プログラミング可能な知的労働者は全滅する

秋山:あとは残り時間、会場からのみなさんのご質問に対してお答えいただくという感じのセッションにしていきたいと思いますが、どなたかご質問はいかがでしょうか?

質問者1:秋山さんに。今、最後にまったく違う意見だとおっしゃいましたので、それをトークしていただけたらと。

(会場笑)

秋山:すいません。手短に言います。私は自分の思考回路や行動様式をほとんど自覚できているのです。なんていうと偉そうですが(笑)。どういうふうな状況になって、どういう変化があれば、どういうふうに行動するかということは、あらかじめ式で表現できると思っているんです。

だから、人間というもののほとんどの人が、自分もそうですけど、こういうシチュエーションでこういう掛け算して、こういう変数入れたらこうなるって、プログラミングできるのではないかと思っているので、おそらく自分クラスのレベルの知的労働者というのはもうほぼ全滅するだろうと認識しているのです。

そんなことで、みなさんのようにあまり楽観的な意見はまったく持っていないということでございます。

すいません。それでよろしいでしょうか(笑)。

(会場笑)

秋山:あと、他はいかがでしょうか?

生活が成り立たないと賃金としての役割を果たさない

質問者2:貴重なお話をありがとうございました。質問は1つなのですが、今日の最初のお話の中で、日本における同一労働同一賃金は非正規と正規の格差是正の文脈というお話は非常に理解ができました。

ただ、その大前提として、じゃあ正規の賃金体系が適正なのかというところで、今日も出ていましたが、やっぱり職能で同一労働同一賃金にいくということは、基本的に職務給にならないといけないと思うのですが、職務給にするためにはジョブ・ディスクリプションがきちんと書けないとならなくて、それが難しいからこそ、役割給が普及しているという理解なのです。

その辺はどのようなアプローチをしていけばいいのかということを教えてください。

山田:これは山本さんへ。

秋山:あとで専門家がいますので。あちらに振りますので。

山田:賃金はすごく難しいのです。いろんな要素があって、少なくとも最低クリアしないとダメなのは、1つはまさにその仕事に対しての対価ですよね。でも一方で、生活できないとやっぱりうまくいかない。

やっぱり生活を……生活というのは、家族として生活していくということです。もちろん1人で生活しているケースもありますが、それも含めた家族が成り立っていくためということじゃないと、賃金の役割を果たさないのです。

そう考えると日本の年功賃金は実は合理的なのです。それは社会の仕組みとして、男性が働いて、女性が家にいるのが当たり前だったころは。基本的には子どもの教育コストや生活費など、いろんなコストは男性が稼ぐ。それで全体が成り立っていたので、実はものすごく合理的にできていた。

ところがこれが、やっぱり社会の変化によって、男女が働いていかないとダメになってきたので、同一労働同一賃金の話が出てきているという、そういう文脈なのだと思うんですね。

それで職務給でないとダメかというと……結局、日本のあり方というのは、まさに個人が生活していくためのコストを誰が払っていくのかという部分ですね。そこに対して社会としてどのように仕組みを作っていくかという話をしていかないと、たぶん職務給を入れてやったとしてもうまくいかないのです。

これを言うとあれですが、成果主義というのはそういう発想だったのです。そこだけを取り上げてやっていく。でも、生活があるからうまく回らない。

社会全体で子育てする体制を

山田:それともう1つは、やっぱりおっしゃるように、賃金制度もそうなのですが、ベースにあるものは、今日の話にもありましたが、ある程度労働移動があって初めて本当の意味での職務給が成立すると思うのです。

これを言うと本当にお叱りを受けるかもしれませんが、日本の今の風土で、少なくとも外資系の世界と一部の企業を除くと、名前は職務給といっても、これは本来の職務給ではないと思うのです。役割給という言い方でもいいのですが、要は職能給ベースで、これは、昔はポストと資格で分けてやっていたのを、ポストに連動される仕組みにしたということです。

