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若手ホープ経営者らが語る『一年前の自分に次ぐ。これだけはやっておけ!』(全5記事)

「中途半端な競合のやる気を削ぎたかった」HR系ベンチャーが多額な資金調達に挑んだワケ

2017年6月7日に行われた「IVS 2017 Spring」でセッション「若手ホープ経営者らが語る『一年前の自分に次ぐ。これだけはやっておけ!』」が行われ、若手ベンチャー経営者4名が登壇しました。「あの時、こうしていれば」という経験や失敗談を元に、次なる起業家たちへ成長のヒントを贈りました。モデレーターはSkyland Ventures木下慶彦氏。本パートでは、起業家らがサービスの価格設定をどうやって決めたのか、どうやって投資家を探し出したのかなどを赤裸々に紹介。中でもSmartHR宮田氏は、資金調達額を多めに設定した理由を明かしました。

顧客がわからず、言われたままに作っていた

木下慶彦氏(以下、木下):もう30分を切ってるくらいなので、セッションに入りたいんですが。1つだけメインテーマを設けて、会場からも質問を受けられればと思います。

プロダクトマーケットフィットが大事とあって、グロースフェーズの反省がこの1年で多かったんですけど、多くの会社はシードからアーリーに成長できないというのはありますね。なので、そこの課題とか、なにがブーストになったのかという、リアルな話をそれぞれから聞きたいと思っています。

これは、1番目に初期苦戦したという話があったヤプリの庵原さんからお願いしたいと思います。

庵原保文氏(以下、庵原):はい。「アプリが作れるツール」って広いじゃないですか。アプリっていろんな種類があるんで、最初のプロダクトマーケットフィットで4年中2年ダメだったのは、お客さんがわからなかったですね。顧客を絞れなかったのが、最大の敗因です。

会う人はみんな「このサービスはすばらしい」「こんなに簡単に作れるってすごい」と言ってくれるんですね。音楽業界の人に会うと、音楽とアプリってすごい合いそうじゃないですか。安室ちゃんのアプリが欲しいと思うじゃないですか。だから「君たちのは最高だから使う、音楽プレイヤーがあればすげー使う」っていう話をされるんですよね。

それを、ちょっと偉い人に会うと真に受けちゃって、音楽プレイヤーを1〜2ヶ月で作るんです。でも、音楽業界の人たちは結局はお金を払ってまで使ってくれないんですよね。

木下:無料で提供してた時期とかもあったんですか?

庵原:ありますし、実際にシステムにお金を払って投資する業界かどうかもわからずに、言われたままに作っちゃってたんですよね。

今は明確にコマースだっていう小売業界とか、ファッションブランドが顧客であるのが見えたので、そこに投資してるんですけど。まず業界や業態をバーティカルに縦に攻めることがわからなかったというのが、1つ大きな反省点です。早々に「ここだ!」っていう、ちゃんとお金を払ってくれるところを見つけて、かつ継続的な効果が出るようなところを探し当てるべきだったんですよね。

初期の価格設定はどうやって決めたの?

次に、縦に攻めるのがわかったら、今度はどの大きさを攻めるかっていうのがあると思うんですよ。スモールでいくのか、ミドルかラージかっていうのが。それも僕らはわからなかったんで、最初僕らは月額1万円だったんですよ。この2年で、20倍の20万円からにしました。20倍にしたら売れなくなると思うじゃないですか。でもそっちのほうが売れるんです。ちゃんとした人に買ってもらえる。

例えば、銀行の人は1万円なんて怪しくて買えないんですよ。なので、アドバイスとしては高いほうがいいと思っています。市場のスモールBにいくのかエンタープライズにいくのかっていう業界を見つけて、後はどの市場へいくのかです。

僕らが創業時にスモールBにいった理由は「アプリが簡単に作れる」と思っていたからです。実際に簡単なんですよ、コードを書かないので。

だけど、セールスフォースベンチャーズの浅田さんにデモを見せたら、「これはエンタープライズの商品だよ」って言われた。僕らは簡単と思っていても、本当のユーザーって簡単と思わないんですよね。ちょっとした設定だけなのに「すごく難しい」と、制作会社に投げちゃったりとか。「僕らのツールって難しいんだ」っていうのを、その時に初めて知ったんです。

平田祐介氏(以下、平田):サービスってプライシングがすごく重要じゃないですか。それをみなさんに聞きたいんですけど。フリーミアム型というか、僕らリプロとヤプリさんってそうなんですけど、どうやって初期の値段を決めました?

