橋下市長vs朝日新聞

記者:朝日新聞の山崎崇です。先週末にツイッターで、捏造のリストについてご指摘いただきまして、市長の考えについてはこれでもう理解しているつもりなんですけども。私は市役所のキャップをしていまして、常に市役所にはおります。それをご認識いただいてなかったのかな、と少し悲しく……(笑)。

橋下徹 大阪市長(以下、橋下):(笑)。

記者:あの囲み(取材)のときには確かに他の仕事をしていていなかったんですけど。

橋下:そうですか。僕はあそこ(朝日新聞)の社屋にずっといらっしゃるのかなと……。

記者:いえいえ。そんな偉い立場じゃないので。 

橋下:わかりました。

記者:維新の会の会見に出させてもらいまして、坂井(良和)団長などにも質問させていただいたんですけど、普通に考えたときに、議員の調査権に限界があるとか、十分調べた上であそこまでしかやれなかったというのはわかるんですけど、市長が濡れ衣を晴らしたとか、松井知事が勇み足だったとかおっしゃったとおり、そのあたりは通常の市民感覚なんじゃないかなと思いまして。

だとすると他のことについてはともかく、その点については率直に謝ったうえで次に行くと。そういうことが、市民感覚的には普通なんじゃないかなと……。

橋下:いや、僕もそうだと思いますよ。市民感覚であればね。そしたら、なぜ事実誤認をした報道機関が、すべてにおいて謝罪をしないかですよね。なぜなんですかね? 訂正だけで終わらせて、謝罪をするかどうかはケースバイケースにしてるじゃないですか。そこはなぜなんですかね?

弁護団懲戒請求事件に関する朝日新聞の報道について

記者:あの、光市母子(殺害事件)……。

橋下:いや、通常の報道の場合でもね。

記者:(沈黙)

橋下:光市母子殺害事件の弁護団に対するテレビ発言でも、市役所の委員会の中で公表したということではなくて、全国紙の社説で断定的に「弁護士としては許せない行為である」と。そして「弁護士資格を返上せよ」と断定したわけですね。

日本では三審制なわけで、だから一審の判決では確定判決ではない。その後に、最高裁の判決では「違法性がない」となった。違法性がなければ弁護士資格の返上なんてありえないわけですよ。だけれども僕は、あえて謝罪を求めてはいません。それはなぜか、僕が何をもってそういうふうに思っているかわかりますか?

記者:(沈黙)

橋下:朝日新聞も普通の市民感覚でいけば、「先に詫びろよ」となると思いますよ? 普通の市民感覚でいけば。どうですか、あの事件について。僕は最高裁で「違法性はない」となったんですよ? 弁護士資格は返上しなきゃいけませんか。

記者:まあちょっと、そのへんの話になると……(笑)。

橋下:ずるいですよ。僕はトップだからそういうふうに言いますけど、いち社員だからといって答えないってのは逃げだと思いますよ。普通の、一般の市民感覚で答えてくださいよ。市民感覚を言われるんであれば。どうですか? 市民感覚で結構ですから。

記者:あの事件は、もともと一連の報道を詳しくチェックしているわけではないですから。

橋下:そんな難しく考えなくていいじゃないですか。僕は最高裁で違法性はないと判断されたんです。違法性のない人間が弁護士資格を返上しなきゃいけないんですか? その点だけ一般の市民感覚で答えてくださいよ。

記者:(話し出そうとする)

橋下:(話をさえぎって)それも答えられないんだったら、一般の市民感覚なんて議論はやめましょうよ。違法性のない人間が、なんで弁護士資格を返上しなきゃいけないんですか。

記者:あの件についての一連の報道で、事実関係が間違ってるというのはおそらくなかった……。

橋下:だから、市民感覚って言ってるじゃないですか。違法性のない人間が弁護士資格を返上しなきゃいけないんですか。今、市民感覚と言われたんだったら市民感覚で答えてくださいと言ってるんです。市民感覚の議論っていうのはそういうことなんです。じゃあ市民感覚の議論を退けて、報道の自由とかそういう話に持ち込むんだったら、そしたらやりましょうよ。

どちらの土俵に乗るのか、それをまず決めてください。市民感覚の議論をするのか、いわゆる自己統治論でいくのかね。市民感覚の議論でやるんだったら、皆さんそのへんを歩いてる人に「違法性のない人間が弁護士資格を返上するんですか」って言って、みんな返上しろって言いますか?

