亀山氏が語る成長分野の見極め

鈴木寛氏(以下、鈴木):「ビジョンを持たない」という、亀山哲学みたいなものが明確になってきましたね。

亀山敬司氏(以下、亀山):哲学見えちゃった?

鈴木:見えちゃった!

(会場笑)

学生:“DMM.老人”という話も出てきましたが、様々な領域に行くにあたり、成長分野かどうかと亀山さんが判断する見極めのポイントを教えていただけたらと思います。

亀山:見極めってほどのことはしていなくて、「クローズアップ現代」とか「NHKスペシャル」を見れば大体わかるよ。

(会場笑)

亀山:「これからはアフリカ人が増えます」「ドイツで太陽光発電増えてます」とか散々言ってるじゃん。今だと「AI、VRがすごい」とか「自動運転車になります」とかね。

みんなも「ああ、将来はAIとかVRとかの時代になるんだ」と思っているんだろうけど、「よくわかんない」ということで、一歩を踏み出さないだけの話。俺はやりたいことは、いっちょ噛みっていうか、アッチコッチをちょっとずつ噛んでいくって感じで、「とりあえずやってみよう!」って噛んでいくうちに、どんどん人も情報も集まってくる。

3Dプリンタも最初は全くわからなかったけど、わかった風な顔して、買って、動かして、CM打つと、3Dプリンタについて理解している人間が「ちょっと僕らもやりたいんです!」って向こうからやって来る。その周りに社員を集めれば徐々になんとかなっていくよ。

それで、靴屋さんから3Dプリンタの注文が来るようになったら「それぞれの足のサイズに合わせた靴を作ればいいんだ」とか、フィギュアの注文が増えれば「オタクはこういう使い方をしているんだ」とわかるじゃない。歯医者から注文が来れば、「入れ歯にも使えるかもしれない」ってアイデアが広がる。

だから先見の明でも何でもなく、みんなが「専門分野じゃないから」と手を出さないところでも忠実にやっているだけ。トレンドはいつでも世間に流れていて、みんなが持っている情報と何も変わらないんだよね。

一歩を踏み出す原動力

学生:その一歩を「踏み出す」ところで、何が一番の原動力になっていますか?

亀山:今やっていることがダメになる前に、次に乗っかっておこうっていう。だから、攻めというより守りの原動力だね。昔はそんなにお金もなかったから、「ビデオレンタルがダメになるなら、アダルトビデオでも作っとくか」ってやれるところからやっていたけど、今は利益も増えたから、もうちょっと長めのものにも投資できてる。

少しでも先にやっとくと、みんなはアフリカや3Dプリンタについて知らないから、とりあえず「DMMがやってるから聞こう」っていうことになるんだ。アフリカ通や3Dプリンタ通はすごく重宝されるわけ。それで、日頃は会えないような偉い人とか会社との付き合いが生まれたりするよね。太陽光発電も早めにやっておくと、「コンサルしてください」って人が寄って来て、それだけでもビジネスになったりする。

だから、みんなも流行っぽいところにクビを突っ込むなら、10年20年先を見た希少価値の高さを考えた方がいいかもよ。今更、シリコンバレーとか行くよりは、もっと変なところに行った方がいい。それこそキューバとかミャンマーの方が面白いんじゃないかな。

鈴木:僕もずっと「これからはアフリカだ」って言っていたんで「なるほど」と思います。ただ、僕の場合はNHKよりは10年くらい早いですね。

亀山:NHKより早いなら、今度教えて! だけど、10年は早過ぎる。

鈴木:だから、僕は早過ぎてビジネスマンにはなれないんですよ(笑)。

亀山:早過ぎると儲かんないから(笑)。

鈴木:なので、NHKより10年先を見て、学生に言って儲けさせることで、後々貢がせると。老後はアフリカのリゾート地で教え子に食わしてもらおうかなと思っているんです(笑)。

亀山:でも学生だったら10年くらい早いほうがいいかもね。商売となるとちょっと早過ぎるけど、今から5年後10年後のトレンドの知識をつけておけば価値が出る。だけど、それは学生のことを考えているんじゃなくて、実は自分が飽きたから新しいことやっているんじゃないの(笑)。

鈴木:そうそう(笑)。他の人がやっているようなことは飽きちゃうんで、ITも2000年でスパッと辞めたんですよ。だから、僕がそのサイクルに合っているのかもしれないですね。僕が興味あるものはちょっと早過ぎるから、学生に興味を持ってもらうと10年後のちょうどいい頃にトレンドになると。

亀山:そして、俺たちはそれを見て稼ぐと。

鈴木:それすごい良いですね!

亀山:回るね~。それじゃあ、常に新しいものを頑張って!

