専門誌よりも自分たちを信じた結果…

中西裕之氏:みなさんこんにちは。私は天文学の研究をしています。時々、「なんで天文学者なんかになったの?」って聞かれることがあります。良い質問です。幼い時からやっぱり研究者という仕事に就きたかったというのはあります。でもそれと同時にもう一つ思い出すことがあります。

それは幼い時、家にあった小さな天体望遠鏡です。夜になると空が見え、どの星も同じように見えます。しかし、木星のように縞模様や衛星の見える惑星があったり、あるいは、土星のように輪っかが見えるものもあります。このように、宇宙にはいろんな姿の天体があるんですね。

ですから、私たちがこの目で見ている世界っていうのは宇宙のほんの一部でしかありません。高校生の時に、この宇宙をもっと調べたくて天体観測をするような部活に入りました。そしてその高校3年生の時にシューメーカー・レヴィ第9彗星という彗星が木星に近づき、そしてバラバラに分裂するというそういうことが起こりました。

しかもその後、木星に衝突するんだよね。残念なことに私たちから見て、木星の裏側で起こるので、この衝突は自分たちみたいな高校生など見てもしょうがないだろうと、どの天文雑誌にも書いてありました。

専門誌にそう書かれていましたけれども、私たちは何か起こるかもしれないと思って天体望遠鏡を木星に向けて観察しました。するとどうでしょう。そこにはなんと黒いシミが見えたんです。これは衝突の跡でした。これを見た瞬間、私は驚き、そして慌ててカメラを取り付け、シャッターを切りました。

この画像は少しわかりづらいかもしれませんが、その時に撮った写真です。このように、専門家でも宇宙のことは、まだまだわからないことだらけなんです。宇宙は未知のことであふれているんです。そう思って私は今、宇宙がどんな形をしていて、どんな仕組みで成り立ってるのか。そういったことを明らかにしています。

200年前まで庶民は地図の存在すら知らなかった

また、私は天の川の研究もしています。これは私たちの住む銀河系を内側から見た姿です。私たちの天の川がどんな形をしているのか、そして天の川の地図についてお話ししたいと思います。

みなさん、この稲盛会館に迷子にならずに来られたでしょうか。もしかすると初めて来た人は地図が必要だったのではと思います。実際、最近はスマートフォンを使えば簡単に地図を見ることができます。

このように、今私たちの生活の中で、地図というのは必要不可欠なものです。しかし昔はどうだったのでしょうか。振り返ってみると、このような正確な日本地図が得られるようになったのは200年前です。人生にとっては短い期間。その時までは、日本地図はもちろん、世界地図だって私たち庶民は全く存在すら知りませんでした。

それが今となっては日本地図だって世界地図だって簡単に手に入ります。それに伴って、最近は海外旅行に出かける人の数もどんどん増えてきました。今、年間1,600万人の方が海外旅行に出かけているそうです。これは実に50年前の約100倍です。

もはや海外旅行は庶民に定着した、と言ってもいいでしょう。では、次の50年です。今のペースで科学が進んでいったとすると、宇宙旅行だって実現するかもしれません。夢の話ではなさそうです。実際、宇宙旅行を企画している旅行会社もあるぐらいです。

宇宙を旅する者にとって一番大切なものとは

ここでみなさんと一緒に宇宙旅行の観光客向けグッズを考えていきたいなと。鹿児島にはロケットの射場が2箇所もあります。世界には26箇所の射場があると言われていますが、その数少ない射場のうちの2箇所が鹿児島にあるんですね。

近い将来、宇宙旅行に出かけるために日本全国から鹿児島に来て、鹿児島から宇宙旅行に出かけ、鹿児島に帰ってきて、そしてお家に帰る。そんな未来がもしかすると来るかもしれません。

そんなことが実現しそうな予感がします。そこで、先ほど申し上げた、宇宙旅行のグッズを考えてみたいと思います。例えば、宇宙まんじゅうや宇宙サブレ、あるいは鹿児島なので宇宙焼酎とか、いろんなアイディアがあると思います。

しかし、旅行者にとって一番必要なものは何でしょうか。それは旅行ガイドです。地図です。銀河系の地図です。私たちはすでに日本地図を持っています。そして世界地図だって持っています。さらに太陽系地図だって持っています。

今、現在の太陽系の位置はこんな感じです。もちろん時間とともに惑星の位置は変わっていきますが、時間さえ指定すれば今どこにどの惑星があるかっていうこともわかっています。ですので私たちは太陽系地図だって持っていると言えます。

実際、人工衛星ボイジャーはこの太陽系地図を手がかりに太陽系の外側まで旅をし、海王星に辿り着き、そして太陽系を飛び出て銀河系の旅行へと出かけました。

ですから、次に私たちが必要なのは銀河系地図でしょう。これは、よその銀河ですが、私たちが住んでいる銀河系もだいたいこんな形をしています。数千億個の星が集まって、そして回転している。

ただ、これはよその銀河であり、私たちの銀河系はどんな形をしているのでしょうか。日本地図だったらば、200年前、伊能忠敬が自分の足で歩いて距離や角度とかを測って正確な日本地図を作りました。世界地図となると歩くわけにはいきませんが、衛星がありますから衛星写真を撮れば正確な世界地図だって作ることができます。

宇宙を解き明かす鍵は”電波”

