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アウル北村俊二×ログミー川原崎晋裕対談(全3記事)

「リアリティ」が求められる時代に、作り手はなにができるのか? PRとクリエイティブ、それぞれに求められるもの

ログミー代表・川原崎晋裕が、アウル株式会社CEO北村俊二氏とともに「PRとは何か?」に迫る対談企画、最終回です。これまでPR会社として様々なメディアに触れてきた北村氏。その中でも、近年のユーザーは「本音を聞きたい」という傾向があるといいます。なぜ人々はメディアを疑いはじめたのか? ログミーの全文書き起こしが支持される理由にも通じる、現代人のメディアに対する“視線”の変化を読み解きます。

PRとマーケティングの違い

川原崎晋裕氏(以下、川原崎):ちょっと話が戻りますが、PRとマーケティングの違いを知りたくて。我々はクライアントのイベント開催後にその内容をログするというお手伝いをよくしているのですが、イベントというのは、サービスの購買の手前ぐらいの、もともとそれに興味・関心を持ってる人、あるいは、そのイベントのテーマに興味・関心を持っている人が来るものですよね?

ログミーのソリューションは、「イベントに興味は持っていたけど、たまたま予定などの都合で来れなかった人にも内容を伝えましょう」というのと、先ほどおっしゃったカバレッジに近いようなところ、そもそもクライアントのサービスを知らなかった人に対して、新規の認知層を作りましょう、みたいなところなんですけど。この中でいうと、PRの範囲はどの領域なんでしょうか?

北村俊二氏(以下、北村):わかりやすい例で顕在層の刈り取りみたいな話でいくと、Web広告やリスティング広告というのは、顕在層の刈り取りのために使われますよね。

マーケットを作るという意味では、潜在層を世の中に作り出していくということが、PRの役割として大きいと思いますね。そういうカテゴリを作るというか。

川原崎:カテゴリですか。

北村:いきなり認知させたり理解させるということの前に、カテゴリをゼロから作っていく、という話はけっこうあるかもしれないですね。

川原崎:たとえば、いわゆるF1層やF2層みたいな枠自体をつくっていくのがPRで、そこに当てはめていく段階がマーケティングということでしょうか?

北村:そうそう。そこがPRの仕事ですね。隠れたなにかを見つけて、僕らがそれを形にしていく。当然、製品を認知させたり、理解を深めたりということもやりますが、そのもっと前の段階で、社会問題を解決していくとか。

例えば長時間労働問題があり、働いている人としても、国としても「減らしていこう」という流れがある。けれど、減らしていくためには「そこのマーケットをどうやって作っていくの?」みたいな話を啓蒙をしていかなきゃいけないとか。

というと、なにかものごとを認知させるとか、ものごとを理解させるということの前の段階で、ユーザーの深層心理をもっと明確にさせていく、みたいな部分もPRとしての領域に入ってきます。

PR業界の潮流

川原崎:クライアントがサービスや商品を先に作っていって、「こういう市場があるはずだ」と自分たちのご都合主義でぶつけていくのって、失敗するケースが多そうですよね。そうなると、今の理屈ではサービスを作る前の段階で関わらないと、実現できない気がします。

北村:まさにおっしゃるとおりで、そこが今のPRのトレンドというか、これから絶対にそうなっていきますね。世界的な潮流ですね。

川原崎:へえ、海外ではすでにそうなんですか?

北村:海外ではそうですね。実は今日、この取材に日を合わせたということではまったくないんですけど、かなり大きな事業提携の発表を出すんですよ。

川原崎:仕込みますねえ(笑)。

北村:たまたまです、本当にたまたまで(笑)。

川原崎:BIRDMAN(バードマン)?

北村:そうです。株式会社BIRDMANさんはクリエイティブの会社なんですが、彼らは今年のカンヌでトロフィーを十数個も獲っていて、今年はアジアで1位なんですよ。

そのクリエイティブエージェンシーとアウルという、似て非なる会社の領域が事業提携することになったんですね。

「なにするの? 君たち」って話なんですけど、まさに今、川原崎さんがおっしゃっているように、僕らアウルとしては世の中で話題になるものをPRしたいという思惑があるわけですよ。

川原崎:先ほどもおっしゃってましたね。

北村:自分たちが作るクリエイティブがすごくいいアイデアだったとしても、本当に流行るかどうかという不安があって。

クライアントからアイデアを採用されるか否か、というときに、クライアントが「本当にそれ流行るの?」みたいな話になるんですよ。

ということは、プロジェクトのかなり早期の段階、ものづくりや広告コミュニケーションを作る段階から、PRの観点とクリエイティブの観点が一緒になってモノを作り出していく、ということが大事になるんですね。

