氷がもたらす不思議な現象

オリビア・ゴードン氏:冬になると氷が車道や歩道を滑りやすくするため、あなたの悩みどころかもしれません。しかし、一度条件が整うと、氷はさまざまな不思議な現象を作り出すことができます。

氷は、霜の美しい花をかたちづくるのに十分なほど繊細ですが、地震を起こすのに十分なほど強力でもあります。あなたが北半球にいれば、今回ご紹介する氷の不思議な現象の1つを見つけることができるかもしれません。

では、アイススパイクからご紹介しましょう。

あなたは何度もつららを見たことがあると思います。しかし、逆さまに形成されたものを見たことがありますか?

アイススパイクは、氷の表面から上に向かって成長し、重力に反して伸びています。時折、屋外で見かけることもありますが、冷凍庫の氷の上にその現象を見る可能性がもっとも高いです。

不可能に思えるかもしれませんが、一風変わった水の凍結の結果がアイススパイクです。

ほとんどの液体は下から上に向けて凍ります。より凝固点の低い分子はより高密度に圧縮され、固体を形成し始めると沈みます。しかし、水の場合は特殊です。水分子が結晶構造に配列して水素結合を形成するため、実際には密度が低くなり、凍結するにつれて膨張します。

これが、氷を水の入ったグラスにいれると浮かぶことができ、プールが上部から底に向かって凍結する理由です。

氷が形成されるとき、残りの液体としての水は、固体状態に移行する際、膨張するのに必要とする十分なスペースがありません。そのため製氷器のように、膨張するための別の方法を見つける必要があります。

表面の氷に小さな隙間があると、その下にある水はその隙間を突き抜けて、小さなアイススパイクが形成されます。

地面に水滴ができてくると、湿気のある濃い霧が現れますが、さらに温度が下がると、着氷性の霧が発生します。空気中に浮遊している小さな水滴は、必ずしも0度で凍結するとは限りません。

氷結晶が容易に形成されるためには、水分子は核形成と呼ばれる結晶化を開始するためのなんらかの固体を必要とします。核形成が欠如していると、水滴は過冷却となり、0度以下の液体に留まり、これらの水滴がひとたび固体表面に触れると即座にその個体を凍結させます。

そのため、着氷性の霧はあらゆる種類のものを氷の層で覆うことができるのです。

それはとても美しく、木や草が輝いているように見えますが、それは危険な作用をもたらすこともあります。天気予報で “着氷性の霧”という言葉が聞こえたら、暖かい夜を過ごすようにするのが最善でしょう。

なかなか遭遇できない氷震や霜華

もし、とても寒い夜に窓を揺らす大きな音を聞いたとしたら、超音速の飛行機や宇宙人来たのではないかと決めつけるのは尚早です。それは氷震、または氷河地震に間違いないでしょう。

天気が変わって温度が急激に低下すると、土壌に浸透した水が急速に凍結して膨張し、地下で爆発が起こります。音の障壁を突破した時の飛行機が作り出す音を思い出させるほど、大きな音を放ちます。

氷震が起こるのは極域以外では非常にまれなことですが、一度も発生したことがないというわけではありません。2014年の冬は、米国中西部にまたがる地震を引き起こし、夜中に人々を起こすほどの爆音を放つほどの寒さでした。2003年、メイン州で氷震が発生した際でも、ある家の地下20メートルまで亀裂が生じるほどでした。

しかし、このように強力なパワーを持っているものの、これらの氷震の影響範囲はたいていの場合、局所的に限定されます。そのため、地震計が反応しないというこも珍しくはなく、わずか1~3キロ離れた人がまったく気付かないということがあります。

霜華を見るには、秋に入って最初の激しい寒波の次の日の午前中に森に向かうと良いでしょう。

これらの壊れやすい花びらは、極寒の天候で植物の茎が破裂し、茎から水分がじわじわと外部に流れ出て、外の冷たい空気に当たることによって形成されていきます。

ほかの植物よりも霜華を形成しやすいものがあり、実際にいくつかの植物種は「frost weed(フロストウィード)」という共通名を持っています。この種の植物の共通点の1つとして、すべてが多年生植物であるということです。つまり、冬の間に生息することのできる根系を持っています。

茎組織から水が滲み出るにつれ、スポンジやペーパータオルが水を吸収するのと同様の力をもつ毛細管の作用によって、より多くの水が根から引き出されます。水分子は互いに粘着する傾向があり、これは凝集と呼ばれ、周囲の表面に付着します。そのため、水分子は植物組織の内部にある細い経路を伝いお互いに付着しあい、このようなリボンの形をした氷結晶を作るのに十分な水分を与えます。

