当たり前に見える世界こそすばらしい

山田:本題は、けものフレンズの「けもの」は、何に関して抵抗運動してるのかっていうところが、やっぱり1番おもしろくて。1話で「良いでしょ、木登り」みたいな。これ、良いよね。なんてことない「見て―! サバンナ広いでしょ! すっごーい! たーのしー!」って、いや何が!? ってなってるところに、木登りして、「ちょっと高いところから見るときれいだよね、楽しいよね」って言ってる。これはまさに、『ベルリン 天使の詩』でしょう。

久世:あらあら! そこもってきます!?

山田:ベルリン天使をご存じない方のために、ヴィム・ベンダースが作った『ベルリン 天使の詩』、これがどういう映画かというと。ざっくり言いますけど、天使が主人公です。おっさん天使。

久世:そうですね、おっさんです。

山田:おっさん天使は、人から見えないんです。それで、世界はグレー。モノトーンに見えてるんです。触ることもできないし、感じることもできない。だからどうするかというと、苦しんでる人のそばに行って、肩を抱いてあげる。でも、触ることはできない。そして、あるサーカスのブランコに乗っている女の人に惚れてしまって、天使を辞めるわけだよね。

そして天使を辞めた瞬間に、なぜか甲冑が落ちてくるんだよね。ぱーんって。何かを脱いだんだね。そしてブルーノ・ガンツが出てくる。そうすると、あの荒廃した、まだベルリンの壁のある。落書きだらけの。パーってカラーで映るんだよね。美しいんだよね。

久世:あれは美しい。

山田:あの絶望の街、断絶の街ベルリンが、その象徴的な壁が、落書きが、映像として出てくる最初のカラーなんだよね。そして彼はどうするかっていうと、「おー、色だー」ってやってて、何も言わないんだよね。そしたら周りにいる人は寒い寒いって、こうやってる(手をこすりあわせてる)んだよね。それを真似して、おおーって。

久世:こういうことだなって。

山田:それで、珈琲飲みに行くんだよね。珈琲、珈琲買えるぞ。あったかい、うん。見ろ、世界は美しい! まさにそれをやってたよね。それを、『けものフレンズ』、第一話でやってましたねえ。

久世:やってましたか。

山田:やってました(笑)。その全世界を肯定するっていう、君たちが当たり前に見えてた世界ってすげーんだよなっていうことを、ちゃんと言えるっていうこと。

久世:伝えてくれますもんね。

けものはいてものけものはいない

山田:そしてここの世界、エンディングの歌の歌詞の中にあるけど、けものはいるけど除け者はいないって。これ冒頭か。

久世:オープニングです。

山田:オープニングで言ってるか。つまり、除け者するようなやつは世の中にはいないんです。この世界にはいないんです。除け者を排除した世界、だから全部フレンズだっていう。これなかなか、深いんですよ。ここまでくると。

久世:そう、深いんですよね、テーマがね。

山田:ここでいう人間っていう存在は、除け者するよねえ。

久世:そう、そう。

山田:うえーいって感じですよね。リア充じゃないですか?

(会場笑)

山田:みたいなことを言うとまた『進撃の巨人』と同じようなことになっちゃうんで、抑えますけど。でもこれっていろんな意味が入ってて。世界は綺麗だ、美しい。でもそこには人間がいないんだ。人間がいない世界って美しい、っていうふうに考えると。これあれじゃないですかね。

山田:クソ野郎が消えれば、世界はすごーい! たのしー!

(会場笑)

山田:っていうのがのってますね、これ!

久世:のってますか。

山田:だろめおん先生、どうですか。

だろめおん:なるほどなあ。

山田:このノイズの排除っていうのが表してるのは、要するに……。それまではね。『エヴァンゲリオン』でもゲンドウみたいな面倒くさいやつが出てきても良かったんだよ。90年代までは、ノイズを受け入れるもしくは立ち向かうみたいな、「逃げちゃだめだ」みたいな。

非常に地に足着いた、あんなにふわふわしたように見えているアニメであっても、解決しようとするし、異質なものに対してどうするかっていうのはやってたんだけど。

冒頭から全部なしにしてるんだよね、だから楽しい。でもそれで済むの……? っていうところが、この作品の肝だなっていう、ちょっとおもしろいよなっていう感じがするよねっていう。

久世:でもおそらく人間である、というか人間だってもうばらされましたけど、人間の人は、(自分が)人間って初め知らなかったですもんね。

山田:そうそう。

久世:そこからゼロから始めたとして、お前らはこの世界のすごい楽しいを持続できるのかっていうのを、突きつけられてる感じもしますよね。

山田:そうそう、そうなの。だからね、日本が全部夕張になっちゃった、みたいな感じなの。

久世:夕張?

