若い人たちは「どうしても自分がええかっこしたくなる」

山中哲男氏(以下、山中):やっぱりどうなのですか? 最近の若い人たちは、たまに、もしかしてその場にいることもあるかもしれませんが、遊んでいますかね?

岩崎究香氏(以下、岩崎):ぜんぜん遊んだはらへん。行儀が良すぎてね。やっぱり舞妓さんとか芸妓さんがお相手しはると、どうしても自分がええかっこしたくなる。

山中:そうですね(笑)。なっちゃいますよね。

岩崎:たぶん頭も真っ白になったはると思うのどすねん。「お1つどうぞ」とか言われはるでしょ? だからたぶんこのように思いますけど、ものすごいね、ええかっこしいばっかりが多くて。行儀が悪いと言うか、どういうふうに言ぅたらええのか、ものすごくありますけど。

行儀の悪い人はまた行儀の悪い人で、「次から来んでもよろしい」て。

山中:そうなっちゃいますよね。

岩崎:当然それは「違うやろ」みたいなね。

山中:なりますもんね。そこは難しいところですね。

岩崎:そうそう。だからちょっとずつちょっとずつ慣れてもらわんとあかんのですけど。

お座敷で遊ぶ醍醐味は、団体でご贔屓すること

お座敷で遊んでもらう醍醐味というのは、やっぱり1人だけの芸妓さんや1人だけの舞妓さんをご贔屓にするのは違うんですね。やっぱり団体でご贔屓にしてもらうんですね。

例えばここ東京どっしゃんか。東京のお客さんがつるんで、10人で祇園町に来てもらいまっせていうときにね、それは1回だけじゃないでしょ? という話どす。それやとご贔屓にできひん。それで、口だけの人がやはるんです。

山中:「行くよ」と言って? ずるい人が(笑)。

岩崎:もうね、叩いたろかと思いますけど。

山中:ははは(笑)。

岩崎:こっちはやっぱり予定してまっしゃろ? まぁせんでもリップサービス、一応ね。そやけど、普通は毎週でも来はる。山中さんもやけどそこに愛相がある、みたいな。「なにしたはりますのん?」「今月まだ」「嘘?」みたいな。

山中:なるのですね。

岩崎:だから、ご贔屓にするというのは、やっぱり初めはお座敷に慣れやらへんでも、徐々に徐々に慣れていってくれはったらよろしおす。

今日なんかはこんなして(参加者の方々が)来てくれたはるので、これがお座敷なんです、言わしてもろたらね。言うたら、どこかの料亭のお座敷とか、そういうとこをお座敷と言うのではなくて、こういうところもお座敷なんです、うちらにしたらね。

ただ日本の伝統文化と言うたら、ちょっとご紹介しにくいですよね、ここはもちろん雅叙園さんですから。だから衣装とかちょっとね、今日はここで。

山中:展示してもらってね。

岩崎:そうです、そうです。

「昇る人」は一芸をたしなむ

山中:僕が聞いて思ったのが、昇る人たちの遊び心があるじゃないですか。せっかくここに来たら遊ぶんだということがあると思いますが、やっぱりそこに一芸とかいるのでしょうか? なんか、自分が楽しむより、周りを楽しませる人がけっこう多いのではないかと。

岩崎:やはりまっせ。

山中:聞いたことがあるなと思いまして。

岩崎:それはお客さんでも、例えば邦楽のお稽古をされてないお客さんは自分ができるものをしはるんです。

山中:どんなのありました? なんか、覚えてるので。

岩崎:だからあれです、ほうきを持って。「おたけは~ん」言うて(笑)。そういうのを男の人がしゃはる。女の人じゃないんですよ。

山中:女の人はしないのですか?

岩崎:女の人は恥ずかしいにゃろね。女の人はあまりおへんな、それは。これからは女性活躍社会ですから。

祇園は夫婦や家族連れも多い?

山中:初めて聞いたのですが、祇園は本当に夫婦とか、家族連れとか。そうした人たちが普通に来ると究香さんから聞いていた、僕はそうしたイメージがなかったのです。本当に夫婦で来られる場合も多いのですか?

岩崎:そうどすね。私らが舞妓さんに出たときというのは、おじいさんやおばあさんが自分の孫を紹介してくれはって、そのお孫さんが例えば京都の大学に行くから、ほなそこのお茶屋さんの『お燗番』させてやって」って。

「お燗番」は、アルバイトです。アルバイト料をもらいもって、「ちょっとおたく、早う出世おしやっしゃ」みたいなことを年下の舞妓さんに言われてお酒をもらいもって、ちょっとしゃべりもって……というのがあった。お知り合いになるのがきっかけですよね。今はおへんようになってしまいましたけど。

山中:ないのですね。

岩崎:だって、電子レンジでチンといいまっしゃやろ? 前みたいにねぇ、お酒をチロリに入れて、長火鉢で向かい会ぅてて、そんな温めるということはおへんやろ?

