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アジアの子どもたちを救い続けて20年の医師が語る、これからの国際人道支援(全6記事)

「生命は助からなくても、心は救いたい」 アジアの子どもたちを20年救い続けた、ある日本人医師の誓い

医療が行き届かない東南アジアの子どもたちを20年、計1万人以上も救い続けてきたジャパンハート代表の吉岡秀夫医師。日本のTV局による特集番組を基に、現地における医療の実際と、自身が目指す支援のカタチを伝えました。(IVS 2014 Spring より)

アジアの子どもたちを救い続けて20年 吉岡医師の人道支援

小林雅氏(以下、小林):吉岡さんのご講演なんですけど、2年前に札幌でもやっているので、その時に聞いていましたという人、どれくらいいらっしゃいます? 約半数ぐらいですかね、ありがとうございます。今回はIVS10周年、記念講演ということで、ちょうどジャパンハートも10周年ということでおめでとうございます。

吉岡秀人氏(以下、吉岡):ありがとうございます。

小林:ではですね、私の話よりか早速吉岡さんのお話をいただきたいと思います。今回、いろんな新しい話も含めてお話しいただけるということで、ぜひ楽しみにしていただければと思います。では、ジャパンハート吉岡秀人さん、先生というかね、吉岡医師、よろしくお願いします。

(会場拍手)

吉岡:よろしくお願いします。皆さんこんにちは。ちょうど僕もミャンマーに渡りまして、今年で丸20年を迎えます。ちょっと歴史を振り返りまして、僕が歩いてきたこのヒストリーが、おそらく僕にとっても、これからの日本の社会が目指す人道支援において、何かひとつの方向性を示すものになるのかなと思いまして、僕のやってきたことを皆さまにお知らせしたいと思います。

この中には僕のことを知っている方もいらっしゃるでしょうが、知らない方もおそらくたくさんいらっしゃると思います。実は僕、過去に有名なドキュメント番組に3回出させていただきました。いつもそのダイジェストを最初に見ていただくようにしておりまして、それからお話に移りたいと思いますので、10分ほどの映像ですけども、先にそれを見ていただきたいなと思います。

重度の火傷で皮膚が癒着したまま、6年経った少年

<映像開始>

吉岡:たった一言で言えといわれたら、自分の存在価値の再認識なんですよ。人が自分がやった行為によって喜んでいる姿を見れば、「自分は人を喜ばす価値のある人間だ」というふうに自己認識するでしょう。たくさんの自己認識を重ねていって、自分というもののイメージを作っている、自分というものの価値を作っているわけでしょう。それが最も高い場所が、僕にとってはここなんですね。今は少なくとも。

(ナレーション)日本を飛び出して、15年になる。

吉岡:おい、サチレーション下がってるって。誰が見てんねん。

看護婦:O2準備してください。

吉岡:O2準備あとや、はよ、呼吸浅い言うてんねん。よいしょよいしょ……。

(ナレーション)満足とはほど遠い、設備しかない手術室。

吉岡:マン、マン。

子ども:ママ。

(ナレーション)少しのミスも許されない。彼が預かっているのは、幼い命。吉岡秀人はミャンマーで働く小児外科医。働くと言っても、給料は受け取っていない。医療保健はなく、平均月収3000円の国、高額な手術金を払えるのは、ほんのひと握りだ。弱いものを救えない医者など、医者ではない。吉岡は1カ月に100件の手術をこなし、これまでに1万人以上を救ってきた。今救わなければ消えてしまう命がある。

吉岡:ここがこう、腫れてくるという。

(ナレーション)親はただ祈りをささげ、医者は持てる力を尽くすだけ。

マウントゥ:(叫ぶ)

吉岡:けがは、こっちの足は火傷で、かかとがこれでね。

吉岡:手もまだ癒着しているでしょう。

吉岡:こういうふうに使っていたでしょうね。こうやってね、いつもね。

(ナレーション)生後1カ月、家の火事でおった火傷。2カ月前スタッフがたまたま訪れた村で見つけ、病院へ連れてきた。火傷から6年が経っていて、おびえていたマウントゥ君に笑顔を取り戻させたのは看護師たち。

マウントゥ母:右足の親指が上にくっついて、人指し指はなくなっていたんです。でも吉岡先生は親指を治療し、人指し指に義指をつけてくれました。

(ナレーション)マウントゥ君の両手の手術、火傷でくっついてしまった皮膚を切り、曲がった手首を延ばす、足りない皮膚は太ももから移植する。6年前に火傷をおったマウントゥ君、両手の手術が始まった。

吉岡:ええか。

看護婦:お願いします。

吉岡:これを置いて。

(ナレーション)まず左手、くっついてしまった皮膚だけを切開する。

吉岡:こっちもう消毒して終わり。

(ナレーション)次は右手。

吉岡:動かすな、水かけろ。よし、じゃあこれ。

看護婦:ありがとうございました。

(ナレーション)両手ともうまくいった。

吉岡:あれで鉛筆持てるようになるでしょう。あれで学校は行けますよ。人生変わっていくんですよね。

治療を受けることで始まる新たな人生

(ナレーション)助けを待つ人がいて、助ける術を持つ男がいる。この国でまた1から始める。日本人の医者が来ると聞いて、小学校には300人以上の村人が駆けつけていた。みな不安を抱えていた。