記者:そのときに論説を書いたのがどういう意図だったかはわからないですけど……。

橋下:それは逃げですよ。

記者:いやいや……。

メディアが「市民感覚」で謝罪をしなくても良い根拠とは?

橋下:それはね、報道の自由だからですよ。萎縮効果ってのがあるんです、萎縮効果。僕は表現の自由は、司法試験のときに一番徹底して勉強しましたからね。それなりに、自分なりに勉強してきた自負はありますよ。

表現の自由ってものは、一度傷つけたら大変回復が困難であると。表現の自由ってものが権力チェックの最大の武器であって、ここを最大限に保障することで、僕の立場(市長)を辞めて市民になった場合に、権力チェックをとことん報道機関にやってもらわなきゃ困るから。だからこそ、報道の自由ってものは最大限に守らなきゃいけない。

だから事実誤認があろうとも、何かそういうことがあっても、よほど重大なことでない限りは謝罪までは求めない。謝罪をしなきゃいけないとか、そういうことになれば記者が書くときにそこで筆が止まるじゃないですか。だからですよ。市民感覚じゃないんですよ、これは。自己統治論ですよ。民主国家の一番根幹のところです。

記者がそこで止まってしまうか、コメンテーターが発言で「うっ」と止まってしまうか、それは僕も番組で経験してますけどもね。名前は言いませんけど、政治権力に弱い局もありましたよ。「こういう政治家からこういうクレームが来ると思いますから、こういう発言は控えてください」ってことをプロデューサーから言われたら、コメンテーターがみんなそこで止まるわけです。そういうところは可能な限りブロックしてあげなきゃいけないってのが、報道の自由、表現の自由の最大限の権利保障なわけです。

事実誤認があれば事実の訂正ですませる。著しい不利益を与えたとか、よほどのことがない限りは「申し訳ありませんでした」って謝罪広告を載せなくてもいいじゃないですか。司法だってそこまではやらないじゃないですか。よほどのことがない限りは。

今回の議員活動の場合も、質疑をやる、役所を追及していく、これがいわゆる対民間人相手じゃなくて、相手も公務員、労働組合ですよ。こういう状況の中において、今回のリストの問題では確かに捏造になった。しかしああいう取り上げ方のときに、謝罪をしなきゃならないといったら、みんなどうなりますか。いろんな情報が来ても全部裏を取りに行かなきゃいけないって話になりますよ。だからですよ。市民感覚じゃないんですよ、僕が言ってるのは。自己統治論です。

市民感覚でいくんだったら、僕は結構ですよ。市民感覚だったら、謝罪をしろっていうのはわかりますよ。いっぺんけじめをつけて、謝ってからやったらいいじゃないかって言いますよ。市民感覚論でいくんだったら、朝日新聞だって謝ればいいじゃないですか。

記者:朝日新聞に言われたくないって気持ちは何となくわかるんですけど……。

橋下:いや、それは社を背負ってきてないのに発言したらダメですよ。

記者:私は、朝日新聞大阪市役所所長ですから……。

橋下:そしたら市民感覚で言ったらいいじゃないですか。どうなんですか。最高裁で違法性も何もないって言われてるのに弁護士資格を返上しなきゃいけないんですか? 弁護士会の懲戒事例を調べてみてくださいよ。そういうことで弁護士資格の返上の事例なんてあるんですかね。

記者:それはちょっと、当時の……(笑)。

橋下:僕は懲戒処分の2ヶ月はくらってますけど、返上までは言われてないですよ。2ヶ月でも、あんなのは弁護士の失策ですよ、誰がどう見ても。朝日新聞はちゃんと社説で書いたんですよ? 「弁護士資格を返上せよ」と、全国紙において、社説で。それは一般の市民感覚ではどうなんですか。そこについて答えも出せないのに、そういうふうに市民感覚を出すのは違うと思いますよ。

記者:ただ、政治活動とか議員活動はやっぱり市民、有権者の支持とか信頼性が大事なわけで……。

橋下:なら、メディアは有権者の支持はいらないんですか。何で報道の自由が与えられてるんですか。国民の知る権利に奉仕するためじゃないですか。それがなかったら報道の自由の特権なんてないですよ。

記者の「そんな細かいことにこだわって」発言に、止まらない橋下市長

記者:そもそもよくわからないんですけど、メディアがそういう立場にあるのにそこまで指摘するのかっていう気持ちがわからなくはないんですけど、実際これから維新の会として国政にも出て行って多くの支持を集めてる中で、素朴な疑問として何でこんな細かいことにこだわって時間と労力を使ってるのかなというのが……。

橋下:あのね、そんなこと言うんだったら、報道の自由をどこまで労力をかけて守ってるかなんてのが全部ご破算になりますよ。一般の市民感覚でやれというんだったら、全部謝罪広告も出さされますよ。そんなこと言い出したら。名誉毀損の判例の積み重ねなんか勉強されてないんですか? 虚偽の報道であったとしても、事実誤認であったとしても、真実を認めるに足りる相当の理由がある場合には免責になるんですよ?