山田:夕張市ってテーマパークとかあってさ。北海道の夕張市が破綻してるでしょ、財政破綻。それで大変なことになったじゃない。あれが、全国でそうなりますよっていう宣言だし、「すべての問題は人間には解決できなかったんだよ」っていう風刺になってるというか。これは『猿の惑星』と同じだよね。そういうけっこうきついやつだなって思うっていう。

『テルマエ・ロマエ』と共通するもの

山田:それで、こっからですよ。『テルマエ・ロマエ』が入ってましたねえ。

久世:え? どこに?

山田:それともう1個ね、『ファイトクラブ』も入ってたよね。「野生を取り戻せ」っていう。ここはまあ良いとして、人間であるっていうこと、カバンちゃんであるっていうキャラクターがいる。カバンちゃんは自分が誰だかわからない、何フレンズかわからない、人間って何かわかってない。それは、記憶がなくなってる。それで、彼女が持っているカバンの中から出てくるものっていうのは、人間の何かなんだよね。

だから、冒頭で紙飛行機によって救われるっていうシーンが出てくるんだよね。紙飛行機すごーい、人間ってすごーいって、イコールになってる。つまり、人間がやってきたことが、カバンの中に入ってる。それによってアドバンテージがあって。それによって、いまいるフレンズたちの中で、すごいねっていう、けものたちに認められるっていう。

つまり、地に落ちたクソ人間たちが、もう一度プライドを回復させるっていう。これはまさにあれですよ、『テルマエ・ロマエ』でローマからタイムスリップしてきた人間が、つまりローマで建築やってる人間っていうのは、その当時の最高峰の人間っていう。

日本人から見て、上に見れる人間が日本の銭湯にタイムスリップして、銭湯で牛乳飲んだりとかして、この「平たい顔をした人たちはなんてすごいんだ!」って感動してローマに帰っていく。そうするとどうなるかっていうと、時空を超えて日本人すげーよっていうメッセージになってくるわけだよね。

『テルマエ・ロマエ』って何で当たったかっていうと、男の裸もそうなんだけど、日本人すげーよなっていうディスカバージャパンやったわけだよね。これは、ディスカバ-ピープルです。ディスカバーヒューマン、っていう流れになってくる。つまりこれってけっこうね、「俺は俺だからけっこうすごい」って言えなくなると、「俺は京都出身だからすごい」ってなりがちじゃん。「俺は埼玉県民だからすごい」って言わないけど。別に誇れないけど(笑)。

(会場笑)

山田:何かしら自分が属しているものについて、だから俺はすごい。1番顕著なのが、「日本人だからすごいんだ」っていう、ここのところこういう流れがすごく強くなっている。それもだめになったときに、何も誇れなくなった人間が、動物たちにすごいって言われたい。

久世:(笑)。

山田:ある意味、究極系なんじゃないっていう気がするよねっていうさ。

久世:もう1回人間って何ができるのかっていうのを、このほのぼのとした世界で見直しはじめて。それで見てるほうも、「人間ってすごいな」って思うってことですよね。

山田:だから自分たちが何気なくできることがけものたちはできないから、それによって物事が解決したときに、人間ってすごいんだなって。だから紙飛行機折れるだけでもすごいんだなっつって、もう一回自信を取り戻すっていうことになってる、んですが! ここからまた恐ろしいんですけど、本当の肝は、これですね。

カバンが意味するもの

山田:カバンちゃんの絶望、カバンの絶望っていうのが入ってて。

久世:これ絶望入ってますか。

山田:絶望入ってますね。これ、カバンって何かって話なんですよ。カバンって文明だし、それを持ち運んでるよね。これって農耕とか始まったのち、農業で何かを作る、そうすると蓄財ができる、格差が生まれる、戦争が起こる。カバンですよ、全てがね。つまり、何も持ってない「けもの」と、持ってしまってる「人間」との、ここの絶望が表現されちゃてる。カバンって。ここが特に深いテーマだよなっていうさ。

久世:ここからまさにカバンちゃんがどうなって、何がバラされて、どういう選択をするのかっていうのが、より深くなりますね。この話を聞くと。

山田:そう、だから本当にけものの時代っていうのは、動物倒しても腐っちゃうから、そこで食べちゃう。蓄財っていうのはなかったから、そこに格差は生まれなかったし、ほとんどが運だったりするわけだよ。生き残るもどうのこうのも。でもこれ、カバンもった瞬間に、はい、殺し合いがスタートです。

(会場笑)

久世:マジかよ―! 怖いよー!

