「カラダで覚える」は時代遅れ?
農業を"数値化"してみてわかった、成功と失敗のメカニズム

集合知の農業へ #1/2

農家や職人の世界で成長するには、今もなお、見て、感じて学ぶ「暗黙知」が鍵となっていることが多くあります。ゼロから農業を始めた萩原氏が、農作業を暗黙知から形式知、そして集合知へと変えていった方法について語りました。(TEDxSaku 2014より)

失敗と成功の原因がわからなかった、農業開始3年目

萩原紀行氏:トップバッターで緊張してこけてしまうとまずいんで、ここはもう僕のフィールドの畑だと、みなさんは畑に植わってる野菜だと思ってトークさせていただきます。

今日は「集合知の農業へ」っていう話をさせていただきます。僕はここ佐久地域の生まれでも育ちでもないんですよね。農家の生まれでもないです。よそから移住してきたんですけども、16年前の26歳の時に佐久穂町で農業を始めました。

当時はもう、全然わけもわからず有機栽培をやってみたんですけども、まあ失敗なんですね。最初の6年間、僕の稼ぎを時給に換算したら350円だったんです。

夫婦二人でやっと700円みたいな感じなんです。僕、今、子ども3人いるんですけども、この350円時代に子ども2人生まれていて、今になり、どうやって当時は生活してきたんだろうっていうのがわからないんです。

そんなこんなで失敗だらけでした。僕が成長できない最大の原因っていうのが、失敗しても成功しても、原因は何が何だか全然わからないんです。ほうれん草蒔いたりして良くできたりするんですよ。なんで良くできてるのかわからないと。失敗してもまたわからないんですね。

僕が農業を始めて3年目ぐらいの時だったんですけども、土の分析っていうのと出会いました。自分がやっている土作りが数値化されてしまうんで、結構無慈悲な世界なんですけども、自分のやっている行為が一回外部化されるっていうことで、冷静になることができたんですね。

自然のメカニズムを理解する

僕、ちょっと難しい顔してますけども、試験管をパソコンに読み取らせる作業をしています。そんなことをやってきたらだんだん有機栽培の全体像が見えてきて、薬剤を使わないんで、ちょっとしたバランスの崩れでも害虫とか病気の格好の的になっちゃうんですね。

ですからストライクゾーンが結構狭い感じがあるんです。ただこのストライクゾーンにハマるとすごく美味しくて安全なものができる。そういう感じかなっていうのが見えてきました。

それには結局、自然のメカニズムをちゃんと理解しないとダメだっていうことなんですね。トマトです。今日に合わせてバッチリ(苗を)作ってきました。このトマトからいろんなことを教えてもらったんですけども、生育診断っていって、日々の変化を読み取っていくんです。

例えばマグネシウム・ミネラルは、僕はこの下のほうの葉のツヤと色で診断していくんですね。よく家庭菜園でトマトを作ってらっしゃる方で、採り始めて3週間ぐらいして下のほうから黄色く枯れ上がっちゃうことがあると思うんですけど、あれ、たいていマグネシウム欠乏なんですよ。

作物の健康と人間の健康は結構密接なものがありまして、人間の場合はマグネシウムが欠乏すると鬱病との関連が指摘されています。マンガンというミネラルがあるんですけども、僕はこの辺りの(上部の)葉の色具合で診断していくんです。これがなくなってくると人間の場合は、子どもを愛せなくなっちゃうんですね。愛情のミネラルって言われています。

ナモグリバエっていう虫がいるんですよ。葉っぱを迷路のようにグリグリ食べていっちゃうんですけども、銅というミネラルがなくなってくると葉の表層を固める力がなくなっちゃうんですね。

だいたい、ナモグリバエは銅欠乏で出てくるんですけども、人間の場合は欠乏してしまうと頭の血管がプチッと切れやすくなるっていう。亜鉛っていうミネラルあります。ミニトマトなんか特に重要なんですけれども、ここにちっちゃなかわいい蕾が付いていて、この果房の股を作っていきます。

股がたくさんあるということは花がいっぱい咲きます。花がたくさん咲くということは実がたくさん付きます。実がたくさん付くということは、種がたくさんできます。それはイコール子孫がたくさんできる。

人間の場合は欠乏すると男性の精子の数が減少してしまいます。トマトだけでももっといっぱいあるんですよ、たくさん。僕、年間で今60種類くらい作ってますんで、勉強しなきゃいけないことが山ほどあって、これが本当におもしろいんです。

