小島英揮氏、自己紹介

モデレータ:それでは皆さん、大変お待たせいたしました。登壇者はアマゾンデータサービスジャパン株式会社マーケティング本部長でいらっしゃいます小島英揮さんです。タイトルは「デジタル時代だからこそのコミュニティマーケティングのススメ - JAWS-UGにおける実践例」。それでは小島さん、よろしくお願いします!

小島英揮氏(以下、小島):はい、皆さんこんにちは。今ご紹介頂きましたアマゾンでクラウドのマーケティングを担当しています小島と申します。今日は、イベントをもっと活用しようという趣旨の集まりだと思いますが、私のお題は「コミュニティ」。ちょっとイベントとは関係なさそうに見えるのですが、このコミュニティがいかにマーケティング活動に役に立つか、コミュニティを育成する時にイベントがどんなスパイスを持っているのか、このようなポイントを私の実践例・体験からお話したいと思います。

この通りやれば必ず成功するかはわかりませんが、いくつか皆さんのヒントになるような情報があるのでは、と思っています。まずは自己紹介。小島と申します。なかなかオジマと呼ばれません。コジマさんと呼ばれることが多いです。なので、コジマと呼ばれても普通に反応しますので大丈夫です。

(会場笑)

出身は最近某ブロガーが移住して最近話題でございますが、高知県です。「そんなにいいところだったかなぁ?」と思いながら私も時々読んでいるのですが、

(会場笑)

いいところです。高知出身なので四国遍路八十八か所結願者です。全部回りました。最後に高野山まで行っています。巡りたい方は「予算どれくらい?」とか「日数どれくらい?」とか聞いて頂ければお教えします。年がバレてしまいますが、バブル真っ只中の世代です。この銀座界隈、新卒のころ紙切れをタクシーに見せて札束に見せかけてタクシーを止めていた時代を思い出します。今、笑った人は大体年代が一緒ですね。

(会場笑)

時代による「コミュニティ」の意味の変遷

信じられないかもしれないですが、タクシーがつかまらない時代がありました。二時間くらいつかまらない。新卒の仕事は、先輩のためにタクシーを止めて、乗せて、見送る。こういう生産性のない仕事をしていた時代もございました。新卒で入ってからずっとIT業界でマーケティングをやっています。大体20年くらいです。

今の仕事、アマゾンデータサービスジャパンというところで、AWSというクラウドのサービスのマーケティングを担当しています。この会社の採用第一号ということで入りました。これは2009年12月なので、もうすぐ丸5年になります。ちなみに、このアマゾン知っている方どれくらいいらっしゃいますか? じゃあもう説明不要ということで、クラウドをやっています。

これを見せると時々、本屋のアマゾンとはロゴがちょっと違うので、バッタもんじゃないかと言われるのですが、ちゃんと同じシアトルに本社があります。たくさんのお客様にお使いいただいております。会社の話はここまででございまして、今日はコミュニティの話です。皆さんの中で、コミュニティに参加したり、もしくは総指揮したり、そういった経験がある方はどれくらいいらっしゃいますか?

結構いますね。コミュニティ、元々は地域に根差した、という言葉だったと思います。今はネット等の通信手段が優れてきているので、地域にとらわれず、趣味や目的、理念を元に集まるオンライン・オフラインの場をコミュニティという風になってきていると思います。私自身がコミュニティとどう関わってきたか、歴史を紐解きます。

コミュニティなるものに触れたのは1990年くらいです。Linuxコミュニティというものがありまして、当時相当の衝撃を受けました。なぜかというと、みんなすごくコミットしていたんです。色んな情報を出したり、答えたり、相当な時間を費やしているのですが、お金をもらっている素振りが見えないんです。どうやってこの人達は駆動されているんだ? 何で動いているのか非常に不思議でした。

コミュニティと情報拡散の相性の良さ

2000年頃、ちょうど当時勤めていた会社がXML関連の製品をやっていたので、またXMLコミュニティに少し関わるようになりました。ここで色々自社製品のことや情報を出すと反応がありました。その時に、「もしかしたら、コミュニティとは情報拡散にすごくいいんじゃないか」と。反応があると嬉しいんです。嬉しくてまた情報を出してしまう。

Linuxの時は、技術的に自分が全然ついていけなかったので、単なる傍観者でしたが、XMLコミュニティになって自分が関わる製品になってくると当事者になっていきました。これは自分の力を拡張するだろう、という感じがしました。同じころ、電子申請推進コンソーシアムという、官公庁への届出を電子化しようという団体があり、この座長をやっていました。

