VCの役割は大企業とベンチャーの橋渡し

佐々木紀彦氏(以下、佐々木):高宮さんが今おっしゃったように、古い業界が変わってきている。古い業界って大企業だと多いじゃないですか? VC(ベンチャーキャピタル)の役割って変わってきてるんですか? 軽い業界だと、VCだけでいろいろ起こせたと思うんですけど。

高宮慎一氏(以下、高宮):その通りだと思ってまして。ファンドが大きくなっているVCだと、けっこう機関投資家とか、大企業からのお金を預かってることが多くて。

そうすると、「東海岸メインストリーム、西海岸ベンチャー業界」みたいな感じで言われる中でいくと、ちょうど間にいる存在なんです。そこで東と西の間に立つから、両方の言語を理解して、うまく翻訳してあげる。

例えば、ものすごいシンプルな話ですが、超大企業の役付け取締役に会うとき、ベンチャーの経営者がジーパン・Tシャツで行っちゃうと、けっこう怒られたりするみたいな。そういった簡単な話から翻訳してあげる。

大企業の中でことを進めようと思ったら、担当部長の顔を立てながら、使ってくれるユーザー部門に根回しをして。でも最後は、やっぱり担当役員と握って。「ちゃんとやんなきゃだめだよ」みたいな話を含めて、うまく橋渡しをしてあげるというのが、東と西のミドルにいる立場の役割かなと思います。

佐々木:翻訳作業が今まで以上に重要になってきてるということですね。

高宮:そうです。

佐々木:佐藤さんも同じように感じられますか?

佐藤真希子氏(以下、佐藤):今はいろいろなIoTベンチャーができてますけど、量産フェーズになってくると、どうしても大企業を頼らなきゃいけないことって出てくるんです。

そうなったときに、大企業のトップの方が「ベンチャーと一緒にやるんだ」「彼らはこういうところを持ってる、伸ばしてあげよう」みたいな感じでサポートしてくださるとすごくありがたいんです。

そういう意味で、大企業とベンチャーとの文脈を咀嚼するのは我々の役目でもありますね。

あと、大企業のトップの頭の中も変えていきたいなと。

佐々木:まだまだ古いですか?

佐藤:という部分も多いと思いますけど。はい。

AIもIoTも技術名であり、ビジネスの名前じゃない

佐々木:3つ目お願いします、高宮さん。

高宮:3つ目は、これはけっこう世界中で言われている「新しいテクノロジー体系におけるテクノロジードリブンのイノベーション」。具体的にいうとAI、IoT、VRとかだと思うんですよ。

あと日本……再生医療とかそのへんも。ただ時間軸の短い順にきて、一番時間軸が長いかなと思っているところを見ると、AIにしてもIoTにしても、再生医療にしても、実は技術の名前であってビジネスの名前じゃない。

要素技術が開発されて、どのマーケットでどう具体的に活用できて、どういうユーザーのニーズを解決するというところまで、まだ見えていないケースが多い。これは、「じゃあAIを使ってなにするの?」「AIを使ったファッションベンチャーやります」「それってファッションベンチャーだよね」みたいな話だと思っていて。

本質的にビジネスとしてスケールするのは、やっぱりファッションベンチャーのほうだと思いますよね。ガートナーのハイプカーブ的なところでいうと、今けっこう出てきた要素後術が、世界を変えそうな技術であるのは間違いないんで。

過剰な期待圏があって、もうちょっとするとガッカリ期にきて。その先に、本当にアプリケーション先のマーケットを見つけて、適用する市場が見えてくる。そうすると本質的なビジネスとして立ち上がると思うので、時間軸を長く取りながら投資をしていく。

ただし、AIとかIoT、再生医療、VRみたいなものって、本当に世の中を変えるような話だと思うので。ハイリスクハイリターン、時間軸が長い、next mixing(ネクストミクシング)だとは思います。

AIはがっかりフェーズを抜けようとしている

佐々木:AIはもう、がっかりフェーズに近いですか?