しかし、これら霜華を実際に見るには良いタイミングが必要です。霜華は美しく短命で、日光に照らされるとすぐに溶けてしまいます。

霜華という用語は、新しく薄い海氷に現れる花のような造形のことを指す場合もあります。

繊細な氷の上に形成されるので、霜華を研究できるほど十分に接近することは難しいです。

長い間、霜華は塩分の多い海面で氷結晶を生成する着氷性の霧によって形成されると仮説をたてていましたが、この理論では霜華の大部分が、空気が乾燥しているときに形成されたという問題を抱えていました。空気が十分に冷たい場合、水は氷の固体表面から水蒸気に直接昇華し、液体状態を完全にスキップすることがわかりました。この水蒸気が再び氷に触れると、核形成の作用で再び凍結し、花のような構造を形成することができます。

これらの繊細な構造物は、氷には珍しい特徴を持っています。そう、非常に塩分を多く含んでいます。海面下に形成されている海氷から塩が押し出されると、霜華がその結晶に吸い上げられ、海水の3倍もの塩分がそこに含まれます。

ワシントン大学の科学者たちは、この塩分を含んだ海氷で形成された花々の1つを慎重に収集して溶かしたところ、2ミリリットル未満の水分しか含んでいないのに対し、100万ものバクテリアが含まれていることを発見しました。このような寒くて塩分の多い環境であるにも関わらず、こんなにも大量に観測されたことは衝撃でした。

そして研究者たちは、霜華に潜むバクテリアから、宇宙空間のような生息困難な環境でも微生物が生存できる方法についての手がかりが得られることを願っています。

回転する氷の円盤

冬になると世界中の川では、まん丸の氷が川の流れに身を任せてくるくる回っているという奇妙な光景が見れることがあります。

これらの氷盤は、数百メートルにも及び数ヶ月の間とけずに川を流れ続けることで知られています。近年、カナダやアメリカ、イギリスなどで観測されていますが、かなりまれな現象であり、形成方法については複数の仮説があります。ある有力な仮説が、渦巻く渦の中で氷が凍ることで形成されるということです。

しかし、2016年の研究によると、氷盤は自らの力で回転し始め、周囲の川の流れを利用していないことがわかりました。

科学者たちは、ペトリ皿の中で氷の円板を凍らせてから、それを水風呂に浮かべました。すると氷盤が溶けて冷えた液体となり、回転し始めました。これは、より冷たい水のほうがより密度が高くなるため、冷えた部分が周囲よりも沈み込むことで渦を作り、氷盤を表面上で回転させる力が生まれたためです。

カナダのロッキー山脈にある人工の湖であるアブラハム湖は、冬になると湖の中に形作られた氷泡で有名です。

しかし、これらの泡は爆発する可能性があるので、十分に注意してください。

湖底に生息するバクテリアは、死んだ有機物をエネルギーに分解し、凍結した水中に泡として閉じ込めておける作用を持つメタンガスを放出します。科学者は実際にメタンが含まれていることを証明するため、この氷の泡をつついて発火させてみせました。

メタンは強力な温室効果ガスであり、世界中の湿地から自然に湧き出しています。極寒地域の他の湖でもメタンの泡を見ることができますが、アブラハム湖は人工であるため、より多くのメタンが集中しているようです。この水を溜めているダムは、バクテリアが分解活動をするのに必要な植物の残骸を多く含んでいます。

これら氷泡のおかげで、アブラハム湖は人気のある観光地になり、写真家たちはInstagramに使えるような良い写真を取るため、バクテリアのおならを求めていきます。

津波は海岸の建物を一掃するほどのパワーで知られており、より速度の遅い氷の津波を動画で見たことがある方もいるでしょう。

2013年には、ミネソタ州とモンタナ州の氷の津波が9メートルにも上り、家屋を破壊し、湖の岸辺に住む人々を激しく震え上がらせました。ミネソタ州では、氷の壁が4キロある海岸線に沿って内陸側に約25メートルほど伸びていました。

2013年の氷の津波の動画や写真を見ると、非現実的に見えますが実際には簡単な説明で理解することができます。

氷の塊が湖の表面に現れ、強風が岸に向かって押し寄せると、塊はより小さな断片に分解され、途中でさらに氷を拾います。そのため、氷の津波は文字通りに氷の集まりが押しよせてきて、時には陸上にまで押しよせてきます。

深刻な被害を引き起こすと言われているものの、津波が地上を襲うまでには避難するのに十分な時間があります。

たとえ氷震や霜華にまだ遭遇したことがなかったとしても、氷は素晴らしいというのはおわかりいただけたと思います。もしそれらが水の上に浮かんでいなければ、水生生物はおそらく絶滅していたでしょう。魚や他の生物、特に海中の奥にすむ生物たちは、逃げるところがありません。

私たちは、氷の力と美しさを当然のものとして考えるべきではないということがおわかりいただけたと思います。