2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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吉田浩一郎氏(以下、吉田):最初のテーマは、このセッションの題名でもある「動画の未来」。今日は満席に近いぐらい、みなさんに参加いただいていますが、やっぱり動画はインターネットにおける一番重要なコンテンツだと思います。
今までの新聞、あるいはテレビ、映画、YouTube。いろいろありますが、それのリプレースになるのか、それとも新価値になるのかも含めて、動画の未来はどうなっていくと思われますか? まず藤田さんのほうからお聞かせいただければ。
藤田晋氏(以下、藤田):非常にざっくりとした(質問ですね)。
吉田:(笑)。
藤田:(答えが)非常に難しいんですが、この2017年4月現在、ここで仕事をしていて本当に感じるのは、この市場はものすごく産業が混沌としている。これからなにがユーザーに支持され、なにがビジネスモデルとして成立するのか、まだみんな手探りのなかでやっているという感覚があるんです。
AbemaTVの準備が始まったきっかけとなったのが、Netflixが日本に上陸した時です。当時、かなり制作費を使ってドラマを作るうわさがありましたが、それによってテレビ局がどう対応していくかという議論が起こり、それがきっかけとなって我々はテレビ朝日と提携し、このAbemaTVをスタートしたんです。
最初は正直、テレビ局と組まなくても我々が発注したり仕入れたりすればできるんじゃないかと思ったんです。それが、AbemaTVを始めてみてテレビ局の存在は必要不可欠だったということがわかりました。そもそも、テレビ局がいないとAbemaTVの一番主軸となっているニュースが作れないんです。
それと、日本に来ているメジャーなコンテンツ。ワールドカップや、WBCももちろんそうですし、ドラマも含めて、コンテンツはほとんどテレビ局に集まっているんです。
それに、この狭いテレビ画面の中で圧倒的なクオリティを何年も作り出してきているテレビ局の制作のレベルはとんでもなく高い。サイバーエージェントが自社で番組を制作しようとしても絶対にかなわないんです。AbemaTVはテレビ局と一緒にやらないとありえなかったと思います。
そのようなかたちで、AbemaTVを1年やってきて、競合が出てきたらそこそこ嫌だなと思ってたんですが、まったく来る気配がないという(笑)。
吉田:(笑)。
藤田:正直、今年1年で200億の赤字を出してるので、これにみんながドン引きしたのか、……なんか競合がやって来ないから寂しいみたいなところがある。まあ寂しくはないんだけど。
本当に、自分たちだけの勝負というか、このビジネスモデルが成立させられるのか、ユーザーを集められるのかやっていますが、突発して伸びた1月は抜いたとしても、実力値でMAU(月間アクティブユーザー)が800万ぐらいなんです。それで今、外部の調査会社の結果を見てみると、NetflixやHuluと比較すると、無料であることもあってAbemaTVが圧倒的に一番なんです。
逆にいうと、一番一番で800万ぐらいということは、まだこういう動画市場が開拓されている最中であって、市場があるわけではないと言える。
そもそも僕もインターネット黎明期からずっとこの市場にいるのでわかるんですが、過去に「メールビジョン」とか「AmebaVision」など、動画に対するチャレンジをしてきたんですけど、インターネットの動画技術があったとしても、インターネットで動画を見る習慣がなかったんです。ただ、スマートフォンが出てきたこと、さらにWi-Fiが普及してきたことによって、急速に市場ができつつあるのが、まさに今置かれている状況。今後はこのようなかたちで事業をやっている会社が、いかに展開していくかで開拓されていく市場です。
吉田:動画の未来という意味で、今、テレビ局としても毎日テレビを配信されていると思いますが、彼らから見たすみ分けは、どういうところですか? 逆にいうと、そちらに奪われるとも思えるじゃないですか。テレビ朝日さんの温度感とか関わり方はどんな感じですか?