日々のちょっとした変化から感じ取る、作物の健康状態

そして時は7月なんですけども、7月っていうのは夏に向かって畑が日々、劇的に変化していく月なんです。朝、畑に行きますね。そうすると作物がいろんな信号を送ってくるんです。

ズッキーニの葉を見るとだいたいお腹減ってるのがわかるんですね。ズッキーニが「お腹減ったよー!」、いんげんが「ちょっと喉乾いてんだけど!」、トマトが「ちょっとマンガンが足りないんだけどな!」、他の作物が「あと2日後にマグネシウムなくなってくるよ大丈夫なの?」ってくるとですね、もうやいのやいの言うなー! みたいな感じ。

ものすごい忙しいレストランで働いてるウェイターみたいな感じなんですけども、本当に7月は忙しい日々なんです。でもこれだけじゃ全然うまくいかないです。

土がフカフカしてないときちんとミネラルがあっても吸収できないんですね。初めて借りた土地でカッチカチ、コンクリートみたいに硬い土とかあるんですけども、これを僕は酵母菌の力を使って柔らかくしていきました。

酵母っていうのは、パン発酵する時にふわって膨らみますよね。ビールもシュワってなります。発泡する力があるんですね。これで土を柔らかくしていくと。

僕は庭の桑の実から酵母を採取して、これを拡大培養して畑に入れていきます。3年ぐらいかかったんですけども、ちょっと下のほうに固い硬盤層っていうのがあった土で、今これ僕2メートルくらいの棒を持っているんですけども、これがズブズブズブズブと入るようになってきて、土がすごく柔らかくなってきました。

これだけでもうまくいかないんです。これ、トマトの葉っぱなんですけど真ん中に黒いシミがあるんですけども、これはカビの病気なんですね。これが一時蔓延してコテンパンにされちゃったんです。

アブラムシと戦うため、作物と同じ目線になったことでわかった対策

話は変わるんですけど、これ麹なんです。自家用のお味噌を作る時に麹を自分で仕込んだんですけども、ある時失敗しちゃったんです。発酵熱をちょっと高温にさせすぎたんです。

どうなったかっていうと空気中の納豆菌が入ってきちゃって、麹から納豆の臭いがしてくるんですね。ちょっとねばっとしちゃうんです。あれ、これ使えるじゃんと。麹菌ってカビなんですよ。

高温下ではカビの力に対して納豆菌のほうが勝るんですね。麹造りの失敗で気付きました。高温だとカビは納豆菌に負けてしまう。納豆菌というのはバチルスという仲間です。

早速スーパーに行って、僕は納豆のパックを買ってきてこれを拡大培養してトマトにかけてあげました。殺菌剤ほどは効かないんですけども、この葉カビの病気が激減したんですね。これでもうまくいかないんです。

これではまだダメなんですよ。アブラムシが来るんですね。作物がこう植わってますね。アブラムシさんは何しにうちにいらっしゃるのかと、全然わかんないんですけども、作物がこうあって、こうやって(立って)見てても全然わかんないんですよ。

僕はいつもこういう(しゃがみこんだ)姿勢で見るんですよね。これでもわかんないんである日寝たんですよ。寝たら、葉を透過してくる光が結構あることに気付いたんです。

これどういうことかっていうと、僕のトマト作りは葉っぱが薄かったんですね。アブラムシって体がタンパク質でできてるんです。作物も細胞はタンパク質でできてる。これを食べに来るんです。

ただ、この細胞を守っている繊維質があるんですけれども、このガードの繊維質を強くすればおそらくアブラムシは来れないだろうということで、今この手に持ってるのは、竹を砕いてチップにしたものを畑に生養していきました。

かなり厳密な計算をしてみたんですけれども、これでこの繊維の材料になっていくんですね。で、アブラムシはやっぱり激減したんです。そんなこんなやって、もう十何年前ってトマトを無農薬でやるっていうのはちょっと無理じゃないのって言われてた時代だったんですけれども、今これ。

70種の作物を作る

トマト普通は一段に3個か4個付けてくんですけど、これ16〜17個付いて、味も収量も格段に上がって病気と害虫もガンと落ちたと。ミニトマトなんですけれども、これ今は房の長さ1メートルを超すようになってきました。

