人工知能ブームを日本社会が良くなる方向へつなげたい

司会者:続きまして「ミライの仕事・AIと生きて行く〜ワクワクが人間の強み」について、株式会社ダンシング・アインシュタイン代表の青砥瑞人さま。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻特任准教授の松尾豊さまにご対談いただきます。

このセッションは唐木がモデレーターを務めさせていただきます。それではよろしくお願いします。みなさま、拍手でお迎えください。

(会場拍手)

唐木明子氏(以下、唐木):このセッションは、「HeForShe(ヒーフォーシー)」を語るにあたってまずは未来を考えたいなと思っています。これからどうなっていくのか考えたいと思った時に、ぜひ松本先生と青砥さんにお話しをおうかがいしたいなということで、企画させていただきました。

みなさん、松本先生と青砥さんをご存じだとは思いますが、それぞれAIと脳神経学を使っていろんな活動をしていらっしゃいます。今日は45分という短い時間ではありますが、2人にいろいろなお話をうかがっていければと思います。

まず、簡単に松本先生と青砥さんの方から自己紹介といいますか、今燃えていることというか取り組んでいらっしゃることをお話しいただけますでしょうか。

松尾豊氏(以下、松尾):東京大学の松尾と申します。人工知能の研究をずっとやっております。ここ1〜2年、日本でも人工知能というものがすごくブームになってきていまして。

ただブームであるのはいいんですが、そうなるとなんでもかんでも人工知能と言い始めて、メディアでも人工知能という言葉を見ない日がなくなってきたわけです。

なんとかこのブームをいい方向に持っていきたい。日本全体の競争力に繋がるような、日本社会がいい方向に向かうようなかたちに持っていきたいということで、本を書いたり、講演をしたりと、研究の傍らでやっているような感じです。

唐木:ありがとうございます。青砥さんお願いします。

サイエンスで人間理解をもっと深められる

青砥瑞人氏(以下、青砥):松尾先生と違って、僕を知っている人はほとんどいないと思うのですが。ダンシング・アインシュタインという会社をやっている青砥と申します。僕は単に脳の不思議を愛していて、脳の不思議にすごい感謝している。そんな変な人間です。

会社の名前も「ダンシング・アインシュタイン」というヘンテコな名前の会社なんです。人間の脳神経と教育の間に、架け橋を創ろうとしている会社なんです。みなさんに少しだけ覚えてほしいことが、「ダンシング・アインシュタイン」という会社は、DAが大文字になっています。

なぜ大文字なのかというと、脳神経科学医学では論文に「ドーパミン」という言葉がいっぱい出てくるんですが、「ドーパミン(dopamine)」と書かないんです。略記でDAと書きます。それを掛けて「ダンシング・アインシュタイン」という会社名にしました。

本当に人間の脳ってまだまだ解らないことがいっぱいあって、ミステリーだらけなんです。そこに僕は惹かれていて。例えば「記憶ってなんなんだろう?」ということを考える。神経科学で言ったら、記憶だけで何十パターンもあるんですね。

感情ってなんとなく言葉はわかるけど、「実際どういうことがこの頭の中で起きているんだろうか?」ということはなかなかわからない。そういったことを科学の目を持てば、「もっとわからないかな?」と。今プロジェクトとしては、人間の記憶の可視化と、人間の感情の可視化を主に研究しています。

ちょっと1つだけおもしろいことをやります。松尾先生もみなさんもご協力ください。

まず右手を前に出していただいて、これを時計回りに回してみてください。これできますよね。今度は右足を出していただいて、これ時計回りに回してみてください。これもできますよね。今度は右手を前に出して時計回り、右足を出して半時計回りに回してみてください。

これできたっていう天才の方いらいっしゃいますかね? なかなかいらっしゃらないはずです。

唐木:できた。

青砥:けど、もう1つあるんですよ。できた、たまにいらっしゃるんですよ、天才が。これ、稀です。右手を前に出して時計回り、左足を前に出して半時計回りに回してみてください。あら不思議、これは簡単にできますよね。