吉岡:えらいことになっているな。

(ナレーション)放置することで、形相は見にくく肥大する。

吉岡:じゃあこれも手術。

看護婦:はい。

(ナレーション)この男性は発病から50年が過ぎていた。

男性嫁:お金がなくて病院に行けなかったから、手術して治ったら嬉しいです。

男の子父親:息子は学校に行っていたけれど、恥ずかしいから行かなくなりました。

男の子:もういじめられたくありません。

(ナレーション)治療することで、患者は生まれ変わり、別の人生を生きられる。

現地で医師も育てる

(ナレーション)医者のいない村。30年間放置した卵巣の腫瘍は大きく膨らんでいた。

(ナレーション)その摘出手術を、吉岡は若いスタッフに筆頭させることに決めた。吉岡のもとで学んできた27歳の石田医師。

吉岡:石田君、どこまで聞いているの、ここ? 切開は、こう入ろうか。

(ナレーション)卵巣は絶対に破裂させてはならない。腫瘍が悪性の場合、転移してしまう怖れが高いのだ。

石田:腹筋ですが。

吉岡:いけいけ。

(ナレーション)メスが腫瘍に触れたらひとたまりもない。

吉岡:ほらほらほら、これ入れて、大丈夫かな。

石田:大丈夫。

吉岡:ゆっくり引っ張らな、押し出したほうがいい、外から、そうそうそう。ここ。

(ナレーション)腫瘍のため、卵巣はバスケットボールほどに膨らんでいた。

吉岡:それは血管。セッシ。ここやここ。

(ナレーション)卵管から慎重に切り離す、9キロの卵巣を無事取り除いた。

吉岡:重たいな。

難病の子どもに、日本の医療を

(ナレーション)10月、岡山医療センターが、トゥーチャーアーム君の手術を無償で行ってくれることになった。

トゥーチャーアーム母:日本に来れて、とてもうれしいです。

(ナレーション)日本ではとてもめずらしい脳瘤という病気。この手術は、吉岡にとって大きな意味を持っていた。

院長:元気にしてるね。

(ナレーション)明るい病室で、母と子は1カ月ともに過ごす。

院長:こんにちは、大丈夫。

(ナレーション)手術は4つの科の協力で行われることが決まっていた。

脳外・難波医師:ちょっと触ってもいいですか? ……別に痛がらないんだ。

別の医師:脳ありますか?

難波医師:ここまで骨がある。

(ナレーション)ミャンマーにはない最新のCTスキャンで、頭蓋骨にある欠損、おでこの穴の大きさを調べる。

放射線科・向井医師:ここが欠損なんですね、骨の。非常にめずらしいと思います。本当に100万人に1人と書いてある本もありました。

(ナレーション)両目の間に直径3センチの穴があった。日本ではめずらしいが、東南アジアでは5000人に1人生まれるという記録もある。

トゥーチャーアーム君の手術が始まる。10時間を越える大手術になる。頭蓋骨を開く、ミャンマーでは絶対にできない手術の一部始終を吉岡も、穴からはみ出した脳は切り取る。さらに側頭部から骨を取る。おでこの頭蓋骨を一度開き、切り取った側頭部の骨で、穴を頭蓋骨の内側からふさぐ。そしてくぼんでいた鼻に軟骨を移植し、顔の形を整える。だが手間取っていた。はみ出した脳が皮膚からはがれない。

先生:癒着が強いから、それで苦労しているんです。その癒着を少しずつはがしていかないと出血するんですよ。非常に今、慎重にやっています。

吉岡:時間に常に追われているという向こう(ミャンマー)の環境と全然違うので、やっぱり落ち着いてできますよね。うらやましくもあり。

ミャンマーで広がった手術の幅

(ナレーション)吉岡はすぐにミャンマーに戻った。

吉岡:連れてきて。

看護婦:はい。

(ナレーション)トゥーチャーアーム君と同じ脳瘤の子だ。CTスキャンはない。レントゲンで穴の大きさを推測する。ミャンマーでは頭蓋骨を開くこともできない。

吉岡:ここの奥だな。

(ナレーション)だが、手術はできるはずだ。2時間でできるやり方がある。睡眠薬で眠らせながら、局所麻酔で痛みを防ぐ。

吉岡:いいか? ほな、やるよ。

(ナレーション)はみ出した脳は切らずに中へ押し込み、穴は外側からふたをする。

吉岡:これ脳やな。ディフェクト(骨欠損)やな、ここに脳がある。ちょっとセッシ。

吉岡:……停電や。

看護婦:ライトお願いします。

吉岡:ライト当てなさい。

看護婦:ライトお願いします。

吉岡:はよせえ、もう時間ないんや。

(ナレーション)耳から切り取った軟骨で耳をふさぐ、骨と皮膚の間にある結合組織と縫い合わせていく。ミャンマーでできる治療の幅がまた広がった。

吉岡:この前、ミャンマーでできるタイプの手術をイメージしていたとおりの手術したんです。あれでもうたぶん脳は出ないと思います。脳瘤に関しては、全て射程圏内に入ったということですね。

患者の「心」を救う医療

インタビュアー:先生が目指す医療とは、どういう?

吉岡:ひと言でいえば、例え死んでも心が救われている医療。生まれてきて良かったと、私は生まれてくる価値があったと思える医療です。

ひとつは大切にすることです。人は大切にされるだけで、どんな障害があっても、価値がある、自分は大切にされているって思うわけじゃないですか。だから治せても治せなくても、本当にその人のことを大切に扱う。例え小さな子どもでもね。貧しくても貧しくなくても、大切に扱う。そういうことだと思います。その心の姿勢ですよね。

(ナレーション)母が子にするように、吉岡は小さな命を大切にする。

<映像終了>

吉岡:はい、ありがとうございました。こんな感じのことをやっています。

【特定非営利法人・ジャパンハート】公式サイトはこちら

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