Googleが考える新しい“ゴールデンタイム”

高宮慎一氏(以下、高宮):なんと言っても、インターネット時代の最大のメディアってGoogleだと思っています。Googleがテクノロジーとかアルゴリズムを通じてメディアの編集機能を担っていて、良質な情報をユーザーに届けていたと思うんです。

次にソーシャルが出てきて、検索を踏まないで直接コンテンツ飛んでいく、またはアプリが出てきていきなりアプリに飛んでいく……みたいになった時に、メディア業界・コンテンツ業界の構造変化って、Googleとしてはどう捉えているのか。そこから出てくる課題、問題は、どう認識されていますか?

岩村水樹氏(以下、岩村):そうですね、その問題も含めてかもしれないですけど。もう1度フラットに考えると、1つは、メディアの環境の変化と言ったときに、やっぱり圧倒的にネットの時代になっていますよね。

みなさんにとってはものすごく当たり前のことかもしれないんですけれども、全体を見ると、今、メディア接触時間でテレビは何パーセントくらいを占めていると思いますか? 平均で見るとね。

意外とまだ40パーセントとかあるわけですよ。ネットが45パーセントくらい。たぶんみなさんの世代だと、もっとガーっとネットが多くて、という話になると思うんです。

ただようやく、実はテレビとネットがひっくり返った状況なんですよね。なので今、そういうかたちで、ネットが出てきました。プラス、それはなにを意味するかというと、ユーザーにとっては「常に繋がっています」という話です。しかもウェアラブルも出てきています。

みなさん、スマホを持っているということは、なにか気にかかったことがあればいつでも調べられる、常に繋がっている状況が出てきています。

これをGoogleは「マイクロモーメンツ」と言っているんです。私は昔、電通にいたんです。電通というのは基本的に広告代理店で、枠を売って商売します。その枠で一番高いところはどこかと言うと、7時から9時くらいのテレビのところ。なぜなら、そこは視聴率が一番高いから。それを「ゴールデンタイム」と言っていました。

でも、そこはもうだんだん人が減ってきて。そうではなくて、もっと価値があることはもちろん人の数だけではなくて、インターネットを介してユーザーが見ている情報。ユーザーがなにに興味を持っているかわかる、意図がわかるという瞬間なんですよね。

それはものすごく価値が高い。そこを新しいゴールデンタイムと言ってもいいんではないかと、私たちは考えています。

ソーシャルギャップが広がる可能性

2つ目は、圧倒的にユーザーにパワーがシフトしていることですよね。もちろん、みなさんは情報を検索している。プラス、SNSで発信をしている。あるいはYouTubeができてなにが起こったかと言うと、そこから世界に発信できるクリエイターたちが出てきています。そういう意味では、ユーザーに大きくシフトしています。

3つ目として、実は世界同時にみて大きい要素として、私はアジアパシフィックを見ていますけども、まだまだネットの恩恵を受けてない人たちはすごくいること。しかもこれがソーシャルギャップ、ソサエタルギャップを加速してしまう可能性がある。そこをなんとかしていかなくちゃいけないと思います。

例えば、インドの村の場合、女性がインターネット人口に占める割合はどれくらいだと思いますか? まだまだインターネットはぜんぜん浸透していないんですけど、そんな中でインドの農村部でインターネット人口に対する女性の割合は10パーセントを切っちゃうんですよね。

圧倒的に、そこにジェンダーギャップがあります。もともとジェンダーギャップがある社会の中で、さらに情報への接触がギャップがある。それが加速してしまう可能性も含めて、なんとか解消していかなければいけない。それを解決するための活動も行ってます。

大きい話で3つ、とりあえずおさらいということで触れさせていただきました。

高宮:岩村さんはアジア太平洋を管掌されていて、アジアはもちろんグローバル見られていて、今言ったみたいな変化や問題はもうグローバル共通という理解でいいんですかね? あとは日本独自で起きている特徴的なものでなにか気付かれたことってありますか?

岩村:まず、基本的にこの3つは特徴としてはグローバル共通だと思います。ただ、日本の場合は、インターネットへの接続人口は大きいわけです。でも意外と、スマートフォンのペネトレーションは他の国に比べると低いんですよね。

ガラケーがあまりにも素晴らしかった、ということもあるんですけど。そういった意味で言うと、日本の中でもこのギャップは起きていて、シニア世代の人たちがまだなかなかネットに繋がっていないというのは、これから1つのソーシャルギャップを大きくしてしまう可能性があります。そこをなんとかしていくことは必要かなと思います。

高宮:なるほど。地域間及び世代間でも両方デバイドが起こっているという感じですか。

コンテンツの発信がデモクラタイズされた

続けて岩村さんにおうかがいしたいんですが、YouTuberの話もあったと思うんですけど、メディアはいつも文化を作るとかムーヴメントを起こすときの発火点だったりするじゃないですか。

そういう意味で言うと、今メディアで起こっている変化はおもしろい文化やムーヴメントに対してどういう作用を及ぼしているのでしょうか。おもしろい文化側の動きがいい方でも悪い方でも、なにかありますか?

