労働サイドの交渉力アップは本来の同一労働同一賃金とは違う

秋山:同一労働同一賃金になったときに、お給料のお支払の仕方も変わってきますよね。今までは長期前提となっていましたが、これからは仕事にある程度値段も付けますよ、それで公平にやりますよと、いう感じになりますよね。

先日、こんな話があったんですよ。ある友達が、数年間、別の外資で働いていて、帰ってきたんです。立派な業績を収められて、すごく高い給料で帰ってきはったんです。ところが、中におった人はブーブー文句を言っているわけですよ。

「俺はこの会社で数年間、きちっと実績と成果を収めて、お金も儲けさせた。アイツは、よそに居て、その間ウチの会社にはお金を入れてないのに、なんでアイツの方が給料高いねん」と、そういうことを言ってブーブー怒っていたという話があるんですが、これが同一労働同一賃金の世界になってきたら、そんなんが普通になってくるということでよろしいでしょうか。

山田:どういった賃金制度を作るかにもよりますけれどもね。ベースの……実際はその、賃金というか、よく言われていますが、人の部分の職能的な部分と、職務の部分と、あとは成果で。そのような配合をどうやっているのかというと、職務的な発想が強くなって、業績のところもその時々で、割合をしっかりつけるということになると。

秋山:そうなると、長期的に会社に貢献するうちにだんだん業績を収めたり、出世していくような、そういった日本的なシステムと、いま言ったような、世界……ちょっと、なんか相性悪い感じになりますよね。

山田:相性悪いですね。ぜんぜん違うシステムですからね。だから、さっきも中村さんがおっしゃっておられたように、ヨーロッパの場合は職種別労働市場なのですから、これをベースに正社員間でやるし、かつ、拡張適用というのですが、これを非正規、いわゆる非組合員に対しても適用していく。その結果として正規非正規間でも同一労働同一賃金を実現すればいいというやり方なのですが、日本はこういう部分のベースがないものだからなんともできなくなっている。結局、非正規の方の処遇がドンドンドンドン悪化したのは、日本は組合が弱くなりすぎたのですね。

秋山:組織率12パーセントまで下がったというお話ですもんね。

山田:そうですね。かつ、やっぱり雇用維持、メンバーであり続けることを優先するので、給料の引き上げにはそれほどこだわらない。そして雇用が守られるのであれば、いわゆる非正規の人が増えても仕方ないという発想です。

だからそういう意味では、まずは欧米型ではなくて、日本型として正規と非正規の格差を是正するために、労働サイドの交渉力を今回つけようというのが政府がやろうとしたことなのですが、だからそれって本来の同一労働同一賃金とは違う。

シニア層も評価して活用していかないと組織がもたない

秋山:それで、本来の山田さん的な発想によるところでは、今回の同一労働同一賃金について政府が言っていることは、ちょっと筋が悪いという(笑)。

なんですけど、まあ、そういう筋の話だからダメだといわずに、これをちゃんと突き詰めていくことによって、外国人の方であったり、女性であったり、派遣の方であったり……いろんな働き方のタイプもひっくるめて、多くの人が働きやすくなるような、ある種“仕込み”を作っているのだと考えることもできるだろうと。

それによって生産性も上げて、大体の割り振りのところで、正社員・非正社員の間で戦うのではなく広げる意味で、この同一労働同一賃金をベースにしてダイバーシティーで儲けるぞ、みたいなことをこの本では書かれているのですが、そういうお気持ちであるわけですか。

同一労働同一賃金の衝撃 「働き方改革」のカギを握る新ルール

山田:そうですね。なぜそうかというと、これはある意味、きれいごとと思われる方もいらっしゃるだろうし、そういう面もあるかもしれませんが。ただ、次のページにちょっと行っていただきたいのですが、これはよく見る資料で、日本のさっきから言っている……メンバーシップ型の働き方というのは、前提が男性の現役世代25歳から60歳が、徹底的に働くと。そして女性は周辺的な労働しかやりませんと。

秋山:上が男性ですか?