藤田:まず、テレビ全体的に若者のテレビ離れと言われています。サイバーエージェントの20代の社員に「テレビを持っているか?」と調査をしたら、3分の1は持っていないんです。そもそも家にテレビがない。今、電車に乗っても新聞を読んでいない状況。要は、若者がそもそもテレビの前に座って見ないという状況がけっこう広がっています。
なおかつ、テレビ朝日に関していうと、ドラマは刑事もの、医療ものが多いから顕著ですが、シニア層に的を絞って成功しているケースが多い。もちろん、それだけでは決してないですが。
そういう意味で、すみ分けというか、AbemaTVで若者向けのコンテンツを制作し、若者向けのクライアントを獲得し、地上波のほうではシニアが中心になるという。ある程度自分たちの中ですみ分けができるようになってきています。
吉田:テレビ局さんとしては、テレビ離れが前提のなかで、そこを埋める新しいメディアとしてAbemaというものを捉えている?
藤田:僕はテレビ朝日の番組審議委員を5年やっていて、バラエティ番組にしても報道番組にしても見ますが、ちゃんと見てみると、僕もテレビを離れていたタイプですが、やっぱり相当おもしろいんです。
なぜ見ないのか? やっぱりテレビの前に座らなくなっただけで、見ればおもしろい。のぞき込んでいるスマホで使いやすいかたち、ユーザビリティの高いものに加工して送り込んであげたらいいんじゃないか。このAbemaTVはユーザビリティを非常に強く意識したサービスなんです。そういう意味で、テレビ離れというより、テレビのデバイス離れみたいなものだと思うんです。
だから(テレビ局は)コンテンツを作る能力は圧倒的に高いので、それをAbemaTVのようなかたちで、手元にすぐに見られるよう送り届けていくように頭を切り替えた。
吉田:そういう意味だと、ほかのテレビ局もおそらく危機感としては一緒のはずじゃないですか? 今お話しいただいた部分はあると思いますけど。
藤田:なぜ混沌としてるか。例えば、日本テレビはHuluをやっている、NHKはNHKオンデマンドをやっている、あと各局が使っているTVerもある。
例えば、TVerは無料で見れる広告モデルなんです。ドラマの見逃し配信などが中心ですね。Huluとかフジテレビオンデマンドは、いわゆるNetflixに近しいもの。すごく伸びているものでいうと、Amazonビデオです。それは月いくらという定額課金のもの。
いろんなビジネスモデルやサービスが入り乱れ、DAZNとかスポナビみたいなものも出てきている。それはスポーツ中継をやっているので、いろいろなものが入り乱れている。ビジネスモデルもさまざまです。
吉田:ありがとうございます。そういう意味では、AbemaTVさんはテレビの新しいかたちというか、未来を作っていると、私は受け取りました。
一方でC CHANNELの森川さんは、動画の未来をどう描いていらっしゃいますか? 既存のメディアからの価値の変遷も含めて語っていただければと思います。
森川:僕はもともとテレビ局にいました。
吉田:そうですよね。
森川:いろいろなテレビや事業をやりましたが、映像産業はもともと映画で始まっています。映画はフィルムと劇場、その2つのセットが生まれてから映画という産業が生まれた。テレビが出た時は、生放送とテレビ受像機が生まれた。ある意味、制作する機械と見る機械が同時に変わることでイノベーションが起こった。
今回、スマートフォンが出てから、スマートフォンで撮って見る時代が来るんじゃないか? それがきっかけで、そこからどう落とし込もうかなと思っていたんです。
僕自身、以前、検索の事業をやっていて、いろんな情報があるなかでだんだん検索のニーズもテキストから写真になって動画に変わってきた。なので、ある意味、動画のWikipedia的なものができたらいいなというのが最初のきっかけでした。
どちらかというと自社で作るよりもUGC(注:User Generated Contentsの略。ユーザによって制作されたコンテンツ)メインで、おもしろ動画とかじゃなく、データとして意味がある動画が集まってきている。それがいずれデータとしてたまると高い価値になるかなと始めたんです。
実際やってみると、意味がある動画を作る人はすごく少ない。やっぱり敷居が高いし、今だとSNOWとか、そういう動画カメラもありますが、どちらかというと自撮り系の動画が多い。
吉田:なるほど。ちょっとカジュアルな感じですね。
森川:あんまり誰も見たくないみたいな、そういうものもあったりして(笑)。
吉田:(笑)。
森川:もちろんクリッパーの人には作ってもらいますが、一方で自社のスタジオも作って、意味がある動画を作っている。メディアを目指しながらも、データとしてどれだけ価値が出るか、そういうところにこだわっているので、提供する動画によってアプローチや狙いどころが違ってきていると思っている。それが1つ。
あとは最近、若い人たちのソーシャルメディア活用が強くて、アジアだとスマートフォン=Facebookなど、そのような感じなので、いかに見やすい動画を作るか、そのあたりもこだわっているところだと思います。
吉田:先ほど紹介にあった雑誌というキーワードでも出てきました。今のお話の文脈のなかで、どこらへんが雑誌との関係になるんですか?
