子を形成することもあるということです。

質問者3:本人の努力で性格を変えるのは難しい?

中野:性格のうちのどの形質なのかによると思います。変えることが比較的難しい形質と容易に変化させられる形質の違いは大きいと思います。

匿名性が高いほどサンクションが起こりやすい

質問者4:制裁のメリットとデメリットの話をしてくださったんですけど、メリットがデメリットより大きい場合に制裁が生じるとおっしゃっていたんですけど、もしデメリットがメリットよりも大きい場合、復讐の可能性が高かった場合、復讐の危険性が高かったりする場合は、いじめなどの制裁は行われないんですか?

中野:デメリットのほうが大きい場合ですね。例えば、復讐の危険性以外にも、発覚すれば学校の成績評価に直結するとか、刑事罰を受けるとか、前科がつくとか、左遷されるとか。いろんなことがあると思いますが、そういうデメリットが形に見えて大きい場合にはブレーキがかかると考えてよいでしょう。

逆に制裁行動のメリットが大きくなる場合というのが、匿名性が高い場合です。復讐の可能性が低くなりますので。匿名性が高い時に、サンクションが起こりやすい環境が整うわけです。

その人の素性が明らかになりやすいとき、トレーサビリティが高いときにはサンクションが起こりにくいでしょう。その人がなにをしたかが残ってしまいますから。そして、そのこと自体に対する制裁も、さらに想定されるわけです。

質問者4:ありがとうございます。

中野:ちょうど時間になったようですので、本日の講義はこれで終了にしたいと思います。

(会場拍手)

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