団塊世代はダサい?

山田玲司氏(以下、山田):そういうカウンターカルチャーとしてのお笑いというのはいっぱいあったの。主にその震源地は劇場だったりしてた時代があってさ。これがテレビに来る時に、いろんな理由で骨が抜かれていくんだけど、やっぱり俺的に一番大きかったのは、いつものやつだけど、団塊世代の敗北だよね。

革命を起こそうとして真面目に話してた人たちが、政治、天下国家を論じてた連中が全員負けて、貧乏だったのよ、連中。かっこ悪かったの。

そのあと好景気が来ちゃって、「そういうさ、政治とかいうのさ、カッコ悪いよね」というのを糸井さんとかYMOとか、あのへんの流れで80年代の頭くらいから一気に全部嘲笑の対象になったんだよ。熱いものが。

70年代までは政治語ってたんだよ。ミュージシャンを中心にそれはあったんだけど、それが全部淘汰されていって。それが、YMOがとにかくやってたよね。『戦争反対!』とかいうアルバムを出したりとかね。ギャグにしちゃったの。

乙君:ギャグにしちゃったんですか?

山田:でも、それは高度な批判だった。それが始まって、最初のうちは「政治を語らない、だけど実は語ってる」みたいなところがあったんだよね。だけど、その団塊の敗北から、今度バカのフリをする80年代というのが前半あって、その後とんねるず登場なんだよ。

そうするとね、そのとんねるず登場とだいたいひょうきん族が同じタイミングで来るんだよ。これで、バカのフリから本物のバカにずれていくというのが始まるの。

(一同笑)

山田:とんねるずがまさにそうで。

乙君:言いますね(笑)。

山田:いや、これとんねるずがバカっていうんじゃなくて、野球部の部室でやってたような先輩後輩のギャグとかくだらない話が、テレビの主流になるという時代がやってきちゃうんだよ。

乙君:そっちのほうがおもしろいですからね。わかりやすいし。こっち側に。

山田:そうそう。まあ、基本はあるあるになっちゃうわけだよ。

乙君:はいはい。そうです。

山田:「体育会系〇〇」とか、「うっす、飲みます、一気やります」みたいなもので笑えるみたいな流れがあってさ。

これが、最初のうちは残像として残っていた政権批判みたいなものが、「どうも景気いいぞ」となってきた時に、「政府批判しても意味なくね?」という空気もやってくるんだよ。その前の団塊世代が「ダサいよね」って言われて封じられる。それで、団塊世代が島耕作。

ロンドンハーツは欽ちゃんの流れ

山田:だから、団塊世代が裏返って、バブルの時に遊び始めるんだよ。あいつら。ひどいんだよ。あそこの寝返りが。島耕作になっちゃったのね。

乙君:島耕作になっちゃうの?

山田:なっちゃうわけ。島耕作ってまさに団塊なんだよ。そこからお笑いの質というのが完全にここで決定したというのは、やっぱりお笑い……ディレクターの存在、プロデューサーの存在、芸能プロダクションの存在。「お前松竹やろ」「吉本やろ」っていうやつ。要するに、内輪の世界というものを出すという。

乙君:派閥の。

山田:ひょうきん族もいろいろコントするんだけど、ものすごい内輪ネタなんだよ。だから、紳助とさんまがやりあう。そうすると、お互いが知っている「ここで言うなよ!」という恋愛話で盛り上がる。

ここはもうあるあると内輪ネタという、もう完全にとんねるず。この流れがロンハーにつながちゃっていくんだよね。ロンドンハーツに。そうするとどうなるかというと、ギャグ、あるある、内輪ネタ。

あとロンハーっておもしろいのが、欽ちゃん引っ張ってんだよね。あれね。

乙君:えっ、欽ちゃん?

