つんく♂氏「子供の頃に感じたものを今に置き換えている」

前田裕二氏(以下、前田):逆にアメリカは、作るまではその過程をあまり見せずに、完成形を洗練されたものとして見せる文化がある感じがしますね。日本においては、共感を呼ぶためにあえて過程を見せるところが、とくに今の時代において育ってきていると感じます。つんく♂さんのほうで、なにか考えなどありますか?

つんく♂氏(以下、つんく♂):はい。ちょっと待ってね。

前田:「はい。ちょっと待ってね」って、すごいリアルタイムな感じで(笑)。

つんく♂:(笑)。よく世の中的には、時代を分析するとか、大衆の気持ちになってとか、まあ、当然そういうことはとても大事だと思います。でも、僕はそんなリサーチ機能やスタッフを抱えてないわけですから、過去の経験上で自分として気に入ったものや興味を持ったものを引っ張り出してきます。

前田:なるほどですね。

つんく♂:例えば、同じピンク・レディーの曲でも、前回と今回では「圧倒的に今回の曲のほうが好き」といった、子供心に思ったそのポイントを今の出来事に置き換えていく。その気持ちを大切にしながら、ここまで来たように思います。要するに、自分がそのコンテンツを好きになった導入とか要素を再生してくようなイメージ。

そんなに器用なタイプではないので、好きじゃないものはなかなか作りあげにくいですね。逆に言えば、引き受けた仕事のどこかの部分を早く好きになって、興味を持ってそこを広げていくような、そんなイメージです。

前田:なるほど。どうですか? 横澤さん。

横澤大輔氏(以下、横澤):つんく♂さんが作られているものは、新しいんだけれど、どこか知っているようなことが、僕はけっこう多いなと、勝手ながら……。つんく♂さんには失礼ですけど、ちょっとそう思っているところがあります。おそらく、つんく♂さんの今の発言から取れるに、因数分解しているんじゃないかなと思うんですよ。

前田:はいはい。

横澤:そのコンテンツが持っている構成要素など、それをどう見させたら、人が動いていくのか。似たものの構成要素を持ってきて、新しくつんく♂さんの知識だったり経験だったりを肉付けして、さらに新しいものにしていくようなことを感じますよね。

つんく♂:料理でも、まったく食べたことのないものは口にしないけど、海外でも、「これ、いわゆるインドネシアのお好み焼き」って言われたら、「食べてみよう」って思う感じね。

天才に商才があるとは限らない

前田:なるほど。2つ目の論点にも書いたんですけれど、なんとなく僕はつんく♂さんと一緒にプロジェクトとかやらせていただいていて、すごいアーティスティックな部分を感じているんですよね。いわゆる言語化されない右脳的な、「ちょっと感覚的に違うよね」みたいなことをすごい感じるんです。

今の横澤さんのおっしゃっていた、左脳的にヒットの要因を分析して、ロジックでもってヒットを生む再現性を高めていくことに関して、つんく♂さんがどういうふうに思われているか。それを是とするのか、あるいは「ヒットってそういうもんじゃないよね」のどちらなのか、お考えはありますか?

つんく♂:次の話題にいっていいってことね?

前田:そうですね、いったん回答いただいて、今いただいた料理の話に戻れたらと思います。

つんく♂:さっきの話と逆になるかもですが、ひらめきも大事だけど、そういう天才はほんのごく一部。しかも、天才に商才があるとは限らない。なぜなら、天才には締め切りや予算は関係ないから。ひらめいたから作る。これだけです。

前田:なるほど(笑)。

つんく♂:多くの成功者は努力の積み上げのような気がします。つまり、左脳的感覚。たいていの人は、努力を面倒がります。逆を言えば、そのとき、人は嫌がるのだから、自分はがんばればいい。そうすれば、チャンスが見えてくるわけです。

横澤:つんく♂さんと僕が圧倒的に違うのは、つんく♂さんはアーティストで、僕は事業プロデューサーです。僕も、最初は右脳の人間だったんですよ、実は。

前田:へぇ~!