宮田昇始氏(以下、宮田):僕はヒアリングで決めました。

まずはデモ版に触ってもらうんですよね。一通り試してもらった後で、「月額サービスだと考えて、いくらだと高いと思いますか?」みたいな聞き方をして。「うーん、3万くらいかな?」「その8割の値段、2万4,000円だったら使いますか?」みたいなことをやっていると、回答が従業員数と比例しているなって思ったんです。

そこで、従業員数で変わる従量課金制にして、価格帯も回答に合わせる感じで決めました。

木下:初期のところから値上げはしていないんですか?

宮田:してないんですが……。ミスったなと思っているのが、値段をもっと高くしておけばよかったなと常々思います。SaaSの場合は日々機能が追加されていって、提供している価値の総量が上がっていくものなのに、そんなに頻繁に値段変更できないので。

平田:SmartHRは既に市場で独占状態とか。市場から競合を一掃したみたいな話を聞きましたが、どうなんですか?

宮田:してないです(笑)。

中途半端な競合のやる気を削ぐと意識した資金調達

木下:そのへんの方法がわかれば、後で個別に聞いたほうがいいと思うんですが(笑)。

その続きで宮田さんの場合、シードからアーリーに入る時に、市場の中でいいポジションにいたようですが。そのあたりを踏まえて、どうシードから抜けてきたかをお願いします。

宮田:そうですね、うちのジャンルだとそもそも競合がいなかったので、シードの時期に関して言えば、競合を意識せずプロダクトに集中できてとてもやりやすかったです。

ただ、大前提として、競合が出てくることは自社や市場にとっても、すごくいいことだと思ってるんですよね。例えば、「クラウド会計」の前身となるインストール型の「会計ソフト」が何十年も前から存在していて、世の中的も「会計はソフトウェアでやるもの」という認識があると思います。

一方、僕らがやっている「クラウド人事労務」って、前身となる中小企業向けのソフトウェアが存在していないんです。世の中的には「紙、手書き、ハンコ、郵送」とかでやるものという認識なんです。なので、そもそも「このめんどうな労務手続きがソフトウェアで簡単にできる」と知ってもらうことが大事なんですよ。という感じで、競合さんが増えて、市場が盛り上がって、このジャンルの認知が広がったほうがうれしいのは間違いないんです。

でも、中途半端な競合さんが増えるのは避けたいんですよね。ユーザーが初めて触る製品が中途半端なものだと、このジャンルの製品自体に「ぜんぜん使えないいじゃん」みたいな印象がついちゃう。

そういう印象を与えたくなかったので、中途半端なところは参入してほしくない。なので、前回の調達ではかなり多めに調達して、中途半端に手を出そうとしているところのやる気を削ぐことを意識しました。本気のところだけ参入してくれと。……僕、変なこと言ってますか?(笑)。

木下:いえいえ(笑)。

平田:結果、何社くらい撤退したんですか?

宮田:実際に撤退した会社さんもありましたし、「あの会社、SmartHRみたいなの作ってるみたいですよ」と聞いていた会社さんのほとんどは参入してきませんでしたね。

木下:これって、SaaSの資金調達ではバリエーション(企業価値評価額)の計算式がかなり決まってる業態だと思うんですが。宮田さんはそれと乖離したファイナンスだと思うんですけど、そんなことないですか?

宮田:乖離してましたね(笑)。

木下:それをできた秘訣とか、どういうポイントが?

宮田:うちのジャンルだと、世の中的にまったく整備されていないというか、「ひどくアナログな状態だよね」という課題の深さを重点的に伝えました。あとは将来的な市場の大きさですね。単価は安いけど市場規模はかなり大きくなると思っているんですよね。

従業員を雇っている会社は、業種や規模に関係なく、必ず社会保険に加入するという義務がある。なので、本当に日本全国のすべての企業をターゲットにできる。数百万社の企業と、そこで働く数千万人の従業員さんのマイページをおさえられる、という将来的な夢を大きさを見せるみたいな。倉橋さんと同じことをやってました。