山中:そうですね。

ナンバーワン舞妓になれた理由

山中:ちょっと次は、究香さん自身についてお聞きしたいなぁと。

岩崎:なんでしょうか?

山中:究香さんは15歳で舞妓デビューしてから6年間、ナンバーワンになられました。これも多かった質問なのですが「究香さんはなぜ自分がナンバーワンになれたのだとお思いですか?」というものがありまして。

自分の中でなぜナンバーワンになれたのだろうというのはありますか。

岩崎:私、自分でね、営業してたらしいんです。

山中:営業? そうしたものもあるのですね。

岩崎:たぶん人が言わはるには営業。お稽古へ行きますやろ? お稽古が済んで帰りしな……祇園甲部の歌舞練場があって、学校があるんですね。そこでお稽古しますやろ? 

お稽古終わったら自分の家へ帰りますねんけど、ちょうど家が新橋いうとこどす。ほんなら四条の一力(一力茶屋)さんを越えなあきません。3つほど信号を通る、でも、ただ帰るのはもったいないわねぇ。

山中:そうですね。

岩崎:そのへんにお茶屋さんがありますやんか。

「おはようさんどす、お母さん。究香どす」て言ぅて。「今日知らしてほしい」というのを。知らしてほしいというのは、お花、お座敷を……。

山中:「あったら声かけてね」みたいな?

岩崎:そうそう。「お客さんいはりますか?」みたいな。

舞妓になった最初の1年はずっと声をかけ続けた

山中:そういうの、その頃は他の方もされてたのですか?

岩崎:したはらへんね。その頃は。前にはあったんかもしれへんけど、私のときはもう私1人になってました。「お母さ~ん」ばっかりでっしゃん。

それをして、家に帰る。例えばそこのお母さんが「ほんまに究香さん空いたはんのどすか?」て、電話がかかってくる。「お~きに。15分だけ空いてますぅ」て、そこへ15分行きます。そうするとまたお花が踊りまっしゃろ。

山中:それを繰り返していくと、毎日毎日。

岩崎:そうです、そうです。

山中:ずっと続けていたのですか?

岩崎:1年だけ。あとはもう忙しいて、ちょっと。

山中:そうですよね、最初の1年だけ声をかけていって。

岩崎:ちょっとだけでもね、やっぱりごあいさつだけでも行くと、違いますね。

山中:それをずっとスタートのときにやり続けたことが、ナンバーワンになるきっかけになったと。

岩崎:勝手になりましたよ。

山中:勝手に。

恥ずかしがらずにできることはなんでもやる

山中:これ、目指してなるのか、勝手になるのかというのがあるじゃないですか。それは別に、ナンバーワンになろうと目指したわけではないのですか?

岩崎:目指してへんけれど、そういうふうにして行ってたら一番になっていたということ。私の場合。

山中:なんか究香さんは、前にちらっとお話したときに「私、昔からなんでもやるねん」という話をされていましたよね。それもつながってくるなと思うのですよ。

岩崎:小話どすか?

山中:小話も。もうね。大掃除からなにから全部ね。そして一番になった。ふだんからなんでもやるという話をしていたから……。

岩崎:そうそう。舞ばっかりやとお客さんはそうそうね、見たいこと……ここにいはらへんやろな、舞妓さんやら芸妓さんやら。いはらへんね?

関係者:いてはりますよ。

岩崎:あっ、いはった? 聞こえへんように言いますけどね(笑)。

山中:聞こえていますよ(笑)。

岩崎:そればっかりじゃなくて、大きい宴会のとき、舞は必ずお客さんご所望になります。そやけど、あとの宴会はね、ご贔屓のお客さんばっかりやから舞は別に見たいことないんですよ。そうすると、しゃべってばっかりにもいかしまへん。

ほんで、ちょっと「小話その1」言うて、出囃子を……野崎といってね、義太夫さんがジャーンジャーンいうて自分でおざぶを持ってね、ここに敷いて。そして「小話その1」言うてやってたん。それもウケましたけど。

そうそう私、扁桃腺で手術したときに、声が出んようになったんです。その時はメモにいっぱいこう書いて、お客さんがこう質問しはりますやろ? お客さんにこうやってメモを見せて。これも10日ほど面白おしたえ。

山中:だから結局はお客さんのために。常に自分がなんでもやって楽しんでもらうために、全力でいたということはあるのですよね。

岩崎:そうそう、なにが楽しいのかね。ほんまにそういうことを考えてることが楽しい。

山中:「どうしようかな?」と。

岩崎:そうそう。どういうふうにしようかと。

山中:そういうことを常に考えながら、できることを毎日やり続けた結果、ナンバーワンに。

岩崎:実践しないと。考えるのはね、みんな考えはるんですけど、実践するのがやっぱりちょっと、思春期なんかだと恥ずかしい。

山中:そうですよね、そういう時期ですよね。

岩崎:15〜16歳というのはね、恥ずかしい。