鈴木:DMMを見て面白いなって思うのは、僕らが見えているものと亀山さんが見えているものが、全然違うアプローチなんだけれど符合しているところ。僕らも「次はアフリカだ!」とか、「3Dプリンタだ!」とかいって、かなりの時間をかけて張ってるわけですけど、必ずDMMもやっている。

VRでもかなり力を入れて取り組んでいる学生もいて、色んなことを仕込んでいるけれど、「どこかの企業はやるのかな?」と思っていると、DMMが「DMM VR THEATER」を作ったりしますから。

亀山:DMMラボの奴らが東大と一緒に研究をやっているらしくて、この間行ってみたら、すごいテクノロジーがいっぱいあるけど誰も商売のことを考えてなかった。良いものは作るんだけど「この先、どうしましょう?」となってしまう。せっかく技術があるのに商売にできていないのは、すごくもったいないと思うね。

鈴木:今日の意義はそこなんですよ。

亀山:そうなの(笑)?

鈴木:そうそう。良い連携ができるかもしれない。

亀山:アメリカでも産学連携はうまくやってるもんね。

「今あるキャッシュは全部投資してしまえ!」

鈴木:やっぱりアメリカには、エンジェル投資家がいるんですよ。だけど、日本は投資するのがほとんどサラリーマン。エンジェルは理屈がなくても、自分の感性で面白いと思えば投資しますけど、サラリーマンだと稟議書を通さなきゃいけないし、最後は株主総会で説明しなきゃいけない。「今後絶対トレンドになる」という話も全部すり抜けて行ってしまっている。

亀山:株主総会で5年先10年先のことを語っても、株価が落ちるだけだからね。

鈴木:そうそう(笑)。ビジョンを掲げてプランがどうのこうのっていう、中長期の事業計画も外れるに決まってるじゃないですか。だから、僕はその計画自体を世の中からちょっと外そうとしているんですよ。 “脱・計画”、“計画卒業”っていうか。

亀山:なるほど。みんな計画好きだからね。

鈴木:そうなんです。計画している間に遅れているんですよ。僕は以前、ずっとインドに張っていて、日本の企業にもすすめまくったんですけど、ぐちゃぐちゃと議論に任せて誰もしっかりやらなかった。

亀山:でも、気持ちもわかるんだよね。やっぱり、上場していたら四半期ごとに株主から「あーだこーだ」と文句言われるしね。IT企業は上場しても過半数の株を持っている経営者が多いけれど、企業は規模が大きくなればなるほど、下手すれば1%の株を持ってない社長もいるわけだから。

1年でダメだったらクビが飛ぶような会社もあって、その人の責任でもないところもある。俺がその立場だったとしても、株主総会では「来年度の決算は」ってことしか言わないだろうな。

鈴木:そういう意味では、DMMはしっかり自分でコントロールできると思いますけど、今後はどうされるつもりですか?

亀山:まあ、成り行きに任せて(笑)。ビジョンはないし、売上目標もない。なんとなく今に至ったという感じだから、これからも「来年はもうちょっとマシにしようぜ〜」ってことで無理もしていないね。銀行がビデオレンタルとか飲食をやっていた頃はお金を貸してくれても、アダルトに手をつけた途端に貸してくれなくなったから、無理できなかったこともあるんだけどね(笑)。

利益の中だけでやり繰りするしかなかったけど、今はお金が増えて上場する必要もなくなった。銀行は優しくないままだけど、稼いだ分は次の年に投資することだけはやっている。だから、売上目標はないんだけども、目標は「現金ゼロ」になるのかな。要は「今あるキャッシュは全部投資してしまえ!」っていうのが、ビジョンなのかな?

鈴木:哲学!

亀山:哲学っていうほど、たいした考えじゃないけどね。今でも売上は伸びているから、新規がうまくいくかは分からないけど、社員が食う分の稼ぎはある。

鈴木:すごくブレていない考えだと思います。ちなみに、さらっと仰ったアダルトをやると銀行はお金を貸してくれないという中でも踏み切った理由というのは?

亀山:資金繰りは悪くなるけど、稼ぐ方を優先したということだね。当時はビデオ屋で年に8千万円くらいの利益が出ていたから、利益分では映画は1本も作れないけど、アダルトなら10本20本は作れそうだったからね。

でも、まあ、銀行が貸してくれなくなるのもしょうがないよね。俺も逆の立場なら貸さないからさ(笑)。

鈴木:資金繰りが大変でやりたいことをやれなくなるのは、ある意味で板挟みのポイントになりますよね。多くの人は、そこで銀行からお金を借りることを選んじゃうんでしょうけど。

亀山:銀行はお金をくれるわけじゃなくて貸すだけだから、まずは稼がないとね。その時はビデオレンタルがダメになるのは見えていたけど、それに代わるアイデアがなかったよね。スカパーみたいに衛星打ち上げるお金もなければ、インターネットなんて言葉もなかったしね。でも、地方でもコンテンツを持ってれば何とか稼げるかなって考えていた。

鈴木:なるほど。