サンゴ礁の餌は、魚のアレ?

ハンク・グリーン氏:大海は、謎めいた深海生物、海底に沈んだ歴史的遺物で満ちています。……それから、大量の尿まで!

海を自分用の簡易トイレだと思っている方のことだけを言っているわけじゃありません。海には、そこで暮らし、食べ、大量の排泄をしている数え切れないほどの動物がいます。

若干気持ち悪く聞こえるかもしれません。ですが、『Nature Communications』で発表された最近の研究により、サンゴ礁を健全に保つ上で、魚の尿に含まれる栄養素が大きな役割を果たしていることが明らかになっています。

サンゴ礁は太陽光から多くのエネルギーを得ますが、栄養素、すなわち窒素やリンに富んだ化合物はなかなか簡単には手に入らないのです。

魚は動く栄養貯水池のようなものです。体内に栄養を貯蔵しておいたり、あちこちにまき散らしたりします。魚は、エラ、そして糞尿を通して排泄物を出し、サンゴ礁にとっておいしくてたまらない窒素とリンの混合風呂を作り出すのです。

そこで、ワシントン大学の研究者率いるチームが、カリブ海の43のサンゴ礁における漁業による影響を調べました。チームは143種におよぶ約73,000匹の魚について分析し、魚の排泄物がどのように海水サンプルの化学構造を変化させるかを調査しました。

そして、統計モデルを用いた推定により、大量の漁獲の行われたサンゴ礁では、保護区域で計測された栄養量に比べ、約半分の栄養量となっていることが明らかになったのです。

生態系を守るために大切な「多様性」

栄養循環を健全に保つ鍵はなんでしょうか? ……バランスですね。

企業にとってほどよくいろいろなタイプの従業員が必要なように、サンゴ礁にもさまざまな魚がバランスよくいる必要があるわけです。なぜなら、それぞれ魚によって異なる量の異なるタイプの排泄物を出すからです。

例えば小さな魚のなかには、高代謝で窒素をより迅速に排泄する魚がいます。

一方で、ハタやカマスなどの捕食性の魚は、摂取する食べ物の影響で、より多くの栄養を貯蔵し、より多くのリンを尿から排出します。

残念ながら、こうした大きな魚は漁業や釣りの対象として、とても人気があります。これは、サンゴ礁の生態系にとっては凶報です。栄養に富んだ排泄物を得られなくなってしまうのですから。

通常、保護活動では、異なる種類の魚の数を維持することに重きが置かれており、それも重要なことですが、同時に、大きな魚、小さな魚、捕食性の魚、獲物となる魚といった、さまざまな魚の適切なバランスを保つことも大切なことです。

研究者らによると、サンゴ礁を本当に守りたいのであれば、こうした生物や有機体がどのように相互に作用し、栄養を分け合っているのかを知る必要があるということです。魚の尿でさえ……いやむしろ、魚の尿から出るものこそ、です。

対ウイルスの切り札、発見か?

ところで、海水には他に何が存在しているでしょうか? 土やみなさんの身体にも存在するものです。……そう、ウイルスです!

ウイルスは、地球上に、観測可能な宇宙にある星の数を上回る数で存在している可能性があり、どんな形態の生物にも感染することができると考えられています。細菌も人間も、誰も安全とは言えません。

わたしたちの知識は、いくつかの種類のウイルス、とくに人間に感染するタイプのウイルスに限られていましたが、現在、CRISPRという強力な計算力を備えたツールのおかげで、広範囲にわたるウイルスの存在が明らかになりつつあります。

米国エネルギー省の研究チームは、新たなウイルス遺伝子を探そうと5兆におよぶDNA塩基の分析を行いました。チームは世界中の海水、土、温泉、人間の身体などから3,000のDNAサンプルを集め、ウイルスのDNA配列を識別するソフトウェアを使ってサンプルをくまなく調べていきました。

ウイルス遺伝子は、感染を起こした有機体のDNAに組み込まれていることが多いものの、5兆の塩基のどこにでも存在する可能性があります。研究開始から数年が経ち、ソフトウェアも改良され、現在では以前の16倍ものウイルス遺伝子の存在を知ることとなりました。

そうした遺伝子を用いることにより、研究者らは、とくに宿主細菌に的をしぼり、どのウイルスがどの種のものに感染するのかを明らかにしたいと考えました。そこで登場したのが、CRISPRです。

ここのところ、CRISPRは画期的な遺伝子編集ツールとして大きな注目を集めています。しかし自然界では、細菌自身がCRISPRを利用して、ウイルスの敵であるバクテリオファージから身を守ろうとするのです。

細菌は、ウイルスを打ち負かすと、遺伝子の一片を切り取り、それをCRISPR遺伝子座と呼ばれるDNAの特定部に保管します。まるで「最重要指名手配」と書かれたポスターがずらりと並んでいるかのように、バクテリオファージが戻ってくると、CRISPRは細菌のバクテリオファージ探しと破壊を手伝うのです。

研究者チームは、こうした「最重要指名手配」のポスターをウイルスのデータベースと比較し、新たに10,000もの一致を明らかにしました。

抗生物質に頼らない治療の可能性も

しかし、どのウイルスがどの細菌に影響を及ぼしうるのかを知ることに、どんな意味があるのでしょうか? 実は、わたしたち自身もこの仕組みをバクテリオファージに対して利用することができるのです。

いくつかの種類は、米国食品医薬局(FDA)承認の肉やチーズの加工処置に使用されており、細菌を寄せつけないようにし、食品の安全を保っています。また、致死性のあるMRSAなどの細菌感染症の検査に使われているものもあります。

あるいは今後、バクテリオファージが最終的にファージ療法として、抗生物質による治療に取って代わる可能性もあります。友好的な微生物を破壊することなく、害を及ぼす特定の細菌だけを攻撃対象として感染し、仕留めるのです。

言うまでもなく、巨大なウイルスデータベースがあるため、人間に感染する新たなウイルスをより簡単に攻撃できる可能性もあります。とくに、他の種への感染を起こすようなものであればなおさらです。

人間の健康問題を超えた大きな視点で考えると、細菌は地球の栄養循環にとって非常に重要な存在です。サンゴ礁における魚の尿のようなものですが、あらゆる場所でそのような役割を果たすのです。

そして、細菌に感染するウイルスはそうした循環に非常に大きな影響を与えうるわけですが、現時点では、わたしたちにはほとんど知識がありません。

そこで研究者たちはデータベースの拡大に取り組み、世界中の科学者がアクセスし共有できるオープンソースの仕組みを作り、約3百万もの新たなウイルスタンパクをコードする遺伝子情報の掲載とともに、力強く幸先のよいスタートを切っています。