社員一人ひとりが「採用担当者」である認識を持つ

麻野耕司氏(以下、麻野):フロムスクラッチはスタートアップはどう人を採るのか? どう束ねるかがポイントになると思うのですが、そのために工夫している施策を1つ、具体的に紹介いただきたいと思います。

安部泰洋(以下、安部):いろんな施策を我々もやらせていただいていて、トライアンドエラーでやってきました。

残っている施策で、我々としては非常に成果があった施策が、ここに書かせていただいてる「CREW」です。Commitment of Recruiting Elites to be World‐classで、無理矢理にCREWという略語にしています。

簡単に言うと、社員リクルーティング資格制度です。自分の会社の新たな仲間を連れて来れる人間って、会社としては非常に評価に値します。そのため、こういう制度を数年前から導入をしています。

背景としては、釈迦に説法な部分はあるかと思いますが、市場の流れから話をすると労働市場が非常に流動化してきています。

そのため、BizReachさんであったり、Wantedlyさんに代表されるようなプラットフォームサービスを通じて、ダイレクトリクルーティング、リファラルリクルーティングを実施していました。通常のエージェントを通じた採用ではなく、優秀な人間がなかなか労働市場に出てこない中で積極的に自分たちから採用しにいかなければならない状況になっています。

もちろん、それは自社の社員も、他社によるダイレクトリクルーティングやリファラルリクルーティングのターゲットになることを意味します。ならば、一人ひとりが「採用担当者」である認識を持たせて、そこに資格として、報酬も一部加味し、オーナーシップの発揮であったり、自分自身がなぜこの会社に入ったのかを常に外部に対して語れる状況を増やすことで組織へのロイヤリティを高めようとしています。それが、このCREWという制度になります。

新制度によって、新卒と在籍5年目の社員の立場が入れ替わることも

麻野:ちょっと具体的に教えてもらっていいですか? 

安部:CREWには呼称があって、EntryとBachelorとMasterとDoctorという4つのクラスに分かれてます。それぞれ一応基準が細かいですが、簡単に書かせていただいています。

Entryは、ちゃんと自分たちの会社がなにを目指しているのか? なぜこの事業やっているのかも含めて、会社の歴史から、そこにおけるポリシーを語れるかどうか。その基準値を満たしていたらEntryの資格が付与されます。いわゆる社内テストのようなものを行い、それに合格すると5,000円のインセンティブが発生します。

Bachelorは、それをちゃんと体現することができる人です。体現とは具体的に、メンバークラスの採用が自身でちゃんとできる基準に達した人間に、月1万円のインセンティブ。Masterはマネジャークラスの採用、Doctorは幹部クラスの採用ができることを条件に、資格とインセンティブを付与します。

実際の運用スキームとしては、半年に1回、会社の理解度テストや、プレゼン、貢献実績を鑑みてこの資格を付与していきます。

ポイントは、新卒入社1年目も5年間会社にいる役員も一切関係なく平場の勝負でやっています。なので、変な話、5年間いる役員やマネジャーがまだBachelorにもかかわらず、新卒3年目の人間がMasterである逆転現象も起きます。

あとは当然、自社のことを外部に話していくので、会社に対するロイヤリティーが高まっていきます。そのため、流動化が激しいこの労働市場において、これまで話してきたような真意を持たせる意味でも非常に有効な施策だったと思っています。

麻野:ちなみに社員の方々は、ざっくりと、どれが一番多いんですか? 

安部:一番多いのは、今のところBachelorとMasterが同じぐらいの比率かな。Doctorクラスは、幹部クラスをダイレクトで採用できる人間ですが、なかなかいないので、Bachelor、Masterが一番大きなパーセンテージを占めている。

麻野:これは社員のみなさんが資格を持っているんですか?

安部:当然持っていない社員もいます。持てないというか、資格に合格していない社員です。経営側として非常におもしろいのは、こういう施策をやっていくと、ここに対する重要度を理解している社員は、必然的にビジネスのパフォーマンスと比例して上がっていく傾向があります。

なかなかこういう施策に対して、あまり前のめりでない社員は、ふだんのビジネスパフォーマンスもそんな高くなかったりします。それは、この施策に前のめりじゃないからというより、たぶん成果が上がっていないからだと思われます。

採用シーンで自社を語る=オーナーシップの醸成される

麻野:なるほど。これをやって良かったなと思うことは?

