日韓関係をこじらせた最大の責任者は朝日新聞

記者:読売新聞のイケウチです。最後に従軍慰安婦の関係で……。

橋下徹 大阪市長(以下、橋下):あれ、読売新聞は"いわゆる"って付けるんじゃないんですか?

記者:"いわゆる"です、いわゆる。

橋下:「従軍」は無いんですから。朝日新聞の誤報だったんでね。

記者:うちは"いわゆる"です。その従軍慰安婦の関係で、長年の報道が訂正されたことで、今後いかに、例えば韓国であるとか国際社会に、そういう強制連行というのは無くて、日本だけが特別やったわけじゃない、ということを主張していくことも必要になってくると思いますけど、橋下代表の考えとしては、今後どうしていくべきやとお考えなのかというのと。

またこの間、河野談話を政府が検証しました。その検証である程度、河野談話の作成過程がはっきりしましたけど、今後やっぱり見直しの必要性が出てくるのか、とかそのへんをお伺いしたいんですが。

橋下:まず一番やらなきゃいけないのは、日韓関係の改善ですよ、まずはね。朝日新聞の検証報道見て、認識が全くなってないな、と思ったのは、自分たちが日韓関係をこじらせた最大の責任者だっていう、そういう認識が全くないですね。もう言い訳じみていて。

繰り返しになりますけれども、戦争っていうのは絶対に起こしちゃいけないし、戦争は酷い事態を生じさせるんですよ。戦争の現場では女性の人権も蹂躙される、子どもの生命も奪われる、とんでもないことが起きるから、だから絶対に戦争なんか起こしちゃいけないんです。ただ戦争の現場でそういうことがあった、っていうのは事実だし、当時そういう慰安婦というものを世界各国が必要としていた、っていうのも事実なんです。

それは、公娼制度みたいなものを利用するのか民間業者を利用するのか、っていうのは別にしても、戦場において性の問題っていうのがあったというのは、これはもう厳然たる事実なんですよ。だからこそ、人類というか我々は、もうそういう事をやらない、と。でもそういう事を言いながら、世界なんて紛争ばっかりじゃないですか。

何とか結んだ平和条約をぶち壊した

橋下:でもやらないってことを決めた上で、将来に向かって、一度起こしたことについては平和条約というもので一回精算をして。平和条約なんてのはみんなが満足をするような条約じゃないですよ、あんなのは。みんなが腹立たしいくらいの不満を持って、みんなが時の為政者、時の権力に対してもう何とも言えない気持ちを持ちながら、家族がなくなり何がなくなり、もう悔しい思いのなかで平和条約を結ぶんです。

これは大変しんどいことだし重いことだし、一回平和条約が結ばれたら、さっき僕は大阪市議会に往生際が悪いって言いましたけど、やっぱり決まったことはしっかり守って、その分、過去のことはものすごい辛いけれども一回精算をしたうえで、未来に向かってやっていきましょうと。これが平和条約です。

これをぶち壊したのが、朝日新聞のあの報道ですよ。僕は朝日新聞が本当に論理矛盾を起こしていると思うのは、朝日新聞は慰安婦については、この日韓基本条約というのを軸にしろ、と言っているわけですよ。やっぱり朝日新聞といえど、日韓基本条約を破棄しろ、なんてことはよう言わない。日韓基本条約を重視しろと。

朝日新聞の世紀の大誤報によって、韓国の皆さんは、日韓基本条約では精算されない問題だ、ということをみんな思ったわけです。韓国の人たちも朝日新聞の大誤報が無いなかでは、一部の人は怒りに燃えてたかもわからないけれども、多くの韓国の人は未来に向かって、日本に対して腹立たしい気持ちはあったけれども、日韓基本条約で一回精算したんですよ。みんな我慢してくれたんです。

腸煮えくり返る思いで韓国の人は我慢してくれていたのに、そこを、我慢しなくていいんだよ、と言い続けたのが朝日新聞ですよ。これは新聞報道でも全然出てませんけど、平和条約の対象となる戦争責任と、そうでない戦争責任。これは読売新聞がちょっと書いてましたかね。ナチスドイツのホロコーストのように重大な人道違反の行為については、平和条約で解決されないと。これは一生涯というか、もう永久に、責任を負わなければいけない。そういう領域があるんです。

で、朝日新聞はそういう領域に慰安婦問題を持っていったんですよ。だからその強制連行という言葉、単なる4文字ってだけの話じゃないんです。世界各国や韓国の人は、これを単純な強制連行とは思っていません。クマラスワミ報告書の第2章に引用されている吉田清治氏の証拠文献、それからこの吉田清治氏の文献を引用しているジョージ・リックスの文献を見ても、またクマラスワミ報告書がいろんな証言を基に性奴隷認定してますけど、あれが本当に事実だとしたら、絶対韓国の人は日本人を許せないですよ。

