南米の部族が使う毒「フライング・デス」のすごさ--麻酔開発の歴史をたどる

How "Flying Death" Has Saved Hundreds of Lives

数百年前ヨーロッパの探検家は、南米の部族たちが矢に毒を塗って狩りをしているのを発見しました。「クラーレ」や「フライング・デス」と呼ばれるこの矢毒は、後に麻酔の開発に大きく貢献することになります。この「フライング・デス」の作用が解明されたのは200年ほど前。ロバを使った実験などを経て、麻酔として使われるようになっていきました。今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、南米の部族の矢毒から始まった麻酔開発の歴史について解説します。

南米の部族が使う矢毒から麻酔が誕生

マイケル・アランダ氏:数百年前ヨーロッパの探検家は、南米の部族たちが矢に毒を塗って狩りをしているのを発見しました。この毒は「クラーレ」とか「フライング・デス」といった名前で呼ばれています。

クラーレを口に含んでもめちゃくちゃ不味いだけで、害はありません。この毒は血流に乗ると効果が発揮され、動作や呼吸をするはたらきを持つ骨格筋を麻痺させるのです。

ですが、このフライング・デスが研究されることで、手術で使われている麻酔が開発されたのです。

クラーレについての文献は1500年にまでさかのぼれますが、どのように作用しているかが解明されたのは200年前です。

例を上げると1800年の初頭には、3頭のロバの足の筋肉にクラーレを注射する実験を行なった博物学者たちがいました。

その結果はこうです。1頭は数分のうちに死にました。2頭目には足に止血帯を巻いて血流を抑制したので、1頭目よりは長くもちましたが結局死にました。

ですが、3頭目には肺に管を取り付けて、クラーレの効果が無くなるまでふいごで空気を送り続けたところ、生き延びたのです。

はっきり仕組みが解明されたわけではありませんでしたが、1800年の中頃までには破傷風や狂犬病によって引き起こされた重篤な筋肉の痙攣に対して、荒削りなクラーレを用いる医師たちがいました。

ショック療法を行なった患者に筋肉の痙攣が見られた時にクラーレを使う医者もいましたが、医学界で用いられる主流の方法ではありませんでした。確かな手法も確率していなかったので依然としてギャンブル的な側面があったのです。

南米の別の部族は独自に松ヤニを用いた毒を作っていました。ほとんどが植物由来のものでしたが、カエルやヘビの毒を混ぜ合わせて効果を高めているものもありました。

ペルーやエクアドルではツル科の植物である「コンドデンドロン・トメントサム」、ギアナやベネズエラでは「ストリクノス・トキスフェラ」という植物が用いられていました。

フライング・デスの正体を解明するまで

1935年には、イギリスの研究者たちが博物館のクラーレのサンプルから主要成分を抽出し、「ツボクラリン」と名付けました。

科学的には窒素原子など多くの要素を含むアルカロイド系の物質で、モルヒネ、カフェイン、キニーネなどと同じく人体に影響を与え、薬の有効成分でも重要な役割を持っています。ツボクラリンは大きな分子構造のため、他のアルカロイド系とは違って消化器官で吸収されず、効果を示すには血流に直接乗せる必要があります。

1936年にイギリスの別の研究者たちは、ツボクラリンの作用をさらに詳しく解明しました。神経筋接合部と呼ばれる、神経と骨格筋細胞との間で信号をやり取りする部分の作用を阻害し、とくにアセチルコリンと呼ばれる伝達物質と拮抗します。

通常アセチルコリンは、筋細胞の細胞膜から放出されるイオンによって電気信号が引き起こされ、それによって筋肉が収縮するという一連の活動をつかさどっています。

ところがツボクラリンはアセチルコリンと競合して同じ受容体と結合するのです。

アセチルコリンが作用しなくなると、神経を傷つけずに筋肉が動かなくなるので、手術の途中で患者が動いたり反応したりしないようにする麻酔に最適なのです。

手足や肺の周りにある骨格筋は、血管を構成する平滑筋や心臓を構成する心筋とは違う種類なので、クラーレが作用する部位は決まってきます。また、ツボクラリンの効果は一時的なもので、呼吸さえ続けておけばいずれ毒は抜けて、ロバの実験でもそうだったように死ぬことはありません。

1938年、あるアメリカ人が11キログラムのクラーレをアメリカに持ち帰り、製薬会社が彼の筋痙攣を治せる薬を開発してくれないかと考えました。研究者たちは大量に毒を研究できた結果、イントコストリンというツボクラリンと同じように筋肉を麻痺させる薬を合成できました。

1942年には、モントリオールで2人の外科医がイントコストリンを革命的な麻酔として採用します。麻酔は基本的に、手術中に患者の意識を失くすことで安全に手術を行い、患者も痛みを感じずにすませる目的があります。

患者が意識を失うまで半ば試しながらガスを吸わせていた時期もありましたが、クロロホルムのようなガスを大量に吸引すると中枢神経に影響を及ぼす危険性もありました。

ですが1942年に2人の外科医がイントコストリンを筋弛緩の麻酔として採用し、シクロプロパンを併せて吸引するようにしました。25例の手術が無事行われ、2人はこの麻酔方法を論文として発表し大きな反響を得ます。

現在手術の際の患者の筋弛緩は、大量にガスを吸うという健康被害のリスクが大きい方法をとらずにすむようになりました。それ以来、筋肉を弛緩させる薬も数多く開発されてきましたが、完ぺきな薬はいまだありません。

思いがけず発見された「フライング・デス」という不思議な毒は、麻酔技術に革命を起こし、かつてないほど安全に手術が行えるようにしたのです。

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