高宮:だと思います。がっかりフェーズを、もしかすると抜けようとしてるかもしれないです。

わりとAIはもてはやされて、先進的な大企業がそれを使ってなにかやろうとか、すでに始めてるわけですけれども。

そういう意味でいうと、先進企業による反発事例での応用先が見えていて。

今度はそれをビジネスとして、ソリューションとしてパッケージングして、活版できるかどうか。スタンダードとしてプラットフォームをとるかみたいな話になってくると思うんです。その先に進むとけっこうでかいのかなと思います。

逆にいうとAIのエンジンだけ提供する企業として位置づけしちゃうと、AIのSIerになって終わっちゃう。

ビジネスとしてはもちろん、ある程度の規模で利益を出すというのはできると思うんですけど、佐藤さんがおっしゃったように、VC投資に適するようなスケールは難しいのかなと思いますね。

しかも最後、エンジンの提供で、「Amazon、Google、Facebookとぶつかってガチンコで勝てるんですか?」みたいな話になっちゃうんで。

個人的に思ってる世界観としては、インテルインサイドとか、APIでつなぐみたいな世界。大企業が基本的なAIのエンジンを提供して、それにビッグデータを食わせて、どう領域に最適化するかというのが勝負になるのかなと思ってます。

佐々木:3つのすばらしいポイント、ありがとうございました。完璧ですね(笑)。

ITで起業して起業家に、テクノロジーベンチャーをやってほしい

このテーマで最後に1つうかがいたいのは、その中で日本のベンチャー企業がもし成功するとしたら……。例えば、今お話しに出たような、GoogleとかAmazonとか、ドデカイところがどんどんいるわけじゃないですか。

その中で日本のテクノロジーベンチャーが成功するとしたら、どういったポイントですか?

国内市場だけでもいいですし、メルカリみたいに世界で成功するためという視点もありでしょうけど、日本のベンチャーは今後どういうところに注力したらいいと思われますか? 抽象的で恐縮なんですけど、斎藤さんどうですか? 分野によると思うんですけど。

斎藤祐馬氏(以下、斎藤:抽象的にいうと、ベンチャー企業ってテクノロジーみたいなテーマとチーム。これの掛け算じゃないですか。

まずチームでいうと、やっぱり1回目の起業よりも2回目の起業のほうが、成功率でいうと圧倒的に高いです。資本政策に失敗したり、基本的にミスをしないし、人がとにかく集まりやすい。

なのでまず、なんでも起業する、シリアルアントレプレナーと呼ばれる人たちを増やすのも1つですね。

彼らのやるテーマが、技術的にあまり強みがないITベンチャーを、まず1回やるじゃないですか。次やるときに、世界的にも勝てるテクノロジー。ここで起業するというのが2つ目ですね。

こういうベンチャーが増えると……。例えば、日本環境設計というベンチャー企業があるんですけど、服とかを98パーセントの再生率で、なんでもエタノールに戻して同じものを作れる。すごいベンチャーなんです。

これはテクノロジーの世界なので、経営陣もすごくいます。実際、世界中で150ヶ国くらいのいろいろなメディアに取り上げられて注目されている。実際にこういうベンチャーが、10年も経たないうちにどんどん出てくるわけです。

なので今、ITで起業して成功した人たちは、テクノロジーベンチャーをやってほしい。そして大企業の方々は、今までのベンチャーにとにかく勝ってほしい。そうすると、5年くらいでたぶん大きく変わるんですよ。

アメリカが真似できない、ユニークな視点と熱量

佐々木:わかりやすいです。佐藤さんどうですか?

佐藤:iSGSは3名のパートナーでやってるファンドなんですけど、非常に個性が強いんです。投資先の経営者も非常に個性が強い。けっこう狂ってるレベルで。

プロゲーマーやってて大学中退して、その領域で起業とか。先日LINEさんが買収を発表しました「ウィンクル」という会社にも投資をしていたんですけど。

社長の武地(実)さんは初音ミクが大好きで、「一緒に彼女と生活がしたい」というところから、Gateboxというコーヒーメーカーの中に、ホログラムの女の子がいる。そういうの開発していて。そこに目を付けたLINEさんが、AIの分野で連携したいといった流れになったのですが。

おそらく最初はそういう流れそ想定していなかったと思うんですよね。ただただなにも作ったことがない人けど、想いを実現したいっていう熱量が色々な人を巻き込んでハードを作り上げていったという。その熱量って、半端じゃないですよね。

それはアメリカとかのベンチャーには絶対真似できない。これからはユニークな視点と、熱量。そこが大事になってくるのかなと思います。

日本が持っている比較優位をレバレッジしないと勝てない

佐々木:高宮さん、どうですか?

