ニキビができるしくみ

マイケル・アランダ氏:卒業パーティや結婚式、大切な仕事の面談がある日、朝起きて鏡を見ると、おでこがニキビでいっぱい。そんな経験がある方は、大勢いらっしゃるのではないでしょうか。

「ニキビ」もしくは「尋常性ざ瘡」は、たいへん一般的な人間の皮膚疾患です。80パーセントの人が、人生のいずれかの時期でニキビに悩んでいます。ニキビが発症するのは大抵は11歳から30歳の間ですが、それ以上の年齢層でニキビに悩み続ける人もいます。

ニキビは、毛包や毛穴が、死んだ皮膚細胞や皮脂で詰まるため発症し、たいへんうっとうしいものです。しかし、医学者によりニキビができる仕組みの研究が進むと、その予防や治療がわかってきました。

まず皮膚ですが、皮膚は2層に分かれ、たくさんの神経や血管、内分泌腺から成る複雑な組織です。ひと月のサイクルで再生し、古くなった皮膚は絶えずはがれ落ち、新しい皮膚が内部から表面へ向けせりあがっていきます。この皮膚の再生自体は、単にそれだけでは問題にはなりません。しかし、毛穴からは、こういった死んだ皮膚細胞が、大量に排泄されます。この毛穴が、問題をややこしいものにしています。

皮膚の毛穴は、本来は細い毛のためにあるものです。毛根にある毛包は、皮膚に埋め込まれ、皮脂を分泌する腺、つまり皮脂腺の房でかこまれています。

皮脂とは、毛穴から排泄される脂っぽい蝋状の分泌物です。皮膚を外部の水分から守り、内部の水分を保ちます。つまり、体内の過剰な水分を排泄し、内部の水分が外に出てしまうことを防ぐのです。このように、皮脂は大切な働きをします。

しかし、皮脂の生産がうまくいかなくなると、たいへんなことが起こります。皮脂の生産が十分でない場合は、皮膚は乾燥し、バクテリアや菌の干渉を受けやすくなります。皮脂の生産が過剰である場合、毛穴の内側に積み上がり、死んだ皮膚細胞がせき止められ、詰まりが生じます。皮脂の過剰生成は、もっとも多いニキビの原因の1つです。

もう1つの原因は、ケラチンの過剰生成です。ケラチンは、毛包で生産されるたんぱく質の一種で、毛の1本1本や皮膚の最上層を形成します。しかし、毛包がケラチンを過剰生成する場合、余剰なたんぱく質が、死んだ皮膚の細胞を結合してしまい、正常に毛穴から排泄されなくなります。

結果として、死んだ皮膚細胞がどんどん溜まり、さらに皮脂で詰まりが生じるのです。いったん毛穴が詰まると、バクテリアのコロニー、とくにアクネ菌の繁殖の温床となります。

アクネ菌は共生バクテリアの一種で、基本的には人間に利となるはずのものです。普段から人間の表皮に住んでいて、ほとんどの場合は害にはなりません。共生バクテリアはマイクロバイオーム(ヒトの生理機能をコントロールする微生物の集合体)を成し、他の有害なバクテリアが皮膚に繁殖することを防ぎます。表皮にいてくれる限りは、役に立つものなのです。

しかし、本来いるはずではない、皮膚の深層へ菌が入り込んでしまうと、感染症が起こり、炎症が発症します。炎症が起こると、免疫システムが反応し、その箇所への血流が増え、免疫細胞や酵素を増やして感染症と戦おうとします。

黒、白、赤、黄……ニキビの種類はなにが違う?

症状のさまざまな組み合わせにより、みなさんも聞いたことがあるような、さまざまな種類のニキビが発症します。黒ニキビ、白ニキビ、赤ニキビ、黄ニキビ……専門的には、これらはすべて別物です。

毛穴汚れに対する科学用語はコメド(面ぽう)で、もともとは寄生虫を表す用語でした。ニキビをつぶすとミミズがはい出て来るさまに似ていることから、一般にニキビを表すようになりました。このように、主症状が単に毛穴がつまって炎症が起きていない状態が、黒ニキビ、もしくは白ニキビです。

黒ニキビは、面ぽうが開いている時に起きます。皮脂と死んだ皮膚細胞が酸化し、銀が曇るのと似たような現象で、詰まった物質が暗い色を帯びます。

面ぽうが閉じた状態だと、皮膚細胞が詰まりの上部にまで成長し、酸化を妨げ、皮脂の色がそのまま外から見えます。これが白ニキビです。

面ぽうと炎症の原因である感染症が同時に発生すると、また別の種類のニキビ、赤ニキビになります。典型的な、赤くてぶよぶよしたものは、とくに丘疹と呼ばれます。

炎症がひどくなると、腫物からは液体や、バクテリアがたくさん入った膿が流れ出てきます。これは黄ニキビ、膿疱として分類され、鮮やかな赤だったり、流れ出て来る液体で白身を帯びていたりします。

一番ひどい状態のニキビは、嚢胞性ざ瘡です。感染症が皮膚の最深部まで侵入し、粉瘤という固いこぶを作ることもあります。感染症が膿がつまったこぶを作ることもあり、これは嚢胞と呼ばれます。

以上が、ニキビのできる仕組みです。

ニキビの原因は?

