「スターを出せば客が入る」というビジネスモデルの功罪

山田玲司氏(以下、山田):あともう1つ、もうみなさん知らないと思いますけど、かつて『たのきん映画』っていう映画がありましてですね。知ってますか?

乙君:たのきんはわかりますよ。田原俊彦、野村のよっちゃん……。

しみちゃん:マッチ。

乙君:近藤の……。近藤の(笑)。

山田:80年から81年くらいに、いわゆるそれ以前の郷ひろみたちの世代のアイドルが終わるわけ。それで金八先生が始まって、あの3人がアイドル登場ですべてを持って行ってしまうわけ。その時の商品の1つが映画だったんだよ。

それで、「田原俊彦主演映画」ドーン! 「マッチ主演映画」「よっちゃん主演」ドーン!

乙君:よっちゃん主演やるの?

しみちゃん:(笑)。

山田:あるんです。

乙君:まじで!

山田:あるんです。『北の国から』のあの人が出ています。

乙君:えっ! 邦衛さんが?

山田:邦衛さんが出てます。で、俺は当時の彼女がトシちゃんのファンで、連れていかれまして、「たのきん映画」を高校の時に……、非常につらい思い出があるわけですよ。『ドカベン』に次ぐつらい思い出があるわけですよ。でもこれ、客満員ですよ。トシちゃんが出てれば関係ないから。

その時にマッチがやっていたのが、『ハイティーン・ブギ』っていう、いわゆる漫画原作なんだよ。

乙君:あ、そうなの?

山田:あれ漫画原作で、漫画で当たっていたものを近藤真彦がやるっていう。だからこれ、漫画のお客も来る、マッチのお客も来るっていって、ここにビジネス的に成功モデルがある。

で、この「スターを出せば客が入るから」っていうビジネスモデルは昔からずっとあるんだけど、日本はたぶん80年代のこれと、あと角川映画で薬師丸ひろ子が出てればいい、原田知世が出てればいいっていうアイドル映画を作るじゃん。そこからの系譜があってこれが大きな保障になるんだよ。

これが要するにマーケットを支えちゃうから甘えるんだよ。「アイドルを見たくて来ているお客なんかこの程度でいいだろ」っていうやつが現場に何人かいたら、もうこれは原作の魂がガンガン侮辱されるわけよ。これはなかなかけっこうきついわけ。こっちとしては命がけでやってやっと当たった漫画なのに、「なんてことしやがんだ!」って思うけど、なんで断らないかというと、このタイミングじゃないと増刷がかからないんだよ。

乙君:あー。そっか映画化決定で。

山田:映画化決定で、帯があって書店もキャンペーン打ちやすいわけ。今は本当に書店にメディア化コーナーがあるわけだよ。だから今みんなが知ってるものは、メディア化しているものじゃなければダメって言われる。だからいくら地道にがんばっていいものやったって、メディア化されなかったら。だから『この世界の片隅に』について前回やりましたけど、それは俺も本当に反省するわけ。

あれだけのすばらしい作品を、メディア化しないと気が付かない俺みたいなバカなやつがいるんだな、っていう反省があるわけよ。「こうの(史代氏)ごめん」っていう……、こうの先生すいませんでした。でもそれを支えた連中がいて、あの成功例もあったっていうこともあるわけだなっていうのがあって。

漫画の実写化の4パターン

じゃあ逆に、「全部が失敗だったか?」って話じゃん、だけどそれはそうでもなくて、4つのパターンに分かれると思うんだよね。漫画の実写化にはだいたいこんなパターンに分かれがちみたいなのがあって、1個目が幸福な庵野型。

乙君:ん?

山田:幸福な庵野型です(笑)。ヒデの話は毎週しているけど。

乙君:ヒデって庵野さんね。

山田:はいはい。

乙君:庵野監督。

山田:ヒデ、ゴジラすごい詳しいから、マジで。

(会場笑)。

山田:あいつはゴジラを愛しているから、だからあいつにゴジラ任せたらその辺のつまんないゴジラじゃないよな。要するに、はっきり言いますと、どういうことかというと、原作のものすごいファン。「この原作に育てられた」みたいな人っているんだよ。そういう人がいっぱしのクリエーターになった時に、“俺病”を抱えていてもおもしろいものになっちゃう。

乙君:リスペクトがすさまじいから。

山田:しかも詳しいのよ、円谷も知ってるしその時代も知ってるし、最初の『ゴジラ』がなにを言わんとしていたか全部本質的につかんでいて、語らせたら朝まで止まんねーような人に映画任せるべきなんだよ。それが『シン・ゴジラ』の成功なの。だからマニアの代表が作った映画ってことなんだよ。これはラッキーなんだよ。

これは、たぶん平成ガメラとかライダーシリーズなんかにも起こっていると思う。「作り手がそもそものファンです」っていうのがいいな。

あともう1個、職人型。これがまさに片淵(須直)監督がやったことで、『魔女の宅急便』でおろされたみたいな歴史からずっと今回のタイミングまで日の目を見なかった人ですけど、実はこの人は自分っていうものを出すことよりも、なにを見せるべきかっていうのをちゃんと考えていた人。この片淵チューニングのおかげであの作品は成功したというのがあるので。