これも味も収量も格段に上がってきました。今、僕がどういうことをしてるかっていうと、4ヘクタールの面積で年間約60種類ぐらい作物作ってます。

今年、ちょっとハーブに手を出したんで70種類ぐらいになっちゃうと思うんですけども、たくさん種類があるんで一枚の畑がパッチワークみたいになったりします。

こういうのをボックスのセットにしてお客さんにお届けしたりしてるんです。

一方でドカンと作って、これ、玉ねぎを去年12トンぐらい作ったんですけども、こういうのを作って自然食の流通さんに卸したりしています。

僕が一番変わってきたのが、スタッフの人たちと一緒に仕事をするようになったということです。

農業における一人の観察眼と脳みその限界

ちょっと出荷がうまくいって昼間から乾杯しちゃったんです。とにかくもう、僕一人の限界に差し掛かってたんですね。農業は一年に何度も作れないんです。一年に一回しか作らないものもあります。僕、16年やっていて、16回作ったものもあれば、作ってないものもあるんですね。

経験がなかなか積みにくい産業なんです。それから一人の観察眼と一人の脳だとやっぱり現実の気付きとスピードが、もう追いつかなくなってきちゃうんですね。それで複数の脳で考える必要性が、うちの場合は出てきちゃったんです。

それにはやっぱり伝えていかなきゃいけないんで、共通言語を育てなきゃいけないんです。それには元素記号が一番手っ取り早かったんですね。高校の時の化学の偏差値が45だった僕が、何を言うという感じなんですけども。

例えば、畑でお酢を使ったりするんですけど、お酢を「お酢」って書いちゃうと全然もうわかんないんですよ。これを「C2H4O2」って書くと見えてくるものがいっぱいあるんです。

6月7月の日照不足の時。さっき話したあの細胞を守る繊維が、光合成できないんでこの力が弱まってくるんですね。そうすると繊維の構成元素ってCとHとかなんですよ。つまりお酢をこの材料にしちゃって、日照不足なんだけどもあたかも太陽がさんさんと当たったのと同じような擬似光合成をお酢によって再現するということが、この元素記号で書くと見えてきちゃうんですよね。

数字を通して暗黙知から形式知へ

僕は農業を始めたばっかりの時に、近所のおばあちゃんに「おばあちゃん、あの野沢菜ってどうやって作るんですかね?」って聞いたら、おばあちゃんが親切に教えてくれて、「肥料をな、こうやって撒くんだよ」って教えてくれたんです。

僕もこう真似るんですけどわかんないんですよ。僕が仮にスタッフに「こうやって撒くんだよ」って言っても多分通じないんですね。おばあちゃんは天才なんです。僕なんかより。身に染み付いた技術があるんです。

これを、お百姓さんは身に染み付いた技術を「暗黙知」と言うそうなんですけど、これを人に伝えるには一回形式知の形にしないとダメだったんですね。それには、一回数値に落としこんでみるっていうのが便利だったんです。

例えば土の水分って、ある程度勘でもわかるんです。トマトで言いますと、トマトの葉っぱってこう手みたいにギザギザしてるんですけども、この時期ですと朝4時半〜5時ぐらいに畑に行くと、このギザギザの5本指の先端にポチッと水滴が全部付いていたら結構水分が多いんですね。全然なかったらちょっと渇いてるんです。

真ん中の3本指くらいに水滴が付いてるとちょうど良いかなみたいな。これでも良いんですけども、やっぱり実際に水分計を土に挿して、これとちゃんと対比して見ると。形式知の形に直す。これが重要なことになりました。

メカニズムと視点の共有で農業を集合知化する

こうやって作ってきた形式知を今度、みんなの脳を繋げる集合知に変えていくと。僕、今、4ヘクタール60種類作ってると毎日全部の作物観察することできないです。

ですからみんなスタッフがちゃんと観察眼を持ってどういうメカニズムでこの現象が起きているのかと、「2日後におそらく萩原さん、マンガンが欠乏してきますよ」とか、そういうのを読み取ってもらう。だから、メカニズムをちゃんと教えていって理解してもらわなきゃいけないですね。

みんなの観察眼と脳が繋がってくると、今度は他の農業者との脳も繋がってくると。例えば「僕には土壌分析のデータがあって、品種はこれでこの時期にこういう栽培をしたら、こういう病気ができちゃったんだけどどう思う?」っていうのが、他の農業者間でこの話し合いができるんですね。

