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小説家 鈴木光司さんの根っこ(全2記事)

鈴木光司氏「必要なものは仲間たち、いい講師だよ」作家志望の若者たちに贈ったメッセージ

『リング』シリーズや『仄暗い水の底から』などで知られる作家の鈴木光司氏が、シナリオ・センターの公開講座で講演。小説家デビューに至る経緯を振り返り、小説家としての心構えを説きました。

必要なものは「仲間たち」

鈴木光司氏(以下、鈴木):僕は、シナリオ・センター、ちょっとかじっただけとかじゃなくて、どっぷり浸かっていたんですよ。大学4年のときから、作家デビューするまで。ここで、学んできました。ものすごく恩のある場なんですね。このシナリオ・センターにいたことによって、僕はどうにか作家デビューすることができたんじゃないかと思ってるんですけれども。

今年、『リング3』がハリウッドで公開されます。26年前に、シナリオ・センターで書いた原作が、今でも映画化されているわけですよ。自分でも、その当時、あれを書いたときに、このような展開になるとは思わなかったですね。

電話がかかってきて、受話器を取って、耳にあててみたら、聞こえてきた相手の声が暗かった。落選の通知でした。もうね、本当、落ち込みました。期待していただけに、心が折れそうになるんですよ。

しかし、なにができるかと言ったら、新しい意欲で、新しい小説を書くことだけだと。2、3日後にすぐ書き始めて、また、シナリオ・センター作家集団の森先生のクラスで読んできました。それが、『楽園』という小説です。

2月、3月、4月、3ヶ月かけて、これもまた完成しました。新潮社が日本ファンタジーノベル大賞という募集をやっていました。『楽園』が、日本ファンタジーノベル大賞優秀賞をいただけるということで、これでようやく作家デビューということになりました。

何年か前に、ある雑誌で小説の添削をやっていたことがあるんです。ある男の作家志望の人だったと思うんだけれども、手紙が入っていたんです。その手紙の中には、「読んで、僕に、小説家になれるかなれないか教えてください。なれないなら、諦めます」というふうに書いてあった。わかるわけがない。僕は答えようがないわけですよ。

だから、また、滔々と書きました。

「君ね、そのような甘いことじゃダメなんだよ。それは、人生を賭けて、君が見極めていくしかないんだよ。見極めるためには、人の言葉をもらってちゃダメだ。君が行動して、なんらかのアクションを起こし、数年書かなければ、絶対に見極めることができない」。

「そのときに必要なものは、仲間たちだよ。いい講師だよ。それがいなかったら、自分の力を判断することは、絶対できない」。

1人だけで書いていたら、自分で悦に入って、「なんか俺、今日はいい小説書いちゃったぜ」というような気分になるかもしれないけれども、ほかの人が読んだら、ぜんぜん箸にも棒にもかからないものかもしれないわけですよ。

ですから、みなさんも、この場というもの、シナリオ・センターというものを、そのように使ってほしいんですね。見極めてください。そして、自分流のやり方で、場というもの、場所というものを使うんですよ。受身的じゃダメなの。

小説家というのは、本当に体験が命ですからね。経験が命です。自分で体験したことが小説の種になるんです。これから芽を出させて、いい養分を与えて、幹を伸ばし、大きな枝振りにして、綺麗な花を咲かせる。

最初の種は必ず経験ですから。いろんな経験を積んでみてください。いろんな体験をしたことが、必ず、いい物語というものに発展していくということ。

そして、小説家になるというのは、日々、そのような態度を取るということです。作家として生きる態度を取るということ。ワイルドでいってください!

文章というものを磨くということ。小説を書いたり、シナリオを書いたりして、文章表現をするということは、たとえ、その道でプロになれなかったとしても、必ずみなさんの人生の中に、役に立ってきます。

ほとんどの仕事が、文章を書いて、相手に理解してもらう。納得させてしまうようなものが書けたら、とてつもない武器になる。ほとんどの仕事はコミュニケーションによって成り立っているんですね。このコミュニケーションの力をつけるという意味では、書くということは、ものすごく勉強になります。

例えば、広告の仕事をやるときにでも、企画書を書いて、それを読んで、最初に文章を作って、クライアントに配って、プレゼンテーションして、しゃべることによって、相手を「あぁ、この製品いいかもしれない」というふうに信じ込ませる。全部文章の力です。

今、こうやって勉強していることは、必ずみなさんの力になっていくというふうに信じて進んでみてください。僕は、このシナリオ・センターの先輩として、心から応援しているので、精進してみてください。

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