これは100%ビジネスの集まりで、コミュニティではありませんでした。100%ビジネスだと、僕が今までやっていたコミュニティとはちょっと違いました。ビジネスビジネスしているのは、やはりちょっと違うのでは? と。そして2006年、アドビという会社にいまして、Flashのテクノロジーをシステムに展開するためのFlexというフレームワークを立ち上げることになり、その時にFlexのディベロッパーの方と一緒に一からコミュニティを立ち上げ、この頃に確信しました。コミュニティはすごくいいマーケティングツールだと。

「JAWS」のコミュニティ運営術

この確信をもとに、アマゾンに移り、作り上げてきたコミュニティ、Japan AWS User Group、略してJAWS-UGというコミュニティがあります。これをどのように作り上げ、どのように広げてきたかのお話をすることで、皆さんにコミュニティの使い方のヒントを差し上げられればと思っています。これがJAWSというコミュニティのロゴです。これを貼っていると、「あなたもJAWSに行っているんですか?」みたいな感じでお互いを認知することが出来ます。

今、このコミュニティは全国に広がって、色んなご当地JAWSのマークがあります。例えば、中央線。これなかなかいいですよね? コミュニティは地域性から最近は遠のいているという話をしましたが、実際に集まるとなると地域性すごく大事です。なので、東京で始まったのですが、東京だけにコミュニティがあってもうまく回りません。近くに集まる場所が欲しい、ということで色々なところが出来ていきます。

面白いのは静岡県。静岡県にはJAWSのコミュニティが二つあります。JAWS静岡とJAWS浜松。静岡県出身の方、いらっしゃいますか? 浜松は静岡ではない、というのが非常にあるみたいなんです。行政規格上、たまたま静岡になっているけど違うものです、と。江戸時代・戦国時代見てください、違うものです、とそこまで遡って、そうなんだと。コミュニティつくるのであれば、静岡だけではなく、浜松も必要ですよね、ということでJAWS静岡が出来る一日前に浜松が出来ています。そんな地域性、大事です。

ユーザーコミュニティからのフィードバックはとても参考になる

これなんでしょう? ピンクのJAWS。これは女性オンリーの会合でございます。今日はマーケティングのイベントなので結構女性の方もいらっしゃいますが、ディベロッパーの集まりになると女性は非常に稀有な存在なんです。女性が勉強会に来ると何が起こるか。男性からの視線がすごいんですよ。で、すごく嫌だと。ますます来ない、と。じゃあそのブロッカーを排除しようということで男性禁止。

女性しか行けない。これやると、女性が非常にたくさん集まる。潜在ユーザーを掘り起こすわけです。こういうこともやっています。ちなみにアマゾンの社員だとこれに参加できるという特典がございます。今絶賛採用中ですので、

(会場笑)

彼女いない、女子会に参加したいという方は後でこっそり。

(会場笑)

こんな感じで広がって大体日本全国で45支部。ちょっと北陸界隈は弱いかな、という感じですが、九州・四国は全県制覇しています。もし、皆さんのブランドとか商品で、これだけユーザーコミュニティがあったら結構良いと思いません? グラスルーツで、情報提供するとすぐ広がったり、色んなフィードバックが来る。これすごく良いです。

ひとつの机からのスタート

これがどういう風に出来たかという話を今日はしていきたいと思います。今から五年前、先ほど2009年 12月にこの会社に入ったと言いましたが、入った時のオフィスはこんな感じです。アマゾンジャパンのフロアの中にぽつんとひとつ席がありまして、「君のオフィスは今日からここだから」と言われて来たのがここです。その時まで、僕はアマゾンジャパンに入ったと思っていたんです。アマゾンジャパンの中にAWS事業部があると。実際は会社から別だった。

だけど建屋は一緒で、このひとつの机から始まっています。無い無い尽くしでした。5年前、考えてみてください。今、クラウドと言えばなんとなく使ってもいいかな、と抵抗感が少なくなってきている。実際、お客さんも大手からスタートアップまで幅広く使っていただいているわけです。

しかし、当時はとんでもない、と。信用できない、という雰囲気ですし、援軍も何もいない。こういう状態でした。その時にシアトルのチームと色々話をして、つくっていったのがこのような図です。

皆さん、お客さんをどういうセグメントで分けますか? よくこう三角形を作って、上から大企業、中堅企業、SOHOとか中小企業、とまぁこんな感じで分けることが多いと思います。我々はお客さんとの接点の多さで分けています。上はダイレクトタッチと言って、かなりお客さんに寄り添っていないとなかなか会話が出来ない。

当然リターンがあるだろうということでそういうことが出来ますが、ある程度手をかける必要があるお客さん。ワンタッチとは一回ガイドすると、あとは自分で出来る。でも初めはワンタッチが必要です。一番のボリュームゾーンが、クラウドデスクのセルフサービスと我々は呼んでいます。自分でどんどんやっていただける方、結構多いです。(当時は)全然人手がなかったわけで、ここにリーチをするというのが非常に大事。