これが朝日新聞の大誤報によって、韓国の人は朝日新聞に踊らされて虚偽の情報を基に、日韓基本条約では解決されない問題なんだ、というふうに焚きつけられて、今やもう引くに引けない状況になっているわけです。だからあそこで、1965年、当時の人たちが、朝日新聞の大誤報がある前にね、韓国の人たちが腸煮えくり返る思いで我慢をしてくれた、その状態に戻せられるかどうかですよ。

日本人が気をつけなければいけないこと

橋下:これは日本人の保守を自称する政治家も悪かったのは、朝日新聞に100歩譲って、というか1万歩譲って多少の理を認めようと思ったら、慰安婦問題を、強制連行がなかったんだから何も悪くない、と。もっと言えば売春じゃないかと言い続けてる、まだ未だに言い続けてる日本人もいますけれども。そこを攻撃するために朝日新聞はあの大誤報をやったと思うんです。強制連行があるんだから悪い、っていうような話に持っていくために。

だから今回の朝日新聞の大誤報があったとしても、日本人や日本国はこれで大手を振って正当化するんじゃなくて、やっぱり日韓基本条約である意味韓国の人に我慢をしてもらって、平和条約を結んだと。これ、韓国とは戦争してないから戦争責任は無いです。ですから請求権並びに経済協定ってなってるんで。

戦争責任というとまた語弊があるけれども、いわゆるあの当時のいろんな賠償問題について、一旦、解決をしてもらった、という思いを日本人は持ちながら、でも1965年のこの日韓基本条約があるんだから、お互いに、法の支配を重視するいわゆる先進国なんだから、やっぱり条約を重視していきましょうと。

日本もサンフランシスコ条約を基本において、一部政治家がそれをひっくり返すような、日本を正当化するような人もいるけれども、やっぱり日本もサンフランシスコ条約、東京裁判というものを前提に、しっかりと歴史認識を持っていくから、韓国の皆さんも日韓基本条約というところで一旦我慢をしてもらいたい、というような話をしていくしかないんじゃないですかね。

だから本当に、朝日の検証記事を読んで思ったのは、自分たちがやった事の重大さを全く理解してないな、認識してないなと思いますね。で、「読売新聞とか産経新聞が当時同じように報道してた」なんてあんな言い訳がましいことをやって、本当にあの検証記事を台無しにしたけれども。あんなのすぐに反撃されますよ。読売だって産経だって当時はそういうような報道をしていたかもわからないけども、すぐに、90年代後半か、すぐにじゃなかったけれども主張を変えていってるんでね。

いずれにせよ、この日韓関係の改善というところをここまでこじらせた朝日は、どうやってこれを、どう自分のケツを自分で拭いていくのか、これは考えてもらわないといけないですね。だから本当にこの問題は、戦争によってあの当時さまざまな不幸があったことを、日韓基本条約によってみんなで一回過去のことは流して将来に向けて踏み出していきましょうよ、と決めた国民と国民との未来に向かっての第一歩、というところを全部ぶち壊した。

そりゃ朝日新聞のあの話とか国連人権委員会の報告書を見ればね、韓国の人の言い分もわかるっちゃわかるんですよ。日本の立場としたら日韓基本条約がある、最終的かつ完全に解決された、馬鹿にみたいにそればっかり繰り返してますけれども、これは日本人の立場だからですよ。

精算条約をきちんと法律的に知っている人であれば、重大な人道法違反というそういう領域においては、精算条約っていうものが適用されない、範囲外だっていうのは、これは国際法のある意味常識なんです。で、朝日新聞の大誤報によって慰安婦問題というのは、ナチスドイツのホロコーストのように平和条約では解決されない、永久に責任を負わなければいけないような、そういう問題に慰安婦問題はされてしまったと。だから韓国も国連も、日韓基本条約があるにも関わらず、とにかく責任者を処罰しろ、賠償していけ。そういう言い分と勧告になり続けているわけですよ。

ということもあんまり日本人の皆さんは知らないんじゃないんですか。朝日新聞も知らないんじゃないんですかね。変な学者のコメントだして、強制連行の有無なんてのはあまり大した意味じゃない、やったことは事実なんだから、と。そんなこと言ってるぐらい、全然国際法の感覚が無いんでしょうね。

朝日新聞は赤字覚悟で事実を周知すべき

橋下:それから朝日新聞が本当に言い訳がましいのはね、ちゃんと勉強してた人がちゃんと議論してた記事なのか、って思ったのは、この強制連行の有無の話と、個別の兵士が暴行を、強制連行に近いことをやった、まさにオランダ人捕虜に対して性的な暴行を行ったスマラン事件(別名:白馬事件)ですよ。これをもって、ほら兵隊が日本軍が、強制連行やったじゃないか、強制的に暴力をやったじゃないかって、朝日新聞はごっちゃにしてるんです。

