「哲学って、なんの役に立つの?」という人にまず知ってもらいたい、”二大原理”のハナシ

Using philosophy #1/2

難しい言葉をこねくり回しているだけで役に立たない、と思われがちな哲学。しかし実際には、哲学を知ることによって精神バランスが回復されたり、思考を整理できたりと、非常に有益な効果が。哲学者 兼 教育学者の苫野一徳氏が、実生活にもすぐ役立つ2つの原理を説明しました。(TEDxTokyo yz より/この動画は2014年に公開されたものです)

哲学で「躁うつ病」が治った

苫野一徳氏:皆さんこんにちは。僕は哲学というのをやってるんですけども、哲学といわれても何をやっているのか、いまいちよく分からないと思う方が多いと思うんですよね。一般的なイメージとしては多分、意味のない、役に立たないことをぐっちゃぐちゃ、だらだらと難しい言葉で考えているもの、というイメージなんじゃないかなと思います。そういうイメージ持たれてる方、どれぐらいいらっしゃいますか? (何人かの手が挙がるのを確認して)……でも、思ったよりも少ないですね。

(会場笑)

僕も、実はずっとそう思ってたんですね。

難しい言葉で人を煙に巻くいやらしいものだというイメージを持ってたんですが、でも実はこの本に出会って、哲学って違うぞ、ものすごく役に立つぞ、ということに気が付きました。

僕が考える哲学。それはですね、「さまざまな問題をこう考えれば、最もうまく解き明かせる」という、“考え方”を提示するものです。実際に、僕自身も哲学に出会って自分自身の問題が克服されました。

実は高校三年生の時から、躁うつに苦しめられていたんですね。7、8年間、すごい鬱の時と、ものすごいハイな時とを周期的に繰り返すんです。自分だけじゃなくって、やっぱり周りにもすごく迷惑をかけてしまうというのがあったんですが、実は哲学に出会って治ったんですね。「こう考えればよかったんだ」というのが分かって、僕は躁鬱が治りました。少なくとも、苦しい思いはしなくなりました。

こんなふうに、どうやって考えたかっていうのはまた後でちょっとお話しようと思うんですが、実はこれくらい哲学って役に立つんだと。これは僕の経験なので一般化はなかなかできないですが、でも哲学ってすごく役に立つんだってのを、僕はずっと訴えたいなと思ってやってきました。そこで今日は、僕が考える、哲学の一番重要な二大原理をお話したいなと思います。

欲望によって自らの信念が決まる、「欲望相関性の原理」

ひとつ目は、どうすれば信念対立を克服できるかという、その考え方の最も根本的な原理です。僕たちは、家庭だったり学校だったり会社だったり、日常生活のいろんなところで信念対立に遭遇しますよね。国際問題とか政治の問題も信念対立の嵐です。この問題をどうすれば克服できるか。実は哲学者たちはこの問題をひたすら考えてきたんですね。そしてついに、こういう考えにたどり着きました。

「欲望相関性の原理」といいます。ものすごく簡単にいうと、僕たちの信念、思想、考えというのは、実は僕たちの欲望によって作り出されたものなんだ、という考えです。

ちょっと例を挙げて考えてみたいんですが、例えば、「いじめをした人間はすぐに停学にするべきだ」という「いじめ厳罰主義」の考え方を持っている人がいますよね。もう一方で、あるいは「いじめをした生徒こそやり直しの機会を与えるべきなんだ」という考え方をする人たちがいます。これはお互いの信念をぶつけ合っても、どこにも行き着かないんですよね。ただただ、対立するだけです。「俺は絶対に正しいんだ、お前は間違っているんだ」と言っても、共通了解は決して生まれない。

ここに、「欲望相関性の原理」を導入すると、「なるほど、こう考えればこの対立は解けるかもしれない」という可能性が見出せるんです。僕たちの信念というのは絶対に正しいものがあるわけじゃなくて、何がしかの欲望から生まれている。例えば、「いじめ厳罰主義」の人は、もしかしたらかつていじめに遭ったことがあって、だからいじめをしている人に仕返しをしたいという欲望があるのかもしれない。例えばですけどね。

あるいは、「やり直し主義」の人は、かつていじめをしたことがあって、でも、いい先生と巡り会えてやり直すこと、立ち直ることができた。そういう機会を子供たちに与えたいと思って、「やり直し主義」という信念を持ったのかもしれない。

これはあくまでも例えばですが、こんなふうに僕たちはただ信念をぶつけ合うだけじゃなくって、その底にある欲望までさかのぼり合えば、共感しなかったり納得しなかったりしたとしても、なんか気持ちは分かるよ、という、どこか共通のポイントを見出せるかもしれない。そしたらお互いがもっと納得できるもっといい考え方を出していこうよ、というふうに、お互いに建設的な議論ができるかもしれない。そういう可能性があるんですね。「欲望相関性の原理」は、こうやって信念対立を解く最も根本的な考え方を提示していると僕は思います。