岩村:そうですね、YouTubeのみなさんもぜひチャンスがあったらなにか作って上げてみてください!(笑)。これがなぜ素晴らしいのかと言うと、一挙にグローバルに広がる可能性があるんですよね。

これまで、コンテンツと配信と全部分かれていました。テレビ局というものがあって、そこが電波を持っているからコンテンツを作る人たちが集まっていました。そこじゃないと発信できないから。

でも、今はインターネットが出てきて、いいものがあれば発信することができます。これ、すごいデモクラタイゼーションですよね。コンテンツの発信がデモクラタイズされた。

そこでなにが起きているかと言うと、ピコ太郎ですよね(笑)。ピコ太郎さん、すごいですよ。もう8月ぐらいに(動画を)上げて、9月ぐらいにはソーシャルでピックアップされて。ちょっとおもしろい香港ベースのサイトにピックアップされて、それからジャスティン・ビーバーがピックアップして、もうガーッと。彼の動画だけで、1億回以上再生されています。

彼のトリビュート動画みたいなものも含めると、もう5億回以上再生されているんですよね。要するに、ピコ太郎さんが今まで日本のシステムの中で、「あの動画をヒット動画、ヒット曲にしましょう」と言って、果たしてできたのか。たぶんできなかったと思います。

「いろんなレーベルの中でちゃんとサポートプロモーションをもらってやっていきましょう」となると、なかなかできなかった可能性がある。それが一挙にできるという意味では、すべての人たちがおもしろいものを作ることができれば、コンテンツを発信できる。

これは日本に関して言うと、すごく大きいことです。今までなかなか日本のコンテンツ業界では海外に発信することはなかった。なぜなら日本の市場はそこそこ大きい微妙なマーケットなんです。そこそこ大きいから、そこで満足できちゃう。逆に言うと、韓国みたいなところはもっと市場を広げたいから、どんどん日本に出てくるわけですよね。そこを最初から狙って、一生懸命、日本語も勉強する。

これからは本当に言葉なしでも伝わるようなコンテンツをちゃんと作れば、グローバルで一挙にいくことができる。そんなおもしろい時代になってきているなと思います。

高宮:ピコ太郎って、今までの発想で言うと「きっと代理店が裏にいてメディアに取り上げてもらうようにフィックスして……」みたいな感じで広げていったと思うんです。でも、今回は完全にバイラルですよね?

岩村:そうですね。もちろんピコ太郎さんはそういってもプロですよね、レーベルに所属してらっしゃる。まあ、ピコ太郎さんもYouTuberと呼んでいいのかもしれないんですけれども(笑)。ということで、2年前から「好きなことで生きていく」ということでキャンペーンをやっています。

普通の一般の若い子たちが、例えば、はじめしゃちょーってご存知ですか? もう大人気! 彼の動画は1年間13億回くらい再生されるので、本当にプライムタイムの番組ぐらいの視聴率が取れちゃうんですよね。

彼みたいな人たちが出てきて、ちょっと実験動画みたいなものをやっていく。それで彼は、教師になるかどうするか悩み、YouTuberとして行きていく道を選んだりしている。

おもしろいものを作る、そしてやり続ける。そして、ちゃんとファンと丁寧に対応をしていくことで、きちんとヒット動画が生まれる可能性があると思います。

必ずメディアは動画が一番強くなる

高宮:次に森川さん。まさに誰でもヒーローになれるところを事業化されていると思うんですけれども。そのあたり、メディアの変化が文化に対してどう影響を与えていると思いますか?

森川亮氏(以下、森川):先ほどのメディアの話に戻ると、文字から始まって写真になって動画になってきたということです。文字と写真、動画の違いを例えると、文字がサラダだとしたら写真はごはんで、動画はお肉みたいな(笑)。

人間は刺激的なものを求めたい気持ちはいつの時代にもあるんですよね。なので、必ずメディアは動画が一番強くなる流れがあります。僕自身がメディアの革命をずっと見てきた中で、動画に関して言うと、まずは映画が生まれた時から動画の文化が始まっているんです。なぜ生まれたのかというと、フィルムと劇場が組み合わさったんですよね。

その次に、テレビが生まれた。そのときなにがあったかと言うと、生中継という技術ができたこと、受像機が家に入ったことが次のステージなんですよね。

結局なにがあったかと言うと、作る機械と見る機械が両方変わって革命が起こっていたんですよ。今回必ず起こるのは、スマートフォンで撮って、スマートフォンで見る時代が来る。これが次の映像革命だと思っています。

スマートフォンができてからすべてが変わったんですよね。音楽も、いわゆるプレイヤーがなくなって、スマートフォンで聴くようになった。ゲームもコンソール機という家庭用ゲーム機が減ってきて、スマートフォンでゲームやるようになった。

