人生100年時代の生き方

佐藤朋保氏(以下、佐藤):東洋経済の佐藤です。よろしくお願いします。

さっそくですが、この本の概要を紹介させていただきます。『LIFE SHIFT』という本は、カバーの左側が日本語で、右側が英語です。原書タイトルと日本語タイトルは違うものになっています。

メインテーマはさっきのタイトルにもありましたけど『The 100-YEAR LIFE』で、人生100年になるので長寿社会をどうやって生きるのかということです。

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

著者のリンダ・グラットンはロンドンビジネススクールの人気教授で、元々はご自身も心理学が専門で心理学のコンサルをされていたんですけど、それから学者さんに転身されて今に至るという方です。スライドのなかで「収入が10分の1」と書いていますけど、転職した時は本当に収入が10分の1になったそうです。今でも(収入面は)回復はしていないそうですが、いろんな活動から得ている満足感のほうが全然高いと。

現在は62歳なんですが、再婚されて新しい旦那さんのお子さんが6人いて、今は(前の旦那さんの子どもを含めると)8人の母で、ご本人もすごいライフシフトをされている方です。

もうひと方はアンドリュー・スコットという、ロンドンビジネススクールの先生です。彼も共著者でマクロ経済が専門なので、おそらく将来の予測に関する数値のところは彼がきちんと見たんじゃないかというふうに思います。

(スライドを指して)これは本のなかにある図なんですけど、2007年に産まれた子供の半分が、どの年齢まで(寿命が)到達し得るかというのを出した数字で、日本が107歳。それ以外の国でも100歳以上生きますという話をしています。

もう1つ、これも本の中からとった図ですが、「ベストプラクティス平均寿命」といって、各地域で毎年一番平均寿命の伸びが高かった数字をつなぎ合わせていくと、こんなふうに右肩上がりのすごいグラフができあがる。寿命はほぼ10年ごとに2、3年は伸びると言っています。

教育→仕事→引退という3ステージ時代の終わり

これ(本のなかにある図)を見ていただけるとわかる通り、僕は1973年生まれなんですけど、1977年生まれが近いとして、95歳から98歳。100歳には到達しないかもしれないですが、それぐらい生きると。65歳で引退しても、その後にまだ30年ぐらいあるという計算になります。

この100年時代にどのような変化がくるかというところで、リンダさんたちが言っているのは2つあります。1つは3ステージ(「教育→仕事→引退」という3ステージ)の時代が終わるということ。もう1つは無形資産が重要になる。

それぞれ詳しくお話ししますが、3ステージというのは、だいたい20代前半ぐらいまで教育を受ける。その後60歳、日本だと65歳まで一貫して働いて、その後に引退という非常に画一的な人生です。

しかし人生100年(ライフシフトの時代)の場合は、教育を受けた後は、まずは自分が何をしたいのかという自分探しをして、やりたいことに基づいて起業する。その起業をした経験を活かして会社に雇われて働く。その後ちょっと疲弊してまた自分探しに行ったり、地域活動をしたり、またはもう1回起業したりとかですね。非常に複線的な、多様な人生になるということです。起業とか自分探しの時期は人によってそれぞれ違うので、多様になるということですね。

もう1つは無形資産が重要だと。これは有形資産との対比で言っているんですけど、有形資産というのはお金とか土地、家。いわゆるお金に関係するようなところです。

無形資産というのは見えないものですが、これは3つあります。まずは所得を得るための「生産性資産」。あとは長く働かなければいけないので、心身の「健康」を維持するための資産ですね。これは家族関係とかそういうものも入ってきます。あとは変化に柔軟な姿勢でいられるという、これは「変身資産」と言っているんですけど、この3つが重要になるというふうに言っています。

本の中では、「ジャック、ジミー、ジェーン」という3人の登場人物がいます。1945年、71年、98年生まれで、彼らがどんな人生を辿るのかというのをシナリオで書いています。

今日はランサーのお三方がこれから登壇されると思うので、そこで日本のお話しを聞けるんじゃないかなと思います。まとめますと、「ジャックさん」というのは非常に盤石な人生。国の年金や企業の年金がしっかりしていたいい時期に働いていて貯蓄も多い。あまり(人生を)「シフト」する必要がない人ですね。寿命も短いので逃げ切れる人です。

「ジミーさん」は実は僕と(年齢が)同じぐらいなんですけど、30歳ぐらいまでは3ステージ時代の価値観で生きていたんです。ところが財政赤字で年金はどんどん無くなっていく。企業も大企業も倒産していく時代で、自分の会社もいつまであるかわからない。そんな時代なので貯蓄もそんなにないということですね。

