なぜ「働き方改革」というキーワードが急浮上したのか

小安美和氏(以下、小安):みなさまこんにちは。お時間になりましたので始めさせていただきたいと思います。働き方改革実践セミナー「『働く』を変えるはじめの一歩」、KDDIエボルバ主催のセミナーを今より開始させていただきます。

私、本日司会とモデレーターを務めさせていただきます、株式会社Will Lab代表の小安と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

それではさっそくではございますが、最初のコンテンツに入りたいと思います。基調講演「企業が創る!未来の『働く』」講師の浜田敬子さまをお呼びしたいと思います、浜田敬子さま、よろしくお願いいたします。みなさま拍手でお迎えください。

(会場拍手)

それでは、こちらからは浜田さんにマイクをお譲りしたいと思います。よろしくお願いいたします。

浜田敬子氏(以下、浜田):ありがとうございます。朝日新聞社の浜田と申します。高いところから失礼いたします。今日は、働き方改革でけっこうキーパーソンになるような人が一番前にいて、本当に緊張します。

(会場笑)

実例については、実践もしてらっしゃるGoogleさんとかリクルートさんのほうがくわしいと思いますので。私のほうからは、今なぜ働き方改革というのが急に浮上してきたのか、キーワードになったのか、時代背景なども合わせてお話しできたらなと思っております。

メディアが「働き方改革」を報じなかった理由

実は、今でこそメディアで「働き方改革」の文字は見ない日はないと思うんですけど。この言葉が新聞などで頻繁に出るようになってから、まだそんなに時間が経ってないんです。これほどの頻度でメディアに登場するようになったのは、去年の夏以降だと思います。

2つ理由があります。1つは、安倍政権が「働き方改革実現会議」を作ったということ。もう1つは不幸な事例ですけども、電通の高橋まつりさんの過労自殺があったということが大きいと思います。

なぜメディアはあまり働き方改革を報じてこなかったのか。私は『AERA』という雑誌を17年間やってきまして、『AERA』のテーマとしてはこの働き方改革、長時間労働改革というものを頻繁に取り上げてきたんですけど、新聞やテレビではほとんど報道がなかったと思っています。なぜかと言うと、メディア自身が非常に長時間労働だからです。

自分たちができてもないことを報じるのは、自分たちの働き方自体を否定してしまうことになること、さらにはそもそも「長時間労働のなにが悪い」というような考えの人がまだまだ多いことが挙げられると思います。

メディアの仕事は、長時間労働を前提にいろいろな仕組みが作られているところもあります。例えば朝のワイドショーとかは、前の日に必ずみんな徹夜で編集作業をしてます。できなくなったら、番組を作るのに大きな支障が出るでしょう。

新聞の校了時間は午前2時。校了時間を早めるということはそれだけニュースが入らない、ということにもなります。そうしたら新聞はどうなるんだという根本的な構造改革をしないといけないので、ほとんどメディアではアンタッチャブルな話題に近い感じでした。

私はずっと週刊誌を23年作ってきました。後半の17年間は『AERA』を作ってきました。『AERA』では最後は編集長をやっていました。

『AERA』が働き方改革に向き合った理由

なぜ『AERA』が働き方改革を報じてきたのかというのは、2つ理由があります。

それは中心となっていた読者が30代、40代の働いているビジネスパーソンだったということで、特に働く女性の話を取材すると、仕事を続けようか悩むのは子育てとの両立からでした。

『AERA』の読者は半分ぐらいが女性だったので、まさに子育て世代が中心と言ってもよかった。最初から働き方改革ありきではなくて、まず読者に寄り添っているうちに、一番の働き続けられない要因が長時間労働にあることから、その問題を取り上げるようになりました。

もう1つ。『AERA』自身が、私が編集長の時は、30人の部署で20人が女性、うち10人がワーキングマザーでした。私も子どもがいるんですが、自分たちも働き方を変えないと、もう週刊誌を作っていけないという、働き方改革はまさに自分たちの悩みでもありました。

今どの業界も人手不足が大きな課題ですが、記者職とかライター職も、辞められてしまうと新しい人を採るのは非常に難しいんです。なので、結果的に自分たちが一番働きやすいかたちで働かないと、みんなが働き続けられない。いいものは作れないということから、自分たち自身の最大のテーマでもありました。

そして2016年5月から、今の朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサーという仕事にいるんですけども。今の部署は、新しい新聞社としてのビジネスやメディアを考えてるところです。新聞社としてこの問題にどう貢献できるか、どう解決できるだろうと考えました。

そのとき、『AERA』時代にはなかなかできなかった、企業とか行政を巻き込んだ働き方改革とか、子育てと働き方を考えるプロジェクト……要はみんなこれに乗れるようなプラットフォームを作りたいと考えて、この2つのプロジェクトを立ち上げました。そういう背景で今日は、お話をさせていただくことになりました。

女性管理職登用しましょう! ……とはいえ、母数がいない

ざっと歴史を振り返ると、バブル時代から早30年ぐらい経ってるんですよね。

私は1989年入社です。まさに私たち世代が最初に総合職として採用された男女雇用機会均等法世代。当時バブル採用ということもあって、91年ぐらいまでは大量採用の時代で、女性が非常に多く採用されました。

そして、総合職ということで多く入った女性たち。今どれぐらい企業に残っているでしょうか? みなさんも周りを見ていただくとわかるように、40代後半の女性社員の方、いらっしゃるでしょうか?