映像だけはまだ、テレビというものが残っているんです。おそらくスマートフォンがメインの画面になるのかなと思っています。僕たちC CHANNELはそういう未来において、あらゆる人が動画を撮って、動画で参加をして、それそのものがメディアになってグローバルに繋がる。そういうものをやっています。

残念ながら女性だけがターゲットなので、男性はちょっと参加できない。イケメンだけは参加OKになってますが(笑)。

(会場笑)

なので女性はぜひ、参加してください。

高宮:そういう意味では、僕は参加できないんですけど(笑)。

デバイスが変わるとメディアも変わる。これはすごくおもしろいなと思っていて。作る側と見る側のデバイス、そういう意味では、見る側のデバイスとしてスマホは普及しきっている状況だと思います。さらに、ウェアラブルだとかARやVRがくると、もっと変わる。そういうことなんですかね?

森川:そうです。簡単に作れるポイントはあって、プラス、それがイケてるように見える。例えば、カメラアプリも世界中にいっぱいあるんですけれど、なぜInstagramが伸びたかというと、イケてるように見えるからなんですよね。そこがポイントです。

ただ最後に、一番大事なのは、自己表現したい人が何人いるのか。ここがちょっと、日本には足りないところがあります。日本人ってすごく平和なので、自己表現しなくてもいいという人がけっこう多いんですよね。一般的にアーティストになる人は、不幸な人が多くて、それを解決する手段として表現というものがあるので。

そういう意味だと、日本はもっと表現者が増えると新しいコンテンツや文化も生まれるのかなと思います。そういう環境をどう作れるのかなは、いろいろ考えますね。

レイトマジョリティーの人たちの底上げをするサービス作り

高宮:次は山口さんにおうかがいしたいんですけど。メディア側から質の担保されたコンテンツをトップダウンで発信し、消費者側からボトムアップで上がってくるコンテンツとのバランスを取られようとしていると、冒頭でお話がありました。そういう立場からすると、ムーヴメントの作り方や文化の作り方は今後変わりますか? 

それとも、今までみたいに圧倒的なメディアが勝手に作る、とまでいかないけど、力が強いインフルエンサーが牽引するなど、延長線上でそこは見えると思いますか? それともガラッと変わると思いますか?

山口文洋氏(以下、山口):僕の中ですごく葛藤しているというか、すべてが同じ道に行かないんだろうなと思っています。例えば、YouTubeやテレビはザッピングしている楽しみがあるんですよね。だから、いろんな人がボトムでどんどん上げていって、それを自らも含めて楽しんでいく。そういう世界がいいのかなと思っています。

ただ、僕がたまたま扱っているのは、そういう日常生活の中の余暇の時間の過ごし方みたいなところと、ちょっとライフイベントのところで、ちょっと人生決めなきゃいけないっていうところのメディアを作っています。

例えば、今一番自分の中で悩んで作っているのが、「スタディサプリ」というオンラインラーニングのサービスです。あれはプラットフォーマーで作っているので、裏側のシステムは、YouTuberみたいに誰でも動画を上げて、スタディサプリ上でいろんな学問を教えられる状態がすでにできあがっているんですよ。

ただ、実はその機能を解放していない。それはなぜかというと、消費者を見たときに「じゃあ数学の先生がそこに1,000人、2,000人いて、誰が見てもわかりやすいかよくわからない」という状況よりは、「キュレーションで5人の先生から学んだら一番効率よく、生産性高くいけるんじゃないか」が今はあるのかなと思っているんです。

その一方で、いつかピコ太郎さんみたいに、素人先生がヒーローになっていく世界を作りたいんです。もう1歩でそのプラットフォーム……ブランドというか品質を作らなきゃいけないのかなという。

ブランドと品質を足掛けですでに4年くらいやっているんですけど、まだしばらくはしっかりとキュレートした中で品質を作って、その後、プラットフォーマーとして教育のYouTubeみたいになっていきたいと思っています。

あともう1つ、すごく悩ましいのが、リクルートはいろんなメディアやっているんですが、マジョリティやインフルエンサー、アーリーアダプターのみんなも含めていろんな情報リテラシーやメディア、文化をとらえようとしているんです。もう一方でレイト・マジョリティーの人もいるなかで、その差が広がっている部分もあるなぁと。

それで言うと、僕たちのやっていることはアーリーアダプターとかインフルエンサー向けというよりは、レイトマジョリティーの人たちの底上げをするサービス作りが、結果としてのマスを取れるのかなと思っています。

いつでもスタディサプリでARとかVRを使った新しい授業体験を作ってもいいと思ってるんですよ。だけど、実際そのレイトマジョリティーの人たちはそれを使うかというと、別に話題にはなるけど誰も使わないんですよね。

そこが、これからみなさんがいろんな会社や企業を作るときに、自分の感覚じゃない、反対側にいる人の感覚はすごく大事にされると、またいいのかなと思ってたりします。