山田:そうですね。この一番上ですね。

秋山:はい。

山田:これはもう、減っていっているんです。どんどんどんどんこの後も減っていく。もうずーっと減っていくんですね。一方で、女性は増える……まあ、日本の場合はまだM字カーブが完全に解消されていませんから、まだ上がっていくんですね。

それで、それよりもっと大きな変化というのがこれから起こってくるのは、シニアですね。どんどん今……。

秋山:僕らももうすぐ入りますね。

山田:そうですね。

秋山:わあっ、急激に上がってますね。

山田:そうですそうです。まあこれは、景気が良くなっているので。でもこの先、人手不足がですね……。

秋山:若年層が減ってますね。

山田:はい。30年前って、50歳後半ぐらいの人は職場にあまりいなかったですよね。

秋山:だって55歳定年の時代もありましたもんね。

山田:はい。それが今ですね……大勢……これからもっと増えていくんですよ……私もそうなるのですが、どんどん増えていくわけです。そこで、今ですと大手では役職定年で1回賃金を減らす。それから60歳でガクッと減らしますと。それでみんな同じような状況。まぁ個別主義もあるでしょうけど。

職場にですね、10人に1人くらいならなんとか回っているのですが、これからはですね、3人、4人といった状況になってくるわけです。そうなってくると、これはもうきれいごとでもなんでもなく“この人たち”……に自分もなっていくわけですが、シニアをしっかり評価して、しっかり働いてもらうようなモチベーションが回る仕組みにしてもらわないと、これはもう、おそらく組織がもたないと思います。

秋山:ちょっといいですか山田先生。大体ひどいですよね。五十何歳になったら、一律で役職を外されて、給料減らされて。それで60になったら、さらに半分……半分にはならへんか……。ひどい仕組みでしょ(笑)。

だって、能力はあるし、バリバリやってるのに、同じような仕事をしていていきなり給料下げるなんて、ぜんぜん同一労働同一賃金ちゃいますやん。

山田:違うのですが、ただそうでないと現状では企業は回らない。でも、結局そのような……やっぱり、人口構成の変化はすごく大きなインパクトになります。きれいごとというよりも、そう変えないと立ち行かなくなるという。

秋山:まず男の人なんかも、この落ちていく分を、ちゃんといい仕事をしたらちゃんと払いますよと。仕事に応じて給料を払うと。昔のように、年功序列で一生のし上がっていくのとは違ってというように、この辺の人にした方がいいし、どっちにしても増えていく女性たちにも、やっている仕事によって支払うと。コース別じゃないよというようにした方がいいし。それからわれわれみたいな高齢者層もそうだし、みたいな。

外国人にいたってはまさにそうですよね。コースとかどうとか言われても、なんのこっちゃという感じですもんね。

山田:根本として、それはすぐできるのか、など課題はいろいろありますが、そちらの方向を考えていかざるを得ない。だから同一労働同一賃金というのは、私からするとちょっと邪道から入った感じはありますが。でもそれ自体がやろうとしていることは、やらざるを得ない状況にだんだん追い込まれているのかもしれないのだなと。

「定年延長」した人たちまで同一賃金に

秋山:中村さんもどうぞ、お子さんもいらっしゃる働くママの観点からもお願いします。

中村:私自身も多様な働き方がしたいですね。しかし山田さんにおたずねしたいのですが。まさに同一労働同一賃金という話が、年齢や性別に関係なく仕事の役割や成果などで賃金が決まると、それならば高齢化の中でも、きっとみんながやりがいを持って働いていける、という気持ちはとってもよくわかります。

一方で(笑)。地裁で1回、高齢者の定年延長の人たちも、同一労働同一賃金にしなければならないという判決が出たことがあります。

秋山:そうだ! そうだ!

中村:(笑)。私がおどろいたのは、労働者団体の方でさえ「まさかそんなことが出ると思わなかった」と、中にはいうような判決だったんです。そのあと、高裁でひっくり返りましたけれども。

要は、今、年功序列賃金がベースにある中で、定年延長を一生懸命企業が義務化されてやっている最中なのに、その定年延長した人たちも同一賃金ということを、法律であったり裁判であったりで突然に求められても、あまりに急激な変化は耐えられないというのが……。

秋山:企業的には破産しますね。いきなりむちゃくちゃ人件費あがりますから。

中村:ということもあって、究極のゴールとしては、年齢に関係なく同一賃金となるのは賛成なのですが、どうやったらそこにシフトしていけると思っていらっしゃいますか?