しかし銀河系はどうでしょうか。銀河系の中を歩き回るわけにもいきませんし、まして衛星を銀河系の外に飛ばし、銀河系の写真を撮ってくるわけにもいきません。

というのも、光の速さで飛ばしても3,000年以上かかるのです。しかしそれを可能にする大発見がありました。それは宇宙電波の発見です。宇宙の観測っていうと、双眼鏡とか望遠鏡とかを使い、この目で宇宙を観測すると普通は考えることが多いと思います。

80年前までは確かにその通りでした。80年前っていうとそんなに昔のことではありません。実際、今100歳を超えるお年寄りが鹿児島には1,000人以上いるらしいんですね。全国では4番目の長寿の県だそうです。

話は外れましたけれども、そんな長寿の100歳のおばあさんが20歳の時、私たちはこの目で見える光でしか宇宙を観測することはできませんでした。しかし80年前、すごい発見があったのです。それが宇宙電波の発見です。

アメリカのカール・ジャンスキーという人が、アメリカの電話会社に勤めていたわけですが、その人が天の川の方向から来る電波を発見したんです。電波と言っても、携帯だとかテレビとかラジオとかそういった人工の電波ではありません。自然界から電波が来てるんです。

その時から宇宙の電波を観測するためにたくさんの電波望遠鏡が世界中に建てられました。そしてこの宇宙を構成する物質の71%は水素ガスです。そして27%ヘリウム。それ以外が私たちの身体を作っているもの、それが2%です。

このように宇宙はほとんど、水素でできているのです。そしてまた、水素は電波を放出します。ですから電波望遠鏡を使って水素ガスがどこにあるか調べれば、私たちの銀河系の形を調べることができるのです。

銀河系の一丁目、二丁目

こうして私は天の川がどんな形をしているか、銀河系がどんな形をしているかということを調べてきました。それでは私たちの天の川の写真をお見せしましょう。あ、写真ではないですね。実際には地図ですね。薄いガスが赤い色、そして濃いガスが緑色で示されています。真ん中にあるのが銀河の中心です。そして上側に太陽があります。私たちの天の川はこんな形をしています。

ちょっとわかりにくいので、密度を等高線のような形に変えてみたいと思います。私たちの住む銀河系というのはこういう台風みたいな形をしているんですね。渦巻状の構造をしています。

この一つひとつの筋状の構造は腕と呼ばれています。それぞれ星座にちなんだ名前が付けられています。これはたて座南十字座腕。そして射手座竜骨座腕。オリオン座腕。ペルセウス座腕。じょうぎ座外縁部腕。こんな形で名前が付けられています。ここにまだ名前を、地名を付けた人はいません。ですからちょっとここで地名を付けてみたいと思います。

ここは銀河系の中央町。たて座南十字座町一丁目、そして二丁目、三丁目。じゃあ続きます。射手座竜骨座町一丁目、二丁目、三丁目、四丁目。次が私たちの住んでいるオリオン座町一丁目ですね、二丁目。そしてペルセウス座町一丁目、二丁目、三丁目。じょうぎ座外縁部町一丁目、二丁目、三丁目。こんな形で名前が付けられる。

宇宙旅行のおともに銀河系地図

このように銀河系の地図作りっていうのはまだまだ道半ばです。まだたくさんやることがあります。というのも、この銀河系の中にある天体までの距離の精度がそんなに高くないんです。そこで、私たちが国立天文台と一緒にやっているベラ・プロジェクトというものを紹介したいと思います。

これは鹿児島県の入来と岩手県の水沢、そして小笠原、石垣島に、同じ形をした4つの方形20メートルの電波望遠鏡があります。この4つの電波望遠鏡を一緒に使うと直径2300キロメートルの巨大な電波望遠鏡として使うことができるんですね。

私たちはこの巨大な電波望遠鏡を使って銀河系の中の天体を観測しています。そうしますと、私たちの地球が太陽の周りを回るごとに、近くの銀河系の中の天体が遠くの天体に対して動いて見えます。これはちょうど、みなさんが電車とか車とかに乗って外の景色を見た時と同じで、遠くの太陽とか月とかは止まって見えますけれども、近くの景色は素早く過ぎ去って動いていく。そういったことが起こります。

こういった原理で、私たちは銀河系の中の天体の距離を測ることができます。このようにして私たちは銀河系の地図作りをしています。宇宙旅行が私たちにとって身近になる時代までには、このような正確な銀河系地図をお届けしたいと思います。

宇宙で迷ったらタイツを見るべし

最近はこんなタイツが作られました。これは後ろ側から見ると、後ろ側に銀河系の中での太陽の位置が描かれています。そして表側には太陽系の中の地球の位置が描かれています。その名も「銀河系で迷子になりそうな貴女のためのタイツ」です。

もしみなさんが銀河系に行って迷子になったとしても、このタイツを見て、安全にみなさんを地球まで帰してくれることでしょう。もう一度最後に私たちの住んでいる地球について考えてみたいと思います。

この地球は実は銀河系の中を移動しています。先ほど言ったような射手座腕、オリオン座腕、そしてペルセウス座腕。私たちの太陽はこの腕の間を通過しているというふうに、結構考えられています。

そう考えると、私たちの住んでいるこの地球そのものが宇宙船なんですね。ですからこの銀河系地図というのは、宇宙船地球号の50億年の銀河系の旅行のガイドマップでもあるんです。ありがとうございました。