経験や知識によって、同じ景色が違って見える

福島大輔氏(以下、福島):この会場、かっこいいですね。すごくないですか? 宇宙みたいじゃないですか? みなさんはこの会場に来て、どんなことを思いましたか? 何かイメージしたことあります? この会場、稲盛会館は、鹿児島大学出身で京セラの創業者である稲盛和夫さんが寄贈したもので、日本を代表する建築家が作っています。

稲盛和夫さんをよく知っている人は、たぶん彼の人生やストーリーを想像しながらこの会場を見てるんじゃないかなと思います。建築とかデザインに興味がある人は、この構造とかデザインを見ながらいろんな想像をしてると思うんですね。

TEDxSakurajimaのホームページを見ていた人は、このイベントに関わっているいろんな人達の姿が見えるかもしれない。経験や知識によって、同じ景色を見ていても全く違って見えます。この会場ひとつとっても、それぞれがいろんなストーリーを思い描くんですね。例えば僕は、こんな景色を想像します。

僕はこの大学出身なので、この会場で博士号の学位授与式があったことを思い出します。僕はこの大学で火山学を研究していました。論文が書けなくてすっごい悩んだ時とかは、もう毎日のように顕微鏡で火山灰を見て、ずっと見てると気持ち悪くなるんです。目をつぶっていてもこれが浮かんできて、もう大変なんです。しかもいろんなつぶつぶが、もう塩とか砂糖とかも火山灰に見えてきて、ついには粉チーズまで……(笑)。全てが火山灰に見えてきてすごい気持ち悪くなった思い出があります。

それだけいっぱい見てきたということなんですけど。この火山灰、すごく綺麗じゃないですか? キラキラして。これはシラスの火山灰です。シラスといえば、日本全国の子どもたちが一度は学校で習ったことがあるシラス台地。鹿児島のみなさんにはおなじみだと思いますけども、このシラス台地、どうやってできたか知ってます? たぶん多くの人は、桜島の火山灰が長い年月、何万年もかかって降り積もっていってできた。そう思ってるんじゃないですかね? 実は違うんですよ。「えー!」って感じじゃないですか? じゃあどんな噴火でこのシラス台地ができたのか。

高さ60mのマグマが鹿児島を覆った

実は今の桜島の噴火よりも100万倍ぐらい大きい、巨大な噴火が2万9千年前に起こりました。その噴火では火山灰が上に上がらずに、溢れてこぼれて火砕流となって流れていきました。火砕流というのは、高温の軽石や火山灰、火山ガスが一緒になって流れ下る現象なんですけれども、この時流れたのが半径約70km、南九州をすっぽり覆うぐらい。この黒い部分は今でもシラス台地なんですけれども、こんなに広がっている。

しかもその温度は600℃以上ですから、ほとんどの動植物は死滅してます。すごい噴火ですよね。その総噴出量が、約400k㎥以上。全然ピンときませんね。そうですね、この鹿児島県本土に、全部同じ厚さで埋め尽くしていったらどのくらいの厚さになると思います?

400k㎥÷鹿児島件本土の面積。なんと60mなんです。すごくないですか? 佐多岬から高鍋、泉から枕崎まで薩摩半島も大隅半島も全部60m埋め尽くすんですよ。すごい量ですよね。そんな量が地下のマグマの下にあったわけです。それがブワーッと出て行ったわけなんですけど、出て行った時間、何万年もじゃなく、たったの1週間。すごくないですか? シラス台地はたったの1週間でできているんです。自然ってすごいですよね。

それだけ大量のマグマが地下から出て行くと、穴が開きます。空っぽになるから地面が落っこちるんです。それでできたのが姶良カルデラと呼ばれているカルデラ。桜島の北側にある錦江湾は、実はこのカルデラでできている。そういう話を聞いてから錦江湾の景色を見ると、だいぶ変わって見えません? 知識があれば、想像の世界がすごく広がります。

裏に存在するストーリーを知ることで見える世界

想像するのは楽しいですよね。もちろん今みたいに、景色の裏側に隠されているストーリーを知ると、「わっ、すごい!」みたいな。そういうのもありますけども、たぶんみなさんがワクワクする瞬間っていっぱいあるじゃないですか。

だいたいワクワクするときって、何か想像してるんですよ。「これをこうやったらうまくいくんじゃないかな」とか、「これだったらすごいなぁ」とか。そんな想像をするから楽しいんですよね。僕はなんで火山学をやったかとか、なんで今の仕事をやっているかっていうのをあんまり考えたことがなくて、ずっとなんとなくだと思っていたんですよ。

なんとなく大学に入って、なんとなく選んだ火山で、なんとなく今の仕事。ずっとそう思っているんですけど、今回改めて考えてみたら、実は僕、想像するのが楽しかったんだなと。火山噴火を想像するのが。

