山田玲司の擬人化分類

山田玲司氏(以下、山田):そもそもここから擬人化クロニクルの話しますけど。

久世孝臣氏(以下、久世):いきましょう。

山田:とくに日本が大好きっていうのも言いようなんだけど、世界中の人が、人間である以上、何でも対象を人間化してしまいがちというか。どの国に行っても、太陽があったら顔を描く、月があったら顔を描く、みたいなことはやってるんでしょう。木とかフクロウがしゃべるみたいなさ、当たり前っていうか、民話とか童話の基本なんじゃないかなって。

ただ日本は特にアニミズムの国で、何にでも精霊が宿ってるからしゃべっちゃう、こんにちはみたいになるっていうさ。だからそれが早くからコンテンツ化してんのが、鳥獣戯画くらいから目につくようになる。

久世:残ってるのはね。

山田:そう。それでこの擬人化のやり方っていうのが、いろんなやり方があって。いまのフレンズのかたちになるまでがおもしろいなと思って。まずわかりやすいのがこれ、ハンプティ・ダンプティ。

久世:出た、卵。

山田:卵を擬人化するときに、卵の形を残したまんま服を着せて。気持ち悪い顔が乗っかってる。このかたちの擬人法っていうのがまずあるよねっていう。『長靴をはいた猫』とかもそうでさ、ネコまんまっつうかさ。『なめ猫』とかもそうじゃん。そういうのの系譜みたいなのがあって。そのあとに、アンパンマンみたいなやり方もあるなっていうのが出てくるわけね。顔だけっていうさ。

そのあとに、猫耳……。ざっくり描きましたけど。

久世:すげえ。

山田:まずはハンプティ・ダンプティスタイル。そして顔だけスタイル。こっから、記号を何かのっければOKっていう系譜が生まれる。

久世:ルールとして。

山田:そう。それが、お遊戯界のときにこうやって着ける、いま着けてる耳もそうなんだけど。これ着けたらあなたウサギでーすみたいな。そのサインの発展形が生まれるときに、猫耳が生まれる。耳が付いてればネコですって言って、これを日本で最初にやったって言われるのがこの方ですね。大島弓子ですね。

久世:出ました、大島弓子ですね。

山田:1978年。

久世:けっこう古いんだなあ。

山田:けっこう古いんだよ。これね、70年代の中でも伝説の作品で、これは夏目漱石の系譜だよね。だから、『吾輩は猫である』の少女漫画バージョンっていうか。これみなさん知ってらっしゃると思いますけども、これ人のかたちしてますけども、ネコです。

久世:ネコですね。

山田:これは自分は人間だと信じてるネコが主人公なので、人間として現れますっていう宣言から始まるからね(笑)。

久世:そうそう(笑)。

山田:だから実際に物語の中ではネコなんだけど、読者からすると、この(表紙の)かわいい女の子の姿で見えてるという。

久世:ずっとね。

元祖ケモノが好きなフレンズ、手塚治虫

山田:複雑な構造、これを78年に1発しかけてますよ。『スター・ウォーズ』出た直後くらいですよ。だから、ガンダムの直後くらいですよ。だから70年代中盤から後半の文化の大爆発たるやっていうかさ。だからあの当時、ものすごい少女漫画がばーって豊かになってきた時代に出てきた系譜で、猫耳の元祖って言われている。

山田:そして記号は耳と……尻尾は付いてたっけな。普通の人間っていって、これがフレンズになっていく系譜、なんですが。忘れちゃいけない人いましたね。

久世:いましたか。

山田:元祖ケモナーですね。

久世:きましたか。

山田:これマクガイヤーさんも出したらしいけど、これ忘れたら留美子さんに怒られますよね。

久世:(笑)。

山田:これは、俺たちの治虫は。

久世:俺たちの治虫は(笑)。

山田:俺たちの治虫は、何でもやってんだよ。先に。

久世:すげえなあ。

山田:これは治虫のフレンズですって。もうガチですね、完全に。良く見ると、猫耳ですねえ。

久世:ですねえ。

山田:やってますね。これ、このタイミング、たぶんね……。

久世:えろいなあ。

山田:しかも『綿の国星』ってアニメになってんだけど、虫プロが作ってんの。やばいよねこの話、だから要するに「僕にもできるよ―!」って。

久世:それがきましたね。

山田:来た! きましたこれ!

