『ラ・ラ・ランド』は少女漫画!?

乙君氏(以下、乙君):ということで、本日のメインいきましょう。

山田玲司氏(以下、山田):よし! 30分、OK。

乙君:「『ラ・ラ・ランド』は少女漫画!?」。

乙君:というところから始まるんですけれども、玲司さん、とりあえずどこからいきますか?

山田:泣いたらしいですね! そこからいく?(笑)。

しみちゃん氏(以下、しみちゃん):(笑)。

乙君:いやいやいやぁ。

山田:いやいやいや……なんですか?

乙君:俺の話はやめましょう。

山田:なんですか、椅子から立てなかったらしいじゃなかったですか。『ラ・ラ・ランド』で。

乙君:映画館の椅子から立ち上がることができなかったなあ。う~ん……。

山田:帰ってきて(笑)。

しみちゃん:(笑)。

乙君:あのね、これもう許可なく言っちゃいますけど、あのみなさんご存知、売れっ子漫画家、春原ロビンソン先生が「心ではなく、人生をつかまれました」。

しみちゃん:ウェーイ!

山田:ウェーイ!

乙君:俺のと同じだなと思って。

山田:マジか。人生つかまれちゃった?

乙君:だろ君も同じような感じで、「もうなぜだかわからないけれども、涙が」みたいなね。

山田:泣くか。

乙君:30代タラレバ男子はもう。

山田:お前いいこと言ったよね。「タラレバ男子」だよ、まさに。

乙君:あれタラレバ娘の逆バージョンなんですよ。実は。

山田:「あーだったら、こうだったら」って言ってるのが……。

乙君:うぅーっ。

山田:「返ってきて。うぅーっ、あの時ああすれば、ああ……」みたいな。うぃー、危ないね。危ない、危ない。

乙君:僕……。

山田:泣いてもええんやで。泣いてもええんやで。

乙君:いやいや、この作品に関して、なにか言及できることがあるとすれば、それはもうネタバレするしかなくなってしまうので、俺は今日、サイレント。

山田:いや、これはだから後半の限定で炸裂してください。

乙君:炸裂しません(笑)。

山田:炸裂しましょう。

ラ・ラ・ランドってどんな映画?

乙君:それよりも玲司さんの話が聞きたいんです。みんな、玲司さんの話を待ってるんですよ。

山田:今回見てないからね、わからない人ね、いっぱいいる……「そんなんなの?」つって、ざっくりと言いますけど、この映画、ネタバレなしでなるべくがんばっていきますので(笑)。どういう映画かといいますと、デイミアン・チャゼル(監督)という30歳になったばかりのちょうど……。

乙君:Damien Chazelle.

山田:うん。すごい若手の監督が撮った話題沸騰の映画で。その監督が、もともとちょい前に『セッション』という映画でものすごい揉めた。

乙君:そうですね。『セッション』。ジャズのね。

山田:揉めたというか、人気も出たし、「でも、これどうなんだ?」みたいな議論もあって。

それはどういう映画かというと、ジャズのドラマと、それとものすごくスパルタな先生とのガチバトルのなかでギリギリまで自分を追い込んでいくという、ものすごい少年漫画だったんですよ。そして、今回は少女漫画でしたね。

乙君:少女漫画でしたね〜。

山田:うれしそうだな、お前(笑)。いや、俺、どっちもディスるわけじゃないですよ。

乙君:いや、少女漫画……まあ、そうですね。

山田:「それはどうしてか?ということを今回言いますね。

乙君:「なにをもって少女漫画か?」みたいなのもあるし。

山田:『ラ・ラ・ランド』ってどういう映画かっていいますと……。

乙君:ざっくりネタバレなしでお願いします。

山田:夢を追う男女が出会い、そしてそれぞれの夢を応援しあい、そして2人はどうなっていくかって話ですね。これね。

乙君:そうですねえ(笑)。

山田:そして、これざっくり、一番大事な話ですけど、これ、「La La Land」というのは、LA LAっていっていう、ロサンゼルス、つまりハリウッドのことですね。

ハリウッドは夢見る人たちが集まってくる。んで、そういう人たちのことを、ちょっと侮蔑的な言い方で、ちょっとバカにして「あいつ、頭がLa La Laだから」って、「あいつスイーツだから。お花畑だから」っていう言い方のニュアンスが込められて、La La Land。要するに、頭ちょっとミュージカルな人たちが来ちゃう町、それがLA、それがLa La Landという。

乙君:テーマパークみたいなもの。

山田:どっかテーマパーク的な。だから日本でいうと高円寺ですか。

乙君:ぜっ……絶対、違う気がする! 急に貧乏になった感じ(笑)。

しみちゃん:(笑)。

山田:下北沢がLa La Landですか?

乙君:下北ではないですよ。

山田:違うんですか。純情商店街じゃないんですか?