「ドーン!」、すごくないですか? これ、桜島の噴火です。夜撮るとこんな感じになるんですね。今でも毎日のようにこんな噴火をしている。こんな想像ができたらもう楽しくてしょうがないわけですよ。「ドッカーン!」とか「ドロドロ」とか、そんな感じ。頭の中はそんなことばっかり。

みなさんもこんな経験がないですかね? 例えば自分が大好きなアーティストがまだ無名だった頃によく通っていたお店に行ってみたりとか、あるいは路上ライブをしていた場所に行ったり。「あっ、あの人ここにいたんだ」。そういった想像をしてみたりとか。あるいは歴史の大好きな人だったら、歴史上のすごく有名な人物の生まれた場所に行ってみたり、すごい有名な戦いが繰り広げられた場所に行って、「あっ、ここだったんだな」みたいな。

そんな想像をして楽しんだことってありませんか? 普通の人にとっては当たり前の風景でも、すごい興味を持っていたり知っていたりすると、その景色がすごくおもしろくなるわけです。想像力で目の前の世界が全く違って見えるんです。それは僕が言い出した新しいアイデアでも何でもなくて、みなさんも普段想像して楽しんでいると思います。

知識量と想像力が世界観を変える

想像力が世界観を変えるというのは、いろんな人が言っています。例えばアインシュタイン。こんなことを言ってます。「想像力は知識よりも大切だ。知識には限界がある。想像力は世界を包み込む」。想像力の素晴らしさについて語っているんですけども。ここでちょっと注意してほしいのは「知識はいらなくて、想像力だけあればいいんだ」、そう思ってほしくないんですね。知識も結構大切だと。アインシュタインの言った言葉を僕なりに解釈してみると、こういうことなんじゃないかなと思うんです。

ちょっとグラフを作ってみました。横軸が知識、縦軸が想像。知識と想像は比例していて、知識がたくさんあると、想像の幅もすごく膨らんでいく。ただこの傾きは人によって違うんですね。想像力が豊かな人だと、この傾きが傾く。少ない知識でもものすごいいろんな幅の想像ができる。

逆にものすごい知識があっても想像力が乏しいと、想像の幅が狭かったりする。じゃあどうやったら想像力が豊かになるか。1つは知識を増やすこと、あるいは知識をもらうこと。もう1つは想像力を豊かにすることなんですね。想像力を豊かにするには、トレーニングすればいい。

どうするかというと、いつも何か想像する、あれこれ想像する。妄想するんですね。さっきみたいに「ドッカーン!」とか。僕の友達にすごい妄想が大好きな女の子がいるんです。いつもニタニタしてる。何考えてるんだろうと思うんですけど……。彼女は自分のことを「妄想族」って呼んでいて、いつも妄想してるんです。

妄想力を支える知識や経験

僕はこういう景色を見て、いろんな妄想ができるんですよ。これは溶岩なんですけども、みなさんから見たらただの岩にしか見えないかもしれない。でも僕が見ると、「この形すごいなぁ」とか「この割れ目すごい」とか、この景色からいろんなことが読み取れて、CGのアニメーションが動いてくるようにいろいろ想像できる。

どうして僕がそんな風にひとりで妄想できるかというと、火山学の知識があるからなんですよね。つまり、想像力を豊かにするためには、やっぱり知識や経験は必要なんじゃないか、そう思うわけです。だからある大好きなアーティストについてすごくよく知っていたら、「あっ、ここはあの人がいた場所なのね」「あっ、あの時のあれね」みたいな。歴史好きの人は「あの戦いがここだったのか」、そういうのが想像できてすごくおもしろい。

知識と想像力で目の前の世界がガラッと変わるんだなと、そんな気がします。もちろん美しい景色や芸術作品は、何の知識がなくても感動すると思います。だけれども、その美しい景色の裏側に隠されているストーリーを知ったら、あるいは芸術作品の裏側に隠されているおもしろいエピソードを知ったら、その作品に対する思い入れやおもしろさが変わるし、感動も大きくなるかもしれない。

逆に一見汚く見えるようなものだったりとか、あるいは普段は当たり前のような景色だったりとか、そんなところにもエピソードが隠されていて、それを知るとすごくその景色もおもしろく見えたりする。だけれども、世の中全てのものの裏側に隠されているエピソードを知ってる人って誰もいないですよね。大抵は自分の仕事、趣味、好きなことに関してはものすごく知ってるけれども、それ以外についてはあまりよく知らない。でもガイドがいると目の前の世界を全然違う世界に見せてくれます。

想像上の溶岩と実体験でみた溶岩の差

例えばエコツアーでは、自然の中でいろんなガイドをします。目の前に見えている景色の裏側に隠されたストーリーを語ってくれるので、目の前の世界がガラッと変わって見える。例えばこの溶岩の写真。たぶんみなさんが普通に見たら、木がいっぱい生えてるし、岩なのか溶岩なのかよくわかんない。そういう状況だと思うんですけど、実はここにもたくさんのストーリーが隠されているんです。