川原崎:なるほど。これはおもしろいですね。もう最初から入っちゃうと。

クリエイティブとPRが協業する意味

北村:今までは、クライアントやエージェンシーから仕事が来る時は、先にPR会社に話が来て、「どういうトレンドを作っていこう」とか「こういうカテゴリで作っていこう」みたいな話があって、あとで「クリエイティブどうしよう?」みたいな。「本当に広がるかな?」みたいな不安にかられるパターンがあります。

もしくは、先にクリエイティブの会社から入って「こんなことやる」と決まっているんですけど、ぜんぜんトレンドに沿っていなくて、「え、いまさら……」みたいなこともあります。最近だとVRとか。

川原崎:VR、はい(笑)。

北村:あるいはAIとか、いま同じことやっても、他にもたくさんやられているのを知らずに考えていたりします。トレンドを把握できてない。そうすると結局「おもしろいけど、トレンドに合っていない」みたいなことになってしまいます。だから、もうそこは最初から一緒にクライアントやエージェンシーから直接話を聞いちゃう。両者の観点をもってクリエイトしていく、ということがけっこう大事なんです。

川原崎:それって今だと、どこか別の業態がその部分をになっているんですか?

北村:例えば、ちょっと話は違いますが、アクセンチュアさんがIMJさんを買収したりしていますよね。あれも、コンサル会社がデジタル領域を吸収して、提案段階からコンサルティングとデジタルマーケティングを融合させたビジネスを創出していく、その提案をするためにやっているわけです。

川原崎:Apple的な垂直統合というか、機能を1社で持ったほうが一貫性のある意味のあるものが作れる、ということですね。

北村:そうです。ただ、ジョイントベンチャーじゃ意味ないんです。なぜならば、僕らはアウルとして100パーセントPRをやる、彼らもクリエイティブを100パーセントやる。100パーセント同士が合わさるから、両方の領域で100パーセントを出しつつ業務提携ができるというところがあります。

ただ、中途半端にやっているところも多いんですね。クリエイティブ会社でPR機能を持ちました、とか、PR会社にクリエイティブ機能を積んでます、では意味がなくて。それぞれ本気で100パーセントぶつけられるところがマッシュアップすると、いいものができる、と。

川原崎:なるほど。

北村:というのが、今回の事業提携の背景です。こういった動きは、これからのPR業界やマーケティング業界の潮流になると思うんです。世界ではこういう動きがバンバン走ってるみたいですよ。

外から見たログミー

川原崎:最後ちょっとログミーの話聞いてもいいですか? ログミーって、たぶんクライアントに提案しても知らないことのほうが多いと思うんですよ。ご案内していただいたときの最初の反応とかってどういう感じなんですか? 「全文?」みたいな感じでしょうか?

北村:まあ、そうですね。「全文?」という話と「なにしてくれるの?」というのがけっこう多いですよね。やっぱり「全文書き起こすことのメリットってなんですか?」って聞かれるケースが多くて。だから僕らは、「ログミーさんって、言い換えるとリアリティなんですよ」と言ってます。

川原崎:リアリティ?

北村:リアリティ。なにがリアリティかというと、結局、ログって編集を極力しないと思うんですよ。書き起こしなのでイベント様子がダイレクトに伝わってくる、リアリティのあるかたちで伝わってくると思うんです。

それはほかのメディアにはないんですよ。やっぱりきっちり編集されちゃって、要約されちゃって、800文字になって出てくるので。短時間でつかむにはいいんですけど。

イベントの情景を頭の中で想像しながら、リアリティのあるかたちで読んでいく。これはけっこう小説に近いんですね。ストーリーなんですよ。臨場感がある。

川原崎:なるほど。僕らが想定してたのは、メディアの編集によって発信側からすると意図の違う伝わり方をすることがあるのかな、と思ってたんですけど。そういう需要はあるんですか? 

