スピルバーグの登場

山田玲司氏(以下、山田):ここでいったん映画が、本当にいったん見世物小屋みたいになるんだよ。だから残酷ショーみたいな。けっこう停滞する。

あと、社会派もだんだん行き詰まってくる。いつまでも負けた話したくないじゃん。だから『「いちご白書」をもう一度』とかさ、そういうなんか。『「いちご白書」をもう一度』というのは、学生の革命が失敗したっていう切ない映画なんだよ(映画は『いちご白書』)。

あとあれだよね、スコセッシな。『タクシードライバー』みたいな。

乙君氏(以下、乙君):おお、来た来た!

久世孝臣氏(以下、久世):来た。

山田:『タクシードライバー』なんかまさにそう。だから、ルサンチマン、「みんなぶっ殺してやれ」みたいな。そういう映画があったんだけど。77年……。

久世:「You talkin' to me? Talkin' to me?」って。

(一同笑)

久世:鏡の前でやるやつね。

山田:まず予兆として77年の前に、72年ですけど、ここで……。

久世:伝わったかな。この俺の腕立てのものまね。『タクシードライバー』の。

乙君:ニッチやな(笑)。

山田:ここでスピルバーグ兄さん登場です。

久世:あ、兄さーん! 好きですよ!

山田:兄さん! 兄さんは72年に『激突!』でデビューしますね。これね、スピルバールの大々的なデビュー作なんだけどさ。これは乙君知ってる? 車を運転してたの。乗用車を。そしたら謎の巨大トレーラーが延々ついてくるだけの映画なんだよ。

乙君:ええっ。

久世:それだけなの。

乙君:めっちゃ怖いやん。

山田:めっちゃ怖いでしょ?

久世:めっちゃ怖い。

山田:何回も逃げるんだけど、絶対ついてくる。

乙君:え、めっちゃ見たい。それ。

山田:そうでしょ。

久世:これめちゃおもろい。今でも。

山田:ただ、そのネタ1本だけで最後まで伸ばすの。

乙君:何時間?

久世:そんなにない。

山田:2時間近いけどね。

しみちゃん:ええー(笑)。

久世:80分じゃなかった? 90分とか。

山田:そんなもんか。

乙君:90分間ずっと逃げ回るだけの映画?

しみちゃん:(聞き取れないぐらいの声で)○○してるの?

久世:え?

しみちゃん:いや、なんでもない。

久世:もう1回言って。

しみちゃん:いい。

(一同笑)

久世:言えよ、聞こえなかっただけなんだよ(笑)。

『未知との遭遇』と『スター・ウォーズ』

山田:そういうことなの。そういう映画を作るんだけど。これがそのあと75年に、この人本当にとんでもない、75年に『ジョーズ』を撮ります。

しみちゃん:来たよ。来た。

乙君:おお、来た来た! パニック映画じゃないですか。まさに。

山田:そうなの。

久世:デーデン♪

乙君:あ、そうか。『激突!』もパニックなんだ。

久世:そうやね。

山田:これ両方ともこういう流れではあるんですが、このあと……。

久世:デーデン♪

乙君・久世・しみちゃん::デーデン、デーデン、デーデン……♪

(一同笑)

久世:邪魔したー(笑)。

乙君:ごきげんな番組で(笑)。

久世:すいません(笑)。

乙君:ステレオでね。

久世:弘法の筆を止めるという。

山田:『未知との遭遇』がここに。

乙君:おお。

久世:そんなとこなんだ。

山田:『未知との遭遇』が77年にあるんだけど、ここでおもしろいのに、「パニック、パニック、スピってる」なんだよ。ここ。

(一同笑)

乙君:パニック、パニック、スピってる?(笑)。

久世:めっちゃ楽しい!(笑)。

山田:スピったんだよ。スピルバーグが。

乙君:スピったんだ。スピルバーグがスピった?(笑)。

山田:この時代はオカルトの時代なんだけど、はい、ここで登場するのが、みんな大好きな……。

乙君:なんですか?

山田:ジョージ登場。『スター・ウォーズ』ですね。だから、ここでジョージの『スター・ウォーズ』登場です。これが77年なんだよ。

久世:来た来た。すごいね。

乙君:えっ、『未知との遭遇』と同じ年なの?

山田:そうなんだよ。恐ろしいことが起こる。

ルーカスとスピルバーグの新古典主義

乙君:じゃあSF元年ってこと、これ?

山田:まあいわゆる……SFはこっちに流れあるし、原子怪獣もいたんだけど、いわゆる……(笑)。

乙君:その流れ、1回止まってますよね。

山田:1回止まった流れ。あとこの前にも、手前にもそれらしきものはチラチラやってるんだけど。『2001年宇宙の旅』なんかもそうかな。ちょい前ぐらいにあるんだけど。ただ、娯楽SFっていうものがバーンと跳ねる。で、ルーカスは本当この前はハイスクールもの撮ってるからね。ティーンの。

乙君:ハイスクールもの?