乙君:東京そのものじゃないですか。

山田:そうですね。原宿ですねー。まさにねー。

乙君:原宿(笑)。

山田:原宿ですかねー。

しみちゃん:(笑)。

山田:まあそんな感じですよ。原宿竹下通りってラ・ラ・ランドランドだもんね。「あそこで声をかけられてスターになっちゃうかもしれない」みたいなさ。

乙君:そういう意味では、まあ。

夢の世界は大渋滞

山田:そういう浮かれた気分みたいなものがあって、みんな来るんだけど、みんながその夢を求めてやってくるから、まあ夢の世界は大渋滞なわけですよ。はい。うまいね。チャゼル。はい、冒頭のシーン。ねえ。ネタバレしてますから言いますけど、これみんな言ってるからね。

乙君:これはもう有名なシーン。

山田:有名なシーンですけど、冒頭、高速道路。ものすごい三車線、四車線、ものすごい広い高速道路なんだけど、全部がびっしり車で埋まってる。そして、カメラが横でパンしていくと、1人ひとりが好きな音楽、自分の好きな音楽を聞きながら、うんざりしながらぜんぜん動かない渋滞のなかに巻き込まれていく。

それでカメラ1台ずつその中にいる人たちを写していく。そして、1人がバンッと(車を)降りて、高速道路を降りてしまうわけですね。それで踊りだすと。

乙君:テッテテレッテ、テテテッテッテッテ♪

山田:ストップ!

しみちゃん:(笑)。

山田:それで……ダメだ、これ(笑)。おもしろいけどね。

山田:ああ、いや、わかった。わかった、わかった(笑)。

乙君:まあ、そうなりますよね。

山田:そうそう。それでフラッシュモブですね。みんなでいわゆる1つの大掛かりな、ものすごい巨額のかかったフラッシュモブシーンから始まる。まあ、これはミュージカルではお約束ですけどね。

俺、この『ラ・ラ・ランド』ってミュージカル映画と言われているんだけど、このあとちょっと、ほかのミュージカル映画との違いみたいなものもあるなと思って、それでしゃべろうかなと思ってる。

山田玲司の感想は?

山田:それで、そこから渋滞。夢は渋滞しています。まさに渋滞が映ります。そして、みんなそれぞれ自分の好きな曲を聞いています。自分の世界にいます。そして出ていって踊ります。ここがLA、スタート。だけど、主人公のミアはどうもうまくいかないってところから「みなさん、はい、共感してください」ってやつだよね。

「うまくいってるでしょ。あなたの人生」っていうのを言われるわけだよね。それでもう最初からライドするという、まあよくできてる。なんか聞いた話だと、ずいぶん編集に時間かけて、最終的にものすごく直しているという。

乙君:あ、そうなの?

山田:そうそう。らしくて。僕の感想を言わせてもらうと、この映画がどうだったかというと。

乙君:どうでした?

山田:嫌いじゃないです。

乙君&しみちゃん:おお(笑)。

乙君:なんかこう……奥歯にものが詰まったような(笑)。

しみちゃん:そうだね(笑)。

乙君:嫌いじゃない。

山田:俺、この映画で泣いた人は嫌いじゃないです。だから、この映画で感動する人好きです。

乙君:はい。ただ?

山田:ただ、この映画で激おこになっている人も好きです。だから、俺、菊地さんすごい好きだし、菊地さんの言ってることものすごくわかる。

乙君:きたぞ。誰も敵を作らないやり方(笑)。

しみちゃん:(笑)。

山田:説明します。

乙君:説明してください。

恋愛映画ではなくバディもの

山田:僕がとくにいいなと思ったのが、これって女のほうは女優を目指してる、男のほうは自分の信じるジャズができる店を作りたいという。要するに同じ夢を追っかけてないんだよ。だから、双方が相手のことをよくわかっていないんだよ。だから「お前演技は……」っていうことないわけ。

同じだとぶつかるんだよ。よく漫画家同士で結婚するとぶつかるんだよ。いっぱいいるんだよ。そこ難しいんだよ。だから、ちょっと違う業界ぐらいがちょうどよくて。近いんだけど……。

乙君:例えば、誰ですか? 例えば、誰がぶつかってるんですか?

山田:えー……言えません。みんな仲良くしてます。違うよ。

乙君:ああ、そうですか(笑)。

山田:違うだろっ!

乙君:ごめんなさい(笑)。

山田:翼を折るな。オレの翼を!

乙君:ひさしぶりなんでね。これ(笑)。

山田:ひさしぶりだね。これね。

乙君:ひさしぶりですね。この感じ。

山田:ちょっとひさしぶりだね。これ要するにバディものなんだよね。だから、これ恋人同士というよりは、チャゼルって恋愛っていうものを上にしていないんだよ。「もっと大事なものがあるだろう?」という感覚が強い監督。

だから『セッション』でもまさにそうで。「女とかじゃねえ、俺モテてえからやってるわけじゃねえ」って言って、「なにがあったって、血まみれになったってドラムを叩くぜ」みたいなさ、そういうマインドみたいのがあって。

『ラ・ラ・ランド』でもまさにそうで。これ実をいうと、夢と愛みたいな話になるけど、どうしても優先されるのは愛ではないんだよ。

乙君:そうです。

山田:これがチャゼルマナーになるんだよ。

乙君:チャゼルマナー?

