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石川善樹氏トークイベント(全2記事)

空間の「一筆書き」で集中力アップ 神社・仏閣に見る、快適なオフィス環境のヒント

予防医学研究者の石川善樹氏の著書『仕事はうかつに始めるな』の刊行記念イベントが青山ブックセンターで開催されました。イベントの後半では、本には書ききれなかった“快適なオフィス環境”についてトーク。神社を参考にしたオフィス空間のあり方を提言しました。

フロー状態にはいりやすい仕事場とは

僕が考えたのは、オフィスに限らず世の中の空間をラフ度とクール度というのに分けた時に、4つに分かれるわけですね。

ラフ度が高いとリラックスできてクール度が高いと集中できます。右下はラフ度が高くクール度が低い空間ですね。たとえば昭和のオフィス。クールさはないけど、えらく落ち着くっていう(笑)。喫茶店で言うとルノアール。昭和の喫茶店もそうです。ラフさもないしクールさもないと言うのがいわゆる普通のオフィス。カフェで言うとドトールコーヒー。あまりリラックスできなくてもカッコいいというのが、いわゆるイケてるオフィスといわれているところですね。カフェでいうとスタバなんですけども。

当たり前ですが、ラフとクールはトレードオフなんですよ。リラックス度を出そうとすると、クール度は下がっていくし、クール度を上げようとすると、緊張する感じになっていくんですね。本でも書いてありますが、集中とリラックスが同時にこないと本当の意味でのゾーン、集中って訪れにくいんですね。

本来相反しているコンセプトをどうやって同居させたらいいんだろうかということを考えていたのですが、それが見つかったんですよ。今、これからお話する方法で、ある場所に、400坪くらいあるオフィスを作っています。たぶん、オフィス業界にちょっとしたイノベーションを起こすコンセプトで作られているのですが、どういうことかと言うと、仕事をする場所にどういう構成要素があるかを考えた時に、5つあるんですね。

1つは普通の日常業務をする、いわゆるオフィス。そして集中できるゾーン区画。あとはカフェコーナーですね。ちょっとみんながワイワイできるようなサロン的な所があって、ライブラリというか、情報がある所があって、さらにギャラリー的なものがあります。ここにはその会社がどういうことをやってきたのかを表す象徴的な作品があったりして、入り口に配置されていることが多いですね。

ギャラリーというのは緊張するようにできているんですね。サロンではリラックスする。オフィスは普通のことを普通にやるだけなので、集中もリラックスもしない。

この5つで要素としては揃っている気がしたんですよ。だいたいどこのオフィス行ってもあるんです。でも、「なんで要素があるのにうまく噛み合っていないんだろう?」というのが僕の疑問でした。それで、「集中」という観点から理想的なオフィス環境とはなんだろうというのを、歩きながら考えていたんです。

神社・仏閣の構造を真似するといいオフィス環境になる

僕のオフィスが原宿なんで、明治神宮が近いんですね。それで何か考え事があるとすぐ明治神宮に行くんですが、明治神宮を歩いていて、「ここだ!」と思ったんです。明治神宮めちゃくちゃ集中できるなと思って。

どういう構造なのかということを確かめるためにもう1回鳥居を見て、鳥居から中に入ってよく観察したら、実は5つの要素は神社でも一緒だと気付いたんです。ただ、並び方が違うんです。いわゆる神社・仏閣というのは、実はここになってるんですよ。

集中もできるし、リラックスもできる、そういう空間を作ろうと最初に考えたのは、たぶん空海です。空海が高野山に寺を作ったのは、中国に行って帰ってきて情報にまみれていたんですよ。ちゃんと集中して物事を考えなきゃいかんってことで、高野山にこういう所を作ったのがたぶん最初です。空海は「日本最初のイノベーター」と言われていますよね。彼は本当にいろんなことやってますけど。 神社・仏閣の空間もそうだったんじゃないかと。ここの構造を真似したら本当にいいオフィス空間になるなと思いました。

結論として、一直線であることが大事なんです。入り口のギャラリーっていうのが寺で言うと鳥居ですね。鳥居をくぐる時はちょっと緊張するんですよ。くぐるとすぐに散歩道みたいな緑があって、リラックスするんですね。ずっと入っていくと、初めてお札コーナーとか情報が出てくるんです。で、こうパンパン(参拝する仕草)とやる、日常業務をやるオフィスコーナーがあって、その奥にはさらに進んで、お寺の場合だと座禅をしたりする空間がある。

こういう構造になってるんですね。本にも書いているんですが、ストレスをグッとかけてリラックスすると、僕らの脳はスイッチがパーンと入るんですね。

神社だとサロンにあたる参道が砂利道なんですね。砂利道って歩いている時に砂利の音にすごく集中するんですよ。そうすると自然にリラックスしているんですね。ほとんどのオフィスは一直線になってないですよね、いろんなところから自由に出入りできるようになってるんです。

でも、神社とかは必ず、奥まで来たら同じ道を通って帰っていかなきゃならないですよね。それがクールダウン機能になってるんですよ。

集中できそうなときにしか机に座らない

今は「アクティビティ・ベースド・ワークプレイス」と言って、アクティビティごとに空間を分けましょうというのがオフィス作りの主流なのですが、 そうじゃなくて一直線に並べてウォームアップ、クールダウンするというのがいいんじゃなかろうかと、僕は明治神宮で気づいたわけです。

別に一直線じゃなくても、要は一筆書きモデルだったらなんでもいい。広い所じゃなくてもできるんですね。僕のオフィスはこの部屋の9分の1もないぐらいの広さですが、一応こういうふうに作っているんですね。できるんですよ。ここがふだんパソコンが置いてあったりする仕事をする所なんですが、うかつにここには近寄らないようにしていますね。