違うんです。これは絶対にあってはならないことだけれども、どの国でも個別の兵士が戦地において暴行、略奪をやる、これはあるんです。だから戦犯として処分するんですよ。アメリカ軍だってイギリス軍だってドイツ軍だってフランス軍だって、みんな戦争地で暴行・略奪する、だから戦争はやっちゃいけない。兵隊のなかにもやる人はいるんです、だから戦犯で処分するんです。

今回国際的に日本が批難を受け、韓国の皆さんが日韓基本条約では解決されていない、っていうふうに言っている理由は、日本が国を挙げて、国家が組織として強制連行をやった、まさに国家が権力として性奴隷制度を使っていたんだ、というところで、韓国の人は怒りに燃え、国連も日本を批難している。

だから朝日新聞はそこの区別なく、強制連行がなかったといいながら、スマラン(白馬)事件とかああいうのでは個別の兵士が暴行をやっていたじゃないか、と。全くそのあたりの問題についての認識っていうのが無さすぎるというか、勉強不足というか、呆れてものが言えないですよ。

だからそれはあったんです、日本人の兵士にだって悪さをした兵士はいますよ。だからそれは戦犯として処刑されてるわけです。その強制連行とか暴行の話と、国家が組織として国を挙げて強制連行をした話っていうのは、全く別問題。で、国際的に問題視されているのは、国が組織として、国を挙げて強制連行をやったってところに批難が集まっているんです。

個別の兵士が暴行をやったと。兵士っていうのはそれこそ殺人だってやるんですから。そういうところでね、個別の兵士がいろんなことをやったことについて、それは戦犯として処刑するけれども、そのことが直ちに平和条約の対象外だとか、国連人権委員会で永久に責任を負えとか、そういう話にならないわけです。国際法上ね。

だからちょっと朝日新聞は、僕が外国特派員協会でもずっと言ってたように、国が国家として組織として人身売買をやったり強制連行をしたという、そういう事実はない。国家としてやっているのか、個別の兵士がやっているのか、これも分けなきゃいけない。こういう話を朝日新聞はキチッと、言論機関なんですから責任をもって、みんな社会人の集団なんですから、それこそ赤字覚悟で配信し続けるってことをやらないといけないんじゃないんですか?

こんな1回だけの検証記事で、国内のドメスティックな問題として終わらせるような、そんな幕引きをするんじゃなくて、ここまで事態をこじれさせて日韓関係もぶち壊して、国際的にも誤解をうんだということであれば、これはキチッと赤字覚悟で、その状況を変えていくだけの努力はしていなかければいけないと思いますけどもね。

河野談話の見直しが原則だが、目的が達せられるならその限りではない

記者:あと、河野談話についてはどうですか?

橋下:河野談話はね、僕がずっと言っていたのは「明確化」です。国を挙げての強制連行があったのかなかったのか、そこが河野談話では見えないっていうことをずっと言ってきました。で、今回河野談話について菅官房長官が旗をふってやってくれた検証レポートと、それから朝日の今回の大誤報だったというこのような事実をもって、国が国家を挙げて強制連行をやったという事実が無かったことは、ほぼ確定した。まずこれをもって韓国のほうがどう理解してくれるかってことですね。

ここまでこうなったんで、もう今さら河野談話の細かい文言を変えるっていうところにどこまで意味があるのか、と。最後はやっぱり日韓関係の改善と国際社会における名誉回復が目的なわけですから、そこはちょっと産経新聞には批判を受けるかもわからないけれども、政治の知恵だけで乗り越えられるところがあるんだったら、僕は河野談話の明確化のところで、日韓関係の改善と国際社会における名誉回復っていうものをまずは模索していってもいいのかなと思ってます。

産経が言うように、談話をもう一度いちから作り直して文言を修正すべきだ、というのは筋が通ってますけれども、なんのためにやるのか、僕もなんのために問題提起したかといったら、日韓関係の改善と、国際社会における評価、名誉挽回というところなので、この目的が達せられればね、文章自体はある意味手段なんで。

これは朝日には全く認識がないけれども、産経新聞が言うように、韓国が言っている主張、それから国連人権委員会、すべての根底にあるのは河野談話です。世界のメディアも、僕も外国特派員協会で3時間か4時間会見やりましたけれども、みんなが根拠にするのは河野談話です。