山田:だから欽ちゃんって、実は欽ちゃんがそのあとの黄金時代に、健全なお笑いみたいな感じで、浅草発で。『欽ドン!』とか、3つもゴールデン番組やってた時期があって。

乙君:すごかったらしいですね。視聴率も。

山田:あの人の芸は基本的に素人いじりだったわけだよ、当時ね。それで一見いじめの構造なんだよ。あれって。それがそのまんま、素人使わないで天然の芸人をいじるという。だから、出川(哲郎)をいじる、狩野(英孝)をいじるというロンハーの構図みたいなことになる。これも全部あるある。

お笑いで政治と戦い続けた芸人たち

山田:ここにいたってずっとないのが、やっぱり権力をあざ笑うみたいなところは完全に遠くに行ってしまうわけ。じゃあダメだったのかっていうと、実はすげえ戦ってた連中がいるんだよ。

乙君:いるんですか?

山田:まさにタイタンの戦いですね。タイタンって事務所があるでしょ。 爆笑問題。爆笑問題はそういうことをやりたかったんだけど、遠くに飛ばされちゃったんだよ。木星の衛星になっちゃったんだよね(笑)。

乙君:1回干されてますね。

山田:そうそう。それは政治的な理由ではないんだけど、彼らはそういった知的な反権力。これもう1個前に、あれがいるんだよ。談志がいるんだよね。

乙君:ああ。

山田:立川談志というのは、これはインディペンデントだよね。落語界の城から反旗を翻して出ていくっていうさ。こういうカウンターの人いたんだよ。そこからの爆笑問題、伊集院光というのが、流れとしてはある。

乙君:伊集院さんもそこにあるの?

山田:伊集院も実は知的で、考えてることはあるわけなんだよ。だけど、お笑いというのはみんながわかんなきゃダメだ。だから、なるべく下ネタで落とそうとするわけ。あの人真面目なこというと、一生懸命もう露骨な下ネタを言って自分を落とそうとする。これはたけしテイストだよね。たけしマナーっていうかね。

乙君:へえ。

山田:だから、ビートたけしマナーみたいのがあって。このへんの人たちはめちゃめちゃ政治のこと考えてたんだよ。だけど、芸として出すと「やめろやめろ」と言われて。タイタンと言えば長井秀和でしょう。「間違いない」(笑)。

しみちゃん:懐かしい(笑)。

乙君:どこ行っちゃったんだろう?

山田:アメリカ行ったらしいね。

乙君:そうそう。

山田:あの人なんかが目指してたラインというのが、まさに茂木さんが求めているスタンドアップコメディ。風刺が効いたちょっと辛口なというような。だから茂木さんね、そうおっしゃるなら、長井を助けてほしい。

乙君&しみちゃん:(笑)。

山田:あなたの力で長井秀和をもう1回日本に戻して、彼を応援してやりたい。

乙君:え、まだアメリカにいるの?

山田:知りません!

乙君:知らないの?(笑)。

リアリティを追求するほど風刺になっていく

山田:もう一方では、テレビという場所でできなくなったというのがあって、コントという戦い、笑劇場と戦いというのがやっぱりあって。やっぱり中央でやれなかったら外側でやるつって、ザ・ニュースペーパーとかやったりするじゃない。だから、そういう人たちがやってて。

俺は、忘れていけないのはイッセー尾形だと思うね。イッセー尾形は、1人舞台というかたちで非常にレベルの高いやつで。あれがやってたのはなにかというと風刺、批判。ただ「どこの政権が悪い」という言い方はしていない。だけど、日本人をものすごく批判してる。嘲笑してる。その流れを汲んでいるのが、ロバート秋山だと思うんだよね。

乙君:ええっ!? イッセー・ロバートラインなの?

山田:ロバートは秋山が、そう。イッセー・ロバートライン。で、間に柳原可奈子が入るんだけどね。

乙君:ええっ!?(笑)。

山田:みんな知ってるよね。それくらいね。そうだよね。(コメントにて「イッセイ最高だった」「あぁ、わかる」)そうだよね。イッセー最高だったよね。可奈子最高だったよね。だから、可奈子が常磐線の……。

乙君:可奈子?

山田:可奈子のこと忘れないでほしいんだよ。

乙君:忘れてない。ぜんぜん忘れてないけど(笑)。

山田:可奈子は芸能史上、非常に大事なんだよ。常磐線の女子高生のまねかなにかするわけじゃん。あれがまさに風刺なんだよ。あれはだからあの時の時代みたいなものを。

乙君:山田邦子ラインじゃなかったの?