横澤:ひらめいて、「これをなにかやろう」と言ったときに、スタッフを動かさなきゃいけないわけじゃないですか。そのとき、右脳の限界を感じたんです。

つんく♂:(笑)。

横澤:というのは、だいたい動かせるのが10人くらいまでなんですよね。自分のこの気持ちをくんでもらって、「頼む、動いてくれ」で動くのが10人くらいだったんですよ。でも、そこにはロジックがない。例えば、「横澤がこう言ってるからやってくれ」を50人に対して使えるかどうか。

そのとき、右脳のままだと共通項がなくなっていくんですよね。「横澤大輔が考えたこと」になってしまう。100人、200人、300人、500人、1,000人を、全体のプロジェクトでやるには、やはりロジックがないと確実に動かせないと知ったんです。だから、思考パターンを右脳から左脳に変えたんですよね。

前田:なるほど。そういう意味では、事業やビジネスの枠組みにおいてヒットを生む際に、オペレーションや、いわゆる仕組みに落としていくことがすごく重要。でも、それは右脳的な感覚ではなかなか難しくて、左脳で考えていろいろ仕組みを作って、ここまで来ているもいうことなんですね。

横澤:そうですね。

前田:なるほどなるほど。

横澤:どっちも否定はできないと思うんですけどね。

今の時代背景や仕組みを肉付けして新しい企画を作る

前田:つんく♂さんか先ほど書き込まれていた「多くの成功者は努力の積み上げなような気がします。つまり、左脳的感覚。たいていの人は、努力を面倒がります。逆を言えば、その時、人は嫌がるのだから、自分はがんばればいい。そういうチャンスが見えてくるわけです」の一文があります。

もともと生まれ持った才能がない方にとっては、すごく希望を持てるコメントですよね。つまり「後天的な努力でヒットは生めるんだ」という発想をつんく♂さんから聞けるのは、励みになると思うんですけど(笑)。

横澤:そうですよね(笑)。

つんく♂:(笑)。あとは、タイミングまでじっと待つのみだと思います。そのタイミングを見つけるのは、右脳的感覚が大事なのかもしれません。

前田:つまり、常に左脳的な積み上げで努力していく必要はあるんだけれど、「ここだ」のタイミングをつかむのは、必ずしも、分析力やロジックではなくて、ちょっと感覚的な部分も必要という話ですよね。

つんく♂:極論を言えば、天才的ひらめきすごい薬品を発明したとして、それを薬として世に送り出すか、化学兵器として使うか、もしくは、それをどうしていいまま商品化できずに終わってくか。どっちにしても、発明者はそのまま成功者となるかどうかは別問題である、というような話ですね。

前田:そうですよね。確かに……。その掛け合わせがすごい重要だ、ということなんでしょうね。

横澤:うんうん、そうでしょうね。

前田:どちらか一方ではダメで、っていう。

つんく♂:例えば、付き合う人や業者の見極めは、右脳もしくは第六感が必要だったり……。運もあるからね。

横澤:だから、プロデュースをするときに考えるのは、先ほどもお話したんですけど、完全に新しいものを作らないことについて、もう1つ、僕のなかでの鉄則があります。完全に新しいものを作ると、コンテンツを流通させていくうえでのプロモーションコストが上がってしまうんですよ。

もちろんそれは否定はしないんですけど。その構成要素をすべて因数分解して、「なぜその企画は構成させれているのか」など、くっつけようと思っている構成要素はなんなのかを考えながら、全部こう、くっつけるんですよね。

そこで今の時代背景だったり、仕組みだったり、そういものを肉付けして、新しい企画を作っていくんですよ。そうすると、「あれっぽいけど、新しいな」とができ、おそらく受け入れられやすいコンテンツになっていくというのが、なんとなくありますね。

前田:なるほど。ヒットの裏側にある本質的なもの、削りだしたものは、けっこう共通していることが多い、と。

横澤:そうですね。

つんく♂:親しみってやつやね。

横澤:だから、「時代は回る」ってよく言うんですけど、あれはおそらく「その仕組みが一緒で肉が違う」ということだと思うんですよね。その現象にある裏側の背景は全部、本質的にはすべて一緒というか。その本質は、経験だったり、体験だったりで、結びついていくと思うので。

前田:なるほど。

横澤:それがたぶんヒットの方程式になるんじゃないかな、と。

受け手・出し手、需要と供給の細分化

前田:ちょっと話の流れで2つ目の論点に移ってしまったんですけど、1つ目の論点にもう1回戻ります。「プロデュースする際に」話ですね。冒頭にも私、申し上げたんですけれど、個人的にもエンタメ産業において、ヒットコンテンツの生まれ方が変わってきてると、すごく強く感じています。

それはたぶん、ユーザーの消費行動の変化だったり、世のなかのいわゆるソーシャルメディアの発達だったり、スマホデバイスなど、ハード面の変化もあるとは思うんです。受け手・出し手、需要と供給の細分化っていうんですかね。つまり、需要はもともとで、いろいろなタイプがあるんだけれども、今までは供給側が画一的なコンテンツしか提供していなかったために、実は潜在的には満たされていなかった。

インターネット・スマホ時代になって、その多様なニーズが、細かく満たされていく過程で、ヒットが生まれると。。その細分化された需給成立を可能せしめている要因として、結構ハード面の変化が大きいと思っています。

それこそ、昨日行われていた秋元さんたちのセッションの言葉を借りると、マスメディアは最大公約数的なニーズしか満たしていなかったんだけれど、今のインターネットの時代においては、かなり細かくニーズを分散して満たしていくことができるようになっている。

そんな中で、いわゆるみんなが知っているヒット……、それこそ、90年代の曲にあったような、もう絶対に学校で誰もが知っている現象は、もう生まれなくなっていくのか。言い方を変えれば、世のなかがそういった画一的なヒットを求めていかなくなるのか。そういった仮説もあります。そのへんはどうお考えですか?