森川:一番大きいところは、女性のためのハウツーみたいなところです。なので、単純にモデルさんがきれいだとか、それもありますが、ファッション情報やヘアメイク情報とか、そういう情報がほしいわけです。
文字とか写真だと見にくいものが動画に変わってきている。かつそれが、無料でソーシャルメディアに流れると非常に見やすく、活用しやすいところがあると思います。
吉田:なるほど。今、創業からコンテンツへの考え方へ変遷するなかで、女性の雑誌のコンセプトというのはどこらへんで入ってきたんですか? 創業当初からですか?
森川:コンセプトは一緒でしたが、流す情報はぜんぜん違っています。最初はグルメ、旅行、ショッピングとか、そういう動画を提供していたんです。すごく個人の好き嫌いが激しい分野です。
例えば、ある女の子が「銀座の久兵衛で寿司を食べました」と言うと、「なにあの子、男性からごちそうされて」みたいな、そのコンテンツにすごくネガティブに思われる。
吉田:(笑)。
森川:やってみて、好き嫌いが激しい分野はなかなか難易度が高いなと思いました。「なるべく多くの人が好んでくれるようなものってなにかな?」と考えると、よりハウツーに向かうほうがよかった。そこから中身が変わっていきました。
吉田:そのままコンテンツのお話に入っていきたいと思います。今ちょうど森川さんから、ハウツーというお話がありましたが、コンテンツは今、内製で作られていらっしゃるんですか?
森川:全体のうち2割が内製です。8割はクリッパーさんや一般の人の投稿。僕たちはF1層(注:20歳~34歳までの女性)がターゲットなんですが、なるべく人が映っていないほうがよかったりします。
吉田:そうなんですか。
森川:難しいのは、メイク動画でも、きれいな子がやっていると、「あの子きれいだからメイクがよく見えるんじゃないの?」と。「私はそうでもないから……」みたいなコメントがある。一方で、そんなにきれいじゃない子のメイク動画だと、「きれいじゃない」みたいな。
吉田:なるほど(笑)。
森川:人が映ってるとすごく難しいです。「手が汚い」とか、そういうつっこみがあったりするんですが、なるべく人の質によってブレないようなものが一番やりやすいところですね。
吉田:ちなみに、動画コンテンツの長さは、例えば、5分くらいあったほうがいいとか、10秒20秒ぐらい短いほうがいいとかあるんですか?
森川:基本1動画1トピックというかたちでやっていて、だいたい40秒ぐらいがせいぜいかなという感じです。
吉田:40秒。
森川:はい。なるべくちょっと早送りで短く情報が伝わるような、ゆっくり見たかったら止めて見る、そういうかたちで楽しんでいただいています。
吉田:そのハウツーのコンテンツとか、あるいは40秒というのは、アジア各国での違いとか共通性はあるんですか?