しかし、そもそもなぜニキビはできるのでしょうか。なぜ健康な毛穴が詰まり、感染症を起こし、液体でジクジクしたりするのでしょう。ここでも、原因はいくつか存在します。

まず1つに、遺伝が大きな原因です。みなさんの親にニキビがあれば、みなさんにもできる可能性が高いということです。

ホルモンも、ニキビ形成に大きな影響を与えます。男女の生殖器の発達を司るテストステロンに似た“アンドロゲン”は、とくに影響が大きいです。ニキビが主に思春期に問題になるのも、これで説明がつきます。

アンドロゲンは、皮脂の生成に関連しています。思春期には、ホルモンが活発に働き、皮脂が盛んに分泌されます。大きなストレスが加わると、さらにホルモン分泌が盛んに行われます。ここぞという試練の日に、ニキビがどっとできるのは、おそらくはこういった理由からです。ストレスが溜まると、ホルモン分泌が活発になり、皮脂が盛んに作られます。

皮脂は脂であることから、脂っこい食事をするとニキビができると思っている人はたくさんいます。乳製品がニキビを悪化させるとか、さらに限定され、チョコレートがよくない、といった声も聞かれます。

しかし実際には、研究者にも、食品とニキビとの関連性は、よくわかっていないのです。このことについてはさまざまな研究がなされており、なかには関連性を唱えるものもあります。しかし、関連性はないとする研究もあります。

より幅を広げ、しっかりと管理し、より多くの被検体を用いた検証がなければ、まだきちんとした結論は出せません。しかし、医学者も、事例証拠がたくさんあることは認めています。食事を変えることによりニキビが改善したのであれば、続けても問題はないとしています。

一般論として、食事がニキビに関連するという説を支える十分な証拠が、まだないということなのです。

化粧品や保湿剤のような皮膚につける油分は、毛穴を余分な油で塞いでしまうことから、ニキビの原因になってしまうことがわかっています。

そのような問題の解決は簡単です。ノンコメドジェニックをうたっている製品を探せばよいのです。これは毛穴が詰まりにくい、という意味です。

ニキビの治療や予防法

しかし、顔に自然にある油脂に関していえば、実は問題ではありません。頻繁に顔を洗えばニキビができない、とよく言われますが、ニキビができるのは、汚れや本来顔の表皮に自然にある油脂のせいではないのです。過剰な洗顔は皮膚を刺激し、ニキビを悪化させます。

ニキビを治療する方法は、ニキビを発症させている原因の組み合わせを減らすことにあります。

まず、ニキビをつぶしてはいけません。感染症を、毛包から表皮の外へではなく、周囲の皮膚へ押し広げてしまう危険が大きいからです。さらに、その部位を刺激してしまい、炎症が悪化してニキビが治りにくくなります。また、感染していない毛穴にも、バクテリアを広げてしまうおそれもあります。

ニキビの治療は、皮脂の生成を抑えたり、毛穴に死んだ細胞が詰まらないようにしたり、バクテリアの繁殖や炎症を抑えます。治療法は、症状の状態により、マイルドなものから強いものまで多岐にわたります。

黒ニキビや白ニキビ程度のマイルドなものには、通常は処方箋なしで購入できる塗り薬を使います。たいへん効くものの1つが「過酸化ベンゾイル」で、これはバクテリア退治に有効な化学薬品です。大変反応のよい酸素へと分解し、再結合してバクテリアが生きるために必要な分子を破壊します。

もう1つのよく使われる治療薬は、サリチル酸です。バクテリアを殺す働きはありませんが、その繁殖を防ぎます。また、皮膚細胞やケラチンを分解し、毛穴の詰まりを解消します。

丘疹や嚢胞のような炎症を伴うニキビの場合、炎症を抑えるためにより強力な治療が必要になることがあり、通常は方箋医薬品が使われます。連鎖球菌性咽頭炎や尿路感染症などの、ほかの細菌性の感染症の治療にも使われる抗生物質です。抗生物質は、細菌の増殖を防ぎ、炎症を抑えます。

ビタミンAの関連物質、レチノイドも治療に用いられます。レチノイドは、皮膚細胞のレセプターに結びつき、死んだ皮膚細胞を排泄し、健康な皮膚細胞の生成をするよう働きかけます。つまり、レチノイドは、死んだ皮膚細胞がつまった毛穴の詰まりを解消するにはうってつけなのです。レチノイドは、抗炎症剤としても有効です。重症のニキビの場合、効力の強いレチノイドが用いられ、皮膚の深層にある皮脂腺を縮小させ、分泌する皮脂を減らします。

ホルモンもまた、皮脂の分泌に深く関わっているため、避妊経口薬やコルチコステロイドの使用も、女性ホルモンを整え、アンドロゲンの生成を抑えます。アンドロゲンのレセプターの活動が減ると、皮脂の分泌も抑えられ、ニキビも減ります。

嚢胞のような重症のニキビは痕になりやすいですが、軽減する方法はあります。以下の方法はニキビそのものの治療や予防にはなりませんが、ひどいニキビの後に残った、でこぼこや傷跡を緩和することに役立ちます。

削皮術では、目の細かいやすりを使い、嚢胞で傷んだ皮膚の層を削り取りますが、肌の色の薄い人にのみ有効です。この方法は、今はほとんどがレーザーによる治療で代替されています。レーザーパルス光により皮膚の層を一枚一枚はがし、傷を滑らかにするのです。

ケミカル・ピールも挙げられます。サリチル酸やレチノイド酸などの化合物を用いて表皮の最上層を人工的に傷つけ、細胞の外皮を殺傷します。死んだ皮膚細胞ははがれ落ち、下にあった健康な皮膚細胞が露出します。

幸いなことに、ほとんどの人はニキビに悩まされる思春期を乗り越えることができますが、一部の人々は、40代50代になってもニキビができ続けます。

しかし、ひどいニキビに悩まされても、それは異常ではなく、治療も可能で、命が脅かされるわけでもありません。スキンケアをしっかりして、希望があれば医師に治療を相談し、年を取ればニキビはできなくなると信じることです。次にはシワができるので楽しみにしてください。