山田:山田邦子はあるある近いんだよ。「こういう人いたよね」っていうやつなんだけど。でも、ちょっと風刺というところまでいってないんだけど、リアリズムになっていけばなっていくほど、きつい風刺になっていくという。

乙君:なるほどね。

山田:だから、可奈子とロバートのことはみんな忘れないでほしいかなっていうことですね。

乙君:可奈子とロバートを忘れるな。

しみちゃん:(笑)。

日本は狭すぎる村

山田:ただまあ、そういうふうにしてやっていかなければいけない。これどういう理由かというさ、やっぱりアメリカでかいよね。だから、どっか許されるところあるんだろうなと思うのね。あとその流れとか。

やっぱりさ、小さな島で暮らすとなると、そこの町長を叩いたりすると、「お前なに言ってんだ? うちは町長……お前、うちの息子がお世話になってるんだぞ」みたいなことになってみたいな話。

乙君:村社会のね。

山田:そういった、日本って、本当に申し訳ないけど、言ってしまえば、狭すぎる村であるがゆえに……。

乙君:だからいいんじゃないですか?

山田:関係者が多すぎるわけだよ。

乙君:そうですね。だから誰も。

山田:だから、今の政権を批判しようと思うと、「ちょっと待って、待って。それちょっとまずい。うちのスポンサーが世話になってるからさ」みたいなことで、まあ封じられてしまうわけだよ。

ただ、国によっては、それができる人もいるし、それをやらなければいけないと思って戦ってる人たち。アメリカっておもしろいことに移民の国なので、村ではないんだよ。あれ。

乙君:そうですね。

山田:だから寄せ集めの、国全体が都会みたいなものなので、やりやすいというのはあるんじゃないかなと思うんだよね。

乙君:だからこそ、コモンセンスというか、全員に共通するのがそういう政治ネタだから。

山田:そうそう。

乙君:だから、部室のある風景とかあるあるというのが日本人だとけっこう共通してる率が高いじゃないですか。だけど、アメリカはもうそれぞれぜんぜん違う町だし、気候も風土も違うし、人種も違うからこそ、みんなが、まあ最大公約数って言えばいいのかな、たぶんそういうポリティックなことにもなってるし、人種的なことになるから、そこでブラックユーモアをかますと、やっぱりわかりやすくておもしろいって。その違いなんじゃないかなって俺ちょっと思いました。

山田:覚悟の差はあるんじゃないかなとは思うよね。

乙君:覚悟の差?

山田:だから「ここではダメでも、ニューヨーク行けばいいや」みたいな。

乙君:ああ、逃げ場所があるってこと?

山田:逃げ場所ないよ。ここ。例えば吉本に批判的なやり方をした場合、もう出られなくなるみたいなこともあるわけじゃん。だから、本当にこの国はカウンター当てるのは難しい。

だから、逆に風刺のかたちで、高度な風刺で「実はこれ言ってんじゃねーの?」みたいなやり方があるんじゃないかなって思いますよね。だから、言論弾圧といえば言論弾圧があるのかもしれませんが。

乙君:やわらかいね。空気を読み合ってしまって、自主規制もするし。

山田:そう。漫画なんかもね。だから描けないこといっぱいあって。

乙君:そうですね。

山田:……漫画なんかもね、この先なくなる時代があるんじゃないかなと。

しみちゃん:(笑)。

乙君:もしかすると150年後とかに、もしかしたら。

山田:漫画を持ってるだけで……みたいな。

乙君:持ってるだけでもう犯罪。

山田:犯罪みたいなね。そんな漫画があったらいいよね〜なんて。

乙君:そんな風刺の効いた。

山田:効いた漫画がね。今、話題になってそうですけどね。

乙君:なんかね。なんでしたっけ? 蝉?

しみちゃん:うん。そうだと思う。

乙君:蝉みたいな名前のね。

山田:え、セミーダか? 蝉ですか(笑)。

(一同笑)

山田:はい。本当ごめんなさいね。もう言わないよ、もう言わない(笑)。