森川:実際には地域差があります。中国なんかだと長めのほうがウケたりします。だいたい5分ぐらいが一番人気だと思います。
吉田:けっこう長いですね。40秒からずいぶん(笑)。
森川:そうなんです。たぶんそれはWi-Fi環境で見ている、PCで見ているなど、いろんな環境があるのかなと思うんです。日本の場合は、女性の場合、ちょっと短いほうがウケる傾向があると思います。
吉田:じゃあ、それを各国でもうマネジメントを変えてやっていらっしゃる?
森川:はい。そうですね。
吉田:じゃあ、もう現地で地産地消というか、現地でほとんど作っていらっしゃるようなものですか?
森川:もともとは100パーセント日本で作ったものをローカライズしたんですけど、今はだいたい30〜40パーセントぐらい現地で作っています。スタジオで作って。
吉田:ありがとうございます。Abemaのほうで、テレビクオリティのお話が出ましたけど、なにかそこらへんのこだわりとか、あるいはテレビとの違いもあれば教えていただければと思います。
藤田:AbemaTV全体で常時30チャンネルぐらいあります。
吉田:めちゃくちゃすごい数がありますね。
藤田:そうですね。
吉田:一応、24時間やっている……。
藤田:そうです。専門チャンネルもあれば、総合的なチャンネルもある。例えば、吉田さんが見てくれている麻雀チャンネルでも、過去の試合を仕入れて流しているものもあれば、我々がオリジナルで作成しているものもあるんです。
1チャンネル目にあるAbemaNewsは、ずっと報道番組を流し続けていますが、これは自前の制作です。
AbemaTVのスタジオはテレビ朝日内のけやき坂スタジオに公開スタジオが1つと、原宿駅前の公開スタジオが1つ。さらにChateau Amebaという一棟ほぼ丸ごとスタジオの3つを自分たちで持っています。そこで番組制作をしていますが、今までのインターネット番組にはちょっとありえないレベルのテレビクオリティ、テレビと変わらないだけの金額をかけたものになっています。
ちょうどここに来る前も、AbemaTVが今後作っていくドラマの打ち合わせで監督と会っていました。ドラマもやっぱりテレビと同じぐらいの規模の予算をかけないと、当然、視聴者も目が肥えているので、そういった目線で作っています。
吉田:ちなみに、そういうなかでは、やはりNetflixさん、Huluさん、あるいは今日ニュースで出ていましたけど、YouTubeも本格的にテレビ系のものを始める。あるいはFacebookも動画にシフトをしている。その差別化のポイントはなにかイメージされていますか?
藤田:差別化ではないすが、やっぱりNetflixの起爆剤になった『House of Cards』など、オリジナルドラマがそうです。そこでしか見られないキラーコンテンツ。キラーコンテンツが必要だとみんな言いますが、キラーコンテンツなんてそう簡単ではない。
吉田:まあ、そうですよね(笑)。
藤田:やっぱりドラマで当てるか、スポーツになる。
吉田:なるほど。
藤田:AbemaTVでいうと、実は去年、開局直後に熊本地震が起きたことが、報道を常にやっていることでボーンと伸びた。狩野英孝さんがスキャンダルで記者会見するとボーンと伸びたり。
吉田:(笑)。
藤田:報道も大きいですけど、報道はちょっと他力的なものがある。「事件が起きないと……」というのがあるので、やっぱりドラマを当てると大きい。
最近でいうと『オオカミくんには騙されない』というティーンが主に見ている番組がスマッシュヒットした。要はコンテンツを当てると大きいんです。
さっきいろんな会社が動画サービスを始めたと言いましたけど、いろんな会社が仕入れ始めると、今度ビッティングでコンテンツの価値が高騰化して、なかなか仕入れるのが大変になってくる。なので、今はそのような状況です。
吉田:コンテンツはテレビクオリティまでこだわっていらっしゃると。
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