横澤:たぶん、少なくはなるんじゃないかな、と思いますね。今まではそういう流通しか存在しなかった、というところがあるので。

つんく♂:極論的な1曲は出るよね。

横澤:そうですね。極論的な1曲は、つんく♂さんおっしゃるように、出るんじゃないかなと思います。というのは、僕がマーケットを分析していくうえで、今まではテレビ・ラジオ・雑誌みたいなところからしか、コンテンツを供給する機会がなかった。けれど、今はネットやデバイスでもいろいろある。なんて言うんでしょう、メディアから得る可処分時間が分散した、というところが根底にあると思っているんです。

そうなってきた場合、「昨日これ見た」は、先ほどおっしゃられるように、なくなってくるわけじゃないですか。そうすると、価値観も同時に分散するわけですよね。

つんく♂:今までは、年間に10曲は口ずさむヒットがあったとしたら、最近は、みんなが鼻歌で歌える曲は、年間2〜3曲かな。

横澤:ネットで言うと、どういうことが起きたのか。iモードがテレビ的な役割というか、昔は月額300円を払って天気予報やニュースを見ていたんですよね。

Googleという黒船が日本に来航したことで、日本のビジネスが全部崩れちゃったわけですよね。結果、何が起こったかというと、コンテンツの値段がかなり下がってしまった。限りなくゼロに近づいてしまった。

唯一、Googleが価値を落とせなかったもの

では、コンテンツはどういう進化を遂げるか。唯一、Googleが価値を落とせなかったものが存在しています。それが人と人とのコミュニケーションだと、僕は思ってるんですよね。

前田:なるほど、その通りですね。

横澤:人と人とのコミュニケーションの価値は、唯一Googleが落とさず、かつ、上げられたものだと思っているんです。

そこからSNSだったり、人が「いい」と言ったものがいいと言ったりする、構造がパラダイムシフトしてしまったんだと思うんですよ。人が「いい」と思わないと売れない行動になる。

つんく♂:みんな自信はないから、そのへんは昔もおんなじなんやけどね。テレビで言ってるから買い物していたのが、最近はネットの口コミを見てからじゃないと買わない。

横澤:それはマスも必要ですし、これからニッチマーケットでのメディアっていうものが、どういう位置づけで情報の伝達をしていくかの掛け算になっていくんだと思うんですよ、どんどん。それが、おそらくヒットの要因になる。だから、どっちも否定はできないんですけど、複合的にヒットを生む流通になるかっていう。

前田:掛け算というのは、それぞれのニッチマーケットごとの、その小宇宙ごとの掛け算というイメージですか?

横澤:その横並びに、テレビも入っちゃうと思うんですよ。

前田:あ、上下関係ではなく?

横澤:上下関係ではなく。

前田:僕らよりもさらに若い世代などは、本当にそうかもしれないですよね。「テレビが上で、ネットが下である」という発想を持つ世代もいるかもしれないですけど、若者と接しているとそんな感覚ぜんぜんなくて。

横澤:ですよね、はい。

前田:おっしゃる通りかなと思います。

前田:つんく♂さんも「昔は年間に10曲は口ずさむヒットがあったとしたら、最近はみんなが鼻歌で歌える曲は、年間2〜3曲かな」とおっしゃっていますけれど。

そういう意味では、みんなの共通の、誰もが知っている曲数がすごく少なくなってきている現象から、先ほど横澤さんがおっしゃっていたニーズの分散化、それに応える供給側という構図が見えるかなと思います。

つんく♂さんによると、「みんな自信はないから、そのへんは昔もおんなじなんやけどね。テレビで言ってるから買い物したのが、最近はネットの口コミを見てからじゃないと買わない」とのこと。

消費者がそもそも自信がないという前提に立つと、みんな、今まではマスメディアを見てクレジットを得ていたというか、「マスメディアが言っているのであれば、まあ、ある程度正しいからお墨付きで買おう」ってことになります。今ではそのお墨付きをマスメディアではなく、ネットがしている……ということですよね。

これについてはいろんなニーズに応えて、いろんなレビューも書くことができます。なので、画一的なものじゃなくて、分散して存在できる状況を生んでいるのかなとも思いますね。興味深いですね。