山田:そう。ハイスクールものなんだよ。

乙君:青春ものってこと?

山田:そう。ジョージ・ルーカスって青春ものを撮ってるんだよ。最初。それで、それをまんまスペースオペラに変えたんだけど。この2人が一体なにしたかというと、新古典主義なんだよ。ここで前衛をやると、揺り戻しが返って、クラシックに帰るんだよ。

乙君:なるほどねえ。

山田:それでスピルバーグのほうはわりとわかりやすい古典に入るんだけど、ルーカスのほうは超古典主義なんだよ。つまり神話とか、そういった物語の原型みたいなものを調べ尽くして作り直すっていう。それがスターウォーズの要するに、何部作だっけ、8部作か。じゃねえや。

久世:9ですね。

山田:前半はなんだっけ? 1、2、3、4、5、6……。

久世:一番はじめにやったのは4、5、6です。

山田:だよね。そのシリーズのやつをこの時点で作ってしまうという。ルーカスが。一番いけそうなやつっていうのがエピソード4だったから、ここでエピソード4が公開が77年なので、実はここがめっちゃ革命だよね。

久世:すごいな。

乙君:77年の革命が。

山田:77年に革命が起こっちゃう。これがすげー。これが娯楽映画の復活と「さらば、社会派」というのを、もう77年にボコボコにしちゃったよね。それまで難しいこと言ってた社会派の人たちがボコボコにされるわけ。ここで。この流れから、80年代前半のあの能天気な空気になっていくわけ。

乙君:(ビバリーヒルズ・コップのテーマ)テッテー・テッテレッテテ・テッテー・テッテレッテテ♪

しみちゃん:(笑)。

乙君:なるほどね。俺の一番好きな。

山田:あなたの好きな時代。そうそう。

久世:なんだっけ?

乙君:『ビバリーヒルズ・コップ』のエディ。

久世:そうだ。エディだ。

山田:スピルバーグあるある。スピルバーグおもしろい話いっぱいあるんだけど、スピルバーグのなにがすごいって、いろいろ子供時代大変なんだけどさ、どうしても映画が好きだから、17歳の時に、アリゾナに住んでたのにカリフォルニアのユニバーサルスタジオまで来て。それでバスでまわるツアーに参加して、参加中にトイレに隠れて、バスがいなくなってからスタジオ探索して、そこで映像の保管係と仲良くなって、3日間券もらうんだよ。

3日間券あるじゃん。スタジオをフリーで見てくれていいという。「3日間券やるよ。そんなに映画が好きだったら」って。そこからいろんな人とめっちゃ仲良くなって、フリーで入れるようになっちゃったの。

乙君:ええっ!?

久世:すごいよなぁ。

山田:すごくない? それで……あ、お前できそうだな(笑)。

(一同笑)

乙君:いやいや、無理無理。そんなん(笑)。

山田:それでなにがすごいって、そのあと大学に入って、すごい近くの大学来るわけだよ。そこからもうしょっちゅう来て、1ヶ所空き部屋だった掃除小屋があったんだって、それ自分のオフィスにしちゃったんだって。大学の時に。もうすごくない?

乙君:勝手に?(笑)。

山田:だから、そこに居候してるんだよ。それで、そこで、すごいよね、最初に高校ぐらいの時に行った時に、もうジョン・フォードと会ってるんだよ。『駅馬車』の。すごい。早いよねえ。それで、オープニングタイトルとかそういうのをやってる会社の人と知り合って、お金出してもらって、21歳の時に『アンブリン』という作品。最初のやつを21歳で完成。

乙君:ええーっ。

山田:しかもそれが、ユニバーサルテレビの責任者が観て、そこで7年契約。もうね、メッシだよ。メッシ。リオネル・メッシ。

乙君:いや、メッシですね。それはまさに。

山田:本当に。スピルバーグは。パネェよ。

乙君:すごいわ。

山田:こういうやつに使ってほしいね。「パネェ」っていう言葉をね(笑)。

久世:パネェ(笑)。

山田:パネェ。スピルバーグね、ルーカスの影に隠れがちだけど、実をいうと圧倒的にすごい人なんだよね。で、本当は意外と社会派なんだよ。だから、社会派と娯楽というのを交互に撮っていくっていって、82年に『E.T.』を撮っちゃうわけだよ。ここで完成ですね。だから、ここで、『インディ・ジョーンズ』挟んで、『E.T.』で1つの社会派が死にましたという。映画を娯楽に戻したっていう革命を完成させるんだよ。

乙君:ハートフルなやつに振り切ったと。