1対1のコミュニケーションの大切さ

松下恭子氏(以下、松下):私のキャリアは、一番最初と今が日本で、ほとんど日本の外です。

どうやって自信をつけていくかは人によって違うと思うし、文化によっても違うと思うんですけど、海外で私がチームをマネージしているときは、みんなにその場で言っていました。

自分の考えを「I think」って言って、「I don't think」「I don't agree」みたいな感じでバンバン議論が広がっていって。私は欧州を見てたんですが、トップ5の国でメンバーそれぞれが、ぜんぜん違うノリで話していくんですよね。もう収集つかなくて、最初、私はまとめられなくて泣きました。イギリス人、フランス人、ドイツ人、イタリア人みたいなメンバーで。

でも思ったのは、やっぱり基本的には、自分のことを理解してほしいという気持ちがあっての話なので、彼らはダイレクトに言ってくるんです。その場で解決することをリーダーに求めて来るんですよ。

でも、やっぱり1対1のコミュニケーションが大切なときもいっぱいあると思います。でも、それは、海外ではあまり……。1対1で過ごす時間というのは、日本だけではなくてアジア全体が大切にしているんですけど。

そういうアプローチをちゃんと理解できるリーダー。それは女性でも男性でも求められているリーダーシップだと思うんですが、そういうところへの敏感さとか柔軟性を持っている人が、自信がない人に「やってみたら?」って言える。「失敗してもいいんだよ」ということを「1回ちっちゃい失敗をしないとわかんないよ」ということを、1対1で誰かに言ってもらえるか言ってもらえないかって、大きいと思うんですよね。

私も30代くらいのときはそんなことわかっていなかったんですが、たまたまそういうことを言ってくれる上司に出会えました。「失敗してもいいじゃん」って。10年以上前ですけど、まだ覚えてるんですよ。

あのときはよくわかってなかったんですけど、そういうきっかけや、ああいうふうに言われて、今、ああやって動いてよかったなと思っています。私の場合は1対1の環境で言われたので、すごく印象に残っていますね。

トップダウン時代の終焉

浜田敬子氏(以下、浜田):先ほど松下さんは、日本にも多様なバックグラウンドの人たちが入ってきて、職場環境も多様になってきてるとおっしゃったんですけども。私は逆に、そういう時代は絶対に女性のほうがリーダーシップをとるのに向いていると思っているんです。

日本企業ってすごくモノカルチャーで、男性、日本人が多数ですよね。そんな中では、これまでと同じマネジメントスタイルでよかったと思うんですけど、いろんな価値観がいる人をまとめるって、大変だったと思うんですね。そのときに一番大事なのは、「コミュニケーション能力」と「共感性」だと思うんです。「この人が考えていることは、たぶんこういうことで」ということを推し量るのは、女性のほうがわりと得意だと思っています。

だから、ますます共感性を持って、コミュニケーションを丁寧にとりながらまとめていく。オレオレで上から引っ張っていくリーダーシップよりも、むしろ下からみんなをまとめて、押してあげるようなリーダーシップに変わってきてるかなと。

松下:変わってきてますね。それはそう思います。

浜田:リーダーシップの在り方自体が。

松下:そうですね。10年前の、自分がジュニアのときのリーダーは、トップダウンで話をして。海外でも日本でも関係なく。

浜田:力強い。

松下:でも、今のリーダーシップは、英語だとDistributed Leadershipと言っています。みんなが持っている知識とか専門の部分を集めて、それをうまく吸い取ってまとめてあげて、次のステップの話ができるのがリーダーだと。

浜田:そうだと思います。

松下:とくにものづくりの世界はそうなんですけど、デジタルとか、私たちみたいな広告の世界でもそうなんですよね。「トップダウンであることがリーダーである」ということはないと思いますし。これからはとくに、1人で決められることはもうないと思います。

テック系のエンジニアのナレッジが必要であったり、実際の流動的なマーケットの情報を持っている人であったり、そういう人たちのナレッジが全部自分にあるわけではないので、そういう人たちとどうやってうまく進めていくか、ということを考えられるリーダーシップが求められていると思います。

日本的意思決定の利点と欠点

浜田:本当にマルチタスクというか、頭の中でいろんなことを、点と点の情報をうまく編集して、結果を出すということがリーダーの仕事になってきていて。そうすると、情報の感度とか、好奇心もそうだし、すごく女性に向いているなと思っています。

反面、私自身もちょっと反省があって。ちょっと弱い面もあるなと思うんです。自分自身を見ても、後輩を見ても。

それは、やっぱり、決断力なんですよね。決められないわけじゃないんですけども、決めるのがちょっと遅いなと思っていて。それはなぜかと言うと、完璧主義だからなんですよね。

例えば何かを決断するときに、ありとあらゆる情報を100パーセント入れて、理解してからじゃないと決断しないから、ちょっと仕事が遅くなってしまって。私も編集長のときに、副編に女性がたくさんいたんですけども、いつも言ってたのは、「とにかく仕事に優先順位をつけて」ということです。

1個1個、丁寧に丁寧に、作品を作るみたいに仕事していくので、しかも女性って、現場の仕事が好きな人が多いんですよね。だから、人に任せるということをしないで自分で全部やろうとする。そうじゃなくて、「任せるところはどんどん下の人に振って、自分がやることだけに集中して」ということは言ってたんですけど。そのところが、やっぱり経験の無さもあると思うんですけど、ちょっと苦手かなぁ、と思っています。