山田:そう。チャゼルスタイル。だけど、これ清々しいのは、『マッドマックス』に共通するんですけど、『マッドマックス』もバディじゃない? 男女の。それで恋愛ないでしょ。

乙君:うん。ないですね。

山田:これ、恋愛風だけど、どっちかというと、マッドマックス風。

乙君:ええ!?

山田:だから「俺らの共通の目的はこっちだよな?」つって「いくぜ」「うん」みたいな。というノリで観た方は、あのラスト納得できるはずなんですよ。だから、このまったく違う世界で目指してるんだけど、置かれてる状況はものすごく似てるわけだよね。やりたいことがうまくいかない。

というときに大事なのは、肩を押してくれる人がいるというのは幸せなんですよ。そういうときって。だから「お前ならできるさ」って無責任に言ってほしいの。お互いにそのへん言ってもらえるという関係で話が進んでいくので、ここはやばいんだよね。こういう体験した人にとってはちょっとやばいんだよ。

乙君:そうなんですね。

山田:大丈夫か?(笑)。

乙君:大丈夫です。ぜんぜん大丈夫ですよ。

あらゆる人のベースにある、夢を追いかけたい衝動

山田:夢を見る街、そうだね。それで、一言でこの映画ってどんな映画かというと、一種の宗教だなと思うんですね。

乙君:宗教?

山田:はい。これはだからあれですね。「夢を追うって最高!」教っていう、1つのこのうざったいやつと(笑)。

しみちゃん:(笑)。

山田:ただ、これもうちょっとふわふわしてるのが入るんですよ。「夢ってなに?」っていう話になったときにちょっとふわふわするんですよ。これ。「それって個人的な欲望なのか?」とか。

乙君:ああ。

山田:「いったいなに? それって、えっ、観客に喜んでもらう、もしくは観客を幸せにするよりも、自分が有名になる。うーん?」みたいな、このへんのふわふわ要因があるんですよ。

そして、その「『夢を追うのって愛より最高』って言ってるみたいにも見えるよな」みたいな。このへんが実をいうとちょっともやもやの原因になっています。

乙君:ああ。

山田:ここはちょっとおもしろくて。このテーマが、実をいうとね、みんなが1回は信じてしまったかもしれない「なにか」なんだよね。だから「夢を追っかけよう」「ステキな歌手がいる。俺もなりたい」「すげえいい映画を見ちゃった。俺も撮りたい」「おもしろい漫画を見ちゃった。俺も描いてみたい」なんつって、その夢を追っかけたいと思う瞬間というのが、ほとんどの人があるんだよね。

そこの先になにがあるかということを描いてもんだから、とにかくみんながのりやすいという、一番のベースが共通してるところがやっぱりやばいなというのがあって。

乙君:そうですね。

山田:最近さ、ちょっとこういうの流行ってんなと思って。初期衝動ものって流行ってるんだよ。これ最後の話につながるんですけど、「なにかをやりたい」って初期衝動ってあんじゃん?

これ、ちょっと元に戻ると、実をいうと80年代だったら『フラッシュダンス』だよね。

乙君:はあ。

山田:『コーラスライン』とかもそうで。90年代ぐらいになると『レント』とか、ちょっときつくなってくるのも入ってくるとか。あと最近だと、ちょい前か、『ONCE ダブリンの街角で』とか。あとは、これ同じ監督がやってるけど、『はじまりのうた』『シング・ストリート』っていう。

乙君:ああ、『シング・ストリート』。

山田:『シング・ストリート』なかなかおもしろいよ。あれなんかも、「うわっ、すげーの見ちゃった。俺もやりたい!」って言って「やるぜ!」っていう瞬間描いてるから、みんな「うわー!」ってなるわけだよ。

乙君:そうですね。

山田:というのが、ここ数年の流行りだなという気がする。

乙君:瑞々しい夢みたいなものですよね。

山田:そこの最初、初期衝動っていうものというのと、あともう1個、あとで言いますけど、「昔っていいよね」、ハリウッド賛歌みたいなっていう、ちょっと入ってくるんだよ。このあとこの話はちょっとあとだね。

これがまさにそうで。それに対して、「もううっとりしてりゃいいじゃねーか」っていうやつと、実際にその先に行った人たちのなかには「ふざけんな。ガキ。そんな甘くねえよ。お前なにもわかってねーな。えっ、夢とか? はあ?」みたいな。「へえ、結婚すれば幸せになれると思ってんだ? ふーん」みたいな。

(一同笑)

山田:みたいな人たちがいるわけだよ。一群が。こういう人たちが「俺の大事なジャズについて、そんなふうに語るのかよ。てめえ」つってる。「表出ろ。ゴルァ。俺はずっと新宿住んでんだぞ。この野郎」みたいな。

乙君:なるほどねえ。