実はですね、この「欲望相関性の原理」は信念対立の克服だけじゃなくって、いろんな問題に応用ができるんですね。僕自身、さっき言った躁うつは、これで克服できたんです。すとーんとこれが腹に落ちた時に、気付けば精神のバランスが取れるようになってました。精神のバランスを崩す時というのは、だいたい自分と折れ合ってない時なんですよね。特に、鬱とかそうなんですよ。少なくとも、僕はそうなんです。

そういう時に、「なんで自分はこんなに苦しいんだろう、なんでこんな思いを抱えているんだろう、なぜこんな信念を持っているんだろう」と考えた時に、「あぁ、こういう欲望があるからなんだな」ということが分かれば、なんとなくそんな自分と折り合いが取れるようになってくるんですね。

欲望を知ることで自分と折り合うことができる。僕はそういう考えをもとにして、躁鬱も克服できたかなあと思っています。こういうふうに、「欲望相関性の原理」っていうのは、信念対立の克服から精神の問題に至るまでいろんな問題に応用可能な、哲学の非常に優れた原理だと、僕は思います。

民主主義の根本「相互承認の原理」

もう一つ、僕が哲学の非常に重要な考え方だと思うのが、「相互承認の原理」と呼ばれるものです。

これは僕たちが社会の中でどうすれば共存できるかという、その社会の根本原理なんですね。ある意味では、「欲望相関性の原理」の社会的な応用といってもいいかもしれません。

実は歴史を振り返ると、人類って1万年以上ずっとひたすら殺しあってきたんですね。ずーっと戦争ばっかりやってきたんです。哲学者たちはもういい加減、こんな争いは止めたい、どうやったらこの戦争を無くせるんだということを、実はずっと考えてきました。そして、人類1万年の戦争の歴史からすればわずか200数十年前、この「相互承認の原理」という考え方にたどり着いたんです。

多様で異質な人たちがいろんな欲望を持っている、いろんな信念を持っている。でも、どんな価値観を持っていても、どんな感受性を持っていても、どんな信念や欲望を持っていても、それが人を傷つけない限り、とりあえず認め合おう、とりあえずお互いに承認し合おう、それしか僕たちがこの社会で平和に共存する道はないと。そういうふうに、この「相互承認の原理」を哲学者たちが出したんですね。そして、実はこれが僕たちが暮らしている民主主義社会の根本原理です。やっぱりこれは、僕は改めて優れた考え方だなあと思っています。

思考の出発点は哲学にあり

でも、「欲望相関性の原理」も「相互承認の原理」も、言葉はちょっとおどろおどろしいんですけども、言われてみればこれ、めちゃくちゃ当たり前の話ですよね。でも、ここが重要なポイントなんですけど、確かに言われてみれば当たり前ですが、果たして僕たちはみんなこのことを徹底的に自覚して普段考えられているだろうか、人とコミュニケーションできているだろうか、実践できているだろうかっていうと結構難しいと思うんですね。

いかがでしょうか? 僕たちは特に、「お前は絶対に間違っているんだ! 俺は絶対に正しいんだ!」と言ってしまいますよね? 本当はそれって僕たちの欲望が作り出した信念なんですけど、そんなことを言ってしまう。あるいは、価値観や感受性が違うというだけで、認めるんじゃなくて攻撃してしまうこともある。だから、「欲望相関性の原理」も「相互承認の原理」もやっぱり非常に重要な哲学の知恵じゃないかなと僕は思います。言われてみれば当たり前、確かにそうとしかいえないものを出すのが、僕は哲学だと思うんですね。

ここから考えを始めようと、思考の出立点を常に提示してくれるのが、僕は哲学だと思っています。

21世紀は未だまったく、相互承認が成り立った社会ではありません。テロがあって、戦争があって、格差がある。この問題をどうすれば解けるか、そして多様で異質な人たちが、この21世紀の社会でどうすれば平和に共存できるか、相互承認できるか。その具体的な道筋を考え出すのが、21世紀の哲学の最大の課題なんです。そしてそのために活動している人もいっぱいいらっしゃいますよね。そういった行動をしている人がいっぱいいらっしゃる。

哲学はそういう実践の知にも学びながら、これからの社会の在り方を構想していく必要があると思っています。また同時に、哲学こそがそうした実践をしている人たちの思考の土台を築くことができるはずだと思っています。というのも、哲学はいつも僕たちにこのことを思い起こさせてくれるからです。「ここから考えを始めよう」と。ありがとうございました。

<続きは近日公開>

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