脳の解剖学をやると、右手右足は左脳側が司っていて、左足は右脳側なので、どちらを動かすかという指令と対応している部分が違うか同じかで、脳が混乱するかしないかっていうような違いがわかったり。

今のサイエンスでは、人間の行動・記憶・感情、いろいろな部分がわかってきているので、人間理解はもっと深められるんじゃないかなと思っています。そんな観点で、僕は脳の不思議であったりにすごい魅了されて、かつ、松尾先生や唐木さんと一緒にお話しさせていただく機会に恵まれましたので感謝していています。そんな人間です。

ドーパミンは記憶定着を促す

唐木:ちなみに先ほど、ドーパミンのDAを掛けて会社名にしたという話がありましたけど、ドーパミンはどういったものなんですか?

青砥:ドーパミンは、みなさんいろんな印象を持たれているの思います。「気持ちいい」とか、快感と考えられている人が多いと思うんです。それは答えとしてはYes&Noで、確かにドーパミンが多ければ快感物質であるベータエンドルフィンが出やすくはなるんです。

前駆体といってその物質が生成する前の物質としてドーパミンがあって、そのドーパミンの分子構造が変わってベータエンドルフィンになるので、相関性はあるが直接的なものではありません。

ではなぜドーパミンがあるのかというと、いろいろな役割があるわけですが、1つは記憶の定着を促してくれるためです。

これはみなさんも聞いたことがあるかもしれないヒポキャンパス、海馬ですね。ドーパミンが海馬に照射されて、エピソード記憶といわれるものの定着を促進してくれたり、あるいはアミグダラ(扁桃帯)に照射されて、感情記憶というものを促進してくれたり。

あるいは前頭前皮質にも照射されて、注意力だったり集中力を高めてくれる、そんな役割がドーパミンにはあります。

唐木:ありがとうござます。みなさん感じられたかと思いますが、のっけからたくさん専門用語がでてきており、私も素人なので、一つひとつ聞きながら進めさせていただければと思います。

ちなみに冒頭で申し遅れましたが、前段でのご挨拶と、先ほどの対談までは女性が多く出ておりましたが、ここからは登壇者のみなさんが男性の目線で男性に語り掛けていくことを中心に、「HeForShe」の趣旨で進めさせていただきます。

実は、AIブームはこれで3回目

まず簡単にではございますが、今お2人のやっていることをおうかがいいたしました。先ほども申し上げました通り、松尾先生が冒頭、AIの波を上手に活かすようにと話していましたが、おそらくここにいらしているみなさんも、AIという言葉はご存知だと思うんです。

しかし、本当にAIってなんなんかということがきちんと理解できている、それは本当は無理なのかもしれませんが、なにかわかったようなわからないという方が多いと思います。そもそもAIとは、私たちの生活にどう関わってくるのかを教えていただけますでしょうか。

青砥:AIって今すごく着目されていますけれど、実は60年前からやっている研究分野でして、ブームになりやすいんです。今、3回目のブームだと言われています。ブームになっては冬の時代が来て、ということで3回目。

もともとは人間のような知能をコンピューターで実現したいということで研究が始まったんですが、やってもやっても人間の知能にはぜんぜん追いつかないんですね。

ただその中でもいろんな研究が世の中で使われていまして。例えばスマホとか携帯を使う時に「かな漢字変換」ってありますよね。

ひらがなを入れると漢字になって出てくるという。そういうのはもともとは人工知能の技術ですし、それから検索エンジンの中でもたくさん使われています。さらに、郵便番号を読み取るような仕組みも元々はAIの分野で開発されていたものです。

今の3回目のブームではデータが増えてきたことによって今までなかったことがいろいろできるようになってきている。中でも一番注目されているのが、ディープラーニングという技術が注目されています。

ディープラーニングがなにかというと、難しいのですがわかりやすく言うと、目の技術だということです。コンピューターや機械に目があり、見えるようになったんだということです。コンピューターは目が見えてなかったんです。今までカメラがあったのですが、このイメージセンサーというのは、人間で言うと網膜に当たるんです。