山田:怖いよー! 楽しく始まったのに―!

久世:俺のぬるま湯を返せ―!

人間関係はけものフレンズに学べ

山田:そうですねえ。あともう1個、ちょっと……あ、これ言うのやめようかな。

久世:え!?

山田:後半に言おう、この話(笑)。

久世:わかりました(笑)。

山田:ただこれはどらにも良く言ってたんだけど、人間関係の極意は何かって話したときに、必ず言ってたことがこのアニメにも奇しくも入ってて。それはどうしてかっていうと、お前も違う動物、お前も違う動物、俺も違う動物。だから、近いなんて最初からありえないんだから、おもしろがろうぜって言って。だから俺は最初から、世界は動物園として見ろって。

山田:そうすると上手くやれるよって。「君は何フレンズなんだね」っていう考え方で生きると、人間関係が非常に上手くまわる。

久世:すごいわかる、俺もその考え方です。

山田:そうだよね。けっこう極意をバーンっと伝えてるところも、『けものフレンズ』良いんじゃないですかね。

久世:フラットに並べてますからね。人間、サーバル、何とかこうとか全部いまフラットだから。世界動物園を全部地で行ってるから。それなんですよ。

山田:しかもさ、それぞれがクソ面倒くさい部分も持ちながらさ、「たーのしー!」なんだよね。

久世:(笑)。

山田:良くない? 「何ちゃんすごいね」とかって認め合う。だからなあ、『スター・ウォーズ』の最新作、エピソード7な。フィンとポーの関係は、もう最初のバトルから褒め合いだかんね。「お前やるなあ!」「お前もやってたじゃねえか!」みたいな(笑)。だからそういうステージに突入してるから、実は『スター・ウォーズ』最新作も『けものフレンズ』だった。

(会場笑)

久世:あれ? 『スター・ウォーズ』最新作が『けものフレンズ』だったんですか?

山田:やるねえ。

久世:やりますねえ。

山田:やるよねえ。

久世:持ってるわ、持ってる。

山田:持ってるー! 持ってる持ってる―!

久世:パンダかわいい(笑)。

耳が4つはケモナー的になし?

山田:そんな感じで、後半は「君エヴァ」から。

久世:いっちゃいますか。

山田:無料部分でだろめおん先生、何かありますか? けものに関して。

だろめおん:これ(ホワイトボード)借りても良いですか? 僕ケモナーなんですけど。

山田:はい、ケモナーですよ。

だろめおん:『けものフレンズ』に対しては、ケモナー的なアンテナが全然立たないんですよ。

久世:へー!

だろめおん:まず、耳4つあるじゃないですか。

山田:ああ、なるほど。

だろめおん:人によると思うんですけど、僕は基準がこれなんで。

だろめおん:ちゃんとこれが、耳として機能してほしい。

山田:そうだね、これ(もう1作品)もそうだね。

だろめおん:そうだし、僕これ系で一番好きなのは鼻なんです。なんでかっていうと。線画なんですよ、漫画って。ってなったときに、鼻の表現の仕方って、すっごい変わるじゃないですか。人によって。人によってというか、時代によって。

山田:ああ、もう大変よ! こいつはちゃんと描くから。こいつは大友派なんで、あとJOJO派なんで、鼻すごい描くんだよ。

だろめおん:鼻が3Dおこしのこういう省略なんですけど。

山田:点だよね。

だろめおん:そう、点なんですけど。ここはちゃんと、ちゃんとというか僕の好みとしては、こういう立体を点で逃げるんじゃなくて。動物の鼻だったら逃げなくても、これで表現できるんですよ。

久世:これがあるぞと。

山田:うん、なるほど。こうしてほしかった?

だろめおん:はい。

山田:これねえ、これは好みの問題ですねえ。

だろめおん:あと、耳も隠してほしかったし。

久世:ここはいらないと。

だろめおん:隠してほしかったなっていうのはありますね。これはでも、やっぱり好みの問題です。完全に。

山田:でもやっぱりアメリカンテイストになるよね。

だろめおん:なっちゃうか、ああ。

山田:ここ(鼻)をこうすることによって。

だろめおん:うん、本当だ。