なので、アドビの時を含め、何回か経験があるコミュニティという媒体で、ここと上手く情報流通が出来れば、ということを考えて2009年当時からコミュニティをつくることを決めてスタートしました。ちなみにコミュニティを広げる部分というのは主にこのベースメントの部分です。この裾野が広がる。そして、ダイレクトタッチのパートナーさんで、この高さを広げていくと三角形の面積が大きくなる。こうするとセールスが大きくなります。

これがセールスの規模だとしたら、このベース、底辺を広げると高さが上がる、するとビジネスが大きくなる。このように両輪で行こう、というのを決めました。ということで、これからそれがどうやって進んでいったかという話をしたいと思います。コミュニティ、マーケティングにとってすごく良いです。

マーケティングにとって「コミュニティ」が有益なワケ

なぜ良いか。コミュニティが我々の代わりに勝手にお客さんを生成してくれます。そんなことあるのか、と思うかもしれません。例えば、趣味の世界。デジカメ、自転車が好きな人の集まり。こういう人達は言われもしないのに、同僚とか色んな人に「自転車良いよ」とか「このデジカメいいよー」とかどんどん言いますよね?

これが自社の製品やサービスについて語ってくれる人がいてくれたらどんなにいいことか。ちなみに、これを制度化されたのが、たぶんアジャイルメディアネットワークさん。こういうのをやっていくのに非常にコミュニティが良い。どんどん人に話しているうちに、どんどん自分もそのサービスを好きになってく。コミュニティの中でどんどんファンになっていく。コアなユーザーにどんどんなっていくんです。

表現が難しいのですが、あえてこう書いてみました。「炎上」を抑え込みます。炎上、というのは今ソーシャル、情報が出るのが早いので。例えば、クラウドの場合、障害があるんじゃないか、あまりよくないんじゃないかというのが、ばーっと広がった時に、我々ではなくコミュニティが「いやいや、そんなことないんだよ。そういうこと言っている人がいるけど本当は違うんだよ」と抑え込んでくれます。

これ、すごく強力です。我々ベンダーサイドが「そうじゃないんだよ」とやりだそうものなら、もう待ってましたとばかりに集中攻撃され、あまりいいことになりません。お客さんがお客さんに対して、いや、そうじゃないんだよ、と言ってくれるのはすごく効きます。なので、ネットで色んな情報が荒れるのを防いでくれる。

そして、情報の展開が早いです。人に話したくてしょうがない人が集まっているので、新しい製品の話が出ると、「あ、出たんだ」ってばーっと広がって、「使ってみたよ」「こうだったよ」というのがどんどん広まる。すごくたくさんのフィードバックが来ます。「使ってみたけどこうでした」「これがすごくいい」。我々が想像もしていないようなことを教えてくれて、これがまた製品にフィードバックされる。こういうことができる。

ここです(スライドを指して)、マーケティングキャッシュアウト。お金かかりません。なぜかというと、場所を借りたりとか、ものを買ったりしないので。その代わり、人的・時間的投資はかなり必要です。片手間ではなかなかコミュニティが出来ないので。いわゆるマーケティング予算を投入してやるものではないけれど、それなりに人の投資は必要です、ということです。

コミュニティがうまくいく秘訣は「Sell through the community」

我々の場合、採用にも効果的でした。ファンの人の中で、もっとAWSの仕事をしてみたいという人を採用できるので、非常に効果的です。アマゾン以外にも色んなクラウドやソフトウェアベンダーさんがいらっしゃいます。コミュニティを上手くやっているところとやっていないところ、結構差があります。違いはどこか色々考えてみたのですが、たぶんこうなんじゃないかと思います。

コミュニティをうまく回せていない会社さんは、こういう勘違いをします。この人達、お金にならないじゃない。すでにソフトを買ってくれていたり、使ってくれていたり、いくらプッシュしたってこの人達もうお金生まないでしょ、みたいな雰囲気があります。あとはディベロッパーの方が中心だったりするので、決裁者じゃないじゃないか、と。こんな人達にかまっていても、あまり影響はないんじゃないか。

ここであまり効果がないと思う、そして追いかけないというのが良く見られる光景です。上手くやっているところは大体こういう見方をしていますね。「Sell through the community」この人達に売るのではなく、この人達を通して色んなインフルエンスを与える。この構図が出来ないと絶対に無理です。今日は同業の方はいないですよね? はい。

(会場笑)

一応、秘伝の考え方なので。ここがすごくキモです。意外に皆さん気が付かない。これがいわゆるアンバサダーの動きをして、どんどんお客様を広げていく。もしくは間違った情報をどんどん都市伝説をバスターしてくれる。こんなことになるわけです。