アメリカで禁止された抗菌石けん

マイケル・アランダ:鼻風邪や頭痛、あるいはインフルエンザでも何でも、病気にかかるのが好きな人はいません。そしてバイ菌と闘う最も良い方法の1つは、手を洗うことです。

石けんを含んだ水はバクテリアやウイルスを取り除くことができますが、抗菌石けんには病原菌を殺すための特別な化学薬品が入っています。ではそっちの方がむしろいいのでは? いえ、おそらくそうではありません。

2016年にアメリカの食品医薬品局(FDA)は、企業が抗菌石けんを作って一般人に売ることを禁止しました。それは多くの研究によると、こういった石けんを使うことは害になる可能性はあっても益にはならないからです。

FDAの報告では、石けんに決まって含有される19の化学薬品名が挙げられました。最も一般的なものの1つは、塩素を含む分子、トリクロサンです。

トリクロサンはバクテリアの細胞壁に取り付いて、バクテリアが脂肪酸を作り出すのを妨げることがあるという証拠があります。こういった事象はいずれも微生物を死滅される行為です。ところが、ここ約30年での27の異なる研究論文の再検討を含む多くの研究によると、トリクロサンやその他の抗菌物質は古き良き平均的な石けんとほとんど同じ働きしかしていません。

石けんはきれいにするのが実に得意です。石けんは表面活性剤です。つまり、石けんの分子には水と結びつきやすい親水性の面と、汚れや油みたいなものと結びつきやすい親油性の面があるということです。

だからみなさんが手を洗うときには、石けんの親油性の面がきみたちの手にくっついているバクテリアを含むすべての雑菌と結びつきます。そして水ですすぐと、石けんはそういったものを全部引き連れて流されるという仕組みです。

抗菌石けんのマイナス面

2013年にFDAは、企業に抗菌石けんの安全性と有効性に関する化学的根拠を見つけるように依頼しました。「抗菌石けんはどのようにして人々が病気を拡散させるのを防ぐのか」、ということです。

しかしほとんどの研究から、普通の石けんを使ったときと同じくらいたくさんのバクテリアが人々の手に残っていて、同じくらい頻繁に病気になったということがわかりました。それだけでなく、これらの抗菌化学薬品は害を与える可能性があるということを発見した研究もありました。

長期間に渡ってこれらの化学薬品を使うことは、抗生物質が効かないバクテリアをより多く作り出すかもしれないということを憂慮する研究者たちもいます。

バクテリアは実に素早く繁殖するので、トリクロサンのような抗菌物質の致命的な作用から自らを保護する無作為の遺伝子変異を起こす可能性が常にあるのです。

そうなるとバクテリアのほとんどが抗生物質によって殺されたとしても、1つのスーパーバクテリアが生き残ってその抵抗力を受け継ぐ可能性があるよね。それにより、あなたたちはより危険な新世代の病原菌にさらされるかもしれません。

トリクロサンのような化学薬品は、藻の光合成に影響を与えて、イルカのような野生動物の体内で増殖することもわかっています。ネズミの研究では、トリクロサンはエストロゲン、テストステロン、そして特にネズミの体内にある甲状腺ホルモンの量を変えてしまいました。

それはつまり、これらの化学薬品が繁殖現象や新陳代謝に干渉することを意味しています。今のところ、似たような影響が人間に起こるかどうかはまだ判明していません。

つまり、抗菌物質がわたしたちを含む多くの生物の健康にどのような影響を与える可能性があるかについて、完全にはわかっていないのです。でももし、普通の石けんと水で間に合うのなら、基本に忠実なほうがよいのかもしれません。