みなさんは溶岩が流れてくるスピードってどのぐらいだと思います? ちょっと想像してみてください。赤くてドロドロしたものが川のように流れてくる、そういうイメージが強くないですか? 実は桜島では、そんな溶岩は1回も流れたことがありません。じゃあどんな溶岩か。

昭和21年、今から67年前に桜島では溶岩が流れる噴火が起こってます。その溶岩を見たっていう人は結構いるんです、おじいちゃんとか。そのおじいちゃんに話を聞いたことがあります。そしたらすごいおもしろい話をしてくれて。近くまで見に行ったらしいんですけれども、「どんな感じだったんですか?」って聞いたら、全然赤くなかったらしいんですね。黒い岩の塊がブワーッと30mぐらいあって、横幅が2~300m。

岩がゴロゴロ崩れながら、カラカラ音を立てながら少しずつ進んできたらしい。すごく珍しかったから、そのおじいちゃんは近くまで見に行ったらしいんですね。近くまで行って、タバコに火をつけて帰ってきたらしい。

すごいですよね。どんだけ? っていう。なんで子どもがタバコを持ってるんだろうってちょっとおかしいんですけども、まぁそれはいいとして……。タバコに火をつけて帰ってきた。そのぐらいゆっくりだったそうです、話を聞いた限りでは。

迫りくる溶岩に対して、家を解体して逃げる

ちなみにこれは100年前の溶岩の写真です。桜島が大隅半島とくっついた瞬間のとても貴重な写真なんですけども、100年前までは桜島は島でした。周りが海に囲まれてたんですけども、100年前に溶岩が流れて、隣の大隅半島とくっついてドッキングしてる瞬間です。右が桜島。左が大隅半島。右側はゴロゴロとした岩山が、さっきのおじいちゃんの話によく似てますね。ここに人が写ってるのわかります? 近いけど怖くないんですね、ゆっくりだから。

高さが3~40mで、幅が2~30m。確かにおじいちゃんが言っていたとおりだ。右下にいる人に至っては、「この石いいなぁ」って言いながら拾ってるみたいな感じで、えらい近いところまで行ってる。溶岩がゆっくりだっていうのがこの写真からもわかる。別の集落のおばあちゃんにも話を聞いたことがあって、そしたらその集落のおばあちゃんもまたすごい。

溶岩が流れてくるのが見えたらしいんですね。どんどん集落に迫ってくるので、自分の家が埋もれてしまうと思ったらしいんです。その時にその集落の人達がとった行動がすごい。何をしたかというと、溶岩が流れるのを見てたんですよ。見てから家を解体して運んで、別の集落に建て直したんです。

どんだけゆっくりだったんだろうと思いません? 今の家だったらとてもじゃないけど運べませんけどね。昔は梁と柱と茅葺屋根っていうシンプルな作りだったから運べたんですけど、まぁそれにしてもゆっくり過ぎませんかね? 溶岩見てからですよ? ちょっと信じられない。でもそのくらいゆっくり流れてくる。そんなお話を聞いた後にこの景色を見るとどうですか? なんか溶岩が迫ってくるように見えません? パラパラ、じわじわっと来てる気がしませんか?

想像力と知識を結びつける、ガイドという仕事

知識は想像力を豊かにし、想像力は目の前の世界を変える。でも知識がなくても、目の前の世界を変えてくれる人がいます。それがガイドです。ガイドの仕事には重要なポイントがあって、それは知識を共有し想像力を引き出すという作業です。お客様と知識を共有しないといけない。そうでないと、一生懸命わかりやすく説明しても全然理解してもらえない。

だからガイドは言葉だけじゃなくて、イラストや写真、あるいは小道具とかエピソードとか例え話、もういろいろな方法を使って知識を共有しようとします。でも知識を共有できただけだと何もおもしろくない。「へぇ~」でおしまい。さらに必要なのが、想像力を引き出すこと。

共有した知識を使うと目の前の景色がどれだけおもしろく見えるのか? そのサポートをするのがガイドの役目なんですね。例えばガイドさんはどこに連れて行くかっていうと、その裏側に隠されているストーリーがいちばんよく想像できる場所。それを選んで、その場所に連れて行って話をする。そうするとその景色がすごくおもしろく見えますよね。

そんな感じの仕事がガイドなんですけど、実はこのガイドという仕事、ツアーガイドだけじゃなくて、たぶんいろんな場面でも似たようなことがあると思うんです。例えばいろんな商品。ただ単に機能を説明するだけじゃなくて、「これを使ったらこんな生活ができますよ」と、生活がイメージできるような話をする。そういうガイドさんがいるかもしれない。

あるいはこのTEDxのイベント。いろんなスピーカーがいて、今までにないような新しいアイデアだったり知識を与えてくれて、それがきっかけに目の前の世界がガラッと変わったりする。人生を豊かにしてくれるガイド役と言っていいかもしれない。知識と想像力で目の前の世界は何倍もおもしろくなります。想像は楽しいです。みんなでいろいろ妄想しましょう。