これはなかなか大きくて、こういう職人の人たちって、まあ大人の仕事だよね、なにかっていうと作家を尊敬してるんだよ。それで、作品を愛している。ごく当たり前のことなんだけど、意外とできない。

あともう1個ご存知、三池崇史型。これ三池さん本人に聞いたんだけど、「俺みたいなやつばかりじゃダメだよね」って言ってましたから(笑)。

どういうことかというと、三池崇史に任せると予算内と期間内にある程度のクオリティーを絶対作ることができるから、この人だったらヤッターマン任せても大丈夫みたいな。

乙君:すごいですもん作品の幅が。

山田:そうなんだよ、だからたぶん『キャシャーン』も三池崇史がやってたら当たってたかもしれない。

もうそれくらい。当たってたかどうかはわからないよ。ただ一定のクオリティーを作らせるためのこの人はビジネスモデル職人監督で、だけどこの人は実はアート気質というか表現者としての能力も実はあるんだよ。だけどめちゃめちゃ大人なので、「このタイミングじゃないと俺出さねえ」っていうタイミングでしか、三池崇史を出してこないんだよね。

だから、この人がやっていることは2種類に分かれていて、お客のため、クライアントのためにやる仕事と、俺のためにやる仕事と2つに分けてるというか、まあとにかくヤバい職人型。でもこれが業界を支えているようじゃダメなんだよやっぱり。

乙君:なるほど。

山田:なんでかっていうと、ビジネスとしての映画業界を支えている人なので、作家であるかどうかは微妙だし、その原作こと事を愛しているかというとそれもまた微妙っていうか。だからそれが揺らいでくる。

乙君:節操なさすぎますからね。

「原作に惚れた奴が抱けよ」

山田:やっぱり話題になった進撃の巨人型っていうのがあって。これはいろんな人が口出しすぎたパターンだよね。

乙君:成功例の話でしょ?

山田:すみません、これは成功したか私は知りませんが。

乙君:(笑)。

山田:それはみんなの心の中に聞いてもらえればわかりますけど、僕が判断することではないので、ただ進撃のやつの話の一連をずっと見てて思ったんだけど、もうちょっとシンプルにしたらよかったんじゃないのかなっていうね。だから要は原作者がやってた世界観、イメージみたいなものを、本当にそんなにいじらないでやることが、本来のファンに対するなにかだったんじゃないかな。

進撃祭りに大人が乗り過ぎたんだよね、だから「絶対売れるぞ」「すごいことが起こったぞ」っつって、いろいろな人たちが口出し過ぎたせいで、「そういうこともあるよな」っていうのがあって。これはリーダーが多すぎてコントロールできなかったんじゃないのかなっていう気もするなと思って。

乙君:成功してなくない(笑)?

山田:いやいやそれは俺が判断することじゃないんで。

乙君:これ成功型の例を説明。

山田:いやいや。

乙君:まあまあ(笑)。

山田:これちょっと思ったんだけど、最近『ユーリ!!! on ICE』が当たったじゃん。そこに答えがすべてあるなと思って、やっぱり対象に対する愛情で作っているものっていうのは、エネルギッシュなんだよ。だからあれ絶対、山本監督も久保さんも金のためにやってないんだよね。というのをめちゃめちゃ証明してしまったし、この世界でそうだったからまあそうだなって思って。

まとめると、その人に恋に落ちた人以外の人間はその人抱いちゃだめだぞって(笑)。「惚れたやつが抱けよ!」ってことなんだけど。

しみちゃん:なるほど。

山田:原作に惚れたやつだったら抱いてもいいんだけど、原作に惚れてないで抱こうとするからレイプなんじゃねーのっていう話ですよ。この軸がまずずれてしまったらもう無理だろうなっていうのと。

乙君:お金のために抱くんじゃねーぞと。

山田:お仕事なんだよ。システムでそうなっちゃってんの、だから現場担当で一人ひとり「好きな漫画なんですか?」って聞いたら熱く語るわけ。「俺はこの仕事に誇りを持っている」とか言うわけ。だけどノルマがあるわけ、そして仕事の数がうまくいかなかったら責任とらされるし、次がなくなってしまうから、だからなにがなんでもアイドル使ってでも客を入れなきゃいけないし、みたいなことで守りに入っていくと、そもそもの原作のものがどんどんなくなっちゃう。

ただ一番大きいのは漫画家と漫画ファンっていうものを、見下している人は現場にはいちゃだめだね。

乙君:まあね、それはいないと信じたいですけどね。

山田:信じたいけど俺、漫画家だし、感じるのは、やっぱり若手の漫画家が描いた漫画原作はなめられるよ。だって力が弱いんだから。だからもっと大きな組織の人たちが「お前らを選んでやってるんだ」「おかげで増刷かかってラッキーだろ」みたいな気持ちがどこかであったりするわけね。

そしてこっちだって立場上「お願いします」って言わなきゃいけないみたいな感じがあって、というのがあるかなと思うね。でも実写化の話で言うと、本当は漫画は絵なんで、アニメのほうがいいんじゃないのっていうのが思うけどね。

乙君:結論。

山田:そう。俺は実写化、違うものになっちゃうよね、っていうさ。だってそれぞれのイメージみたいなのがあるんで、これはどうしようもないよね。