2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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石川善樹氏(以下、石川):だから、人と知り合った時に「いやー、世の中狭いね」「君もあなたも誰々さんの知り合いだったんですか?」みたいな、共通の友達が多い人と知り合っているようでは良くないんですね。「世間は狭いね」というんですけど、違うんですよ。自ら狭い世間に飛び込んでいるんですよ。
仲山:「Facebookで流れてくるフィードだけ見ていたら、世の中の意見はこっち側だけど、テレビで見ると逆だ」みたいなことありますもんね。
石川:そうですね。だから、共通の知人が1人もいないような、そういう人とどんどん知り合っていくと、新しいアイデアが入ってくるんです。「あー、世間せまいねー」みたいな人とこうブワーッとやっていても、楽しいですけど、新しいアイデアは入ってきにくいですよね。
あと、最近聞いた話でおもしろかったのが、僕には役者の友達がいるんですが。彼は小さいころに能や狂言の子役をやっていたんですよ。能や狂言はどうやって教育を受けるのか、興味があって聞いたら、日本の伝統芸能は師匠が2人つくんですよ、最初から。
仲山:2人?
石川:最初から師匠が2人ついて、1人は父親、もう1人はおじいちゃん。それも、父親とおじいちゃんで言うことがぜんぜん違うらしいんですよ。その矛盾を自分の中で解消していくのが、子役の時期。
仲山:別におじいちゃんの役割とお父さんの役割みたいなことではなく、普通にそれぞれプロの役者として自分の思っていることに違いがある?
石川:結局は同じこと言ってるんですけど、表面上は違うように聞こえたり。後はムチとアメですね。お父さんはムチでビシビシビシッと。でも、おじいちゃんはかわいがるというのがあって。重要だなと思ったのは、人の脳は混乱した時に一番働くんです。例えば、直属の上司からも社長からも同じ命令が下りてくると、脳は停止状態になってくる。
仲山:考えなくてもやれますもんね。
石川:そうそう。でも「上司からこう言われたんだけど、もっと上からはぜんぜん違うこと振ってきたぞ」みたいな。そっちのほうが、脳としてはけっこういいんだろうなと思って(笑)。
仲山:僕、最初に入った会社で係長から言われて書類を作って持っていくと「ここはたぶんこう直されるから、こう直して」と言われて、直すじゃないですか。それを係長と一緒に課長のところへ持っていくと、「これじゃダメだろ、こう直せ」と言われて、最初に戻るんですよ。それをもう1個上の部長のところへ持っていくと、係長が直せと言われたように直されるという体験をして(笑)。
新人研修の時に「2階層上から考えましょう」と習ったんです。それがけっこう忠実に実行されていて「わけわかんないな」と思って。
石川:(笑)。
仲山:そこから「会社って、変なの」と思った記憶があります。逆にいうと、人によってこんなに言うことが違うのは、両方間違っていないという考え方をせざるを得なくなります。「こういう視点を見てるとこうなって、こういう視点を入れるとこっち側になるのか」みたいな。
石川:スポーツの世界では、まさに今の話で。この本を監修された中竹(竜二)さんが言ってたんですけど、ラグビーのジョーンズさんという監督は、あえて理不尽に振り回すんですよ。例えば、みんなが「よーし、今日はすごい練習したなー」と満足している時に「今日の練習はぜんぜんダメだった」とか。なんか、カオスを放り込んでくるんですよね。
なぜかというと、そもそもラグビーはものすごいカオスな競技らしいんですね。審判のさじ加減でファールになる・ならないがあったりする。日本という国はそういう意味では、非常にカオスが少ない国に映るんですね。電車は時間通りにやってくるし、暑かったらエアコンのリモコンをピッとやれば涼しくなるじゃないですか。
非常にカオスが少ない……、人生や世の中はコントロール可能であるという価値観が、無意識で染み付いているのが日本人。でも、それは逆にいうと、突然、変化球や予期しないことが起こると、対応しにくいことでもあるらしいんですね。ラグビーはそういう意味でいうと、本当にカオスのゲームです。日本人が活躍する競技は、だいたい練習と本番で同じ動きをする競技が多いんですよ。フィギュアスケートとか鉄棒、体操とか。
仲山:僕、それを対戦型と演技型と呼んでいるんです。演技型は自分で練習したやつを本番でする。体操、後はフィギュアスケートとかですね。対戦型は野球、サッカー、バレーボールなど。
石川:対戦型はカオスが多いじゃないですか。
仲山:相撲や将棋とか、力をこう打ち消し合うみたいな。
石川:だから、そういう意味でいうと、野球はまだカオスが少ないですよね。でも、ラグビーやサッカーみたいにワーッとなるのはカオスが多い。日本人が本当に苦手なものは、逆にブラジルとか、電車が来ないことが前提の国は慣れているんですよ。