久世:何でもできるフレンズですからね。

山田:ただこれ、手塚先生にいたってはガチなんで、記号で動物のふりして女の子描くなんて、甘いことしません。本当に混ざるやつやりますからね。

久世:ガチキマイラ(笑)。

山田:ガチキマイラこそが治虫ですね。本当にだからウサギ、『W3』とかそうだけど、これこそ治虫。だからなんていうのかな、アーティストっていうか、アーティストだよなあっていう。だからここまで(お遊戯会、フレンズ)まではお仕事でやってるっていうか、ビジネス、大人の仕事やってますみたいな。(ガチキマイラは)本物です、本物がやっちゃいましたみたいな(笑)。

久世:(笑)。

山田:そういう系譜あるよねって。ただ、このへん(フレンズ)の牧歌的な記号によって、これはこうなんですよっていうやつから、刀剣乱舞にくると、これそれぞれが刀です。

物まで擬人化する日本人

久世:そうですよね。

山田:どこも刀じゃない(笑)。だからもう、「へー!」って、「言われなきゃわかんない!」ってところまできてますね。日本の擬人化は。物を擬人化してるんで。

久世:まずこれぜんぜんわかんないのが、『刀剣乱舞』じゃないですか。剣を擬人化してるわけでしょ?

山田:そう。

久世:剣を擬人化して、格好いい男の子たちがいて、さらにその人たち剣持ってんじゃないですか。

山田:その通りなんですよ。

久世:どうした? って思って。

(会場笑)

久世:そこがわかんないんですよね。

山田:それね、ありなんですよ。

久世:あ、ありなんですね。

(会場笑)

山田:心の綺麗な女の人には、それが見える。

久世:じゃあもう本当、すいませんでした(笑)。

山田:すいませんでしたー。そうなんですよ、とうらぶ。俺はそれを否定的には思ってなくて、この何でもありですよ日本の文化、アニメーション、漫画、とりあえずおもしろいもの作れば何でもありですよっていうと、ここまでおもしろいものになってくんだなっていう。記号になったのに記号すら捨てるんだっていう。

久世:そうそう、記号から記号にしたのに、またそれ持ち始めるんだっていうね。おもしろいね。

ニャースはポケモン界のレジスタンス

山田:ああ、そうね。それでさ、けものの擬人化で言うとさ、俺はポケモンっておもしろくて。ポケモンって擬人化じゃないんだよね。しゃべんないし。ただ、ニャースだけがそれに反旗を翻してて。

(会場笑)

山田:ニャースだけが、擬人法なんだよあいつ。たった1人の、なあ?

だろめおん氏(以下、だろめおん):そうですね。

久世:あいつはパンク野郎ってことですか?

山田:パンクだよパンク。

久世:レジスタンスってことですか?

山田:レジスタンスですよ。

(会場笑)

山田:だから、「俺は人間だにゃ―!」って言ってるっていう、モンスター。

久世:めっちゃおもろいな。

山田:めっちゃおもろくない!?

久世:いや、おもしろいのは玲司さんですよ!

山田:俺かい! だってあれ、『綿の国星』と同じなんだぜ。ニャースって。同じネコだし(笑)。

久世:たしかに。

山田:そのへんが、おもしろいよなあっつって。

デビュー作は卵とこんにゃくの擬人化だった

山田このあと……時間もけっこういったな。擬人化をなぜするかというとね、擬人化にはメリットがあるんだよなって話で。俺も実を言うと、デビュー作は擬人化です。

久世:なるほど。17番街の?

山田:『17番街の情景』です。あれデビュー作、最初に本に載ったやつが、卵とこんにゃくの恋愛を描くっていう。

(会場笑)

山田:橋の上で出会った、やさぐれたこんにゃくと。「私はお嬢様じゃないわ」っていう……。

久世:僕は聞いてるから大丈夫ですけど、卵とこんにゃくの恋愛の話でデビューしたって、すごくないですか?

山田:何を言ってんですかねえって感じですよね。

久世:僕は読んでるから良いんですけど(笑)。

山田:あれも、ずっと受験のときに、リンゴばっかり描かされてて。

久世:え?