高宮:結局、グローバルで成功するという話を考えると、日本という国が持っている比較優位をレバレッジしないと、勝てないと思います。国内を守り切るみたいな話は、さっきのインダストリーの話ではあると思うんですけど。世界で勝つためには、やっぱり強くなきゃいけない。

そういう意味でいうと、佐藤さんがおっしゃっていたみたいに、日本の強みとして持ってる「江戸時代以来脈々と続く爛熟した市民文化」、サブカル文化みたいなところに根差していて。

世界で見るとニッチなのかもしれないけど、「世界を全部取る」みたいなところを取り切る。

やっぱり全人類共通のニーズであるコミュニケーションのような話です。Facebookのようなベンチャーは、英語圏のユーザーの母数が強いところとか、英語からフランス語とか、欧米系の言語だと転用しやすいみたいなところをいっちゃうと、日本の強みがないというか、むしろ劣っちゃうみたいなとこがある。

もう1つは、要素技術の強みをレバレッジしてビジネス化しようとすると、領域が限られるんじゃないかというところがある。そこにフォーカスして立ち上げるべきなんじゃないかなと思います。

例えば、再生医療はそもそもアカデミアが強くて、規制緩和もけっこうアグレッシブでして、人の利益に関わるようなすごい難しい分野なのに、産業育成として力を入れている部分もある。

あとは、データを活用した製造業3.0的な話もあると思うので、そのへんは公益技術を生かした……。

もう1つあるとすると、モバイルサービスのように人の土地に乗っかる小作人ですが、すごくサービスとして日本の市場が進んでいて。99年以来からあるモバイルですが、「日本のユーザーがものすごく厳しいからこそ育てられた、小気味のいいサービス」みたいなところのサービスを輸出するというやり方は、あると思います。

佐々木:わかりました。ちゃんと見極めれば日本の起業も可能性がありそうですね。

世界で戦える人材は「スーパーニッチ」

その中で、やっぱり企業を立ち上げるのは人ですので、そこにどういうイノベーター人材がいるかというのが、起業家にしろ、大企業内の事業家にしろ大事だと思うんです。

このイノベーター人材に求められる素養とか経験では、どういうものがあるかというのをお聞きしたいんですけれども。

佐藤さん、先ほどは情熱というか狂ってるくらいの熱量が大事だとおっしゃいましたが。そういう場合、イノベーター人材というところで、なにか注目してるとか大事なところってありますか? 狂っていればいいですか?(笑)

佐藤:単に狂ってると、ヤバイですよね(笑)。この間、シリコンバレーに行って思ったんですが、トップ層って、ものすごい競争環境の中で生き残ってきてる。私は子供が3人いるんですけど、勝てないなと純粋に思ったんです。

そう思ったときに、どうやってこの子たちを世界で戦える人材に育てるのか考えたら、「やっぱりスーパーニッチにいくしかないな」みたいに思ったんですよ。

日本の文化もそうだし……マニアックにどんどんいく。「人と同じことなんて絶対しちゃダメ」みたいな感じで、いろいろな育て方をしていきたいなと思いました。

佐々木:世界で勝たせたいものなんですか? 子供を。

佐藤:勝たせたいというよりか、やっぱりユニークな人材になってもらいたいですよ。要は人と同じように生きているとなかなか目立たないというか。勝たなくてもいいんですけど、やっぱり「目立ってほしいな」と思って。

人と違うことをしたり、同じところにずっといるんじゃなくて動いていく。そこによっていろいろな人に出会っていく感じが大事かなと思っています。

佐々木:スーパーニッチで、得意なところを見つけると。

佐藤:そうです、それしかないなと感じました。