安部:直接的な成果で言うと、採用力ですね。たぶん今、うちで言うと、採用の割合が中途採用も新卒採用も含めて、半分ぐらいがリファラル……社員の紹介です。3割ぐらいがダイレクトリクルーティングで、残り2割がエージェントさんというかたちになっています。

そういった意味では、優秀な社員が引っ張ってきた社員は確率的に、パフォーマンスが高い社員が多い。会社として注力することで、通常じゃなかなか採れないような人材にリーチができています。

間接的な効果としは、先ほどお話をした、組織や会社を一緒に作っていっているというオーナーシップやロイヤリティーの醸成です。入社した後、必然的に採用シーンで自社のことを一人称で語る場が多くなってくるので、オーナーシップや当事者意識、組織へのロイヤリティが醸成されていきます。

麻野:直接的には、人材紹介会社ではなかなかアプローチできないような、潜在的な転職層に、社員を通じてリーチして採用できることであると。

安部:そうですね。

麻野:間接的には、この社員が採用にかかわる中で会社のことを語って、その社員自身のコミットメントやモチベーションが上がっていく。

安部:そうですね。

麻野:その両輪を回すことで、先ほどの採用や組織を実現しているということですか?

安部:はい。

麻野:ありがとうございます。では、これからの時代は、人事が人を連れてくるのではなく、労働市場が流動化する中で、社員が社員を連れてくる。そのようなことが求められるということですね。

安部:そうですね。うちはある意味、人事部門はありますが、自部門の採用に関しては自部門の人間が担うというポリシーでやっているので、よくある人が足りないから人事に「人を採ってくれ」という会話は、あまりないです。

「人が足りないから誰かを連れて来よう」という、そういうコミュニケーションが多いと思いますね。

麻野:ちょうど今から10年前ぐらいに、マッキンゼーから『ウォー・フォー・タレント』という本が出ました。「これからはもう人事が採用する時代じゃなくて、社員全員が採用する時代なんだ」という本で、10年前に読んだときは、私も全然ピンと来なかったんですが、まさにそういうのをやっている会社が出てきていますね。

安部:はい。

“絞ること”でユニークな状況を作り出せる

麻野:続いて、カヤック柳澤さんに、ユニークな人事施策をご紹介いただきたいと思います。

柳澤大輔氏(以下、柳澤):そうですね。これは僕自身の紹介ですが、この資料をさっき見ていて、けっこう長いので絞ってどれかにしようかなと。

麻野:はい。

柳澤:人事制度のお話をさせていただく前に、組織の話を少しさせてください。会社を大きく分けると、事業の戦略と組織の戦略という、その2つの両輪が重なって伸びていくと思います。

戦略が“絞ること”だとすれば、絞っていくことで非常にユニークな状況が作り出せます。唯一無二の事業をやっていれば、高収益につながります。組織もなにかに絞っていくと、非常にユニークで効率の良い状態になるということが、最初の僕の仮説でした。

その仮説をベースにどう絞ろうか考えた結果、僕たちはクリエーターだけの組織にしようと決断しました。

おそらく、このように絞っていかなければ、組織はユニークなことをなかなか実現できないんだと思います。例えば、「全員定年を迎えた高齢者のみで構成された会社です」と打ち出した場合、かなりユニークな人事制度ができると思うんです。

ですが、会社の規模が大きくなり、人が増えることで、最大公約数を取っていかなければならない状況が増えてくる。そうすると、ユニークさからかけ離れていきがちになりますし、面白い働き方からも遠ざかっていきます。

僕たちは鎌倉に本社を構えていますが、できれば満員電車に乗らずに通勤できるスタイルの会社がいいなと思っています。今では地方創生の流れもずいぶん進んでいるので、そういった思考の会社も増えてきていますよね。

麻野:はい。

柳澤:あとでヤフーさんもお話しされるかと思いますが、週休3日を提案されています。もし時代の潮流がそうなれば、大企業であればあるほど社会的な要請に問われて、どの企業も対応していくようになり、同じような働き方になります。

つまり、働き方そのものでユニークさを出すというのは難しく、相当その組織の戦略を絞らなければ難しいだろうなと個人的には思っています。