たまにうっかり朝来て座っちゃうんですが、「いかんいかん」と思ってまた戻って、「今日はどういうことをしたいんだっけなぁ」と考えて、例えば論文を書くんであれば、「どういう構成だったかなぁ」とか、一応考えてから座る。座ってから考ようとすると、余計なことばっかりしてしまうんですよ。

(会場笑)

入り口から自分のデスクまで順番に行くというようにしてから、すこぶる調子がいいですね。なんで調子がいいかというと、集中できそうな時以外はデスクに行かないからです。だから逆に言うとここに行く時は、自分の中でしっかりと準備ができている時ですね。こういうふうな一直線モデルというのは、これからいろんな所でもしかしたらみなさん目にするかもしれません。

という話を本当は本(『仕事はうかつに始めるな』)にも入れたかったんですが。

仕事はうかつに始めるな ―働く人のための集中力マネジメント講座

人生は「死なない理由探し」

じゃあ、ちょっとこんな感じで、みなさんとお話できればと思います。ご質問やご意見やご批判など……。

質問者1:今日はお話をありがとうございました。Well-beingでい続けるためにご自身はどんなことをなさっているか、例えばスポーツとか、そういうことに興味を持ちました。それから「善き人でありたい」という動機的なことで、何か宗教的な側面みたいなものがあるのでしょうか。この2点でお願いします。

石川:さっきの1日を終える時のチェックリストっていうのは、自分がWell-beingであるために考えてるんです。まず大前提として、生きることに意味があるのかということは常に考えますよね。人っていうのは死にますから。思わぬ時に死にますから。自分も命がいつまであるかわかんないですから、その中で生きるってどういう意味があるんだろうと常に考えるんですが、最終的には意味がないというのを僕は信じてるんですね。

宇宙は誕生してから138億年経っていますが、いつかは宇宙というのは消えるんですよ。僕らが何をどうしようが絶対消える。その時に「じゃあ生きる意味があるのかな」と。

僕、高校生の時にカミュとヘルマン・ヘッセが大好きだったんです。カミュは「真に重要な哲学上の問題は1つしかない」と言っているんです。それは「死なない理由を探すこと」だと。「生きることに理由なんかない」という前提がまずあって、あるのは死なない理由を探すだけだという。

今度Netflixで、死後の世界が見つかったというドラマ(『ザ・ディスカバリー』)が始まるんですが、これは研究者が死後の世界を見つけて、それはものすごくいいらしいということで、世界中で自殺者が急増しているという話なんです。

(会場笑)

石川:死なない理由がなくなって、死ぬ理由ができたという話なんですね。死後にすばらしい世界があると科学的にわかって、「じゃあなんで今まで生きてたんだ、ばからしい!」となって、バーって逝くという。それがめちゃくちゃおもしろそうだと思いまして。

死なない理由を探すというのは実際けっこう難しくてですね、逆に言うとWell-beingは満足の本質という意味なんですが、満足しちゃうと、死んでいいってことになっちゃうんですよ。毎日なにかしら不満があるんですね。不満がなくなって、もうWellだなと満足した時に、僕はもう役目を終えるんだろうなとすごく思いますね。

宗教的なことはちょっとわかんないですけどね。僕は中学校で仏教徒学校に行っていたんですよ。やっぱり当時はぜんぜんわからずに「観自在菩薩」とか言っていたんですが、あの影響は残っていたと思いますね。仏教も「全部意味なんてねぇんだ」みたいな考えですから、その影響はあるかもしれません。

質問者1:ありがとうございました。

デスク周りでできる工夫

石川:もうお1人くらいどうぞ。

質問者2:本日はお話をありがとうございました。最後の方でフローに入れるオフィスのレイアウトのようなお話がありました。今会社員なんですが、なかなかオフィスの構造自体を変えることはできないので、自分のデスク周りだけでも何かできることがあったらぜひ教えていただきたいなと思いました。

石川:その机にはいろんな物が置かれていますか? それともけっこうシンプルな机ですか?

質問者2:わりと置かれています。

石川:たぶんその状態って、1つの机に複数の機能を持たせているってことなんですね。例えばお菓子が置いてあるならサロンだし、書類とか本が置いてあったらライブラリだし、パソコンが置いてあれば普通の仕事をするオフィススペースでもあるし、「私はこういう人になりたい!」みたいな写真が貼ってあればギャラリーにもなってますね(笑)。

1個に絞った方がいいですね。全部あると脳が大混乱します。この場所はいったい何をする所なのかと。会社の中で自分のデスクは集中するところと決めたら、さっき言った順番でたどり着くようにするといいかもしれません。

あるいは日常生活におけるほとんどの仕事は雑務が多いですから、集中したい時はカフェでやるとか。そういうふうにされたらいいのではないかなと思います。

質問者2:わかりました。イメージできました。

石川:周りの人がびっくりするかもしれないですね。「なんか突然片付け始めたぞ」みたいな(笑)。ちゃんと理由を説明した方がいいですね。「こういう理由で机を今からレイアウトしようと思うんです」と。何事も、突然やるとみんなびっくりするんで。

芸能人もそうですよね、何月何日デビューって事前に予告しますよね。だから僕がおすすめするのは、モチベーションが上がったからといってすぐにやらない方がいいです、ちゃんと「私、4月の第2週から生まれ変わりますから」と周知徹底してください。「だからこれまでの私も、4月の第2週からの私も同様にみなさんに愛していただきたい」と。

(会場笑)

今日はみなさん、ありがとうございました。

(会場拍手)

司会:本日はありがとうございました。今一度、大きな拍手を!

(会場拍手)

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