年功賃金で生活給を賄わざるを得ない日本

山田:すでにね、現実にはそういう方向に、年齢による賃金カーブが30年前かなりたってたのと比べれば。だいぶといっても、まだまだ国際的に見たときには、たってるんですけど……。

秋山:たってるって聞いても、わからんかも。

山田:ごめんなさい。縦軸に賃金として、横軸に年齢を置いていった場合に、日本の場合は年功賃金ですから、年齢が上がると賃金が上がっていくのですね、現実は55歳ぐらいまでですが。

秋山:大昔あれでしたよね、定年直前に頑張るとガーッと上がるということが割と多かったですよね。

山田:それが、まさに20年前から10数年前ですか。いわゆる成果主義という流れのなかで、そのカーブの角度が、緩やかになってきているわけですね。ちなみに、それは国によってかなり違うのですが、アメリカでは結果的に、賃金カーブが実はあったりするのですが。

今日はその話をどこまでできるかわかりませんが、スウェーデンが大好きでして。

そのスウェーデンはほとんどフラットなのですね。北欧なんかは、ある意味徹底した同一労働同一賃金社会なのですが、もちろん能力に応じて決まっているのですが、日本の場合は年功賃金というのが生活、家族の維持費をすべてそこに……。

秋山:生活給と言うんですかね。

山田:生活給なんですよね、その裏側で女性が家庭で支えていて。ヨーロッパの場合は、昔はそれに近かったのが、今はかなり北欧などではそうではなくなっていて、男女の、それでもまだ差はあるのですが、かなり平等に働くようになってきていると。

そうなると、かつてほどは男性が奥さんを養うための生活費としての賃金が要らなくなりますから。それともう1つはですね、北欧はとくにそうなのですが、子どもに教育費が基本的にかからないのです。大学でも今タダですよね。それと、地域によっても違いますが、住居費が日本よりも低いと思います。

結局、日本の年功賃金というのは、家族の扶養と、子どもの教育費と、住居費とで高くなっちゃっているのです。

それが欧米の場合は、公的にやっていたり、男女がいっしょに働いてやっていたりなど、社会がぜんぜん違うわけですよ。だから賃金はそういう方向に徐々になっていっているのだけれども、たぶん社会の仕組みをそっちのほうにもっていかないと、結果的にはやっぱり問題が出てくるのですね。

いきなりフラットにしちゃうと生活ができない、だから当然今の既得権者、私もそうなんですが、急になると困るわけです。そこは方向としてはそういう方向に、実際に女性がどんどんどんどん働くようになって、まだまだ不十分とはいえ、20年前よりは管理職の比率も上がってきていますしね。

賃金格差も徐々に縮小してきているし、どれくらいかかるかというのは、社会全体としてどれくらい本気でやっていくかで違うと思いますが、方向としてはそちらのほうに向いていっているという。

ただ、それが意識的に生活インフラのようなところを変えていかないと、どこかで齟齬がもたされてしまうという感じです。

日本の大手企業は職務等級系が多い

秋山:ちょっと待ってください。長期的には、山田さんが大好きなスウェーデンもいいけど、そういった教育費なども含めて、社会的にあまりかからないようにする、といった感じのことを見据えつつ、短期的にはそもそも男の人は50歳過ぎたあたりからかなり給料がガッとあがる部分が、もともと下がってきてはいるし、そういった面では昔のような年功序列的な状況ではもうかなりなくなってきていますよねという話ですね。

山田:数字をみるとおそらく、基本的には役職を外れるとバッと下げて、でもそのあとが、けっこうバラついているのではないですかね。それから60歳で1度定年になりますが、まったくみんなが同じかというと、やっぱり成果などで差をつけ始めているというのが実態なので、スピードはゆるくても、だんだん同一労働同一賃金的な方向に、現実的には少しずつ近づいてきたと。

秋山:おそらくですけど、今日は人事の方が多いと思うのですが、みんな大手企業は職務等級制じゃないですか?

山田:役割ということですか?

秋山:役割。

山田:制度を見るとたぶん、仕組み上はそうなっているんですね。しかし、ずーっと年功で何十年もやってきたものが、明日からいきなり年功が無くなるという事にはならないので……。

秋山:じゃあ職務等級系のものと、あと年功序列給のようなものをセットで生活給的なもので……。

山田:部長になる人や役員になる人をみていればわかるように、年次の逆転現象は多くの企業で起こってきていると思うのですが、全体でいうとまだまだ年功というか、職能給的なことがたくさんありますね。