松下:なるほどね。私は、今の業界とかその前の業界も含めて、日本に戻って来て、「あ~やっぱりすごい、さすがだ、日本」って思うこともいっぱいあって(笑)。日本人の仕事って、やっぱり丁寧なんですよ。スピードは確かに遅いんですけど。

シンガポールなんて、すごく前のめりなんですね。でも、物事がちゃんと事前に検討されてないというか、不完全な状態で物が世に出るっていう。

浜田:ぶん投げちゃうみたいな。

松下:そう、ぶん投げちゃう(笑)。「ちょっと待った!」みたいなケースが多い中で、日本の人たちのスキルはすごく高いと思います。

遅くてもいいことに関しては、そっちのほうが絶対いいんです。だけど、デジタルな世界では早く出さなきゃいけないこともあるので、そこのバランスを判断できる、意思決定ができる人材やリーダーシップを育てていかなきゃいけないなというのはあります。

私は海外でやって来て、雑な部分で覚えてきちゃってる部分もあるので、反省もしてますし(笑)、正直今も学んでもいますし。外から戻ってきて、改めて「すごいぞ、日本」という意識もあるので、そういうことも、もっと話していきたいと思っています。

チームビルディングのおもしろさ

浜田:逆に、リーダーとかマネジメントをやっていて、すごく楽しかったとか、やりがいがあったみたいなことは、どんなことですか?

松下:いつもそれなりに、笑いと涙の繰り返しですけど。やっぱり、リーダーとして求められているものは、みんなが自分の力を最大限に発揮できる環境づくりだと、私は思っています。やっぱりビジネスは人ありきだと思っているので。

そういう意味で、私がこの数年、ビジネスを拡大するにあたって、どういう人材がこのビジネスに必要かとか、私が作る組織にとってどういう人が大切なのか。ということを見ていくのが、本当にワクワクするところです。

それが広告であったり、ゲームであったり。前職はゲームだったんですけど、業種ににこだわっているというよりは、その業界とかそのビジネスに合った人材と組織を作っていくことに、私は今、ものすごく楽しみを覚えています。

浜田:チームビルディングのおもしろさ。

松下:チームとか組織を作っていくので、その組織自体が、また新しい人材を作っていけるような仕組み作りとか、基盤を作ることというのが、私がこの数年、学びながら楽しんでいて、今後も絶対にやっていきたい部分です。

そこは、今このポジションに置いていただいている会社の中で、すごく楽しいなって。毎日問題はいっぱいありますけど、「あぁ、楽しいなぁ」っていうのはありますよね。

浜田:人が育っていくのを見るのは、すごく楽しいですよね。

松下:楽しいですね。

浜田:あと、加えて言うなら、1人でできる仕事のスケールやスピードって限られていますよね。とくに私は編集の仕事だったので、企画がいくつもポンポン、ポンポン思いついたとき、1人だと全部はできない。

だけど、「こういう企画やる、こういうのやってみよう」というときに、ワッとみんなが一緒になって。そのスケールの大きさとスピード感というのは、リーダーじゃないと、なかなか体験できないかなと思って。

松下:そうですね。

辞めてしまったらわからないことがある

浜田:実は、私が編集長だったときに副編集長に上げた女性は、最初、子供がいたので躊躇したんですよ。「ちょっと副編集長はできないかもしれない」と。夜遅くまで働けないし、親も福井にいて、なかなか来てくれないからっていうので。

だけど非常に優秀な女性だったので、「校了日だけは、なんとかベビーシッターさんと旦那さんに頼んで遅くまでやってほしい」と。ただ、「あとの日は、18時、18時半に帰って、できるときにちゃんとやってくれればいいから」っていうことで、みんなにもそれを言って、「全面的にあなたをサポートするから」って。

みんなに、18時、18時半に帰るので、17時以降に新しい用事を言いつけないとか、なにか打ち合わせがあったら15時くらいにやって、ということを言って、彼女が仕事をしやすいようにした。

そして1年経って「やってみて、どうだった?」と聞いたら、彼女は「やってよかったです」って言ったんですね。「なんで?」と聞いたら「自分1人でできた仕事よりも、ものすごくダイナミックな仕事にできる」ということと「人が育つのを見てるのは楽しかった」と言っていました。

なので、やっぱりみんな不安もあったりとか、「自分にできるかなぁ」と思ったりもすると思うんですけど、1度やるとやめられないっていうか。

松下:やめられないなにか、ありますね。私も広告から始まり、商品開発までやって、外の広告とかコミュニケーションっていうビジネスの世界まで、チェーンの中から外まで全部やったあとに、「自分はなににエキサイトするんだろう」って、35を過ぎてから見つけ出しました。

浜田さんも、副編集長になられたのがそれくらいの年齢だっていう感じですけど。やっぱり、それくらい経験を積んで、失敗も積んで、悩みながら仕事を続けてたから見つけられたのかな、と思います。もし辞めていたら、そこはわからないままだったと思うんですけども。

私も30から35くらいは、フラットな仕事をマネージャーでやってましたけど、あそこで辞めないでよかったなと。ペースはスローだったんですけど、あそこで辞めなくてよかったなというのはありますね。

ただ、海外にいたということもあるので、海外の体制というのは、確かに、日本よりも子供がいてもやりやすいと思います。まだ、女性のリーダーシップについて課題はありますけど、海外のほうが子供がいながらの仕事は確実にやりやすい。

なので、本当にこれからの日本の課題でもあると思います。そういう環境を作りは、自分のできる範囲で、今後も日本に自分がいる限り、絶対やっていきたいなと思っています。