そうすると年に一回しかできなかった経験を複数の経験にすることができる。なにも全部、数値に落としこむだけが能じゃないんですね。

これ、この間初めて採ってみた堆肥なんですけども、スタッフの人と一緒に臭い嗅いでるんです。臭いと触ってみたりとか、水に溶かしてみたりとか、五感をフルに使います。「これアンモニア臭若干するかな?」みたいなことで臭い嗅ぎます。

これだけじゃダメで、堆肥の成分分析表があって原材料表があって、この臭いがしてる。ということで僕、ホワイトボードをバーっと持ってきて、堆肥にズボッと挿して、「ここに分解曲線と元素記号を書いて。今これがどういう熟度にあるのか」っていうのを、みんなに説明していきます。

そうするとみんなは「うーん、なるほどなるほど。ってことはさ、この堆肥使えるのって多分ナスとピーマン、ネギ、トウモロコシがいけるけど、キャベツちょっとやばいよね。カボチャはまあまあいいんじゃないかな」っていう話をしていくんですね。

みんなも一緒に考えていき、メカニズムの共有をしていく。ただ究極は勘だと思ってるんです。ただし根拠のある勘。これが鍵になってくると思います。今までの話は、農業界の集合知の話だったんですけども、こういうことが他の世界ともできると思ってるんです。

農業×○○の可能性

僕が手に持っているのはこれ長芋なんですけども、このところ毎年2トンぐらい作ってます。いろいろ栽培の工夫をして、ほとんど痒くならない長芋を作れるようになったんですね。

僕の父親って、長芋アレルギーで食べれなかったんですけど、うちの長芋は食べれるんですね。これでちょっと気付いたんですけど、この痒い痒い成分ってシュウ酸カルシウムって成分なんです。

もしかしたら長芋アレルギーっていう人は、長芋そのものがダメなんじゃなくて、このシュウ酸カルシウムだけに反応している可能性もあるんじゃないかと。そうすると、医療の現場の人とやりとりしたら、結構クリアできる問題が出てくるんじゃないかなと思ったんですね。そこで登場してもらうのがお医者さんなんですけども。

(会場笑)

お医者さんに見えないですよね!? 左近町の診療所のお医者さんなんですけど、僕、具合悪いといつもこのお医者さんところで診てもらうんです。薬も処方していただくんですけども、「萩原さんね、この症状だったら萩原さんところの玉ねぎとにんにくで、こういうスープを作って、一日3回飲んで」とか言ってくれるんですよ。

「先生、こういう処方箋あったら良いよね」って話で、具合悪くて行ってるんですけど、診察所盛り上がっちゃうんですよね。「そうだねー!」みたいな感じで。

例えば「あなたの血液はドロドロだから、何々農園さんの玉ねぎ食べなさい」といった処方箋が出たらちょっと良いんじゃないかな、みたいなことを話したんです。

こんな格好してるんですけど、この先生、本当は真面目なんです。真面目に患者さんのことを考えてくれてるんで、どうか誤解しないでいただきたいんです。

この先生のすぐ隣に街の農産物直売所があるんですけども、仮にそういうところで発行された処方箋が、ちゃんと理論に基づいて栽培された野菜のコーナーと一緒にあったら、ここって処方箋薬局になれる可能性があるんですよね。

ここからは僕の妄想なんですけども、薬には国民健康保険が適用されるじゃないですか。だったら滋味あふれる農産物に国民健康保険が適用されたって良いじゃないかと思うんですね。

僕がこんなこと言うと「また萩原何か言ってるよ」って言われるんですけど、僕も国保は無理かなと思いますよ。国保がダメならせめて「佐久保」だー! っていう。保(穂)がちょっと違うんですけども、例えば佐久穂町版の医療保険とかね。

「こういうことをしろ」っていうことではなくて、農業が、ただ作物を作るだけっていうところから、一歩踏み出して他のところと組んでいったら、やれることっていっぱいあるんじゃないかなと思うんですね。僕は毎日、畑でこの姿勢(しゃがみこんだ)で向かい合ってこんなことを考えております。今日はどうもありがとうございました。

<続きは近日公開>

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1 「カラダで覚える」は時代遅れ? 農業を"数値化"してみてわかった、成功と失敗のメカニズム
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