心理学的に見た「荒らし」

マイケル・アランダ氏: こうしてSciShowをご覧になっているということは、あなたは情報とコミュニティの宝庫であるインターネットに少なからず慣れていることでしょう。しかしどんなに素晴らしく見える場所にも闇の部分があり、「荒らし」はまさにその闇の部分と言えます。

荒らし、という言葉は状況によって使われ方が異なります。しかし基本的には、話題とは関係ないことや、相手を煽るだけのコメントを投稿して会話を妨害することです。

すべてが悪質なわけではありません。お尻の毛について投稿したlitojonny(注:SciShowの動画にコメントした人の名前)のように笑えるものもあります。しかし大抵は有害なものです。

攻撃的な内容で嫌な思いをしなくてすむように、「コメントは見ないでください」と表記されているのを見たことがあるかもしれません。では最初にそんなコメントを書き込むのは誰で、なぜそんなことをするのでしょうか。荒らしをする人の心はどんな状態なのでしょうか。

荒らしの歴史

最初にいろいろな荒らしを見てみましょう。1990年代の初め頃、「ネットニュース」という、今でいう掲示板やフォーラムのはしりで、文章を投稿して会話ができる場で最初の荒らしは見られたと思います。

常連のユーザーが新参のユーザーに対して、嫌がるような質問を浴びせたり、投稿された質問に「何度も同じことを聞くな」とコメントしたりするのです。常連のユーザー同士はお互いのハンドルネームを覚えていて会話の流れについていけているので、新参のユーザーだけが荒らしの的にされるのです。

このころはたいして有害ではなく、今で言うところの「lol」(注:英語圏における(笑)の意味)のように内輪ではやし立てる程度のものでした。

しかし今では、荒らしを行う人にもいろいろな種類があります。例えば、オンラインゲーム内で他の人に嫌がらせをして楽しむ、グリーファーと呼ばれる荒らしがいます。マインクラフトというゲームで、あちこちにTNTを仕掛けるのもグリーファーの1つです。

しかしグリーファーは、ただルールを守らず嫌がらせをして遊ぶだけにとどまらず、差別的な言葉を投げかけたり、他のプレイヤーを脅すなど一層有害な行動を始めるようになりがちです。

4chan(注:2ちゃんねるのようなアメリカの掲示板)のように荒らしを肯定的に捉えるコミュニティからアノニマスといったグループが発生し、オンライン上での検閲に反対したり、政治的なメッセージを発信したりするハクティビズムといった運動を行って、インターネットの匿名性を守ろうとする場合もあります。

しかし他の荒らしは本質的にはネット上のいじめです。10代で亡くなった人を悼むメモリアルページ(注:亡くなった人が使っていたSNSサイト)に嫌がらせのコメントを書き込むケースも見られます。どんな動機で書き込まれたにせよ、書かれた側にとってみれば無視できる内容なのか実害があるのか見分けるのは難しく、ストレスや恐怖を受けることになりがちです。

彼らはなぜ荒らしを行なうのか?

そこで行動科学の専門家がそうした行動の真相を探ろうとしました。インターネットはまだまだ新しい分野なので、心理学者たちも人の心理や行動にどういった影響を及ぼすのかを研究している段階なのです。

「なぜ荒らしを行うのか」というテーマで幾つか研究が行われています。TwitterもYouTubeもReddit(注:アメリカの掲示板サイト)も生まれる前の2004年にジョン・スラーという心理学者は、匿名性の高いネット上で自制が効かない行動をとることを「オンライン脱抑制効果」と名付けました。

現実世界とは違った行動をオンライン上ではしてしまう、ということです。もちろん悪い行動だけとは限りませんが、そうなりがちです。スラー博士はオンライン脱抑制効果が発生する上で鍵となるのは6つの要素が関係していると考えました。

1つ目は、オンライン上では自分自身の正体を隠せるという「乖離匿名性」です。

オンライン上での行動が現実世界に影響を及ぼすことはないため、そこでの行動に責任が伴わなくなるのです。次にソーシャルメディアやオンライン上のやり取りは文字によるコミュニケーションが主なため、「不可視性」が見られます。

相手の表情や仕草がわからないため、発言への歯止めが効きにくくなるのです。さらに「非同期性」、つまり誰かの発言に対してすぐに反応する必要がなく、タイムラグを設けられることも挙げられます。

一旦時間を置くことも、好きなタイミングで返事をすることもできるので、面と向かって話す時より内容を練ることができるのです。これによって、自分の発言や行動によって影響を受ける現実の人たちと、オンライン上の人とは別物だと考えてしまいます。そのため「独善的思い込み」という、相手の人間性を自分にとって都合のいいように作ってしまうことになりがちです。

相手の文章を読むだけで、その声まで頭のなかで作り上げ、現実とはかけ離れた人間像ができ上がります。現実に行われる会話で構築される相手の印象とは別物になるのです。このために「脱抑制的想像力」がはたらき、オンライン上でのやり取りは非現実的なものになりがちです。

やめたくなったらすぐにやめられるゲームのようになるのです。グリーファーはまさにこのタイプで、他のプレイヤーの邪魔をしてその反応を見て楽しむという、別のゲームをプレイしているのです。

荒らしになるもう1つの大きな要素は「権威の最小化」、つまり現実では明確になっている権威が軽視されます。

相手を同等とみなしてしまい、傷つけるような発言であっても、とがめられる恐れを感じないため言いたいことを軽々しく言ってしまいます。

ネット上で攻撃的になる理由

オンライン脱抑制効果が最初に取り上げられてからもインターネットは成長し続けており、荒らしの定義も増えています。しかし荒らしの行動についてはほとんど研究されていないのが実情です。