政府が認めてるじゃないかと。国を挙げて性奴隷を使っていた、国を挙げて強制連行をしていたのは、あんたがたの政府が認めてるじゃないか、と。すべての根拠が河野談話になっているので、僕は原則はキチッと文言を変えるべきだと、原則はね。でも、目的がなにかと言えば日韓関係を改善することと、もっと言えば国際社会における名誉挽回ってことが目標なので、それがキチッと出来るっていうことであれば、知恵の出し方があるのでは、と思っています。

だからそれは、ここですぐにもう見直しだどうだ、ということじゃなくて、朝日がどこまで自分のケツを吹くのか、それと検証レポートもあり、ここから日本の外交官の腕が試されますけれども、国家を挙げての強制連行はなかったっていうことを、事実としてキッチリ言っていって、最後、僕はやっぱり日韓基本条約に立ち戻って、ちゃんと心の問題を韓国側に示しながら、法的にはこれはやっぱり解決したということにして、未来に向かって進んでいきましょうという、そういう話が出来るかどうかだと思いますよ。

だから間違ってはならないのは、今回の朝日新聞の大誤報によって心の問題も全部ふっ飛ばして、ほら日本は問題なかったんだ、なにも悪くなかったんだ正しかったんだ、なんて言ったらね、これは全部がパーになると思います。だからこれは、国際社会における名誉挽回ってことを考えれば、原則は河野談話の見直しなんでしょうけれど。

国際社会からの名誉回復、国連人権委員会で日本が不当な侮辱を受けることもなく、グレンデール市のあんな慰安婦像もなくなり、アメリカで慰安婦像というものが広がるような流れもなくなり、日韓基本条約をもう一回基本にしましょうということになるのであれば、河野談話の文言をどうするというのは、その時に知恵を出して考えればいいのかなと思ってます。

朝日新聞の罪は大きすぎる

橋下:……これもう時間過ぎてる? 来客何時からでしたっけ? ずっとこの話を朝日新聞とやりたかった。来週、会見ないんですよ。どうなんですかこれ?(朝日新聞記者に向かって)

朝日新聞記者:社内では……。

橋下:いや検証記事。僕も過去のこと言ってもしょうがないんだけど、あれはちょっと言い訳がましくない? 同世代として。

記者:まあいろんな思いはありますけれども、僕は言える立場じゃないんで……。

橋下:まーた、またそれなんだから。いやだから、あの問題を正当化するなっていうのは、それはそうですよ。意志に反して悲惨な、筆舌に尽くしがたい思いを体験した、だからそこに対しての思いを寄せろっていうのはそれはその通りですけれども。

だからといって、国を挙げての強制連行があった、というような、そのような事実がみんな世界に広がり、そして日韓基本条約の対象外になると、韓国の多くの人がみんなもう思ってしまっているわけです。で、向こうも選挙で選ばれる民主国家なので、引くに引けないわけですよ。これどうするんですか? ってことです。

あの大誤報がなければこの慰安婦問題で、一部にはいたかもわからないけれども、これだけ国と国が揉めるだけの話にはなってなかったですよ。戦争をした国が、まあ韓国とは戦争になっていないけれども、そのようななかで、国民同士が恨みつらみを個人的に持つとか、それはいろいろありますよ。

そりゃ僕だってアメリカに言いたいこともあるし、ロシアに言いたいことだって山ほどある、中国にだって山ほど言いたい。でも、そういうことは全部無くして、中国だって日本に言いたい、ロシアだって日本に言いたい、アメリカだっていろいろ言いたいけれども、でも、そういうものを全部腹に一回しまって、未来に一歩踏み出しましょうというのが平和条約なわけでしょ?

それをぶち壊したんですから。平和条約の対象外になるっていうようなことに、慰安婦問題をそっちに位置づけてしまったんですから。国連の人権委員会だって吉田清治氏のあの文献を基に、事実無根の話を基に慰安婦問題を扱っているんで、これは罪が大きすぎますよ。

なんでそれ、もっと早く訂正するなりなんなり……。別に僕のことを言うつもりはないけれども、僕のあの発言のあとアメリカのサキ報道官かなんかに朝日の記者が質問した時、「それは慰安婦なんですか? 性奴隷なんですか?」ってね……。社内でもうちょっと意思統一したほうがいいんじゃいんですか? それは。

性奴隷って言葉を使うんだったら、世界各国が性奴隷を使ってたっていうことにしなくちゃいけない。僕はどっちでもいいんですよ? 性奴隷なんだったら、それは世界各国が性奴隷を使っていたんですよ。日本だけじゃなくて。で、世界各国の戦場の性の問題においてあれが性奴隷じゃないんだったら、日本のだって性奴隷じゃないんですよ。

これはもう、会社に所属してそこで仕事をやっていくんだったら、同じ世代として自分のケツは自分で拭くっていうは、やっぱりしっかりとやってもらいたいですけどね。