北村:ありますよね。やっぱりニュアンスのズレというのは、PRの取材をしているとけっこうあるんですよ。「そういうニュアンスで伝えたかったんじゃないんだよな」って。では、どうしてニュアンスがずれるのかっていうと、前後の文脈がないからなんですよ。

よく政治家さんの発言でも、ちょっと前後の文脈があれば理解できるんだけど、ないと曲解して「そういうふうな話なんだ」みたいなことってけっこうあるじゃないですか。あれに近い現象になるんですよね。

「4つ目のパラグラフにあれを言ってたからこそ、今、この話がこういう理解になるんだ」というのは、やっぱり全部読ませるからできるんですよね。そうやってリアリティを持って伝えられるメディアってログミーさん以外にありません。

だから、メディアの名前も、もしかしたらログミーじゃなくて「リアリティ」に変えたほうがいいかもしれない(笑)。

川原崎:リアリティ……商標取れるかな?(笑)。

リアリティが評価される時代

川原崎:でも、本当に編集がうまい人がやったら、たぶん500文字とか1,000で文脈が伝えられると思うんですよ。でもできない人が書くとダメで、「書き起こしのほうがマシだよね」ってなっちゃうんですよね。

北村:なっちゃいます。ありのままの事実を、その時のトーンや情景を想像してもらいながら、しっかり読んでもらうという意味でいくと、僕はログミーさん以外にはないと思いますね。

やはりそれはクライアントにも刺さりますね。「ログミーはリアリティメディアです」と。「リアリティを伝えるメディアであって、長いんだけど、その分情景をしっかり伝えられる。それはほかにはないです」ということを伝えると「それいいですね」となります。

川原崎:ナマのまま、書き起こしで無編集だけど、逆にそのほうが臨場感やストーリー性を感じられる。それって逆説的でおもしろいですね。

北村:今日の話とかも、編集しちゃったらすごいつまんないものになっちゃうかもしれないです。「北村はカバレッジバリュー、なんとかバリュー、なんとかバリューがあると言っていて……」みたいな。

川原崎:はいはい(笑)。

北村:「これからはPRでこういったものが大事になって、クリエイティブは早期からやって、ものづくりとかネタとかも早くからやることがこれからのPRの潮流である」みたいな感じの記事のまとまりになっちゃうと、「うん……まあ、そうだよね」みたいな(笑)。

川原崎:「3つのポイント」みたいな(笑)。

北村:そうそう。そうすると「へえ、参考になったわ」って忘れちゃいますよね。だから、そこはもうログミーさんならではだと思いますね。すごいメディアだと思います。

「作り物」への嫌悪感

川原崎:ありがとうございます。僕は“作られたもの”に対して、ユーザーが嫌悪感を感じる時代になっているんじゃないかと思ってて。

若者がテレビが嫌いで、ニコ動とかツイキャスの生放送が好きなのも、後者は嘘がないと。前者は嘘があるし、泣かせにきたりとか笑わせにきたりする意図がミエミエすぎて気持ち悪いと思ってると考えています。

だから、ログミーを作ったときは「こんな長い文章誰が読むんだ?」って思ってたんですけど、意外と普通の若者も読んでくれて。「臨場感があっておもしろい」だったり「余計な編集が入っていないから読みやすい」とか。

それはたまたまだったんですけど、時代の潮流的にちゃんとしたクリエイティブにはユーザーは時間を使うけれども、中途半端なクリエイティブの見え透いた編集記事は嫌うんだなと思っています。

北村:そうですね。やっぱり「本音が聞きたい」という傾向があると思います。最近はやっぱり、スポンサーの問題とかで「ここまでは言えない」とかあるじゃないですか。テレビでも「これはスポンサーに影響があるので、こんな批判はできない」とか。あれがユーザーとしてはつまらなくさせている元凶だと思っていて。

川原崎:そうですよね。

北村:だから、そこを関係なくありのままの事実を伝えられるというのは、ユーザーとしてはおもしろいんですよね。だから、やっぱり若者はテレビを見なくなって、YouTubeとかを見るわけですよね。1つの番組としてYouTubeだけで数百万PVも見られるわけです。

タレントさんでも、例えばマツコ・デラックスさんみたいに、自分の思ったことをバッと言えるというのはユーザーの共感を呼びます。おいしくないものを「おいしくない」ってはっきり言うんですね。ああいったものがウケる時代だと思うんですよね。

それってログミーさんの中では体現できているんじゃないですか? だから、すごいメディアだと思いますよ。

川原崎:ありがとうございます。一方で、そういうことを理解しづらい方もいるんじゃないですか?

北村:やっぱりそこはね、伝え方によるかもしれないですよね。

川原崎:なるほど。それ、うち下手ですねえ。メディアの人間って、他人のことを伝えるのは得意なんですけど、自分たちは黒子気質なので、自分のことを伝えるのは苦手なんですよね。

北村:それは僕らに任してください! 今日から「リアリティ」ってメディアに変えて(笑)。

川原崎:それはまずい(笑)。そんなところで、今日はありがとうございました。非常におもしろかったです。聞きたいことをかなり聞けました。

北村:いや、本当にすいません。拙い話で恐縮でした。

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