岩の中で生き続ける微生物たち

マイケル・アランダ氏:地球上で最も過酷な環境の中、それがたとえ固い岩の中であっても、なんとか生きる道を見つけた生命体がいるようです。バクテリアや藻類、菌類や古細菌など多くの微生物は、実際に石や鉱物の粒子のなかに住んでいます。これらの生物はギリシャ語で「内側」と「岩」を意味する言葉からなるEndoliths(岩石内微生物)と呼ばれています。

岩石内微生物はもっと居心地のよい環境でも生きていけますが、他の生物に先を越されたのでしょう。

彼らは、他の生命体が生きられない環境においても生存し、環境が悪化しても繁殖することのできる「極限環境微生物」に分類されます。岩石内微生物が多くみられる場所の1つに、摂氏マイナス60度、最高で時速200キロメートルの風が吹き、空気は極めて乾いている南極の砂漠が挙げられます。

そこで研究をしている科学者たちにとっては、南極の砂漠は過酷な別世界なのです。しかし、地上の岩のなかに隠れ住んでいる岩石内微生物はまったく平気なようです。

砂岩のような多孔質岩を割ってみると、表面から1ミリメートルのところに灰色と緑がかった微生物の層を見つかるかもしれません。それは地衣類(ちいるい)と呼ばれる、菌類と光合成をする藻類、または藍色細菌の細胞が入り混じって共存しているものです。また、バクテリアや藻類が単体で見られることもあります。

砂岩の穴が日光と雪溶けの水を通し、岩石内微生物はそれを光合成のために使います。こうすれば、岩が南極の環境から身を守ってくれますし、1年のほとんどは、寒くて、乾いた暗闇に耐えていても、生き延びるための最低限のエネルギーを作り出し、生殖することができるのです。

2,000キロほど離れた南アフリカでは、岩石内微生物はもう1つの極限状態、熱く深い地中に目をつけたようです。地中深くでは、岩の温度は摂氏60度にも達し、気圧は海面の2倍にもなります。

地上から新鮮な酸素の供給を受けなければならない場所で、科学者たちはバクテリアを見つけました。この棒状のバクテリアは、炭鉱の約3キロメートルも下の地中から発見され、数億年もの間、地上との接触がなかった可能性があります。深部地下生物圏の岩石内微生物は、日光の届かない場所にいて、化学反応や化学合成することでエネルギーを得ています。

これらのバクテリアを発見した研究者たちは、岩石内微生物が死んだ細胞を再生して、一酸化炭素や二酸化炭素のような炭素ガスを得て、養分を岩から吸収することで生き延びたと考えています。その上、岩の放射エネルギーによって、炭鉱に染み出した水の分子を分解することができ、これによって水素原子を得て、硫酸塩化合物と反応させることでエネルギーを作り出したようです。

岩石内微生物は、数百メートル下の海底の岩でも生きていくことができます。深海掘削計画の特別な調査船は、海底の堆積物を層ごとに分析します。その中のある研究グループは、火山性のケイ素岩の中を掘り進み、鉱物や炭素化合物を海水から取り入れているとみられるバクテリアを発見しました。

もう1つは、破砕玄武岩から発見され、金鉱で見つかったバクテリアのように、硫化物、硝酸塩、二酸化炭素のような化学物質を使ってると思われます。バクテリアたちは、これらが発見された堆積物と同じように数億年ものあいだ生息し続け、2000年に1度の割合で繁殖していたのではと考えられています。 彼らは基本的にスローモーションで時を生きているといえるでしょう。

これらの小さな生命体が、深海で起こす岩や炭素との化学反応が、地球の気候に関係しているのではないかと考えている科学者もいます。

岩石内微生物の発見により、どのように、どこで生命が存在できるのかという限界を知ることができます。微生物は地球上の過酷な環境で生息しているかという手がかりをくれると同時に、他の惑星で生命が生存できるかもしれないというヒントをくれています。

今日、火星の大気 と地表水は、ほんのわずかしか存在しません。しかし、科学者たちは、岩石内微生物のような生命体であれば、岩に隠れることで過酷な火星上でも最後の生命として存在し得たと考えています。

岩石内微生物の優秀な生存能力は、パンスペルミア説の推論も活性化させました。パンスペルミア説とは、簡単にいうと、「生命体が宇宙から小惑星や流星体に乗ってやってきた」というものです。

もし岩石内微生物が、岩に守られることで地球の極限状態でも生きられるとしたら、 それと同じように宇宙を疾走する岩の中でも生きられるのではないでしょうか。

そうだとすれば、たくさんの極限環境微生物は宇宙中に隠れていて、発見されるのを待っている可能性もわずかにあるのです。