「生涯現役」の時代になる

そして、「ジェーンさん」の代になると、これは僕はわからないこともありますが、国とか企業には頼らず自立した自分の生き方をするようになる。当然、貯蓄は少なくなりますが自分らしい人生を送れることになります。

(スライドを指して)本のなかにはこんな図表もありまして、よろしければ後で本を見てもらいたいのですが、さっき言った「無形資産」と「有形資産」の中身がどういうもので、人生に応じてどんなふうに増減していくかということを、あくまで一例として書いているということです。

この本のメッセージは、一斉行進の時代が終わるということです。3ステージの時代では、「僕は40歳です」というと、大学を出てだいたい20年ぐらい働いた人だなとか、バックグラウンドを推測できます。それがマルチステージの時代になると、年齢とステージのリンクが崩れるので、何歳という情報から、(何をしている人か)読めなくなるということですね。それから、今後は3ステージ前提の制度がやっぱり壊れていくと。

例えば、今の教育制度は20代ぐらいまでを前提にできていますけど、それが生涯にわたり人々が学べるようなかたちにどんどん変化していくんじゃないかということです。

もう1つは生涯現役になることです。20代から60代ぐらいまで、40年ほど働いて、その蓄積で(退職後の)残りの人生を生き抜くというのが非常に難しくなる。(仕事をする期間は)30年ぐらいあるので、その間にどれだけ貯めればいいんだろうという思考になります。そういう意味では貯めて逃げ切るのが難しくなるので、ずっと働くということになります。

そうなると仕事と学びが近くなる。100年は長いので、自分は何をして生きていきたいのか。「自分らしい生き方って何だろう?」ということを真剣に考えざるを得なくなります。そうすると、押し付けられて何かをするというよりは、自分から積極的に学んで働くというかたちに変化していくというメッセージです。

今(この本は)すごく売れてまして、2016年の10月に発売してずっと売れ行きが落ちずに、ますます売れています。16万部まできています。

政治家も「長寿の時代」に対応しようとしている

刊行後、「ライフシフトする」「100年人生」「100年時代」という言葉がいろんなところで流通するようになりまして、賞もいただきました。「読者が選ぶビジネス書グランプリ」の「総合グランプリ」や、「ビジネス書大賞」の「準大賞」もいただきました。

メディアの方にも注目していただいて、これだけたくさん(メディアに)出ているんですが、つい最近だと『ガイアの夜明け』に登場させていただいて、ランサーズさんも登場されておりました。

書店さんにも注目していただいて、(本屋の)入り口だけじゃなく、いろんな棚に置いてくれたり、POPを作って取り上げていただいたりして、力を入れて売ってもらっています。そんななかで「政治の注目」も集めています。これは小泉進次郎さんなんですが、自民党で「人生100年時代の制度設計特命委員会」が立ち上がった。政治も長寿の時代に対応しようとしているんです。

そして「官僚も注目」ということになり、これもご存知の方はいるかもしれませんが、経産省の若手官僚の方が、「不安な個人、立ちすくむ国家」という100年時代を見据えたレポート」を出しました。「お前らにそんなこと言われたくない」とか、ネット上ではすごい炎上しているんですけど、こういうことも起きているんです。「個人も注目」されていて、各地で読書会をやっていただき、そのなかのいくつかに参加しました。

このスライドに書いてあるように、世代や性別を問わずいろんな方々からコメントをいただきました。

この本を売っていくにあたって、識者の方々にもコメントをいただきました。「東洋経済オンライン」という自社のメディアがあるんですけど、そこに、「自分の生き方とライフシフト」というのを絡めて語っていただき、(スライドを指して)これぐらいのメッセージが出ています。ここにあるものは、どれも東洋経済オンラインで読めますので、検索していただければ深く読むことができると思います。

最後に、この本を作るに当たって、売り方やタイトルはこれでいいのかを、書店員さんにアドバイスを求めに行ったのですが、そのときに「この本は売れますよ」と言ってくれました。その理由が、「生き方、働き方、学び方など、それぞれの本はあったけれど、(人生の)全体を書いていて、しかも1つの流れとして書いている本はほとんどないので、これからのお金の稼ぎ方や働き方のバイブルみたいな本になる」と言ってくれたんです。実際にその通りになってすごく感謝しています。

私からのお話は以上になります。ご清聴いただきありがとうございました。

(会場拍手)