山田:静物画で、油絵で。だんだんリンゴノイローゼみたいになってくるわけよ。ほんで、このリンゴが居酒屋とかで座ってて、向かい合ってグチとか言ってたらおもしろいなってふと思ったわけ。「よし、いけんじゃねえかな」「リンゴ、いこう」って。リンゴの擬人化みたいな。そっからいろんなことをやり始めて。いろんな擬人化を試したんだよ。あのね、カナヅチとか。

久世:カナヅチ?

山田:あとね、イトマキエイとか。そういうのやってて。1番困ったのが、三葉虫。三葉虫は、本当に難しかった(笑)。それでね、そういう遊びを……。

久世:ぜんぜん苦労に共感できないところが(笑)。

(会場笑)

山田:それで、なんでそれをしてたかというと。あの当時、片岡義男が流行ってたの。要するにどういうことかというと、都会的な男と女のラブストーリーを気取ってやりまーすみたいな。それが84年から86年くらいの間だから、トレンディドラマの先駆けみたいな感じで。とにかくみんな、なんとなくクリスタルだったわけよ。あの時代って。

まあとにかく気取ってんだよ、男女が。それが恥ずかしくて、見てて。ちょい上の世代は恥ずかしく見える現象っていうのがあって。俺の世代にとってのちょい上って、田中康夫さんたちなんだよ。あの人たちが気取って、「青山でー、何とかを飲んでー」みたいな(笑)。「246行ってとばしてー」みたいなのをやってると、「うわー! 格好わる!」って思ってたわけ。

久世:ださっ! と思ってた。

山田:ださっと思ってたわけ。これそのまんま、俺はそういうラブストーリーなんて書けねえよって思って。ようし、卵にしちゃえみたいな。

久世:あれ? だいぶ端折りませんでした?(笑)

山田:そうするとどうなるかっていうと、その時代にある匂いみたいなのが全部消えるわけだよ。

久世:あー、なるほど。

山田:それで、「俺は卵なんだ。このまま孵らないかもしれない。俺は本当は無精卵かもしれない」「そんなことないよ」みたいな。

久世:一気に普遍性と哲学的な!

(会場笑)

山田:その通りなんです! そうなんだよ!

擬人化するとノイズが消える

久世:あれ? いま、田中康夫さんの話してませんでしたっけ?

山田:田中康夫は飛んでいった。だから田中康夫は、あの時代を語るコンテンツにはなるんだよ。だけど、普遍性を持たないわけ。「あの頃おもしろかったね、こんな時代もあっんだ」って言うことはできるんだよ。

久世:それもしかしたら、200年後とかに残ってるかもしれませんよね。

山田:うん。だから俺は、星新一目指したわけよ。

久世:うえーい!

山田:うえーい!

久世:「俺は孵らないかもしれない。それでも一緒にいてくれるか」みたいな話ですよね。

山田:そうそう、それだったらどこの人だって、インドネシアの人だってわかるわけよ。

久世:うん、わかる。

山田:だから、それ良いなって。要するに擬人化っていうのは、普遍性を持つんだよね。あとなんか、客観性を持つし、ノイズも消える。それで、言いたいことが言いやすくなるんだよね。これはおなじみのやつで、歌川国芳っていうのが弾圧された時期があってね。何とかの改革で。

浮世絵みたいな贅沢なことをやんなって言われて。それを風刺して役人たちを妖怪のかたちにしたりして。要するに擬人化してからかったみたいなのがあって。そういう抵抗をするためには、抵抗運動には擬人化は便利なんだよね。

久世:本当のこと、そのこと言ってませんよってふりもできますしね。こっちも守れるし。

山田:そう、これ便利なんだよ。言ってんのはパンダです、みたいな。

久世:僕じゃないでーす。

山田:僕じゃないでーす。こっちでーす。「死ね死ね! 死ねっ!」みたいな(笑)。

(会場笑)

久世:すいませんみなさん、パンダの言うことですからあ。

山田:パンダだもんね、ごめんごめーん。

久世:目くじら立ててもしょうがないですよ、って。すげー! パンダが批判を消し去りましたね。

山田:そういうことです。かわいいから。大丈夫!

久世:いま(コメントで)「パンダ謝れ!」「パンダ死ね!」ってきましたけど(笑)。

(会場笑)

山田:すいません(笑)。