人間の場合も網膜で得た信号を、脳の後ろにある視覚野という部分で処理をすることで目が見えている状態になるのですが、この視覚野に当たる部分がディープラーニングということです。

ですから、カメラとディープラーニングを合わせて初めて、コンピューターにとって目が見える状態になるということです。考えてみるとおもしろいですが、我々の仕事の中で実は目を使っている仕事はたくさんありまして、今まではこの部分がまったく自動化されていなかったんですね。

今日も警備員の方がたくさん立っていたと思いますが、警備員の仕事というのは基本的に、変なことが起こっていないか、不審者がいないかを見張る仕事なんです。この見張りという仕事は目を使う仕事なのですが、ディープラーニングの技術がなかったので、自動化できなかったんです。

それ以外にも、農家の方が収穫したものを集めて選果場に持っていって、選果という作業をやるんです。その作業の大部分は自動化されていますが、最後は人の手でやっています。

なぜ手でやる必要があるかというと、目で見ないとできない作業なので自動化できないんです。このように目を使わないといけないため自動化できていない仕事はたくさんあります。これが今後、どんどん自動化されてくるということが、これから起こる大きな変化じゃないかと思っています。

技術が進めば、目を使った単調な労働はなくなる

唐木:今警備の仕事であったり農家の仕事であったり農家の仕事の一部分が自動化されていくというお話がありましたが、もう1つあるのが、仕事がどんどんAIに置き換えられていくのではないかというような話です。AIの進歩って、これからどのくらいのスピードで進んでいって、どんなことが起きてくるのでしょうか。

青砥:今、お話したように目の技術ができたということはかなり大きい。例えば農作業というのは、ほとんど目を使っているんです。ですから人手が掛かってしょうがないですし、後継者がいなくて困るわけです。

それから建設現場の人手不足。例えば、溶接工の方が不足しているとかですね。鉄筋工の方が不足している、そういうのも全部、目を使った作業だから自動化できないんです。あと調理とかもそうですべて人がやっています。調理も目を使っているため、現時点では自動化できていませんが、これもいずれ自動化されます。

典型的なのが、先ほど(安倍)昭恵夫人の話にも出てきました「片付け」。これも自動化できていなくて。掃除に関しては、今だとルンバとかありますよね。ただルンバは、埃をとるものなんです。掃除というのは埃を取るのと片付けることと、2つの大きくタスクからなっていると思います。

片付けというのは認識しないとできない、目を使ってどこになにがあるのかを見ない限りできない仕事なんです。ですから今までは自動化できていなかった。ということは、目の技術があれば、日本が強いロボット・機械の技術を組み合させることで、片付けをするロボットは作れるはずです。

そうするとなにが起こるかというと、この片付けロボットを置いておけば、自分が会社に行って帰って来る間に、すべてのものが元の場所に戻っているということが起きる。

僕はこれを、家のホテル化と言っています。生活感はめちゃくちゃ向上すると思いますし、女性の方はもちろん、男性もそうですが、いろいろな方がより家事にかける時間が減り、活躍しやすくなるじゃないかと思います。

仕事が減るんじゃないかという話もありますが、日本はもともと機械ロボット系に強いわけですから、これに目の技術が加わると、目のある機械という新しいカテゴリーの製品を数多く世に出せるわけです。

これは今でいう自動車産業に匹敵するような、それよりもっと偉大な産業がどんどん立ち上がるということだと思っていまして。この産業分野を日本が取ることができたら、「日本国内に仕事はたくさんできますよ」と思います。

一方で世界全体で見ると、目を使った単調な労働というはたぶんなくなっていく。すると代わりに出てくるのが、コミュニケーション能力とか、人と人とが触れ合うような仕事ががより多くなってくる重要性が増してくる。そういう面でも女性の活躍する場は、今後どんどん増えていくのではないかと思います。

唐木:ありがとうございます。個人的には片付けが大変不得意なもので、洗濯機は自動で洗濯・乾燥してくれますが、畳んで片付けてくれないかなというのが長年の夢だったりするので、早く実現してほしいなと思います。