一般職の方はいらっしゃるかもしれません。でも、総合職の人がなぜ働き続けられなかったのかというと、やっぱり当時はまだ、出産をして復職をしても働き続けられる環境がなかった。大きくは制度がなかったということがあると思いますし、文化としても「結婚したら辞めるの当然だよね」「出産したら辞めるの当然だよね」が大きかったと思います。

その後、就職氷河期になりまして採用をグッと抑えられたので、企業の中に40代の女性というのが非常に少ないのではないかと思ってるんです。

なので、安倍政権が「女性活躍」と言った時に、「女性管理職登用しましょう」といっても、母数がいないんですよ。女性管理職に今なれる40代の女性ってもともとが辞めているから、企業にほとんど正社員として残っていない。そこで無理やり管理職を増やさないといけない。これは企業にとっても非常に大きな悩みなのかなと思っています。

日本経済というのはバブルの後に失われた20年とも30年とも言われてますけれども、女性にとって1990年代は本当に空洞の10年間、失われた10年だったなと思っています。当時辞めて、子育てが終わった後に再就職しても新しく派遣社員やパートタイムとが多くて、正社員として復職をした人がほとんどいない。だから、私たち世代の女性というのは、平均賃金を非常に下げていることにもなっていると思います。

1997〜98年に日本経済が底を打ち、2000年代に入りますと、さすがに「人が足りないよね」という企業が増えてきました。女性の採用も増えていくと同時に、育児休業法の改正などもあって、時短が取れるようになったりなどで、両立制度が整ってきました。今ベースになっている両立制度というのは、2000年代に作られたものが多いと思います。

働き方改革は優秀な人材を採るためにも必要

制度としては特に大企業の方は、ホワイト企業よりももっとすごい、ダイヤモンド企業というぐらいの制度が整っている。

去年、私は博報堂さんの労働組合で講演をしたんです。その時は若い、まだ出産前の女性社員の人がたくさん来てくださったんですけども、最初に人事の人が「うちの社はこんな制度があります」と説明されたのが、もう至れり尽くせりで。

その時、日経デュアルの羽生(祥子)編集長と対談したんですけど、「こんなに制度が整ってるのに、なんでここに今日みんな来てるの?」「なんでこんな不安なの?」と聞くと、結局は制度はあっても使えないんじゃないかと。上司の顔色をうかがうとか、仕事が長時間労働で大量の業務があって。「とてもじゃないけど今の業務量のままで産めるとは思えません」みたいなことが多く返ってきました。

まずは制度ということで、この2000年代に多くの大企業では両立支援制度がかなり充実してきました。

2006年、2007年ぐらいに『AERA』で女性管理職の特集をやりました。私たち雇用機会均等世代が管理職に登用され出していて。数は少ないんですけどもポツポツ出始めていました。その人たちの意見を聞くと、孤独で、例えば男性の部下との付き合い方がわからないという悩みが多くありました。

今では女性管理職として口に出せるような悩みを、当時は本当に数の少ない……1社に1人2人みたいな女性管理職の人たちに、「みんな孤独で苦労してるんだ」ということを取材しました。

当時の『AERA』は「第1次女性管理職ブーム」と位置づけて特集していました。当時エージェントの仕事をしてる人に聞くと、女性でマネージメント経験がある人は、もう転職市場で引っ張りだこだということを聞きました。

その後、リーマンショックがありました。「ちなみに女性の転職どうなった?」とそのエージェントの人に聞いたら、「もうゼロになった」。その時企業としてはダイバーシティというのはまだまだ企業ブランドイメージを上げる一環とか、やっぱりそういう意味合いが強かったと思います。本気で女性を登用する、役員にまで育てるというようなダイバーシティ政策ではなかったと思います。

先ほどから言ってるように、バブルがあったり崩壊したり、またちょっと景気がよくなったり。リーマンショックがあったということで私自身の実感としても、女性の採用や登用、ダイバーシティという問題は「日本だけじゃなくて世界経済にも振り回されてきたな」という印象を持っています。

そのときに安倍政権下で女性活躍法ができました。その一番大きな背景としては、人手が圧倒的に足りなくなる時代が来ることが大きいかと思います。企業も、今人を採用するの大変だと思います。

あるソフトウェアのダイバーシティ担当の人に聞いたのですが、エンジニアを100人採用したけれども、今年は30人しか採れなかったというようなことを聞いていて。

やっぱりエンジニアを多く採るためには、女性の理系を採りたい。でも、女性はみんなエンジニアのことを嫌う。なぜかと言うと、長時間労働というイメージがあるから。そういう人たちはどこへ行くかというと、例えば金融機関とか、一般職になりたいと言う。せっかく数学科を出たとか、理工系を出たといっても、エンジニアになかなかなってくれないんだというような悩みを聞きました。

やはり働き方改革は、優秀な人材を採るために企業としても、本当に必要なんだということをみなさんが肌身で感じていらっしゃるのかなと思っています。