仲山:わかる。あるサッカーの映画で、10人のフットボーラーを追った映画があって。そこに出てくるシーンで、シュートを打とうとしているところにイレギュラーをした。そのまま足を振るととんでもないところに飛んでいきそうなんだけど、その人は自然な感じでフワッという蹴り方に変えて、空振りもすることなく蹴ったんです。要は、イレギュラーをしても体がそれは想定内という動きを自然にしてシュートを決めてたシーンがあって。まさに電車が遅れるの当たり前、イレギュラーするのは当たり前みたいな。そういうことですよね、今の。
石川:たぶんこういうセッションとかでも、構想化された、統率されたものになりすぎるとカオスが少ない。でも、今日みたいにかなりイレギュラーなセッションだと。
仲山:だいぶカオスな感じですよね。
石川:「ん?」と思う人もだいぶいると思うんですよ、脳が慣れてないと(笑)。先ほど学長がおっしゃった、「その上司とそのさらに上の上司によって言うことが違う」は、ある意味、カオスの状況です。
仲山:カオスでしたね。
石川:そういう状況を経験すればするほど、人は慣れるんですよね。
まとめると、スポーツの世界では昔は「こういう状況ならこうしなさい」という練習をたくさんやったんですよ。最近はそうじゃなくて、「こういう状況でこういうカオスが入ると、さてどうなるでしょう?」と、トレーニングは進化してきていると言ってましたね。
仲山:この前読んだ『ひらめきはカオスから生まれる』という本が、先ほどの濱口さんじゃないですけど、イノベーションについて書いてあるものでした。そこには「イノベーションを生み出すには穏やかなカオスがキモである」と書いてあったんですよ。僕、「穏やかな」がけっこう気に入って。
だいだい「創造的破壊」という人は破壊好きで、あまり創造しない。そして、そのまま破壊を続けるタイプが多いじゃないですか。だいたい被害に遭った人たちは2回目からは守りに入るから、なおさら動かなくなることがありがちなんです。
だから、チームビルディング講座の合宿とかで、みんなのテンションが上がっている状態で最後に言うのが「みなさんに1個だけお伝えしたいことがあって。この温度感で明日会社に行ってしゃべると、温度差がありすぎて、スタッフのみなさんはやけどした状態になるので」。
石川:(笑)。
仲山:「熱湯をかけないようにしてください」と。まずは、どこかで冷ますかするなりしてから。「いきなり熱湯をかけると、どんどん進みにくくなるので」と、よく言っていたんです。
穏やかなカオス、というのがあって。その穏やかなカオスの3要素の1つが「余白」。余白とは、時間的、精神的な余白みたいなもんですね。要は、「1日の頭と最後にみんなで集まって、ふりかえりをやろう」と言えるのは、余白があるということなんですよね。「そんなことやってる暇ないよ」と、それぞれが自分の作業を目を吊り上げてやっているような時間が足りない状態は、余白がない状態だと思うんです。
2つ目が、「異分子」。異分子はまさに先ほどの、友達が被っていない人と同じです。3つ目は「計画された偶然」と書いてありましたけど、化学反応が起こりやすいセッティングをしておく感じですね。だから、Facebookで「友達、お互いに1人も被らないね」みたいな人を集めて飲み会してみるのは、たぶんそうかもしれないです。
石川:それ、おもしろいですね。
「計画された偶然」で思い出したんですけど、ちょうど今朝、ソムリエの人に「ソムリエはどうやってなるんですか?」というお話をうかがいに行ったんですね。僕はその時、どうやって人は達人になっていくんだろうというのを聞きに行ったんですけど。
僕自身はそんなにワインとか飲むわけではないんです。なので「本当に初心者からソムリエになろうとしたら、どういうステップがあるんですか?」と聞いたら、「とにかくおいしいと思うものを最初は飲むのが大事だ」「能書きはいい」「おいしいと思うものを飲め」と。
まあ、それは普通じゃないですか。そこまでは「なるほど」と思ったんですね。では、おいしいものを飲んで、ワインがだいぶ好きになってきて「『よし、いよいよちゃんとワインを勉強しよう』と思ったら、次はなにをするんですか?」と聞いたら、ここが意外だったんです。「おいしくないワインをたくさん飲むことだ」と言われました。
「どういうことですか?」と聞くと、結局、ワインをちゃんと理解しようと思うと、おいしいと自分が思わないものもちゃんと勉強しなきゃいけない。だから、ソムリエ試験の準備をしている時は、1年間ぐらい自分が好きなワインを飲まないみたいですね。
僕、それ聞いて「それ、研究者と一緒だ」と思ったんですよ。研究者になる人は基本的に勉強が好きなんです。でも、なんでもかんでも好きなわけじゃなくて、もちろん嫌いな勉強もあるんですね。興味がない勉強もいっぱいあるんです。一流の研究者になるためにもっとも大事だというのが、計画された偶然なんです。「興味がない学問分野をどれだけ深堀りできるか?」というのが。
仲山:嫌いというわけじゃないけど、興味がない?