記者:いや……。

橋下:名誉毀損の条例、ご存知ですよね? 公共性・公益性があって、真実の場合だけは免責ってなってるんですよ? 真実の場合だけ。でもそれだけだったら、報道をやったときに真実じゃない場合だってあるじゃないかと。間違っちゃう場合だってあるじゃないかと。

ここでどうするかってことで、延々と司法は裁判例を積み重ねて、いろんな学説の積み重ねがあって、最高裁が、仮に間違っちゃった場合でも「公共性・公益性があって、真実と認めるに足りる相当の理由がある場合には免責にしましょう」と(したんです)。これが民主国家の知恵なんですよ。

何でそんなことで、労力をかけるくらいだったら謝ったらいいんじゃないかって言うんだったら、簡単じゃないですか。皆さんも間違ったことがあるんだったら全部謝りゃいい。全部責任を取りゃあいい。それが普通の、一般の市民感覚ですよ。でも、それじゃ民主国家が成り立たない。仮に間違ったとしても、それを保護してあげるのが民主国家なんですよ。報道の自由、表現の自由なんですよ。

それを「何で」なんて、そんなこと報道機関に携わる人がよく言いますね。僕はびっくりですよ、そんなの。何で民主国家がここまで報道の自由とか表現の自由を守ることに営々と努力をして……僕だって弁護士、司法家として、メディアや報道にやられた被害者が山ほど(知って)いるんですよ。それでも「これはこうで」って説明をして。

公人の人、議員の人、タレントの人、メディアにやられて家庭がめちゃくちゃになったって人もいっぱいいますよ。それでも報道の自由を死守しなきゃいけないっていう、英知の結晶の中で組み立てられてるわけです。僕は「メディアが許されるから議員も許してくれ」なんて言うつもりはないです。「自己統治の論理でいくのであれば、議員活動にも同じような論理が当てはまるでしょう」ってことを言ってるんですよ。

メディアの報道の自由を一生懸命保障しようとしてる日本国で、議員の調査、質疑において、しかも委員会とか議会という認められてる活動の場においては、特段の配慮をしていきましょうっていうのが民主国家の有り様だって僕は言ってるんです。それが違うって言うんだったら、答えてくださいよ。

記者:うーん……そんな難しい話ではなくて、リスト自体が偽物じゃないかって指摘が数日前から議員本人にもあったりとか、内容的にもパッと見てかなりおかしい点があるわけですよ。それを持ちだして指摘してきたことについて、いろいろ理由はあるでしょうけど……そこはどこまでいってもすれ違っちゃう部分なのかもしれないですけど……。

橋下:だから、それは報道の自由……間違っちゃったことについてメディアは全部責任を取るんですか? そういう世の中がいいんですか?

記者:間違ったことについては、訂正したり謝罪したりは新聞もしてますし……。

橋下:全部はしてないじゃないですか、それは。社内規程で全部(謝罪するように)なってますか?

記者:間違ったことについてはすべて……。

橋下:「お詫び申し上げます」なんかになってないですよ。「事実を訂正します」で止めるやつもいっぱいありますよ。

記者:しかし、お詫びもあった……してますからね。

橋下:全部じゃないでしょ?