庵原:昨日、4人で集まった時に「せーの」でポストのバリエーションを言い合ったら、僕が一番低くて。その時のやられた感がすごくショックでした(笑)。倉橋さんはすごいよね。バリエーションが高いことで有名で、ヤフーの小澤(隆生)さんが「楽天の後輩に投資したいんだけど、バリエーションがすげー高いんだよなー」って言ってました(笑)。

倉橋健太氏(以下、倉橋):そんなところで(笑)。

近距離の視点で戦うからブレて間違いやすくなる

木下:倉橋さんに聞きたいと思うのは、初期にぱっと大型の資金を集めた会社ってその後は失速するケースがけっこう多い気もしているのですが。資金がある中でも慎重にやったのか、いくとしか思わずやったのか。そのあたりを聞きたいんですが、どうですか。

倉橋:いくとしか思ってなかったですね。僕はもともと楽天の時に、データを使ってお客さんの体験に変えるとか、お客さんのロイヤリティーを上げるみたいなことをずっとやってたんです。データを活用できればパフォーマンスが上がるのは確実なものだったんですよね。

だけど、そこにヒトとカネが莫大にかかっていて、外に出てみるとほとんどの会社さんで、そのようなことができてなかった状態があったので、「これは間違いなくくるだろうね」っていうのがありました。

なので、技術的なところとビジネス的な経験で説得性を持たせながら、「その先にこんな感じの世界観があるよ」みたいな話をしていて。遠ければ遠いほど視線はブレないと思うんですよね。近距離の戦場で戦うから、ブレて間違いやすくなるみたいな話があると思うので、徹底的に遠いところから考えるようにしていますね。

お客さんの声に惑わされにくいのも、そういうポイントかなと思います。

庵原:そうは言っても、投資家はけっこう渋いと思うんですけど、いっぱい回ったんですか?

倉橋:勉強のために回りました。

庵原:嫌いな投資家とかも?

倉橋:いやいや、結局はわからないんで。

木下:選び放題ですか? プリンスすごい(笑)。

倉橋:なにが違うのかわからないですけど、違うんですよ(笑)。3,000万円くらいから数億レイターで出す投資家さんまでお時間をいただいて、ぜんぜんフェーズじゃないねっていうお話もあったんですけど。

木下:それは1回目の資金調達の時ですか?

倉橋:はい。だから、どういう人がどういう思考回路を持っているかは、わからないんですよね。投資家さんという生き物がわからないので、知らないとお話にならないと思って。

木下:まったくプロダクトも無い会社はVCのアポも入りにくいイメージはありますが、どうやってアポをそもそも入れました?

倉橋:僕らの場合は、最初にファイナンスした時に、すべての投資家さんをリファラルでお会いさせていただきました。証券会社さんとか監査法人さんです。誰からの紹介かって、ものすごく重要だと思うんですよね。なので、そういう方たちにご協力いただけたのが、恵まれていたなと。

追い込まれた末に一番いい株主に出会えた

木下:わかりました。じゃあ最後に平田さん。平田さんも数字を実際に聞いたら、ストレッチしたファイナンスをしてきたみたいですけど、そのへんの反省とか、シードをどう超えるかみたいな話をぜひ。

平田:僕は選べなかったですね。あまり日本のスタートアップがやらないようなサービスだったので評価されなかったです。

しかも、実際にトラクションが付いてたわけじゃなかったので、19社くらい打診したのですがどこも興味を持ってくれませんでしたね。その後、そろそろ倒産かなと思った時に、ピーティックスの原田(卓)さんと岩井(直文)さんの紹介で、「プロダクトを見る目があるから、デジタルガレージと会いな」って言われたんです。

会いにいってプレゼンして、「いいね」って言われた次の日に決まりました。次の日までにデジタルガレージさんが投資先に速攻でReproの試用を依頼して。実際にReproを利用してくれた投資先の人が「すごくいいよ」と言ってくれたこともあり、即日投資が決定しました。

本当に運がよかったというか、追い込まれた末に自分たちの会社にとって一番いい株主に出会えたと思いました。

木下:ちなみに、デジタルガレージのVCはどなたですか?

平田:担当は猿川(雅之)さんという人なんですけど、オンラボ(オープンネットワークラボ)の人もすごく関わってくれていて、すごく助かりました。

木下:ありがとうございます。

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