石川:興味がなかったり、嫌いなことですね。なぜかというと、自分が好きだったり得意だったりすることは、やるんです。
仲山:うんうん、放っておいても。
石川:それはもう、やり尽くしてくれ、と。それに加えて、嫌いなこと、興味がないことをどれだけできるかが研究者の幅を広げると言われて、確かにそうだなと、ワインの話を聞いて思い出しました。ソムリエも一緒なんですね。そしてハッと思い出したのが、秋元康さんの話なんです。秋元康さんというAKB48のプロデューサーは稀代のヒットメーカーですけども、変わったことを毎年しているみたいなんです。1年に1回……。
仲山:嫌いな人に会いに行って、飯を食うというやつ?
石川:そう。嫌いな人と会ってご飯を食べる。別に、そんなことしなくていいのに。だけど、あえて嫌いな人に会って「やっぱりこいつ嫌いだな」と(笑)。「今年はちょっとましになってるな」とか。人はだんだん年取ると、なんかもう「不快なことはもういいや」と思うようになってくるんですよね。年を取るとどんどんそういう傾向になるんですけど。いつまでも活躍されている方は、あえて不快の海に飛び込みますよね。
仲山:なるほど。
石川:僕は研究者としていろんな人を見ていると、おもしろいんですよね。年を重ねるごとに1年が短くなるという人と長くなる人がいて。
長くなるのはどういう人なんだろう、と思ったら、だいたいそういう人は1年に1つ、苦手にチャレンジしていますね。1年に1つ決めて、苦手なことにチャレンジする。そういうことをしている人は、「毎年毎年、なんか時間が長いね」とおっしゃるんですよね。
仲山:つまらない時間は、長く感じますもんね。
石川:そうだと思うんですよね。
どうしても僕らは、いろんなことをルーティン化しちゃう。ルーティン化しちゃうと、やはり1日も1年も早いですよね。そこに、いかに計画された偶然というか……。その偶然を別の言葉で表現すると、苦手なこと、興味がないこと、不快なこと、なんだと思うんですね。それをやっておくと、「お!」が生まれるんでしょうね。
仲山:今、思い出したんですけど。朝、(客席を指して)そのあたりに、昨日ショップ・オブ・ザ・イヤーで表彰された店長さんが座っていたんです。一生懸命、その袋(カンファレンス配布物)に入っているやつを見ているんですよ。「なにしてるんですか?」と話しかけにいったら、「なんかもう1度、このチラシ全部を見直してみようかなと思って」と言っていて。
そして見直し始めたら「あれ、こういう機能付いているやつあるんだー」みたいな発見があったんです。今までの自分の店舗運営スタイル……もう磨かれて固まってきているんだけど、そこをこう1回また、たぶんカオスの状態にするんでしょうね。「新しいものを、昔捨ててきたかもしれないものをもう1回、今入れたら、おもしろくなるかもな」。そういうの、ありますよね。
石川:おもしろいですね。さっきの3つ、もう1回。なんでした? 「余白」と……?
仲山:「余白」と「異分子」と「計画された偶然」。
石川:3つとも、深いポイントですよね。「自分は1日の中で余白を作ってるのか?」「違和感を感じるような人と話したか?」「違和感を感じるようなセッションに行ったか?」とか。
仲山:今日のコラボもそういう意味では、なかなかカオス度が高いと思いますけど。
石川:自分がなんとなく思ったり感じたりしたことを言語化している人の話は、気持ちがいいんですね。
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