記者:それは、まあ。

橋下:じゃあ何で全部じゃないんですか。

記者:(沈黙)

メディアに保障される権利は、議員にも保障されるべき

橋下:全然これは難しい話でも何でもなくて、一般の感覚で話をするのか、民主国家においての議員活動の保証とか言論の自由の保障という話でいくのか、どっちかですよ。一般の感覚でいくなら、最高裁で違法性がないとなって、一審の段階で断じたんだったらそれは完全に謝らなきゃいけないでしょ。事実誤認とか、そんな難しいこと言わなくても。三審制なんですから、日本は。

一審の段階で違法が確定したわけじゃないんですよ? 確定もしていないのに「弁護士資格を返上せよ」って、どういう了見で言うんですか。事実誤認よりもっとひどいんじゃないんですか? 普通の、一般の感覚だとどうなんですか。三審制ってご存知ですよね? 一審の判決で違法性は確定されたんですか? まず、そこを教えてください。

記者:確定されてないです。

橋下:確定してないですよね。じゃあなぜ、僕は弁護士資格を返上しなきゃいけないんですか。その理由を教えてください。

記者:私はちょっと答える立場にないので……。

橋下:それはずるいですよ。理由が何にもないじゃないですか。弁護士資格の返上の理由って、一般の市民感覚で言うんだったら挙げてくださいよ。何にもないですよ。

記者:(沈黙)

橋下:どうなんですか。それは謝らないじゃないですか。誰に聞いたって謝る話だろってなりますよ、そんなの。それで「影響が」って言うんだったら、どれくらい影響があるかわかりますか。僕だって、普通の私人でやってるときにですよ? 法律事務所だって経営してるんだから。とてつもない営業妨害ですよ。

記者:メディアのそういう基準と、議員活動のそういう基準っていうのは考え方としては同じであると……。

橋下:当たり前じゃないですか。何でメディアの方が特権があるんですか。議員は選挙で選ばれてるんですよ?

記者:メディアに特権があるかどうかは別にして、その……。

橋下:メディアに保障されてることが、何で議員に保障されないんですか。自己統治は、どちらのほうが本来的な役割なんですか。メディアですら自己統治、権力チェックをしていけということで、報道の自由の保障を与えられてるのに、何で選挙で選ばれた議員にその権利保障がないんですか。

記者:公選職としてある程度の権力行使ができるからじゃないですかね。

橋下:権力行使があるからその範囲を最大限に認めるんじゃないですか、委員会と議会内においては。メディアが報道の自由で国民の権利に奉仕するのと同じように、議員は有権者の負託に応えて、議会と委員(会)内においては最大限にその活動を保証されないと、議会活動なんてできないじゃないですか。国会議員と同じような保障を与えてくれなんて言うつもりはないですけども、地方議員だって有権者から選ばれた議員なんですから、行政のチェックとか役所のチェックとか公務員のチェックについては、最大限の保障を与えてあげないと。

皆さんが筆で(記事を)書くときに止まるとか「うっ」となるのと同じように、議員がいろんな情報をもらって役所にぶつけるときに、「裏を取らなきゃいけない」「全部確認しなきゃいけない」となったら、チェックになんてならないですよ。確認なんて役所にやらしたらいいじゃないですか。「こんなリストが出てきたけども確認してくれ」って、それが議員の役目ですよ。何で議員がそこまで調査しなきゃいけないんですか。役所にやらせるのが議員じゃないですか。議員は住民の代表なんですから。

だから僕は、その指摘を受けて調査したじゃないですか。それを言うんだったら、委員会を全部非公開にしていいんですか? 委員会を非公開にしてたら、こんな問題は表に出ないわけですよ。でも、オープンにして経過を全部見てもらおうということで、オープンにしたわけでしょ。

役割分担も間違ってると思いますよ。議員はその資料について、ある程度の信憑性や蓋然性が確認されたら、役所に調査させないと。コンピュータのログ解析なんて、役所にしかできないじゃないですか。だから僕は裏を取ったんじゃないですか。議員にコンピュータのログ解析までさせるんですか。そういうことになったら、議員の活動なんて全部止まってしまいますよ。

いろんな情報が来た、いろんな資料が来た、全部自分たちで確定的な調査をしなきゃいけないってことになってしまいますよ。大変な危機ですよ。だから、言論の自由と議会、議員の活動っていうのはそのくらい重く見なきゃいけないんです。

まあ、今まで議員がそこまで信用がなかったから、ある意味有権者にバカにされてたってところもあるんで、そういうところは反省しなきゃいけないでしょうけども。やっぱり民主国家というものを守ろうと思えば、言論の自由と議会、議員の活動ってものは最大限に保障しなきゃいけない。そこで一般人に迷惑をかけたのであれば、それは謝らなきゃいけない。メディアの皆さんなんて、一般人に迷惑をかけたって謝りもしないじゃないですか。

でも公権力の立場だから、一般の市民の皆さんに迷惑をかけたんだったら謝らなきゃいけないけど、今回の対象者は公務員ですよ。