だから、その分というのは、賃金制度のところをやっぱりおっしゃるように変えていく、それでジョブ・ディスクリプションをやるということも大事なステップの1つなのでしょうが、ただ、それよりはもうちょっと社会全体が変わっていかないとワークしない。本当の意味で職務給がワークするには、ジョブ・ディスクリプションの問題というよりも、労働市場ができあがってきて。

たぶんジョブ・ディスクリプションは、外資でもみんな入れていないですよね。入れているケースもありますが、実はやっていないケースもけっこうあります。教科書的にはそう言われていますが、私としては、本質はそうではなく、賃金制度というより雇用制度というか、そこでどう流動的なものができるのか?それから実は裏側にある生活のコストを誰がどう賄っていくのかなど、その問題があって初めて本当の意味で成り立ってくる。

だから、私はそういう意味では、社会改革などがこの先、人口動態という話をしましたが、そこからそういう方向に持っていかざるをえない。だから、流動的なものができあがってこない。ですから、こういうのを作るのが必要だということですね。

まあ、スウェーデンの話をちょっと言えば、もうちょっと社会全体で子育てしようといった、やっぱりそういう議論を本当にやらないと、同一労働同一賃金の世界には近づいていかないのではないかなと考えています。

正社員の賃金体系を変えていくことが難しい

中村:まさに正社員の賃金体系を変えていくということがとても難しいと思っていまして。「どうやったら変わるんだろう?」と考えた時に、大手の製造業など、日本的雇用環境を堅牢に、かつ、国際的にも極めて競争力高く成立させている企業群が、今、職能資格制度であることを職務等級に変える必然性は実はないと最近思っているのです。

そういった意味でいくと、例えばIT、サービス、介護といった成長産業と言われている第三次産業、これから日本で伸びていく業種や企業群のところで、より将来性があるような、職務等級も含めた制度が入っていく可能性があるんじゃないかと思っています。

要は、日本的雇用といって全部の話をまとめてするのではなく、業種や職種に分けて、賃金制度の改革など新しい制度の仕方を議論していくということがありえるのだろうと最近考えています。

ここら辺で山本先生にバトンを渡したいのですが。

秋山:元プライスウォーターハウスの人事コンサルティング部門のパートナーの山本さん、お願いします。

(会場笑)

マクロなのか各会社によるものなのか

山本紳也氏(以下、山本) :たまたま3人とも知り合いなので、私に振られたのだと思いますが。

まずは、ためになるお話ありがとうございました。一つひとつの話はとても面白かったし、勉強にもなりました。ただ、正直言うと、3人のお話を聞いて、私の頭の中で整理できていないこともありまして。すいませんが、ご質問に答える前に質問なのですが。

秋山:職務等級……ご質問は、職務ベースの例えば評価とか、その等級レベルの設計が難しいものに対してはどうしたらいいですかという、まずその簡単なところから。

山本:いや、多分、それが僕の質問とおそらくセットだと思います。まず、その同一労働同一賃金という議論は、要はマクロのもので国として政策的に同一労働同一賃金を入れたいという話をしているのか、会社として「お前らしっかり考えろよ」という話を、個々の会社の閉じた中で「同一労働同一賃金は守らないとダメでしょ」という話をしているのでしょうか。

秋山:今までの話でいくと、きっと山田さん的には今回の同一労働同一賃金の世界観を入れることを通じて、ある種この国の中の労働慣行そのほかのシステム自体を全面転換したらどうかというご意見だと思います。

中村さんのほうは、今、中村さんがどうかではなく、まず厚労省側で進めているプロジェクトの中で、主流の意見となっているのは「それは話としてはあるかもしれないけど、難しいから……という段階においては、それぞれの会社の中で、特にメインのところは、正規と非正規みたいなところは、もういくらなんでもそこの部分はちゃんとしてよ」という感じの意見に収斂しそうだと、司会のほうでまとめますとそんな感じのご意見の状況ではないでしょうか。