ほとんどの調査はオンライン上で完結しているため、参加者の自己申告で成り立っています。また荒らしには沢山の種類があるので、どういう心理状態で行動したり反応したりするかはそれぞれ異なります。ではお尻の毛どうとかいうコメントを書き続ける人と、殺すぞと脅すようなコメントを書く人の動機にはどんな違いがあるのでしょうか。

こうした、より攻撃的な荒らしについてなされた最近の研究では、「ダークトライアド」と呼ばれる特徴との関連性が取り上げられていました。人間性の特徴を的確に捉えた名前です。

例えば「マキャベリスト」というタイプは、何かを行う時に冷徹で手段を選ばない人を指します。

一方で「ナルシズム」は自分への関心が膨らむあまり、他者に対する共感が足りない人です。

「サイコパス」というのも聞いたことがあるかもしれません。心理学者は、より強い反社会的な精神状態と定義していて、共感や罪悪感が欠如しており他者に対して一層攻撃的な傾向を示します。さらに「サディズム」は他者が痛みを感じていることに喜びを見出します。まさに悪い部分ですね。

2014年に400人以上を対象に行われた調査では、荒らしを楽しむ人、例えば悪意のあるWebサイトのリンクを貼ったり、ゲームで嫌がらせをしたりする人と、今挙げた精神状態の人には正の相関関係が見られました。

さらにコメントを投稿することに情熱を傾けている人ほど、より反社会的な動機が見られました。掲示場の会話に参加したり、オンラインゲーム上で友達を作ったりするためというより、荒らしをするために書き込むのです。

しかし調査では、荒らしを楽しんでいると答えた人は5%程度であり、60%以上の人はコメントを書き込むことによって対話を行っている、と答えています。つまり悪意のある荒らしを行う人はコメントを書き込む人のほんの一部であり、インターネットユーザー数と比べればさらに少ない割合なのです。

こうしたことは直感的にもわかりますが、興味深いのは荒らしを自覚している人と上述の精神的特徴とに正の相関関係があるということです。さらにそうした人たちはオンライン上での会話を、現実世界では表に出せない感情のはけ口にしています。

もちろん荒らしと自覚している人たちがみなサディスティックやナルシスト、というわけではありません。しかしこうした点は心理学者の興味をひいて、荒らしに関する調査をさらにすすめる動機づけになっています。そうした調査によってネット上の荒らしを多くの人が少しでも理解し、心ない言葉に対処できるようにしています。

多くの人は、ネット上の有害な書き込みは周りの状況に応じて自分の行動を調整できていないから生じる、と考えます。結局インターネットは新しいもので、社会的なルールがいつも明確なわけではありません。また規模があまりにも大きいため、それぞれのコミュニティごとに受け入れられる振る舞い方というものも異なっています。

荒らしから身を守る方法

では私たちはどうすればインターネットを魅力的で快適なコミュニティにしていき、ネットいじめやひどい荒らしから身を守ることができるのでしょうか。研究者の多くが感じていることは、穏やかなコミュニティであるほど、そこで交わされる会話にも良識が生まれるということです。

これは社会科学における「割れ窓理論」と関連があります。

誰かに窓を割られている場所は再びターゲットにされやすい、という理論です。言い換えれば、悪質な荒らしがはびこっている場所では同じような荒らしが集まりやすい、ということです。一方ですでに良識的な会話がなされていて、そういうムードがある場所では荒らしは行動しづらくなるのです。

しかし極端に良識的すぎる場所では、自由な発言がためらわれてしまいます。たとえ誰かに攻撃的であったり反抗的だと思われるとしても、誰しも自分の発言したいことを発言する権利があると主張する人もいます。オンライン上での良識と匿名性の間には、まだまだ答えの出ていない倫理的な問題がたくさんあるのです。

では荒らしが攻撃性を高めていく時の心理状態はどのように理解すればいいのでしょうか。例えば、インターネットの匿名性が荒らしの攻撃性を煽っているなら、匿名性を無くせばオンライン脱抑制効果は失われるのでしょうか。荒らしを受けた人がその荒らしとまともに向き合おうとすれば、荒らしをやめさせるのは一層難しくなり、さらには現実世界でも被害を受けるかもしれません。

フェミニストである活動家のリンディー・ウエストは、亡くなった父を真似た男からTwitter上で何度も荒らしを受けました。彼女がそうした嫌がらせを痛烈に取り上げた記事を書いた所、驚いたことにTwitterで荒らしを行っていた男は直接謝罪してきたのです。

話を聞いてみると、男は彼女が書いた荒らしについての記事を読んで、彼女が現実の生きている人間であることを実感し、そんな人に残酷な嫌がらせをしてしまったんだと理解したそうです。つまり荒らしにはたくさんの種類があり、その行動原理にも違いがあることは明らかです。

関係ない話題で笑いを取ろうとしたり、他のプレイヤーにちょっかいをかけたりする程度の無害なものもあります。しかし中にはいじめに発展したり、深刻なレベルにまで進む場合もあります。

心理学者たちはそうした行動の由来や、私たちの心に与える影響を解明しようとしています。いつの日か匿名性のあるインターネットでも、他者を傷つけずに自由に発言ができるようなバランスの取れた時代が来るといいですね。その日が来るまで、「荒らしには構わないでいる」ことを忘れないでおきましょう。