「働き方改革」への誤解をなくすために

西村創一朗氏(以下、西村):では、簡単な自己紹介からお願いいたします。

白河桃子氏(以下、白河):おはようございます。白河桃子です。東京都も「時差Biz」をやっているということで、それに絡めて今日はこんな朝早くにみなさんに来ていただいて、本当にありがとうございます。

少子化ジャーナリスト、働き方改革実現会議民間議員をやらせていただいています。よろしくお願いします。

去年からずっと取り組んでいた残業上限がやっと国で入ることになり、今、働き方改革という波が来ています。けれども、どうもいろいろ誤解されているようだなということで、本を書かせていただきました。

実は、電通の女性の過労自死事件から、西村さんが大変憤り「署名活動をやろう」ということになりました。西村さんには本当に協力していただきました。

私たち、その前からずっと(国会の)会議に提言をする「長時間労働撲滅プロジェクト」として動いていまして。この本の中にはそのロビイングの話なども、今言える範囲のところで、ちょこちょこと書いてあります。

10分ぐらいかな、お話しさせていただければと思います。このような本をいろいろ書いておりまして、女性の婚活・妊活・仕事ということを全部やってるんですけれども。

「やっぱり、働き方改革、つまり長時間労働をなくさなければ女性の活躍なんてありえないよね」という意識で、いろんな会社でものすごい数の講演をしています。

質の悪い時間をただ重ねるのは意味がない

白河:「働き方改革って、残業削減でしょ?」とか言われがちなんですが、私は次のような本質的なところが重要だと思っています。

1つは従来の人口ボーナス期の働き方を改めるということです。均質な人が長時間働くことが正しかった時から、多様な人が多様な場所・時間で働く。これが新しい勝ち方になってきた。

なぜならば、ダイバーシティにはこれから勝つために欠かせないイノベーションが満載だからです。それから人手不足もありますよね。そうなってくると女性ももちろん働きますよね。ワンオペ育児じゃ困るじゃないかということで、当然、旦那さんも巻き込んだチーム育児になる。

そうすると、今度は男の人はどうなのか。今までは一家の大黒柱で、休むこともできず、辛くてもずっと定年まで働き続ける。しかし今はワンオペ稼ぎからチーム稼ぎになる。さらに働く男子はどう変わるのか。一律の働き方から、今度は多様な働き方へ。

そして時間に関してはもう確実に、量から質になってくる。これはNHKの人などに取材された時に、一生懸命説明してもなかなかわかってもらえなかったことなんです。

やっぱり「長時間重ねることで質の良いコンテンツができる」と揺るぎなく思っている。確かにそうなんですけれども、じゃあ時間の質はどうなのかというのが私は問題だと思っていて。

質の悪い長時間、例えば、ぜんぜん寝てないで、みんな頭が酔っぱらい運転状態、ボケた状態で、決定を下している会議。それから彼が長時間働いている間、ひょっとしたら家では奥さんがワンオペ育児で苦しんでいるかもしれない。

質の良い時間を重ねることは意味があるけれども、そういう質の悪い時間の量をただ重ねるというのは、これからは意味がないと思います。

問題は「個人の生産性を向上させましょう」だけではない

それから働き方に関しては、「本当の残業上限規制、働く時間を決められるんですか?」ということなんですが、そうではなくて。

まずは、この変化を起こした後に、みんなが他律的な働き方から自律的な働き方になる。

端的に言えば、「自分は何時間働いて、このぐらいの量を働いて、このぐらいのお金をもらう」「自分はこういうような社会的な変化を起こして、そしてこのぐらいのお金をもらえばだいたい暮らしていけるかな」と、個人が選ぶ時代になると思っています。

今、働き方改革でこのような会議があって、電通の事件から社会課題化されてきました。そして決まったのが、最高でも年間720時間、月平均60時間以上残業してはいけない。これは、1時間でも1人でも超えたら罰則という非常に厳しいもの。

やっぱり経営資源が失われるということなので、経営者が非常に困るんですね。今回は大臣告示ではなくて、法的強制力のある罰則というところが一番大きい。

電通の社長がこの前、NHKで「社員の労働時間が有限だと思っていなかった」と語っていましたが、まさにその視点を改めなければいけない。人の時間は有限なんですよね。ということで、私はこれは経営者が経営を改める、ビジネスモデルの変革だと思っています。

古い時代に正しかったビジネスモデルが、今は正しくなくなってしまう。いい例ではヤマト運輸ですね。Amazonというイノベーションは日本では成功したけれども、結局のところそれは、ヤマト運輸の人たちのサービス残業、違法残業ですね。

違法残業や、自分の身体を犠牲にしたような長時間労働でそのイノベーションが回っていた。これはもう改めなければいけないというところです。

「個人の生産性を向上させましょう」という、そんなことだけの問題ではない、もっともっと大きな潮流として捉えていただきたいと思っています。

「じゃあ誰がやるの?」

白河:資生堂、それから電通、ヤマト運輸。働き方を問うようなこの3つの動きが起きました。経営界はどう捉えているかというと、なんと「720時間の上限じゃ困るよ」と言っている会社が4割もあるんですね。そして7割の企業が、なんらかの変革をしなければいけないとしっかり思っている。

じゃあ誰がやるのか? 今のまま、ただ「早く帰れ」だけやっていると、さまざまな悪いことが起きるんですね。

サービス残業、持ち帰り残業、管理職のオーバーワーク。そして最後に、もし働き方改革が成功したとしても、「生産性が高くて短時間で結果を出した私にはなぜ残業代がなくて、お給料が悪いの?」ということになってくる。

当然、評価や報酬の設計にまで及ばなければいけないのが働き方改革です。やっぱりそこに手をつけないのは、本当の働き方改革ではないと思っています。

じゃあ誰が担うのか? これは本当に重要なところです。ちょうどこの間「クローズアップ現代」があったので、電通ができていること、できていないこと、いろいろ考えてみました。

まず経営者はメッセージをしっかり発しなければいけないんですね。そして、そのビジネスモデルを改めることを決断しなければいけない。まずは経営者の覚悟が問われる。

個人の生産性向上のお手本はワーママ

しかし、経営者が覚悟していないという企業もあるんですね。

本気度を確かめるには、評価と報酬の設計に手を突っ込んでいるか、それからしっかり取引先を巻き込んでいるか。電通と同じような、マッチョ・長時間労働という体質の企業が働き方改革をして成功した例を見ると、みんな取引先を巻き込んでいます。

経営者が手紙を書いたり、契約したりする時点で「うちではこういう取り組みをしているのでぜひ協力をしてください」といったような巻き込みが必要です。

じゃあ個人はやることがないかというと、個人もけっこうやることがある。実は、個人の生産性向上の一番のお手本は、ワーキングマザーなんですね。彼女たちは強制終了の時間が決まっているので、しっかり個人で効率化に取り組んでいる。

しかし、効率化と生産性の向上はまた別なんですね。そこのところまで行くには、もちろん上司は要ですね。働き方改革の要です。そしてITを入れるなどの投資も必要になるということです。

これをまとめてみると、トップからボトムまで全体で取り組んでいかなければいけない。そして「制度を入れました」だけで終わっちゃいけないんですね。